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落語・講談・コントライブ

下町ダニーローズ「不幸の正義の味方」@サンモールスタジオ

 201906 志らくさんが定期公演をやっている下町ダニーローズの芝居、「不幸の正義の味方」です。弟子が稽古を見に来ないと激怒して二つ目を前座に降格させたことでTwitterで話題になり、そのハードルの上げっぷりが気になってチケットをとってみました。モロ師岡さんとかキム兄とかも出てるし!劇場は座席数100ほどのサンモールスタジオ。

自由席なんですが、ギリギリで行ったら最前列、舞台の真ん前の20センチくらいの高さのベンチ(座布団付き)の席。足を折り曲げてほぼ体育座りですが、足先は舞台の端についてます。舞台上の座席の経験もありますが、いや、近かった!キャストが前に出てくると、1mくらいですよ。

最初に志らくさんの前説というか最近の話。そして予告通り、芝浜のさわり。この近さでですよ。ほぼ大みそかの女房の告白だけで10分もなかったと思いますが、毒舌シニカルなおじさんが、純な女房の切々たる語り、目がかわいくて泣きそうになっちゃいました。

お芝居はとある箱根の旅館の一夜の話。ネタバレは避けますが、大人の大真面目な遊び心という感じで、こういうのをやりたい気持ちはわかります。志らくさんの中では全部繋がってるんだろうけど、落語やりたくて弟子やってる人達が、この芝居に積極的に関わろうとしないのもわかるような気がしました。でもそこが弟子だろうっていう志らくさんの気持ちももっとも、そりゃ会社のパワハラとはちがいますよね。

出てる役者さん、みなさんとっても個性的でした。知ってる人ばかりのような気がして、帰りにパンフレットで調べたらそうでもなかったっていうくらい、面白いところのある人ばかり。

主役は志らくさん、親友並河にモロ師岡(もともと好きな役者さん。顔大きいの生かしてました)、時の人木村祐一、昔から知ってる二丁拳銃の小堀裕之、動きが面白くて一番大変そうだったぜんじろう、吉本新喜劇に通じるようなコテコテ感のあった原武昭彦、すっきりといい男で美声の幸田友見、長身で迫力のあったコロンボデンゾ―、台詞のしっかりした声のいい奥村香里、小柄なかわいいアイドル小池美由。で、みんな思い出したんですが、消去法であの人が水島裕?全然面影がなかったんですが(熱演でしたけども!)…。

脚本としては、とくに前半、もうちょっとスピード感があればとか、もっと笑いをぶっこんでもとは思いましたが、でもこれだけの役者をそろえて、何かが起きるかもしれない、と期待して通うファンもいるだろうな、という舞台でした。

休演日、過去作品のビデオ鑑賞とサイン会とトークショーで、チケット持ってる人500円っていいサービスだなあ。行けない日で残念。

もひとつおまけ。前説で志らくさんが、蛍光テープの目印のこと、暗転のときのよすがだから、物置いたりして隠さないでね(←それくらい客席が近い)って言ってたんですが、真っ暗な暗転でもほんとに見えるんですよ。これかあと。そして、真ん前なのに、役者さんが位置変えて揃って座ったりする動きって見えないんですよね。暗転ってすごいなと思った次第でした。

 

神田松之丞ひとり語り 講談と歌舞伎 「芝居の喧嘩」「対談・講談と歌舞伎<松之丞・児玉竜一>」「中村仲蔵」

201903_1  松之丞独演会、テーマが講談と歌舞伎、歌舞伎評論家の児玉竜一教授との対談、そして「中村仲蔵」と、私のために企画?(←ちがう)と、楽しみにしておりました。朝日カルチャーセンターの企画で、会場は神楽坂の牛込箪笥区民ホールという、素朴な雰囲気のキャパ392席のホールです。ほぼ満席の盛況。舞台は広く、座席の傾斜もあるので天井が高く、先日の三越カルチャーセンターの会議室の天井に頭をぶつけそうな高座とはえらい違い(笑)

最初はたっぷりめのマクラ。南座での独演会が決まったそうで、なんと木ノ下裕一さんの補綴。木ノ下さん、この間も木ノ下歌舞伎を上演していたKAATのロビーでお見かけしましたが、パワフルな雰囲気だったなあ。

来年の真打昇進の話題で、講談の名跡について。歌舞伎と違って、講談や浪曲では遺族(=素人)が名跡を持っていて、誰にも継がせず、止め名にするという場合があってけしからん、そうな。ほんとならヒドイ話です。

1席目から歌舞伎関係ということで、幡随院長兵衛もので「芝居の喧嘩」。歌舞伎で見た、暴れる旗本奴を抑えに客席から長兵衛(←かっこいい吉右衛門さんだった)が登場する話かな、と思ったら、子分同士の山村座での喧嘩の話。長兵衛子分の闘犬権兵衛と夢の市郎兵衛が主役なんですが、喧嘩のきっかけは長兵衛の別の弟子が伝法で、客に迷惑をかけたからなんですよ。長兵衛の子分がそんなことしちゃいかん。とはいえ、最後は水野十郎左衛門の一味と幡随院一味の名前の言い立てになって威勢よく終わります。

続けて、松之丞と児玉先生の対談。児玉先生の歌舞伎を見始めたきっかけ、研究者になろうと思った経緯、講談と歌舞伎の親和性(私も両者はすごく近い世界で、ネタも近いものが多いと思ってました)、講談の凋落の原因、昔の歌舞伎との違い、歌舞伎界のこれから、などなど、予定を超えて50分くらいあったのではないでしょうか。

児玉先生の役者評を聞き出そうと(とくに海老蔵評)、執拗にきく松之丞、松竹に差しさわりのありそうな危ういところには近づかない賢明な先生(笑)。今の大幹部は仁左衛門、吉右衛門、菊五郎らで70代半ば、いくらなんでも10年後はどうなるってことですが、(だから今一生懸命見てるわけです)、もっと若い世代にもそれなりに期待はされているのかな、と思えました。松之丞、そうかなとは思ってたんですが、けっこう歌舞伎を見ていて(最近は忙しいはずなのに)、役者さんのこともよく知っているようでした。

平成中村座をはじめ、必死に歌舞伎を盛り上げて、そして歌舞伎座にお客を連れて戻って古典をやるはずだった勘三郎丈、猿之助王国で奮闘し、スーパー歌舞伎をやり続けて、そして宙乗りも早変わりもない古典をやるはずだった猿翁、ともに病に倒れた二人を惜しむ児玉先生、観客が役者をダメにすることもあると言っていました。うむ。その三代目を見ていて、もっと開けた役者となるために考えてやっているのが当代猿之助であると。

木ノ下さんの話も出ましたが、松之丞の口から「あの人天才」ということばが出て、やっぱそうだよね、と思ったところで、そもそも松之丞の「pen+」で木ノ下さんを知ったんだった。木ノ下さんと児玉先生の座談会、面白かったんですが、これで3人がつながってちょっとうれしいです。

さて、最後はお待ちかねの「中村仲蔵」、落語でも志の輔が得意のネタにしていますが、初めてです。落語は仲蔵の女房や師匠が出てくるそうですが、松之丞の講談では、一人思い悩む仲蔵です。下積みから名題になったものの、仮名手本忠臣蔵の通しなのに五段目の斧定九郎一役で失望していた仲蔵が、砥の粉でどてらを着た冴えない悪役の定九郎を、白塗りの凄みのある実悪の役に作って喝采を浴びる話。

多少はしょったのもあって、あらすじをなぞったような感はあったのですが、客が「昔の役者の方がよかったなんて言っちゃいけねえな。芝居は今なんだな。今一生懸命やっている役者を見なきゃいけねえ。仲蔵よくやった」(かなり意訳)という言葉が、直前の対談の内容とリンクしていて、まさに今、懸命に講談界を盛り上げようと奮闘する松之丞と重なって、じんとしました。

しかし、この話、「仮名手本忠臣蔵」を全段見たことのないお客さんにどこまで伝わるのかと思います。そもそも「砥の粉」(赤ら顔の化粧のことで、悪役や奴の顔)ってけっこうな専門用語だし、五段目が弁当幕というのも、忠臣蔵の長さと前後の幕の面白さを知らないとぴんとこないでしょう。数年前に国立劇場で3か月連続通し上演があったとき、「これから歌舞伎見るつもりなら見るべき」と言われて見ておいてよかったー。

そして何より、今の定九郎のかっこよさ。私は松緑と幸四郎で見てますが、二人ともそりゃかっこよかった。実は初めて松緑で見たとき、え、松緑がこの役ひとつ、って思いましたし、松緑さんが父辰之助が演じて評判だったと語っているのもそういうものなのかと思ったくらいでした。

逆に、歌舞伎知ってると不自然な部分もあります。1日目はともかく、2日目以降は役者の先輩から誉め言葉いわれそうですし、3日目には大向こうかかるでしょ。そして舞台に出てれば客席の雰囲気わかりますよ。語っているのを聞いた一人のお客だけでなく、本当に成功したと仲蔵が気づくまで、5日もかかるのははおかしいな。

まあそれは劇的効果ということで。予定より30分超過だったようですが、行ってよかったひとり松之丞でした。

松之丞「万両婿」「違袖の音吉」「扇の的」@三越カルチャーセンター

201903

         松之丞、「講談とトークたっぷり90分」と題する、三越のカルチャーセンターでの講座です。オンラインで申し込んだんですが、チケットは来ないし、三越劇場の公演予定にもないし…と不安になっていたら、日本橋三越新館9階の会議室、来場順に着席のしくみ。開演30分前に行ったら、もう8割方埋まっていました。

この会議室が、ほんとに会議室。200ほどのパイプ椅子が横に長く並んでいて、座った頭の位置に、高座ができています。高座から立ち上がると、低くなっている天井に松之丞さんの頭がぶつかる位置ですよ!今をときめく松之丞を、リニューアルして全館きれいな三越にお呼びしてこれですか、な感がすごい。私自身はサイドながら、斜めから松之丞さんの上半身がしっかり見えたのはありがたかったです。

さて案の定、松之丞自身も、この状況をネタに突っ込みまくります。三越でコレ、絶対ラジオで言うって。しかし、そう思っている私たちと気持ちが一体になって、とても温かな雰囲気になりまして、そういうところもうまいんですよね。

1席目は「万両婿」。宝井琴調さんに習っていたもので、今日のTwitterでもネタおろしできる、というのを読んでいたので、おお、と思いました。落語でも先代円楽さんや歌丸さんが得意としていたネタだそうです。ネタおろしの出来についてもひとくさりあって、私たちのハードルを下げます。

旅先で死んだと思われていた小四郎が、そうとは知らずに帰宅すると…という、大家も活躍する落語的なお話で、笑えるところがたくさん、ネタおろしながらかなりの完成度です。帰宅してから松之丞の「講談入門」を見たら載っていたのであれ、と思ったら、「琴調先生に習って強力なレパートリーになる予定」と書いてありました。琴調先生の、女性の受けを考えての、ちょっとした変更もネタにしたりして。

続けて2つめは、侠客ものの、「違袖の音吉」。浪花の三大侠客の一人、音吉の少年時代、町で出会った源兵衛親分とけんかとなり、子分となるまで。「講談入門」によると、松之丞の二つ目時代の代表作、DVDにも入っているそうです。浪花なのに江戸弁、と本にありましたが、それでこちらも聞いている最中、江戸なのか大阪なのか、やや混乱したのか。それはともかく音吉少年の生意気さが面白くて、これもたいへん楽しく笑えました。

ここまで1時間ちょっとで休憩を挟み、また少しトーク。昨日から話題の、松之丞のワンピース講談(Youtubeに動画が上がっています)のお話。実際に動画を見て、講談とワンピースの相性のよさに驚いたんですが、松之丞もそのこと、そして松竹さんからきいたというとワンピース歌舞伎の大ヒットの話。「普通歌舞伎は役者を見に来るが、猿之助でなく右近でもチケットが売れた、ものすごく客層を広げた」――人から聞くとうれしい話!

そして最後は、予定の時間も過ぎており、客も疲れ気味なのを見ながら、「扇の的」。松之丞の代表作といってもいいくらい、よく読んでいるようです。伸縮自在ということで、短めの15分ほど、与一がどんどん的に近づき、弓を振り絞るところでいったん切ったりして、盛り上がりました。

3席、登場人物が多彩で、老若男女が活躍、何でも自在な松之丞。健全な毒っ気がたまりません。まだまだ人気は安泰な気がします。次回のラジオ「問わず語り」が楽しみです。

ぎんざ木挽亭神田京子「番町皿屋敷」神田松之丞「南部坂雪の別れ」

201901      木挽亭の松之丞の会、今回のゲストは姉弟子神田京子さん。

冒頭のトークでは、京子さんが大学時代に当時89歳の神田山陽に弟子入りした話とか、松之丞が前座時代に使えなかった話などで盛り上がりました。山陽さんは、歌舞伎でいえば猿翁さんのように革新的な講談師だったそうです。

さて京子さんの講談は、「番町皿屋敷」、冬の怪談です。歌舞伎の番町皿屋敷は、岡本綺堂作の、青山播磨と菊の恋愛ものですが(京子さん真山青果って言ってたけど、浅草歌舞伎で見たばかりなのであれ、と思った)、こちらは旗本青山主膳、そして用人十太夫の誘いを断った腰元お菊が、二人に陥れられて、家宝の皿を割ったかどで手討ちに合う話。

全編、舞台は冬の夜。雪が効果的です。幽霊の怖さよりも、可憐なお菊が、男たちに迫られて「お許しを」というところ、そして凄惨な殺しの場面が印象的。京子さん、明るい、気の強そうな(失礼)美人なんですが、主膳や十太夫のときは、傲慢な男に見えるところがすごい。笑いも取り混ぜて、充実した一席でした。

松之丞、松竹が新調した釈台に絡めて真打昇進の話をしたりして、やっぱり発表になってから初の生まっちゃんなのでうれしいです。こんなに毎月木挽亭やっているんだから、歌舞伎座で真打披露、といった話が出なかったのは、もう夢じゃなくて真面目に準備する段階に来たからでしょうかね。

「南部坂雪の別れ」。大石内蔵助が今夜いよいよ討ち入りをするというときに、浅野内匠頭の未亡人瑤泉院にあいさつに行きます。討ち入りの意思を問う瑤泉院に、間者の存在を恐れてしらを切りとおす内蔵助。別れ際、四十七士の兄妹である戸田の局に連判状を、それを知らせずこっそり託して内蔵助は去ります。それを盗もうとした間者の腰元に気づき、連判状を見た戸田の局と瑤泉院は涙にくれたのでした。

この話の大石内蔵助もほんとにいいなあ。本当は話して安心させたいが、万一を考えて言わないと決めてこらえるつらさが伝わってきます。そして、その大石の判断は正しかったこと、真実がちゃんと瑤泉院や戸田の局に伝わるところがスッキリします。講談、モヤモヤが残らないところがいかにも庶民の娯楽。泣けます。

この演目、見せ場としての、連判状に書かれた四十七士の名前の読み立てがあるのとないのとあるそうですが、松之丞、「覚えていないわけではないが1年かけて仕上げるので」と言って今回はなし。もしかして初おろし?と思ったんですが、帰って「講談入門」みたら、「読み立てをやってよく覚えた、という拍手はちがう」という思いがあるそうで、静かに読み立てをするバージョンもあるらしいです。

この日も、いくつも仕事をしたうえでの高座だと思いますが、あとは体に気を付けて、健康なダイエットをして、汗をかかないようになーんて、よけいなことを思っちゃいますね。がんばれ松之丞。

ぎんざ木挽亭神田愛山「二度目の清書」神田松之丞「神崎の詫び証文」

201812kobikiteimj      歌舞伎座ギャラリーのぎんざ木挽亭第二部の講談です。忠臣蔵討ち入りのまさにその日に、忠臣蔵(赤穂義士伝)の2席。というとすごく忠臣蔵好きのようですが、生まれて初めて討ち入りの日を意識しました。

今回(第5回)のゲストは神田愛山先生。松之丞の「天保水滸伝」の「笹川の花会」を聞いたとき、「天宝水滸伝」は、師匠の松鯉先生ではなくて、愛山先生に習った(花会のみは松鯉先生だが)と言っていたその愛山先生ですよ。軽いトークから始まります。

愛山先生、「二度目の清書(きよがき)」。聞きながら、ずっとキヨガキって何だろうと思っていたんですが、内蔵助が義父にあてた2回の手紙のことでした。他では使わないですよね。

内蔵助は人目を欺くために廓通いをしていますが、とうとう傾城を身請けして家に入れると言い出し、妻石と力弥の下の2人の息子、母は、石の実家石束家に行くことになります。内蔵助は寺坂吉右衛門を義父露山に遣わし、「心中よしなにご賢察を」と伝えます。そして数か月後、仇討ちを果たした内蔵助は再び露山にそのことをしたためた文を送り、使いの寺坂は名調子で仇討の模様を語るのでした…。

これぞ講談という名作です。内蔵助と露山のいかにも武士の風情、最後の討ち入り。愛山先生、60代半ばと意外とお若く(失礼、名人の貫禄がおありだったので)、力強い名調子。愛山先生がこの話が好きじゃない人は赤穂義士伝はダメな人、リトマス試験紙、というのがその通りだと思いました。

これで十分満足、というお客の空気を感じながら(ばっちりマクラにしてました)、次は松之丞。この日はラジオの後、寄席、シブラクときて夜10時の高座だそうですよ(Twitterでご本人が)。さすがにお疲れかな、と思いきや、「神崎の詫び証文」、熱演でした。

内蔵助の命を受けて江戸に行く神崎与五郎は、浜松の茶店で酔った馬喰の丑五郎に喧嘩をふっかけられますが、騒ぎを起こさないためにぐっとこらえて土下座し、詫び証文まで書きます。しかし2年後、討ち入りを語る講談が大人気となります。浜松に来た講談師赤城の話をきいていた丑五郎は、神崎与五郎の名を聞いて驚き、すべてを悟って後悔します。泉岳寺にやってきた丑五郎は墓守となって泉岳寺で神崎の墓をとくにきれいに磨いて過ごすのでした。

丑五郎の酔っぱらい絡みぶり、そして討ち入りのための我慢だったことを知るときの語りの呼吸。ここでぶわっと泣けちゃいましたよ。

さすがに愛山先生の後はやりにくかったとも思いますが、この会の仕立てとしては承知の上なんでしょう。いや、いい討ち入りの日記念になりました。

神田松之丞講談漫遊記vol.2「赤穂義士伝 安兵衛特集」@神奈川県民ホール

201811     松之丞講談漫遊記と題した独演会ツアーです。会場で知ったお題は「赤穂義士伝 安兵衛特集」。わあ、PARCO歌舞伎「決闘!高田馬場」の安兵衛だ。

とにかく今大人気の松之丞、出だしから盛大な拍手と掛け声。機嫌よくマクラもなめらか。安兵衛の出身地 新潟県新発田(そうなんだ!)で読んだときの話で爆笑。

本題は3席。まず「安兵衛駆け付け」。安兵衛、剣の達人ながら、前半というか大半は酒浸りのダメ男です。もちろんPARCO歌舞伎の幸四郎さん、それに長屋のババアは萬次郎さん、謹厳な伯父様は錦吾さんを思い浮かべながら、前半は面白く、後半は勢いに感心しながら。安兵衛の襷はやはりトレードマークなんだな。

2席めは「安兵衛婿入り」です。安兵衛の駆け付けてからの活躍を見ていた赤穂藩士堀部弥兵衛の妻は、ぜひ娘の婿にしたいと安兵衛を探します。この奥方が夫に語る安兵衛の助太刀が秀逸。安兵衛が藩主浅野内匠頭とお目通りする場面では、内匠頭を梅玉さんに脳内変換。

休憩後、第3席「荒川十太夫」は、安兵衛を介錯した武士の後日談です。切腹の場の安兵衛が立派で、あの酒浸りのダメ男が、助太刀、婿入りによって、人間として成長し、武士の本懐を遂げて、名誉ある侍として死んだことがわかり、感動します。全体に静かな語りで引き込まれ、泣けました。歌舞伎の「大石最後の一日」を思い浮かべながら、です。

ということで、独演会での連続ものならではの読みぶりの変化や深さがあって、とっても満足。こんなに毎日さまざまなお題を読みながらも、2時間近く、たった一人で、これだけのものを見せてくれて、いささかのよどみもない松之丞さん、ほんとにすごいなあ。

201811pen    会場には、「講談入門」やCDのほか、最近出たばかりのPen+ 『完全保存版 1冊まるごと、神田松之丞』、を売っていたんですが(サイン会もありました)、この会場で買えるなんて思ってなくて、すでに買っちゃいましたよ。

このムック、松之丞のインタビューや座談会、プロデューサーの見た松之丞の軌跡等があって、読み応えたっぷり。講談界の系列や講談師のお名前もわかります。

注目したのは、木ノ下歌舞伎の木ノ下裕一さん、狂言の茂山童司さんとの鼎談。お二人とも見たことないんですが、やっぱり行かなくちゃ。

(追記)

その後、録画してあった「第48回NHK講談大会」を見ました。毎年放送されていたのでしょうが、ついぞ目に入ったことがなかった番組です。松之丞以外の講談を見たことがないものですから、ちょっと見てみよう、と。

まず神田陽子さんの「与謝野晶子の生涯」。戦いもなく世間話のようですが、この方、なかなかの迫力です。女性管理職のような貫禄。一龍斎貞心さん「大名荒茶湯」(私が今まで講談に抱いていたイメージに最も近かった)、真打に昇進した神田蘭さん(←この方、明るい美人の姐さんで好きだ~社交ダンスが得意で、チャチャチャも踊ってました)、山緑さんの二人の紹介をはさんで、松之丞さんの師匠神田松鯉さんの「大田道灌」、松之丞が単行本で対談していた人間国宝一龍斎貞水「文化白波鋳掛松」というラインナップ。

松鯉さん、見た目はちょっと強面。この太田道灌という話は「みのひとつだになし」の逸話であまり面白くなかったんですが、ちょっとしたくすぐりもよく、この人で連続物等もっと聞いてみたいと思いました。一龍斎貞水さんはさすが、味わい深く、どんな分野でも名人というのはすごいな、と。

いずれの皆様も当然ながら、声も滑舌もきもちよくて、言葉のひとつひとつがくっきりと聞こえてきます。で、松之丞が異色の講談師という理由もわかった気がしました。

最近、ミュージカルが私の好みの芯だとしたら、そこから歌舞伎、ストレートプレイ、コント、落語、講談と言葉の芸術の方向が好きなんだな、と思います。ちなみに逆方向は、宝塚、オペラ、バレエ、と、言葉なしの音楽方面に向かっていきます。決まってないけど。

(追記)

12月18日の「なんでも鑑定団」、堀部安兵衛の手紙が出るというので、久しぶりに見てみたら、立派なほんもの!安兵衛は当初から仇討ちを主張していたそうで、四十七士の総意で仇討ちをすることなどが、立派な筆跡で書かれていて、保存状態も良好。

忠臣蔵が史実だとは思っていましたが、あの安兵衛が、(生涯についての解説も概ね相違なく)、実在の人物だということがひしひしと感じられ、縁あって養子となったが故に仕えた主君の仇討ちの先頭に立っていた安兵衛、と思うと、手紙を見るだけで泣けてきましたよ。

ぎんざ木挽亭春風亭一朝独演会「祇園祭」「柳田格之進」

201809_2               8月から始まったぎんざ木挽亭と題した歌舞伎座ギャラリーでの寄席、第一部の春風亭一朝さんの独演会に行ってきました。一朝さんは、片岡市蔵・亀蔵さんのお姉さんの夫で、かつ、ご自身が二つ目時代には歌舞伎の囃子方として笛で舞台に立っていたという歌舞伎に縁の深い方。マクラも興味津々でした。

一席目は、「祇園祭」。一朝さん、口跡がよく、とくに江戸弁が絶妙。ほんものの江戸弁はこういうものかと(前座の与いちがまた20才そこそこの若さで対照的だったこともあり)、感動します。とくにこのお話、京都人の京自慢と江戸っ子の江戸自慢がエスカレートしていく噺なので、痛快でした。

二席目は「柳田格之進」。嘘は絶対につかないまっすぐな浪人柳田格之進は、大店の主人万屋源兵衛とよい碁友なのですが、あるとき万屋で50両の大金がなくなり、番頭徳兵衛は格之進を疑い…。

一席目が笑うのに忙しかったので、二席めはじっくりと、一朝さんの武士と町人の自在な演じ分け、そしていったいどうなるのかとハラハラ。最後はほろりとちょっと泣けたりして、あっという間に時間が過ぎました。

恥ずかしながら、一朝さんはこれまで存じ上げなかったんですが、落語の楽しさを味合わせてくれる、いい落語家さんだと思います。落語界はまだまだ人材豊富なんですね。

前座の与いちは「手紙無筆」。ひねりがなさすぎで、あまり面白い噺ではないんですが、何せ若くてキラキラ一生懸命でした。

さて、このぎんざ木挽亭、3カ月連続で月末の金曜日、2部構成で9:15からの2部は松之丞という盤石の集客イベントです。

歌舞伎座ギャラリーでの催しは初めて行きましたが、舞台はギャラリーの歌舞伎舞台(今日は楼門五三桐)、椅子は芝居の茶屋の赤い毛氈のベンチとパイプ椅子で100余りと、とにかく演者が近いです。これなら、ここでよく開催されている歌舞伎役者のギャラリートークが大人気なのもうなずけますね。

神田松之丞「講談入門」

201807      松之丞さんの講談独演会で売ってた「講談入門」、サイン会に惹かれて買い、さっそく読んでみました。2018年7月発行と、ほやほやです。

内容は松之丞の写真、講談の基本情報、松之丞の持ちネタの解説、人間国宝・一龍斎貞水のインタビュー、講談についてのエッセイと、松之丞がきっかけで講談に興味を持った人にぴったりの内容です。ファンブックと入門書を兼ねた心憎い本。

私が子どもの頃には、田辺一鶴がよくテレビに出ていましたが、その頃から、講談自体をテレビでやることはめったになく、聞いたことはありませんでした。その後神田紅さんが女流講談師として人気でしたが、彼女の読むのも見たことはなく。

しかし、実際に松之丞さんを見てみると、たったひとり、言葉の力だけでお芝居をする講談、素材も歌舞伎や文楽と共通のものも多く、実に面白いんですよね。落語とのちがいについて、いろいろ書かれていますが、なるほど、と思いました。

人間国宝の貞水さん、昔は楽屋でほかの講談師の受け方、演じ方を見ていたものだが、今は人のはきかず、自分の準備だけ、というのが意外。

この本は287pあるんですが、そのうち140pが松之丞持ちネタの演目解説です(まだこの部分は全部は読んでいません)。ジャンル別になっていてわかりやすいし、150話もあるので、続き物から怪談、武芸物、白波物、新作とたくさんあります。

(翌日、演目部分も読んじゃいました。簡単な解説プラス、松之丞さんが誰に倣ったか、その師匠の読み方はどこがいいか、そのままか、笑いを入れるのか、短くしているか、松之丞さんはそのネタをどう思ってやっているか、など、情報量が多くて面白いです。連続ものの面白さもわかるし、忠臣蔵もののよさも感じられます。数行のあらすじで泣きそうになったりして。

この本を書いた動機が、手ごろな入門書がなかったから、とのことですが、歌舞伎の入門書をいっぱい買っているのでその気持ちわかります。そして、こんな本書いてくれてありがとう。装丁や写真もおしゃれで、いい本ですね。

神田松之丞連続講談ひとり「天保水滸伝-笹川の花会」「海賊退治」「小幡小平次」@博品館劇場

201807    楽しみにしていた松之丞独演会です。7日間連続で「天保水滸伝」を読む(講談は読むって言うんですね)のですが、この日は前後に1演目ずつありました。

最初のマクラで今日は冷房もよくきいているし、座面を高くしたからお客さんから見えやすくなった、と機嫌がよい松之丞。落語や講談の小屋じゃないうえに座席の傾斜が緩くて見えにくかったんでしょうね(後で、今日はお客さんの集中力がちがった、と言っていました)。

まず「海賊退治」。二つ目話としてよく読まれるとか。大金をもって航海する風早丸に、海賊が襲い掛かりますが、二人の侍が撃退します。登場人物が多いので混乱すると言っていましたが、そんなことはなく、生き生きとした立ち回り、あっという間でした。

2つめは主題の「天保水滸伝ー笹川の花会(はながい)」。天保水滸伝というのはタイトルだけ知っていましたが、幕末の侠客飯岡助五郎と笹川繁蔵の対決の物語とは知りませんでした。松之丞、天保水滸伝は愛山さんに習ったそうですが、笹川の花会だけは、師匠の松鯉さんに習ったとか。そのやりとりも面白く、お二人の講談も聞いてみたくなります。

笹川の花会は、笹川繁蔵の花会に、助五郎の名代で出席した政吉が、繁蔵の度量に度肝を抜かれる話。登場人物の輪郭がくっきりしていて、侠客の集う座敷が見えるようでした。

3つ目は、「小幡小平次」。初代團十郎が舞台で殺されたのは知っていましたが、この話は、團十郎を殺した下手人である名題下役者の生島半六が獄死した後、半六の後家おちかの夫となった小幡小平次を、おちかにそそのかされた間男の太九郎が、旅先で殺してしまいますが、家に戻ると、小平次の幽霊がいて…。

これも、小幡小平次という名前にはなんとなく聞き覚えがありましたが、内容は知らず。わあ、歌舞伎の話じゃん、とちょっとテンションあがります。初めて出てくる女性のおちか、いい女で悪女というのもうまい。そして、小平次の殺され方、猿之助の「天竺徳兵衛新噺」の小平次の殺され方と同じじゃありませんか。歌舞伎でも小平次ものというくらい、幽霊の定番だそうです。

ところで、小平次は團十郎の弟子で名題下の役者、太九郎は囃子方という設定なんですが、なんで小平次は金持ちなのかが気になりました。おちかの金づるになっているし、名題になるため、百両の金をためているんですよ。百両あれば一生遊んで暮らせるという台詞もあるのに、実家が金持ちであるということも言っていなかったような…?

201807_2   さて、3話終わり、幕間で買ってあった松之丞の「講談入門」のサイン会。間違い部分にシールが貼ってある貴重な本ですよ。松之丞さんの写真、講談の基本、演目の解説、一龍斎貞水さんとの対談等盛りだくさん。今日見た演目の解説ももちろんあって、買ってよかった本でした。しかもご本人のサイン入りって、最高!

松之丞さん、やや無頼な雰囲気や革新的なところは談志に似てて、師匠や講談界の名人たちを松之丞ファンに紹介することはナイツで、講談を知らない人々にこういった本でアピールするところは、猿之助丈に似ています。しかもめんどくさそうなお人柄がチャーミング。ますます好きになりました。

(おまけ)

山本耕史主演のNHKBSドラマ「鳴門秘帖」。録画したままなんですが、なんと松之丞の語りですよ。しかも時々顔出して張扇もたたいています。その楽しみもあったか!

 

 

「三遊亭円楽と若手花形芸人の会」@有楽町よみうりホール

201805    若手講談師の松之丞が面白い、という声をよく聞くなあと思っていたら、「円楽と若手花形芸人の会」に出演とのことで、行ってきました。落語、好きなんだけど振り返ると2年に1回くらいの頻度、もっと気楽に行きたいものです。

最初は好楽の弟子という好也(こうや)「転失気」。和尚さんが医者に「てんしっき」と言われたのがわからなくて知ったかぶりをする話。前座話の定番だそうですが、知らなかったので、最後までなんだろうと面白く聞きました。真面目そうな感じの良い若手です。

次は早くもお目当ての松之丞。もう出てきただけで華があって大拍手。講談界をネタにしたマクラが長くて面白く、まさか本編やらないのでは、と思ったら、「宮本武蔵」の「山田真龍軒」のひとくさりを熱演してくれました。この方、芝居でも落語でも、舞台芸術のどんな道に進んでも名を成した人だと思います。まだ34才、楽しみだなあ。マクラで出た話、落語家は900人で95%男性、講談師は80人で半数が女性、なんだそうです。

それから漫才のカミナリ。知ってはいましたが、ナイツの漫才に出てきた印象の方が強かったんですけど、なかなか面白かったです。「じゃない方」がネタ書いてるんですね。

前半最後は初音家左橋(さきょう)。全く知らなかったですが、本田博太郎に似た渋いベテラン落語家さん。間男ネタで2つ、何かと「紙入れ」。こういうネタなんですが、この方自身の持ち味になかなか品があって、紙入れ最後の落ちに向かって盛り上がっていくのがよかったです。

休憩後は、皿回し曲芸(水戸大神楽)柳貴家雪之介。チラシでは若い人だなと思いましたが、まだ32才のイケメンです。皿回しの途中に、いろんなものを立てるんですが、遠くからでもきれいに回っているのが見える工夫がすごい。出刃包丁の上で回したりして、真ん前の席だったら怖いですよ。イケメンなのに真面目な雰囲気で、道具を丁寧にしまうのがほほえましかったです。

そしてトリは円楽。若手落語家の楽太郎として笑点見てたのはずいぶん昔で、ご本人も「いつの間にかこんなに年取っちゃって」というノリで、歌丸師匠、高齢化、医者話のマクラ。そもそも、階段を踏み外して膝を痛め、演台付きでないと高座に登れないとのこと。この長いマクラがけっこうおもしろくて、でも元祖インテリ芸人だった円楽さんらしさもあって、あれ、終了予定時間、これで終わりかな、と思ったところに「行ったり来たり」をやってくれました。

この「行ったり来たり」、ペットとして飼っている「行ったり来たり」「出たり入ったり」から人生を学ぶ、という、物事は見ようによっては逆となる、とこう書いても何のことかわからないと思うんですが、後から調べたら、なんとあの桂枝雀さんの創作落語だったんですよ。ほかの人にはできないと言われていたこの噺、たぶん両方見た方にはだいぶ印象はちがうと思うんですが、理屈っぽい語りがうまい円楽さんは自分のものとして語っていたと思います。

ということで、多彩な芸人さんの魅力が十分に味わえた会でした。