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野田秀樹

NODA・MAP「表に出ろい!」・ドキュメント「超・演劇人 野田秀樹 密着555日」

201904_3     NODA・MAP番外公演「表に出ろい!」を映像で見ました。2001年からの野田版の歌舞伎が好評を博した後、2010年に勘三郎・野田秀樹の最初で最後の共演となった現代劇です。

 能楽師の父(勘三郎)は、東京ディスティニーランドが大好きで、友人とパレードを見に行くつもりですが、その日は母(野田秀樹)が、ジャパニーズのライブに行く日。愛犬のお産のために、留守番を押し付けあう夫婦。娘(黒木華)が帰宅しますが、友達と限定グッズの列に並ぶために出ていくといいます…。

実は、NODA・MAPは家で見るにしても、一人でゆっくり余裕のあるときに見たいと思ってしばらく先延ばししていたんですが、登場人物は3人だけ、家のリビングでの軽快なやりとりで、構えずにみられる芝居でした。

舞台装置(堀尾幸雄)は、写真の衣装と同じ色調(ひびのこづえ)のカラフルなもの。このお二人、ずっと野田作品を支えていますが、毎回多彩で美しい。

新鮮だったのは、最初の夫婦の、どちらが出かけるか、いつどちらが連絡したのか、のやりとりのリアルさ。これ、そのまま子どものいる夫婦の会話ですよ。こんなに生々しい、でも面白い台詞、書こうと思ったらすぐ書けちゃうんですね。

もちろん勘三郎さんの勘のよさとか天性の愛嬌とか、こういうお芝居でもすごい役者だと思いますが(ちょっと汗かきすぎなんだけど)、野田秀樹の母役がすごい!

若い頃の遊民社の彼は、走り回り、ボケとツッコミを一人で叫び、一座をひっぱるというか引きずり回す感じで、とくに20代でもおばさん役が大好きでした。ここ数年再見するようになった野田秀樹は、いい役者に主役を譲り、芝居のスパイス的な役回りで、もう年だし仕方がないな(失礼)なんて思ってたんですよ。

しかしこの芝居は3人だけなので、往年以上の野田秀樹成分の濃さ!信頼する勘三郎さんとがっぷり四つに組んで、緻密な脚本を即興的な雰囲気で(きっちり演出されているのかもしれませんが)演じる楽しそうな野田秀樹。相変わらずの柔らかな身体、しかもおばさん役。

そして黒木華!京都造形芸術大在学中にオーディションで、この作品の前のNODA・MAP「ザ・キャラクター」のアンサンブルでデビューした直後ダブルキャストでの娘役。声、台詞、自分の信念を両親に主張する迫力、軽い動きと、この二人を前にして一歩も引かない熱演で、もう完全に出来上がってます。

この作品、最後まで笑いながらも、前作「ザ・キャラクター」の狂信集団を見た人は、設定がより深く理解できるということで、「人それぞれが信じるもの」というテーマをしっかり描いていてさすが。野田秀樹の3,4人くらいのこの規模の芝居、ぜひまた。今度は生で見たいものです。

 

追記・ドキュメント「超・演劇人 野田秀樹 密着555日」

このすぐ後に、WOWOWの野田秀樹の密着ドキュメントを見ました。さすが演劇に力を入れているWOWOWさん、超・演劇人とはよく言った。

まず2017年の歌舞伎座での「野田版・桜の森の満開の下」のリハーサルに始まり、松たか子も参加したワークショップ、前述の「表に出ろい!」の英語版の上演ドキュメント、2018年の「贋作 桜の森の満開の下」の舞台作りとパリでの上演と、最近見たものばかりで興味深かったのと、舞台裏、野田秀樹のインタビューがたっぷりで、ものすごく面白かったです。

野田版桜の森では、映画版パンフレットに載っていた、「高いところが平気な夜長姫七之助と、怖がる耳男勘九郎」が実際に見られましたし、「表に出ろい!」は前述の2010年版と同じところと、イギリス人俳優(キャサリン・ハンター、グリーン・プリチャード、しかもこの二人が父と娘を、男女逆転で演じるというしかけまで。ちなみに父の職業は能楽師ではなくてシェイクスピア俳優!)ならではの違うところが明確に見えました。ルーマニアの演劇祭で上演したのですが、この演劇祭自体がとてもきれいで面白そう。

贋作桜の森は、紙やゴムバンドを使った演出ができあがってくるところ、そしてパリでの上演の苦労。

野田秀樹自身の精力的な仕事ぶり、密度の濃いことば遊びの綴られる芝居を英語で上演する、しかも主役の一人は自分というのは本当にすごい。とくに舞台装置のしかけや字幕の段取りなどの苦労は、以前読んだ「野田秀樹」のムックにも率直に語られていましたっけ。

演出家らしく、自分の仕事を無駄のない詞で的確に説明する姿もかっこいい。ついでにファッションも遊び心があって凝りすぎなくて好みでした。

シネマ歌舞伎「桜の森の満開の下」

201904_1   2017年の納涼歌舞伎「野田版 桜の森の満開の下」のシネマ歌舞伎版です。1回だけ見たのですが(その時の感想、野田秀樹の世界観とメッセージが、歌舞伎役者の魅力と衣装、美術、音楽とが見事に合体して、とても満足な舞台でした。そのときは、舞台全体と個々の役者を見るのに忙しすぎたので、ゆったり集中できるシネマ歌舞伎を楽しみにしていました。その後NODA・MAPでの「贋作 桜の森の満開の下」も見たので、比較して見たかったし。

 感想は、生の舞台のときと同じなんですが、2回目なので物語がよりすんなり入ってくるのと、じっくり見てもやっぱり勘九郎の耳男と七之助の夜長姫すばらしい。ひとつひとつの台詞が本当にさまざまなバリエーションで的確に発せられているし、とくに耳男の動きがおそろしく面白いのと、早回しかというくらいの素早さ。

歌舞伎美人の野田秀樹インタビューは大変興味深い内容ですが、女方である七之助が夜長姫を演じることで、サディストぶりがより際立っているといっています。もう魅力的な悪女をやらせたら七之助の右に出るものがあろうか。

オオアマ(染五郎<当時>)、マナコ(猿弥)、赤名人(亀蔵)、ヒダの王(扇雀)は記憶通りよかったですが、映像で見て意外に重要な役割をしているのがアナマロ(新悟)とマネマロ(梅花)。エンマ(彌十郎)、ハンニャ(巳之助)、青名人(吉之丞)、もよかったですし、そしてやっぱりエナコ(芝のぶ)がすごいんですよ。そのまま現代劇で歴史に残る役がやれそうな弾むような女。

早寝姫(梅枝)もいいんですが、先月のあの小町姫墨染を見た後では、この1年半で、彼がいかにめざましく役者ぶりを上げているかを感じました。アンサンブルの人数が多いのも、歌舞伎ならではの贅沢。

野田秀樹は好きで、いつ見てもテーマと表現とエンタテインメント性のバランスのとれたきっちりした芝居を見せてくれると思うんですが、やっぱり歌舞伎は何かひとつその上を行く力があって、(納涼で見たとき、「いつもの野田秀樹の芝居は役者がパーツに見えるけれど、歌舞伎では役者の光が強い」と感じました)、少なくともこの作品に関しては、歌舞伎の方が好きだなと思いました。

映画用の小ぶりのパンフレットがいいです。扮装の写真もいいし、上演後ならではの、野田秀樹と美術堀尾幸男、衣装ひびのこづえ、美粧柘植伊佐夫、作調伝左衛門の記事が読めます。配役にもスタッフにも妥協のないプロダクションっていいですねえ。もっとチケットとればよかったと思わずにはいられません(でもこの月、1部は猿之助勘九郎の団子売があったし、2部は弥次喜多だし、日数は短めだったんですよね)。

 

 

 

NODA・MAP「贋作 桜の森の満開の下」@プレイハウス

201811sakura    久しぶりのNODA・MAP、「贋作 桜の森の満開の下」です。昨年の納涼歌舞伎の歌舞伎版 を初めて見てから、NODA・MAPで見るというのは得難い経験と言えましょう。しかも1年ちょっとという短い間をおいて。

設定もあらすじも登場人物も、もちろん同じです。しかし、台本は全然違うのかなと思うくらい、印象が違いました。

まずこの舞台の印象からいうと、色彩が美しい。衣装や小道具が、平面的な折紙のような鮮やかな色。衣装の質感もいいです。そして、桜の花の大きさ、降る花びらの多さ。幕にも平たくも使われる布の美しさ、柔らかさ、動きの美しさ。舞台の前に作ったスロープも効果的に使われていました。

今回、東京、地方と上演され、パリ公演を経ての凱旋公演だったためか、先行でもF列、実質3列目のほぼセンターという良席だったので、舞台の質感をよく味わうことができました。

古代をイメージした寓話的な世界、芸術家の葛藤と芸術の呪術性、少数派の国の消滅と、個人と社会というテーマをうまくミックスさせてかつエンタテインメントと、野田秀樹の傑作のひとつというのはよくわかりました。

キャストは、ヒダの国に弥勒菩薩を彫るために行き、夜長姫(深津絵里)に魅せられる耳男(妻夫木聡)、、名人を殺して名人としてヒダに行くマナコ(古田新太)、後にヒダを亡ぼし王になるオオアマ(天海祐希)、オオアマに恋してしまう夜長姫の妹早寝姫(門脇麦)オニになる青名人(大倉孝二)、同じく赤名人(藤井隆)、オニのエンマ(池田成志)、ハンニャ(秋山奈津子)、耳男の耳を切り落とすエナコ(村岡希美)、ヒダの王(野田秀樹)、女王アナマロ(銀粉蝶)。

個性的で華がある実力者ばかりの濃密な芝居。深津絵里は年齢不詳な若さと深さがあって、1幕はたしか深津絵里のはずだけどほんとに、と確かめたほど。天海祐希は男役出身のいいところが出て、まっすぐ立った姿勢がりりしくまた、スタイル抜群でほんとにきれいでした。門脇麦は、「フェードル」とは打って変わって豊かな声で夜長姫の妹らしく、野田さんの演出力を見た思い。男性陣は言うまでもなく濃い面々。毎度ながら、アンサンブルの動きが美しく、声もよく、見ていて楽しいです。的場佑太さん、桃太郎よかった!

さて、1989年の初演以来、4回上演されているこの作品ですが、パンフレットの上演記録を見ると、キャスティングによって、並び順が違うんです。歌舞伎版では、もっと耳男と夜長姫が際立っていて、相対的にオオアマと早寝姫の関係や、マナコの比重が低かったような気がします。言葉遊びやギャグは今回の方が面白かったんですが、物語のテーマは3階で見た歌舞伎の方が強かったような。すいません、今日の芝居をけなすつもりは全くなくて。ほんとにそういう印象なのかどうか、シネマ歌舞伎で見てみたいです。

(しかしあのとき、勘七染は、朝の一部から重い役で出た後で夜毎日これやってたなんて、やっぱり尋常じゃないな)

八月納涼歌舞伎第三部「贋作 桜の森の満開の下」

2017082     納涼歌舞伎第3部は、野田秀樹の「贋作 桜の森の満開の下」です。野田秀樹の歌舞伎は、「研辰の討たれ」や「鼠小僧」と、元の歌舞伎を彼の演出でというものしか見たことがなく、初演が夢の遊眠社であった野田オリジナル脚本を歌舞伎で上演するのは初ということで、楽しみにしておりました。

行く前に、この脚本のモチーフとなった坂口安吾の「桜の森の満開の下」と、「夜長姫と耳男」を読みました。坂口安吾なんて、文学史でしか知らず、初めてです。うわあ、もう日本版青髭というか山姥とか鬼とかのおどろおどろしさ満開。

しかしさすが野田秀樹、2つの小説をうまく融合して、「鬼の女」を中心に据えつつも、国造りと戦いの視点を織り交ぜてスケールを大きくして、言葉遊びもたっぷり。原作の強烈さは若干薄まっていますが、芝居としてのエンタテインメント性はずっと上がったという感じです。

筋書きでは、律義にこの作品の過去の配役を掲載してくれています。主役の耳男(勘九郎)は野田秀樹、堤真一、マナコ(猿弥)は上杉祥三、羽場裕一、古田新太、赤名人(片岡亀蔵)は浅野和之、荒川良々、ヒダの王(扇雀)は松澤一之、野田秀樹と、主要キャストの濃いこと。

しかし、今回の歌舞伎版、改めて歌舞伎役者はすごいと思いました。野田作品って、たいてい野田秀樹が一番面白くて、いい役者が熱演していても、いい役者だとは思うものの、どうしても野田秀樹の芝居を表現するためのパーツという感じがするんですよ。しかし歌舞伎版は、役者が芝居のパーツでありながらやっぱり歌舞伎役者としての光が強烈で魅力的。そこは役者を見る歌舞伎、という気がしました。野田秀樹の分身のような動きをする勘九郎、猿弥、扇雀、染五郎

一方で、野田作品をみたことがない歌舞伎の観客にとっては、なぜこんな早口でさほど意味のない(ように見える)言葉遊びをじっと聞いていなければいけないのか、と拒否反応があったと思います。この作品を歌舞伎でやるのは勘三郎さんとの約束だったそうですが、コクーンならまだしも、歌舞伎座でとは、すごい二人。

ということで、野田ファン、歌舞伎ファンの私には、至福のときでした。

野田歌舞伎常連の扇雀さんはもちろん、勘九郎(なんて舞台で魅力的な身体なのかと改めて思いました)、七之助(終始軽やかな夜長姫、ラストの声は必聴)、染五郎(私の好きなかっこいいメイクの染ちゃん、弥次さんと同じ人間とは思えない)、彌十郎、新悟、亀蔵の阿弖流為チームは、こういう作品にフィットしているし、巳之助、吉之丞、梅枝、も大活躍。とくに猿弥の活躍も特筆もので、舞台でゴムマリのように弾む姿は、野田さんが連れていきたいと思うのでは、と思いましたですよ。そうそう、芝のぶも2役を強烈に演じていました。

衣装も鬼の面も歌舞伎ならではの豪華さで、素晴らしかったですし、アンサンブルの人数が多かったのも贅沢。ああ、楽しかった。

ややケチをつけるとすれば、古い作品らしく、ラストが少しだけ冗長感があるのと、やはり録音の歌曲に違和感。せっかくなら、過去の上演とちがっても、今回はここまでやるなら、生の笛か清元がよかったかな、と思いました。

(追記)

その後、12月22日、フジテレビ恒例の中村屋密着ドキュメンタリーの中で、納涼歌舞伎のことがかなり詳しく取り上げられていました(勘太郎くんの「玉兎」がありましたからね)。その中で、野田秀樹のダメ出しのすごいこと。初日、よかったよ、と声をかけて帰ったと思ったら、2日目から勘九郎の化粧する楽屋に現れて、「けっこうダメ出しあるんだよ」とノートのメモを見ながら細かく。あの場面では正面向けとか、このセリフは息継ぎすると笑えなくなっちゃうとか。これが千穐楽まで続いたそうです。

(野田秀樹の演出スタイルが垣間見られたと思うと、それも興味深いですね。だからどんな役者も野田演劇のパーツに見えるのか)

うわあ、しかも、このとき勘九郎、膝が痛くてサポータや冷却でつらそう。それで1部は玉兎の勘太郎の踊りを毎日見てダメ出し、すぐ猿之助との完璧な団子売、2部は「修善寺物語」で端正な頼家、弥次喜多にも顔出して、3部は桜森で大活躍、楽屋に大先生。超人か。

再来年の大河の主役で、少し歌舞伎が減って休めるのでは、と思ってしまいました。

NODA・MAP「足跡姫」@プレイハウス

Photo   NODAMAP 公演「足跡姫」です(私、なぜか足枷姫だと思い込んでいて、芝居を見ながら、いつかこの「あしあとひめ」は、「あしかせひめ」に転化するんだろうと思ってました。このチラシのポツポツした字体のせいですかね。足枷姫って囚われみたいでちょっとロマンチック。

 野田秀樹が4年前に亡くなった歌舞伎役者中村勘三郎へのオマージュとして歌舞伎の始まりをテーマにしたお話です。扇雀さんは、勘三郎さん主演の野田演出「研辰の討たれ」を見ていくといいですよ、とブログで書かれていました。

女歌舞伎の一座の看板踊り子阿国(宮沢りえ)、その弟サルワカ(妻夫木聡)、二番手踊り子ヤワハダ(鈴木杏)、座長万歳三唱太夫(池谷のぶえ)、伊達の十役人(中村扇雀)、古田新太、佐藤隆太、野田秀樹。そしていつものハイレベルなアンサンブル。

(ところで、ブッキーの奥さんマイコって、今「お気に召すまま」で好演してますね。二人とも難易度高い舞台で毎日たいへんだろうな、なんて思ってしまう)

野田作品としては、筋もわりとまっすぐで、わかりやすいです。いつもよりメインキャストが少なく、その分少数精鋭。宮沢りえはいうに及ばず、妻夫木くんと佐藤隆太は相変わらず軽快でかっこいいし、鈴木杏は舞台では初めてですが(メイクのせいかはじめ小池栄子だっけ?と思った)やっぱりいい女優。池谷のぶえも舞台歴が長い方ですが、迫力ある身体と声で、いわば芝居のいいアクセントになっていて、野田秀樹はこういう方の使い方がいつもながらうまいと思いました。野田秀樹自身も、毎回、今回が一番面白いと思ってしまう私(そんなことはないんでしょうが)。

感心したのは、野田秀樹自身が自作とはいえ歌舞伎を演出しているためか、歌舞伎を思わせる装置や演出を随所に使いながら、見ていて恥ずかしくなるような歌舞伎の真似事はしない点。野田秀樹自身の見得なんてギャグの範囲ですからね。

木の回り舞台、せり、短いけど花道、すっぽん、戸板、そして何より、本物の歌舞伎役者扇雀さんの町役人。扇雀さんがどんなに勘三郎さんを敬愛していたか、中村座の公演を大事にしていたか、扇雀さんのブログをみると胸がつまるくらいです。扇雀さん、これに出るために、歌舞伎を4カ月?も休んでしまい、1月の初日には大阪松竹座(芝翫襲名披露公演ですよ)の客席に現れて皆に驚かれたそうです。

その扇雀さんを、兼ねる役者とはいえ、本業の女形では使わないところが野田秀樹らしい。新派じゃあるまいし、浮いちゃいますからね。「伊達の十役人」なんてシャレのきいた役どころ、油の乗った役者としての扇雀さんの魅力をうまくこの作品に取り込んでいたと思いました。

最後は、「研辰の討たれ」と、志半ばでどんなにか無念だっただろうと思う勘三郎さんを思って泣けます。野田秀樹で衝撃を受けたことはあっても、泣いたことなんかあったっけ。泣きたいという人間のツボを押すことなんていつでもできるからそこは押さないできたであろう野田秀樹が、泣いてもいいんだよ、と言ってくれたラストでした。

大河ドラマ「新選組!」@2004と「土方歳三最期の一日」

Photo   「真田丸」が面白すぎるので、同じ三谷幸喜脚本のこれが気になっていたのと、山本耕史が結婚したとき、香取慎吾の連絡先をストーカーまがいにゲットした話がよく出ていたので見たかった「新選組!」、12年前の作品ですが、DVDで一気に見ました。後半はもうやめられなくて、生活がたいへんなことに(笑)。

放映されていた2004年は、大河ドラマをあまり見ていない時期でしたし、子どもの頃「竜馬がゆく」を読んで以来倒幕派だったので()新選組には全く興味がなかったし、香取慎吾君は嫌いじゃないけど「近藤勇」って無理じゃない?と思っていたんですよね。

しかし、今回、このドラマを通しで見ることができて、本当によかったです。なぜ山本耕史の代表作といわれるのかもわかったし、三谷幸喜という脚本家の凄さも遺憾なく発揮されていることも思い知りました。これがあっての、あの、重厚な手練れの俳優たちを活躍させている今の真田丸があるのか。  

最初は、江戸の天然理心流の道場試衛館と多摩が舞台で、大河ドラマとしてはずいぶんのんびりとしています。多摩の農家に生まれ近藤家の養子になった勇(香取慎吾)と行商をしている土方歳三(山本耕史)は、武士そしてひとかどの者になりたいと思いながら、悶々としています。いろいろな素性の剣士たちが勇を慕って道場の食客になったり、勇と坂本龍馬や桂小五郎がけっこう仲良くしていたり。このへん、ちまちましていて、小日向文世や田中邦衛、野際陽子、岩崎加根子たちがいい味を出してはいますが、従来の大河ファンには地味すぎて面白くなかったところでしょう。しかし、ここで百姓の家に生まれた勇と歳三の武士へのコンプレックスや、のちに新選組の幹部となる食客たちとの関係を丁寧に描くことによって、新選組の本質や、後の彼らの気持ちがよく理解できるのです。
 
勇たちは、幕府の募集に応じて京に行き、壬生浪士組―のちに新選組を結成します。お馴染みの新選組の形になるまでの苦労、池田屋事件での活躍、法度による隊の締め付けと綻び、竜馬や薩長の動きによる時代の激動と新選組の崩壊、近藤勇の死までは少しもだれることなく描いていきます。京に旅立つのが1863年で11話、芹沢鴨(佐藤浩市)に振り回された挙句彼を抹殺して新選組が誕生するのが25話、幕府が崩壊し、新選組の立場がどんどん変わっていくのが45話くらいからで、勇の死が最終回の49話で1968年、京に上ってからたった5年です。新選組と徳川幕府が完全に終わる中、勇の死の意味と仲間の決断が、説得力を持って描かれます。
 
数多くの登場人物のキャラクターがきっちり確立されていて、考えや行動に必然性があり、単純な悪役はいないところは、真田丸と同じ。また、複雑な幕末の政治的な流れを、要領よく語っているのも同様です。何度か大河で幕末物は見ていますが、この「新選組!」がいちばんわかりやすくて、初めて池田屋事件の意味がわかりました(わかってなさすぎ)。放送当時、史実を無視して近藤勇が桂や竜馬と親しすぎると批判があったようですが、新選組の内情に終始するより、彼らの置かれた時代背景がよくわかって、大河ドラマとして面白くなっていたと思います。
 
出演者が、今見ると本当に豪華で、しかも12年前だけに皆さん若々しく、素敵です。主役の香取慎吾は、慎吾ママの後ですから、人気絶頂の頃(翌年は「西遊記」)とはいうものの、山本耕史、オダギリジョー、堺雅人、藤原竜也、勘太郎(現勘九郎)、谷原章介たちは、当時はそれほどには知名度はなかったのではと思うんですが、彼らの演技力は今とそん色なく、惚れ惚れします。
 
香取慎吾は、まあ、心配が半分は当たったというか。若い頃はまだいいんですけど、後半はさすがにせりふ回しの幼さがちょっと辛い。でも、ひときわ体も顔も大きくて、誠実な目が、勇らしいといえば勇らしく、皆の中でも大きな雰囲気を保っています。少なくともドラマを壊していないのは脚本と演出と本人の努力でしょう。SMAPで活動しながら主演してたんですね。
 
山本耕史の土方歳三、序盤はやりたいことも見えず腐っていたのが、京で近藤勇を盛り立ててのし上がっていくために、汚いことにも手を染め憎まれ役に徹する鬼の副長。新選組の法度は苛烈ですが、それへの苦悩も十分表現され、とても素敵。仲間へのキレのいい突っ込みも最高です。近藤勇への対比を意識してか、並んで座るときはわざと猫背気味に座って小さくなっていたり(後から実際に猫背だったと知りましたが)、着物の前のはだけ方やら、刀のさやの飾りの赤い紐やら、本当に細かい一つ一つで、土方歳三を演じています。たしかに、耕史ファンとしては、マストだったなと実感しました。話題になった香取慎吾へのアプローチですが、後になるほど、新選組での表向きの上下関係の中で、ごく稀に出る「かっちゃん」「トシ」のやりとりが効果的で、意味があったんだなと思います。

三谷さん、この4年前から彼の土方を構想していたそうで、よほど好きなのか、多摩音頭を歌うとか、上半身脱いで鈴木京香と絡ませるとか、田中邦衛のモノマネ許しちゃうとか、秘蔵っ子扱い。しかし、最初の頃はしっかり描かれていた「土方はいい男で女にモテる」設定の描写は、京ではほとんどなくて、そこだけが物足りないと思いました。
 
これが出世作となった堺雅人の山南敬之、当時31歳、知的な雰囲気、上品な笑顔で、もう今と変わらない堺雅人。明里(鈴木砂羽、素晴らしい)とのシーンは感動でした。

オダギリジョーの斉藤一も最高。当時山本耕史と同じ28歳、最高に美形、ニヒルで無口に見えて、人一倍誠実で優しくて義理堅いところがたまりません。

 藤原竜也は当時まだ22歳ですが、すでに蜷川さんの秘蔵っ子として売れていたからか、沖田総司としてクレジットは香取慎吾の次です。目がすごくキレイで、一番の剣豪らしい動きも美しく、人生で一番楽しい時期に、結核に倒れた無念さがこのドラマのもう一つの軸になっています。ベタな役なのに、さすがだと思います。彼が土方の理解者であるのもきいています。

勘九郎(当時勘太郎、藤堂平助役)も23歳、当時テレビでは無名に近かったと思いますし、メイクをほとんど感じない素朴なルックスで、軽い扱いなんですけど(今の勘九郎になる人には見えない)、生真面目な雰囲気で、ときどき歌舞伎の見事なせりふ回し。後半にはなかなかの見せ場がありました。

 政治家になってしまった山本太郎を俳優としてみたのは初めてだったんですが、この人にしかできないような面白くてハンサムな原田左之助を好演。俳優をやめてしまったのがもったいないです。

 最近そんなにみませんが、久坂玄瑞の池田博之。熱っぽい目がきれいで、情熱的な演技、去年の大河の人とは違う~と思ってみてました。当時22歳の吹石一恵も整った美貌と演技力でとっても好感が持てました。

 ほかにも、へえこんな役にこの人が、と思うキャスティングもたくさん。

何といっても、野田秀樹の勝海舟。うわ、この人こんなに普通のテレビのお芝居できるんだ、とびっくり。頭の良さそうな、時代をすべて見据えていそうな、シニカルな雰囲気で、石坂浩二の佐久間象山との場面は最高でしたが、終盤の土方とのシーンは、セリフも表情も切なくて、この悲劇を全て救ってくれました。ここでは山岡鉄舟の羽場裕一がいて、わー遊眠社!と盛り上がっちゃいます。

  そして、演出家として活躍している白井晃(「マハゴニー市」の演出もこの人)の、ひと癖ある清河八郎。この方、お年よりも若々しくて、かっこいいです。

  大阪奉行の敵役内山様はささきいさお。うわーこんなに長くドラマで見たの初めて。はじめささきさんとは知らなくて、ほんとに憎らしかったです。

あ、また橋之助が天皇役だ、と思ったのは、お兄さんの福助でした。歌舞伎からはもう一人、かなり目立っている捨助の獅童。あー、獅童ってこのドラマだったらかなりの役がはまると思うんですが、なぜか捨助。三谷さん、真田丸のきりちゃんといい、ウザいキャラがほんとに好きで、書いていて楽しいんでしょうね。

 

土佐藩士の望月亀弥太に三宅弘城、「あさが来た」で亀助だったのは、この亀からとったんですかね(あさ来たのスタッフは絶対、新選組!好きですもんね)。橋本左内に番頭はんの山内圭祐やら、河合耆三郎に大倉孝二やら、舞台人がいっぱい。医者の松本良順、知的かつ骨のある雰囲気いいなあと思ったら、田中哲司じゃないですか。岩倉具視の中村有志、ピン芸人で出てきた時からけっこう好きなので、なかなか板についた胡散臭い公家ぶり、よかったです。本願寺の寺侍で、新選組を見つめ、後に回想記を書く西村兼文に本間健一、知的で客観者の雰囲気がいいなあと思っていたら、タップが得意でミュージカルの振付やステージングを多数手がけている人だとか。

龍馬の妻おりょうの麻生久美子。いつもいいなあと思う女優さんですが、新選組!見ていたらもっと早く知っていたんですね。彼女が出ていた「泣くな、はらちゃん」で面白い役を演じていた甲本雅裕も、印象的な役でした。巨漢で土方に忠実な島田魁の照英もとても合っていて好演でしたし、同じ監察方の山崎の桂吉弥もすごくよかったです。


「八重の桜」でも活躍していた佐藤B作は幕臣の永井様。滑舌がよくて骨があって立派でした。軍師武田の八嶋智人、トリビアで売れた後ですね。ちょっとインチキくさすぎて浮いてましたね。


 今真田丸で2度目の小早川秀秋を演じている浅利陽介が、当時17歳で、勇の養子となる周助、おとなしく剣の腕は未熟で、同輩にいじめられたりするんですが、けなげにがんばる姿がいいです。

 きりがないですが、佐藤浩市の芹沢鴨と、鈴木京香のお梅さんも強烈、彼らのいい時にいい役をやっていたなあ、と、特に佐藤浩市以外の芹沢鴨は考えられないくらいでした。破滅的な生活と、信念と、プライドと、凄みがありました。見ていてうんざりするくらいで、それだけに彼を暗殺して本当の新選組誕生がドラマチックでした。

あまりにみんながいいので、江口洋介の竜馬や宇梶剛士の西郷どんも、歴代の二人と比べてもかなりはまっていますが、この豪華キャストの中では比較的普通(失礼)。

それから、かつて土方を演じて当たり役とされた栗塚旭が歳三の兄、沖田を演じた島田順司が沖田の晩年世話をする植木屋平五郎と、リスペクトが感じられる配役です。映画の「マンマ・ミーア」や、「レ・ミゼラブル」に舞台版の主要キャストが脇役で出演しているような感じでかっこいいです。

 

Hijikata   そしてもちろん、大河初の続編「土方歳三の最期の一日」も(2006年のお正月ドラマ)も見ましたよ。

土方が勇の死後、部下には優しくなって、懸命に生きて、力尽きるまで、洋装の山本耕史がご覧のように超かっこよくて最高でした。

愛之助、このとき見ていれば、もっと早く知っていたのに。治部、刑部の友情はここからだったんですね。そして大鳥圭介の吹越満。今から見ると、あまちゃんでのジオラマ好きはここからだったのか、とちょっとおかしいです。今や人気者の、鉄之助役の池松壮亮くん15歳がかわいかったです。

そして、現在、新選組関係本を読んでおります(←あーあ)

NODA・MAP「逆鱗」@プレイハウス

2   野田秀樹の新作「逆鱗」、2013年「MIWA」、2015年「エッグ」に続くNODA・MAPです。

痛恨の遅刻で冒頭を見逃し、満島真之介(イルカくんと呼ばれるさかなクンみたいな感じ)と池田成志が、水族館のイルカショーができなくなったから、人魚を捕まえて人魚ショーをしようとか話しているところから。すぐ、人魚研究家の野田秀樹と助手の井上真央が登場したので、ちょっとほっとしました(野田秀樹の登場を見逃すと彼が何かまったく不明になるので)。

電報配達人の瑛大、潜水夫の阿部サダヲも登場。瑛太が海に入ると、そこは人魚の世界。NINGYOの松たか子と母の銀粉蝶がいます。

豊かな言葉遊びとギャグと、アンサンブルの動きの中に、ポツポツと埋め込んだヒントの密度が濃くなって行き、最後はすべてつながって張りつめた演劇空間の中で主題が語られます。エッグの時はちょっと驚きましたが、ここ数作をみていて、彼が今やりたいことというのがこれだというのはよくわかりました。

毎回似たような感想になってしまうのですが、シンプルながら効果的なセットの表現、隅々まで行き届いたアンサンブル、効果的な衣装。お金があることを見せびらかさなくていい本当のお金持ちが、使いたいところに糸目のつけないお金の使い方をしているようです。

今回、水中世界の表現が秀逸で、マジックミラーと照明と人の動きで見事に作り上げています。ワイヤーで俳優をつっていた、わかりやすい「リトルマーメイド」を少し思い出して、対照的だなと思いました。

一人一人が主役を張れる役者さんが揃ったキャストに穴はありません。松たか子の舞台は初めて見ましたが、さすが血筋ともいうべきか、恵まれた声と俳優としての身体能力はさすが。彼女の女性としての魅力を活かした映画やドラマでも活躍しているのに、出産からの本格的な復帰作にこれを選ぶとは。

彼女に限らず、野田秀樹の舞台の俳優は、彼の芝居の中での一つのパーツという感じがします。特に最近の作品は、人気俳優が演じているだけに、彼らがいつもの男性、女性としての魅力は二の次に、この芝居の中にそれぞれの役割で、いわば一つのピースとして参加しているという感じがします。そしてそれを、心から楽しんでいるんだろうな、と。

銀粉蝶さんは、「タイガー&ドラゴン」で、西田敏行の妻役が、見たことない女優なのに往年の大女優のようにおかみさんとしてはまっているなと思ったのですが、今回は、白石加代子風の迫力ある演技で、意外というか、すごいと思いました。

MIWAでも迫力があった井上真央ちゃん。あのつまんない大河ドラマの主演の後が、こういう最高のカンパニーでの舞台というのは、女優として自信をとりもどしたのではないでしょうか。満島真之介も若手のいい俳優さんで、前回は蜷川演出の舞台で見ましたが、大御所に愛される魅力があります。阿部サダヲはさすがとしか言いようがなく、瑛太もよかったです。

さて一つネタバレ。池田成志は怪優の部類に入ると思うのですが、彼をもってしても、号泣議員は実物を越えることはできませんでした。いまだに彼の映像を見ると腹を抱えて笑ってしまう私、つくづくあの破壊力はすごい。

そうそう、野田秀樹の芝居のお客さんは、熱心な方が多いのか、終盤に向けての息を呑む雰囲気がいいです。何と比較してかというと…歌舞伎ですかね。乗り出して座る、しゃべり続ける、スーパーの袋のカシャカシャの音、気になるんですよね。

NODA MAP「エッグ」@芸術劇場プレイハウス

Egg2015

野田秀樹がますます完成度を高めているのをひさしぶりの「MIWA」で確認し、勢いがついて今回の「エッグ」のチケットを何とかとりました。2012年上演作の再演、深津絵里、妻夫木聡、仲村トオル、橋爪功、藤井隆など主要キャストはそのままだそうです。

野田作品なのであらすじというのも難しいのですが、劇場で寺山修司の未完の脚本エッグの原稿を案内人(野田秀樹)が発見します。その内容は…、エッグという架空のスポーツをやっている阿部(妻夫木)とエース粒来(つぶらい、仲村)と、阿部と結婚する歌手苺イチエ(深津)。東京オリンピック出場をめざしている彼ら、マラソンのアベベと円谷を連想させるセリフが出てきます。

セットは、番号のついたロッカーと、時々出てくる展望台のようなもの、カーテンだけ。その使い方がものすごくうまく、人の目の錯覚も使っているのでしょうが、マジックのように人が入っては消えたり出てきたり衣装がぱっと変わったり。その自在さ加減がすばらしく、演出もですがアンサンブルも含めた演者の動きのスムーズさとセットつくりの技術に唸りました。なんだか、今まで見てきたストレートプレイのセットや表現が、みんな陳腐で時代遅れのものだったような感覚さえ一瞬おぼえたくらいです。

音楽は野田さん指名による椎名林檎。歌謡曲風なんですが(深津絵里がアイドル風に歌うところもあって)、ただ歌謡曲風に作っているだけではない深さというか曲のよさがあって、この芝居に合っているというか、かなり存在感を放っていました。

それを歌う深津絵里さん、うまい女優だとは思っていましたが、歌も驚くほど上手だし、スタイルとダンスも含めた動きのキレがすごいです。何よりテレビで見るちょっと影のある深津絵里っぽさがなく、この芝居にすっかりはまり込んでいるように見えました。

妻夫木くんは初めて見ましたが、やっぱりこの人きれいな顔立ちにオーラがあるなあ、仲村トオルはひときわ鍛え上げたたくましい体で、感心しました。

藤井隆(振付師)はいつもながらひょうひょうとした器用な動き、また主要キャストのうち私にとって未知の秋山奈津子(オーナー)、大倉孝二もいい俳優さんでした。

(以下ネタバレありです)

さて、前半は俳優野田秀樹に笑わされ、スポーツとアイドルに大衆が夢中になっている現代の表現ね、と思いつつ、前述のように巧みなロッカーを使った動きに感心しながらも、登場人物に感情移入できるわけではないので、やや目の前の展開をどうとらえていいのか、ちょっと眠気も襲ってきて、「ああ野田秀樹はもう私には無理なのか」とまで思っていたんですが…

藤井隆がオーナーの命でエッグの宣伝映画を作って上映する辺りから、この東京オリンピックは、1964年の熱狂のそれではなく、戦争のために1940年に開催予定が中止された東京オリンピックだったという話に展開していきます。そして、エッグは、あの731石井部隊の人体実験のカモフラージュだったことが明らかにされていきます。

表現は抽象的ですが、セリフはかなり直接的で、部隊が逃げる際の証拠隠滅、実験対象となった者の虐殺、逃げる人々、成果の売却と、意外なくらいわかりやすく語られていきます。

MIWAで野田さんなりの原爆の表現を追求していたことを思い出しますが、昔はこういう問題を取り上げてはいなかったのに、今彼がやりたいことはこういうことなのかなあと思いました。

歴史的な罪は世界中の、どの時代にもいくらでもありますが、やはりこれは日本のことだけに、見ていて正直けっこう苦しかったです。これが海外でも上演されるのかと、演劇としての完成度とはまた別の思いが浮かんでいました。「スポーツと音楽の光と影を描く」なんてキャッチフレーズはこの芝居の半分も語ってはいません。

野田秀樹、才能ある人が努力もして経験を積んで、さらに他人の優れた才能を自由に使えて、それでいったいどういうところに行こうとしているのか、やっぱり目が離せません。

NODA MAP公演-宮沢りえの「MIWA」

Miwa2013_mv今年4月に「おのれナポレオン」で、久しぶりに舞台での野田秀樹を見て、やっぱり野田脚本が見たいと、何度目かのチャレンジでやっと手にした野田秀樹のNODA MAP、美輪明宏をモチーフとした宮沢りえの「MIWA」を、池袋東京芸術劇場プレイハウスに見に行きました。

美輪さんのいくつかの印象的なエピソードを使いながら、少年時代から、押しも押されもせぬ「美輪明宏」となるまでを、野田らしい言葉遊びと妄想といくつものキャラクターの入れ替わりで綴っていくとう内容です。野田秀樹の脚本は初期の新鮮さを少しも失わず、日本語を自在にあやつりながら、構成はより綿密に計算されており、シンプルな舞台と効果的な変化、アンサンブルの動きや空間形成も含めて、その完成度の高さに驚嘆。休憩なしの2時間強、息をつめて舞台をみつめ、セリフを追い、思わず噴き出す、素晴らしい舞台でした。

美輪明宏の素晴らしい歌も、魅力の一端を感じることができます。

とにかく出ずっぱりの宮沢りえが凄いです。彼女のオーラは、「宮沢りえ」でしかない、光り輝くばかりの美しさなんですけど、でもちゃんと舞台の中の美少年なんです。特別な発声ではないのに、長ぜりふをよどみなく声も枯れず。動きはキレキレです。セリフ量がまた膨大で、彼女の台詞覚えの良さを知っていた野田秀樹が「おのれナポレオン」で急な代役を果たせると信じたのもなるほど。

そこに寄りそう怪優古田新太。楽しそうにこの一種変わった役を演じます。間合いをよくわかっている俳優さんなので、一番笑わせてくれました。

野田秀樹自身がまた扮装も似合ってて、とっても元気でした。彼の芝居の中で、野田秀樹自身の出番はだんだん減ってきているのかなと思ってましたが(ウディ・アレンのように)、ナポレオンのときより声が聞きやすかったように思います。

瑛太、井上真央とドラマで活躍する若手二人が普段見せるのとはちがった魅力で、もとからの舞台俳優のようで、声も動きもとってもよかったです。小出恵介も、見せ場は少なかったんですが、彼の魅力は十分伝わってきました。ミュージカルでおなじみの浦井健治や、第三舞台から活躍している池田成志もよくて。この中では、青木さやかも悪くはないんですが、必死でついていっている感じでした。キャスト一人ひとりが、この脚本と選ばれたキャストの中で、ものすごく頑張ったんだろうと思いました。

このお芝居、北九州でもやるのですが、長崎弁が多い部分がうけるかな。これから行かれる方、1000円と格安のパンフレット、美輪明宏と野田秀樹の対談もたっぷり載っていて、小ぶりなところも好感ですので、是非お買い求めくださいませ。

「天翔ける風に」@シアタークリエ

Amakakeruドストエフスキーの「罪と罰」のストーリーを、幕末の日本に置き換えた野田秀樹の「贋作・罪と罰」を、さらにミュージカル化した「天翔ける風に」です。野田秀樹ならというのがあったのと、「Chess」でよかった石井一孝、なつかしい浜畑謙吉、その他のキャストもなかなか魅力的だったので、いってみました。

とはいえ、一抹の不安はあったのですが、どちらかというと、悪い方の予想が当たってしまいました。野田秀樹の芝居は歌舞伎以外しばらく観ていないとはいえ、ある程度わかってて、あれがどうミュージカルになるんだろうと思っていたら、やっぱり本人がやらなきゃ無理だったかーという感じ。

曲も悪くないし、キャストもアンサンブルもダンスもよかったんですけど、一言でいうと、なんか面白くない。ドラマとして、盛り上がっていかない。主人公である英(はなぶさ)と彼女を追い詰めていく刑事との緊迫感や、英自身の変化など、あまり感じられないうちに終わってしまいました。脚本を変更しているのでなければ、やっぱりこの野田作品と、「ミュージカル」とか「ミュージカルスター」との相性ってことでしょう。後から「贋作・罪と罰」の評判みたら、笑った、泣いた、とよさそうだったですから。地のセリフのやりとりが野田脚本らしいので、よけいとってつけたような感じがしました。「贋作」は松たか子、古田新太、段田安則、野田秀樹(母清役)といったキャストだったので、比べるのはかわいそうかもしれませんけど、でも、ミュージカルには、歌の力で感動をねじふせるってアドバンテージもあるはずなんですよね。

衣装も、普通に和服だった「贋作」に対して、時代不詳なモダンなかっこいい衣装(ちょっと戦国ゲームっぽい)になってるところが、好きな人もいるでしょうけど、この脚本に対しては逆効果だったのでは、という気がしました。英の朝海ひかるが、宝塚に見えちゃう感じもするし。

キャストはよかったんですよね。石井さんは、Chessのアナトリーとはまたまったく違ったワイルドで包容力のある才谷だし、レミゼのジャベールみたいな刑事の浜畑謙吉さんは重厚な雰囲気(この方、「女人平家」というドラマで大江広元役が好きでした。今は大阪芸大で教壇に立っているとか)、溜水の吉野圭吾は「グレイ・ガーデンズ」でも役の解釈が的確だなと思ってみてましたが、この舞台ではいちばんこってりと濃いキャラクターでした。
父役の岸祐二は初めて見ましたが、どんどんかっこよく見えてきました。それ自体はこの舞台の中では必ずしも成功というわけではないんでしょうけど。元はカーレンジャーのヒーローだったんですね(「ロックオペラモーツァルト」に出てた菊地美香と結婚していたこともあったそうな)。アンサンブルも、10人がいろいろな役と、激しいダンスをがんばってて、とてもよかったです。

英の朝海ひかるは、顔が小さくて華奢、少しだけハスキーな歌も、軽やかな動きも、終盤の渾身の叫びも、全身で熱演でした。昔、伊藤蘭が、野田作品でひたすら走り回らされてる中から熱っぽいエネルギーを発散していたのを少し思い出しました。母の伊東宏美も、存在感があってなかなかよかったです。

セットもシンプルですが、2段になってて、照明と扉をうまく使って変化を出し、かつ展開もスピーディで、出色でした。

これくらいの人数(メイン7人+アンサンブル10人)で、クリエくらいの劇場で、生演奏で、とちょうどいいはずなんですがね。ああ、これを面白く思えなかった自分が、損したような気持ち。

あ、ところで幕間のスペシャルドリンクというのを飲んでみました。キウイと、ラズベリー、金平糖等が入ったさわやかな飲み物で、美味しかったです。