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三谷幸喜

六月大歌舞伎「月光露針路日本 風雲児たち」

201906_1   三谷幸喜さんがPARCO歌舞伎「決闘!高田馬場」以来、13年ぶりに歌舞伎の脚本を書いたことで話題の、六月歌舞伎座夜の部「月光露針路日本 風雲児たち」です。 高田馬場は何度もDVDで見ていましたので、歌舞伎座での観劇をとっても楽しみにしておりました。5月はお稽古で休演の幸四郎・猿之助は、余裕があったのか、バラエティに出まくってくれるし。

以下、ネタバレは控えめで。

 まず松也(眼鏡にスーツで教授風)の口上というか、前説。ある意味もったいないくらいの使い方で、声の良さに感激。しっかりお客を温めます。今日はzeroに出るのか。  

さてお話は、江戸後期、1782年に伊勢を出港し、遭難した神昌丸、17人の乗組員。初めて認識したのが(すみません)、二枚目の松十郎さん、幸蔵さん。さすがにこんなにいると、最初舞台がごちゃっとしているんですが、猿之助、愛之助は最初からそこだけピンスポットが当たっているようなオーラで際立っています。そして徐々に乗組員それぞれのキャラクターが立ってくるのは、群像劇が得意な三谷さんならでは。

一行は、オホーツク、ヤクーツク、イルクーツクとロシアを西進していき、とうとう光太夫は、ロシアの西端に近いサンペテルブルクまで達してエカテリーナ女王に帰国を嘆願し、認められます。17人の乗組員のうち、帰国できたのはたった2人でした…。

幸四郎の光太夫、最初のうちは自分のリーダーシップに迷いながら成長し、日本に帰るために皆を引っ張る役柄はぴったり。彼のキャラクターが一貫して造形されていることもあり、見る方もクルーと一緒に旅をしている気持ちになります。

四代目は、紅長的な、チャラチャラした役がおいしくて、公開稽古の取材では、「早く帰りたがる」なんて言われていたとは思えない、終始何かやっている力の入りよう。ラブリンはまたちょっと黒い役ですが、すっきりとかっこよくて。とにかく幸四郎とこの二人が舞台で何かやっているだけでもう私的にはうれしくて、ずっと幸せでした。

脚本は(常になく)早く上がっていたそうですが、やはりお稽古で当て書きの部分があるのか、どの役者さんについても、三谷さんの役者の使い方は最高にうまいです。高麗蔵さん、宗之助さんの高田馬場組はもちろん、彌十郎さん、男女蔵さんの使い方わかってる。彌十郎さん、野田版といい、こういう新作でほんとにいい味出すなあ。千次郎さん、鶴松くん、弘太郎さんも、稽古で膨らんでいったんだろうな。新悟ちゃんもかわいくて、新悟ちゃんでなければ成り立たない役。

染五郎くんが、三幕通して大活躍ですが、すごいお芝居上手になってて、美貌とか、ヒョロヒョロした雰囲気なども生かされていて、とてもよかった。白鸚さんとの絡みも、ドキュメンタリーで見た白鸚さんの厳しい指導を思い出します。

三谷さんのアイドル白鸚さんの、一幕の「黄金の日々」みと、三幕のポチョムキンの洋装のはまり具合と安定感と美しい台詞回し。CMなんてめじゃないくらい、若々しくて素敵。白鸚さんと幸四郎の場面では、二人が演じた「アマデウス」、なんで私見てないのかな、と思ってしまいました。

四代目のエカテリーナ、ポスター以上でしたよ!毛皮もあしらったゴージャスなドレス(さすが前田文子さんの衣装)、王冠、美しいデコルテ、前にすっと出てきたときの輝き、ポチョムキンの台詞への細かい反応。変身の時間があれと思うくらい短くて(顔色違うからたいへんだと思うんですが)、さすが早替わりの超上級者。

前後しますが、この宮廷のドレスの女性たちの美しいこと。猿紫ちゃん、りき彌くんが目を惹きました。竹三郎さんもかわいかった。

おっと、単身歌舞伎座に乗り込んだ八嶋智人、きっちり役割を果たしていました。見得の形もきれいなのは、ほんとに器用な人ですね。3月からこっち、ミュージカル「愛のレキシアター」、劇団かもめんたる「宇宙人はクラゲが嫌い」ときてこの歌舞伎座。観客数はそれぞれ1324、176、1808ですよ。それぞれ印象に残る好演で、事前から終わるまで面白いツイートでしっかり宣伝してくれて、なんて人。この役は松也でもよかったかもしれませんが、クルーとは異質な人間という意味で、はまっていました。

そして、3人の別れの場面。「なぜあそこで笑うのか」とおっしゃる向きもありますが、笑ってもいいんですよ。それだけたっぷりあるし、笑ったり感動したりしていく間に、盛り上がっていきます。ずっとシリアスだとそれに照れちゃうのが三谷さんだし、そこがわかっている、三谷さんの芝居をよく知っている3人。あのほどの良さが品がよくて素敵でした。ある種の俊寛。

実話だけど壮大なストーリーなだけに、歌舞伎とかミュージカルじゃないとショボくなってしまいそうで、歌舞伎座でこの座組で見られてよかったです。カーテンコール2回、何度もやらない歌舞伎座だけに、1回目から立ち始め、2回目はオールスタンディングでした。

【3幕目のみ幕見追記】

3幕目のみ、幕見に行ってきました。イルクーツクの場、エカテリーナの宮殿、そしてイルクーツクの別れ。エカテリーナ宮殿での愛之助にほろり(ここでのマリアンナのいい味)、そして豪華な謁見の場。

ドレスの貴婦人たちはもちろん、衛兵さんたちもみんな彫の深い顔にメイクしてて、立ち姿がすうっとしてかっこいい!一人一人もっとゆっくり顔を確認したくて時間が足りない!その間もポチョムキンと光太夫のやりとりに細かく反応するエカテリーナも見なくちゃいけないんですもん。

今回、やっとエカテリーナの背後に立つ小姓のくん確認。つか、あんなにすぐそばに立っていて、小姓役と知っていたのに目に入らなかったのは、猿さんエカテリーナ様があまりに神々しく光り輝いていたからなんですね。

イルクーツクの別れの場は、やはり2度目なのでじっくり見ることができて、3人の熱演と緩急にぐっときました。帰りたかったよなあ二人。間も数日前とは微妙に変わって、より効果的になっていたように思います。千穐楽まで、どんなふうに進化するんでしょう。

ところで、先日の一階前方席では気づかなかったんですが、愛之助と猿之助がマイクをつけているのがはっきりわかりました。全員がわかったわけではなかったんですが、いつも4階までちゃんと声が届くので、ちょっと驚き。三谷さんの細かい台詞を聞き取りやすくするためだったんでしょうか。そのうちに明らかになりますかね。

(おまけ・池田理代子「女帝エカテリーナ」)

201906_20190626234901 ところで、このお芝居、池田理代子先生の名作「女帝エカテリーナ」を知っているとより面白いです。タイトル通り、ドイツの貴族の少女だったエカテリーナが、ロシアの女王として君臨する一代記なのですが、国王始めダメ男しか知らなかった彼女が初めて恋した強い男がポチョムキン。二人が愛を確かめ合うとき、エカテリーナは、「もうこの広大なロシアを一人で治めなくていいんだ」と言うんですが、そのシーンが最高です。二人はそういう仲なのですよ。

 アンリ・トロワイヤの小説が原作なんですが、原作も面白いですがさすが池田先生という優れたコミック化でして、婦人公論だったかの連載なので表現も大人向けです。ポチョムキンは、エカテリーナとの恋が終わると、美形の若い男を女帝に与え、統治は続けるのですよね。その頃の話かな、などと思ってみておりました。

 

三谷幸喜「江戸は燃えているか」@新橋演舞場

201803     三谷幸喜が、演舞場史上もっとも笑えるコメディを目指した、という「江戸は燃えているか」です。チラシ見ると西郷さんが出ているとわかるんですが、獅童と松岡くんが出るというのであらすじは知らずに行きました。

舞台は勝海舟(中村獅童)の屋敷。いよいよ薩長との決戦前夜、西郷(藤本隆宏)が面談を申し入れてきますが、海舟は逃げ腰。娘ゆめ(松岡茉優)、海舟の妹順子(妃海風)の夫村上俊五郎(田中圭)は、庭師平次(松岡昌宏)を勝に仕立てて西郷と会わせます…。

江戸無血開城のエピソードをドタバタで見せるというのは、歴史ラバーな三谷幸喜ならでは。時代物の家と庭を置いてしっくりくるのは、やはり歌舞伎の劇場でしょう。これ、パブリックシアターやプレイハウスや銀河劇場じゃ合わないですよね。

そして、やはり彼の作品らしく、キャストが全てほんっとに合ってます。

半分くらいは、大河ドラマでそのままの役をやってもおかしくない、藤本隆宏の西郷とか、若いのにあまりにもしっかり役割を演じていて貫禄さえ感じさせる松岡茉優とか、海舟の妻八木亜希子とか、田中圭とか。田中圭、ドラマでも結構好きだったんですが、実際にはもっとかわいい顔でかっこよかったです。

山岡鉄太郎にずんの飯尾和樹、そう使ってきたか、大正解。この人のフザケタ雰囲気、好きだったんです。妃海風は、名前見たことがある、と思ったら、初めて見た宝塚「南太平洋」で主演していたんですね。娘役だったのに、宝塚の男役の雰囲気を求められたのか、でもさすが姿勢のよさとか、いい雰囲気でアクセントになっていました。新感線の高田聖子、磯山さやか、吉田ボイス、獅童のお弟子さんの中村蝶紫もがんばってました。

1幕目は松岡くんがメイン、2幕目は獅童が奮闘して、さいごびしっと締めます。(心の中でよろずやーって叫んでました)。まあね、この二人ならこれくらいかっこよくて振り切れててやっくれるってもんですよ。獅童は秋の巡業よりもずっと元気なようで、うれしかったです。「新選組!」の捨助を思い出しました。

演舞場で、休憩35分挟んで3時間10分という長丁場なためか、開演が17時もしくは18時と早いんですよ。数少ない18時でとれたのが4公演目、こういう芝居ってもうちょっと回を重ねてからの方が、ますます面白くなるかな、と思いました。

今回、2等席、2階左の角っこの方。2等なのに花道は見えなくてモニターなんですが、これが見づらく、しかも舞台の左の方も見切れます。三谷さん、花道はほとんど使わなかったので(もったいないよ)よかったですが、それにしても、演舞場は見切れ席多いなあ、気をつけなくちゃ。

(追 記)

3月19日、昼公演後に体調を崩した松岡茉優ちゃんが夜公演は休演となり、三谷幸喜が代役として、黒衣姿で台本持って進行したそうです。そりゃ、出ずっぱりの狂言回し的役どころだから、ちょっとやそっとじゃ代役いませんよ。「宮沢りえならできる」って言ってくれる野田秀樹もいないし(@「おのれナポレオン」)。

しかし三谷さん、舞台の中でキャストの熱演見て、楽しかっただろうな。ほんとに見たかった、という声が多いです。

三谷幸喜の「ショーガールvol.2 ~告白しちゃいなよ、you~」

201801   三谷幸喜川平慈英シルビア・グラブに書いた「ショーガールvol.2 ~告白しちゃいなよ、you~」です。ショーガールの昔からの本拠地PARCO劇場が改修中のため、EXシアターでの上演です。

「ショーガール」といえば、長年木の実ナナ、細川俊一のコンビで上演されていました。なんてかっこいい、日本人離れした二人だろう、大人のショーを見てみたいとずっと思っていましたが、残念ながら、その機会はありませんでした。それを、オリジナルのファンだった三谷幸喜が、同様にバタ臭いハーフの川平慈英とシルビア・グラブで再現したのが、この「ショーガールvol.2」。

二人とも、ただ歌うだけでなく、語りながら歌えるミュージカル俳優。元からの品のよさと明るさがあって、三谷さんの目は確か。シルビアの声は、低い音がぐーっと出て深みがあっていいんですよね。慈英とのハーモニーも美しい。慈英は「ビッグ・フィッシュ」で主演、シルビアは「ネクスト・トゥ・ノーマル」アダム・パスカルと共演したクリスマスコンサートそのほかいろいろ見ています。

前半がお芝居部分。シルビアは脚本家、ホテルにカンヅメになって、サスペンスドラマの脚本を書いていますが、行き詰っていたところに、水回りで大きな音がするのでメンテナンスを呼びます。やってきた慈英はモテ男。音がまた発生するまで待つ間に、ドラマのヒントを求めるシルビアと慈英は…。

夜のホテルの1室、劇中劇を織り交ぜた、二人の軽快なやりとりが面白くて、さすが三谷幸喜。歌も芝居との切れ目がない感じのブロードウェイ風、ほんとに楽しく見られました。途中、日替わりで豪華なゲストが出るのですが、この日は戸田恵子さんでした。

そして休憩もなく怒涛のノンストップショータイム。シルビアも慈英も派手なダンスではないんですが、身のこなしが軽やかでキメるところはピシッとしていて心地よい動き。メドレーでCalling Youから天越え、恋しくて、Tonigitなどなど、いろいろな歌を目まぐるしく歌いっぱなし。戸田さんも再度登場です。

19:30開始で休憩なしの1時間40分、ほんとに大人向けのショーで、堪能しました。

帰りにふとみると、パンフレットが700円。珍しく買ってみたら、ほんとに薄いんですが、舞台写真はたっぷり、三谷さんと作曲の荻野清子さんの対談つきで面白かったです。三谷さんが、まだミュージカルに照れがあるとか、だから台詞の歌詞を書くとか、台詞を見ると、荻野さんは曲がぱあっとわいてくるとか、本当に興味深かったです。

三谷さーん、ミュージカルってそんなに恥ずかしいものじゃないですよ、何でもありなんだから。普通にお芝居書いてくれればいいんです。こういうミュージカル、もっと見たいです(できればもっと大人数で。そして山本耕史を出して!)。

先日、日本制作のミュージカルとして「池袋ウエストゲートパーク」を絶賛してましたが、なんだ、何日もたたなくて、宝塚と三谷幸喜も絶賛する私でした。

「子供の事情」@新国立中劇場

Photo  三谷幸喜の新作舞台、「子供の事情」です。昭和46年の小学校4年生のあるクラスの放課後にいつも残っている9人と転校生のお芝居。舞台はドリフのコントのような教室とお馴染みの机椅子だけ。

大人、しかも年齢もバラバラな役者が小4を演じるというだけで教室コントに見えそうですが、それがどうして、巧みな脚本と、個性と実力を備えたキャストの力で、ちゃんとお芝居になっています。起こる事件は子供の世界なんですが、登場人物たちの気持ちは、大人である私たちにほろ苦さや温かさを訴えるものがあり、昭和46年という時代の懐かしさもあって、上質の人間喜劇を味わう、至福の舞台でした。ああ、面白かった。

キャストは三谷作品お馴染みの手練ればかり。クラスの相談相手アニキ(天海祐希)はCMのイメージどおりですが、おとなしいホリさん(吉田羊――いちばん小学生っぽい)、悪さばかりしているゴータマ(小池栄子――つくづくうまい。この人がいなければこの芝居成り立たないと思えるほど)、学級委員の優等生ソーリ(青木さやか)、「エノケソ一代記」でとぼけた味を出していた春海四方がおっさんくさい少年ジゾウ、恐竜博士のドテは真田丸で衝撃を与えた小手伸也、三谷さん自身である語り手ホジョリン(林遣都)。

さらに、飄々としていて常に人の話を繰り返すリピート(浅野和之)、細身の前身を自在に動かして側転までやってのけるばかりか、メリハリのきいた演技が出番よりも大きな印象を与えます。人気子役という設定の伊藤蘭!年相応なのに、なぜかオーラのある子役がハマっていて、説得力があるのと、そういえば大昔の野田秀樹の舞台(私が見たのはたぶん「ゼンダ城の虜」)で声を張り上げて舞台を走り回っていた姿を彷彿させるエネルギーで、とってもよかったです。

この癖のある面々のクラスに転校してきたジョー(大泉洋)。このキャストの中では大きくて存在感たっぷり。ファンが多いのもうなずける魅力的な大泉洋です。こんなにいい素材、かえって使い方が難しい気もするんですが、そこはさすが三谷さん、心得てます。

今回、休憩があって、ほっとしながら面白さを反芻しつつ、後半を見ることができてよけい幸せでした(休憩がないと、全編聞き逃すまい、見逃すまいと疲れちゃうと思ってたんです)。このお芝居、まったくチラシの説明の通りで、想像していた通りではあるんですが、見た印象は、なんともいえない、人に説明するのは難しいよね、と、同行者と話したことでした。

そうそう、音楽もとてもよかったです。作曲の(三谷映画常連の)荻野清子さんが、自らキーボードを弾いて、時に歌やコーラスが。まあ、歌のうまさはいろいろですが、コーラスがうまくて、心地よかった。

 

DVD「PARCO歌舞伎 決闘!高田馬場」 4代目猿之助「僕は、亀治郎でした。」

Photo   三谷幸喜作・演出の2006年上演PARCO歌舞伎「決闘!高田馬場」を見ました。三谷さんは「新選組!」の2年後、ノリのいい長唄と義太夫を使った世話物というべきか、歌舞伎なんですけど歌舞伎だと知らなくても泣いたり笑ったり、本当に面白い1幕2時間のお芝居。

   後の堀部安兵衛である中山安兵衛(染五郎)は飲んだくれの浪人ですが、長屋の面々(大工の勘太郎、高麗蔵・宗之助夫婦、医者の橘太郎、老婆萬次郎)は皆安兵衛に助けられたことがあり、彼を慕っています。そこへ安兵衛のかつての道場仲間右近(亀治郎)がやってきて、無為な安兵衛をなじります。安兵衛の留守に、仲の良い伯父(錦吾)がやってきて、「これから高田馬場で果し合いする」という別れの手紙を置いていきます。さて安兵衛は…。

私、恥ずかしながら、安兵衛や決闘高田馬場の話の中身をきちんと知らなくて、何で決闘の助太刀した話がそんなに有名で、忠臣蔵と関係があるんだろうと思っていたのですが、やっとわかりました(安兵衛がこの助太刀で名を上げて赤穂藩士の堀部家に婿養子に行き、7年後に忠臣蔵の仇討ちに加わったんだそうです)。

三谷さんが脚本を半分くらいしか完成させていない状態で稽古に入り、役者を見ながら仕上げていったそうで、さらに役者さん自身がアドリブや振りを自由にやっているために、役のはまり具合が尋常ではありません。

気が優しくて、自分に納得していなくてうじうじ迷っている安兵衛。伯父との場面で刀を抜くところとか、右京に仇討ちを迫られるシーンはゾクゾクするようないい男(染ちゃんってどうして舞台だと飛び切りいい男なんでしょう。幸四郎さんや海老菊と比べると素顔はそんなに色っぽくないのに<失礼>)。生真面目さや絶妙なタイミングが可笑しくて、義太夫に乗った所作がまあ、うなるほど決まっている亀治郎。釘踏みも見ものです。そしてほんとにまっすぐな、元気な庶民の男をやらせたら天下一品の勘太郎。堀部のじいさんも秀逸でした。

主役の3人は染五郎33歳、亀治郎31歳、勘太郎25歳。さすが3人とも動きにキレがあって気持ちがいいです。染ちゃんなんて、すっとトンボ切ったりします。

超おもしろい萬次郎さんをはじめほかのキャストも息が合ってて隙がありません。染亀、高麗蔵の3人はそろって先月歌舞伎座の「熊谷陣屋」で立派なお役やってたのに、と思うと感慨深かったりして。毎回こういうDVD見ると思いますが、PARCO劇場のように小さな劇場で生で見たお客さん、果報者ですよ。

鳴り物や早変わり、ツケといった歌舞伎要素と現代劇のバランスの良さ、劇的展開、役者の技量と魅力のバランスがよく取れた、三谷作品の中でも屈指の名作と言えましょう。

DVDには特典映像版もついていて、千秋楽舞台裏の早変わりやら、WOWOW放送時の三谷さんと亀治郎の解説やら、テーマ曲の録音シーンがあります。これも面白かった!染五郎さん、朝5時から6時間かけて、渋谷でポスター撮りをしたそうです。

Photo_2    ところで、ちょうどここ数日、猿之助襲名記念として出版された「祝!四代目襲名記念 僕は、亀治郎でした。」を読んでいたんです。少し大きめの単行本サイズですが、インタビューやたくさんの舞台写真(神童と言われたという子ども時代がかわいい)、三代目の天竺徳兵衛の再構築ドキュメントとか、私の知らない時代の猿之助さんのいろいろがつまってて面白かったです。

   そこに、三谷さんの「決闘!高田馬場」についての寄稿があって、天才ぶりが描写されています。どうやって堀部ホリができたのかとか、釘のシーンの始まりとか。さすが。

それから、蜷川幸雄さんの「NINAGAWA十二夜」、「じゃじゃ馬ならし」のエッセイもありました。「NINAGAWA十二夜」、ジョン・ケアード版よりも亀治郎のマライア役の印象が強烈だったんですが、蜷川さんの役者亀治郎への賛辞がすごい。ロンドンで上演したときも、終演後イギリスの演出家が3人寄ってきて、亀治郎を紹介しろ、自分の芝居に出てほしいと絶賛だったそうです。さもありなん。

ちなみに、蜷川さんは、役者が自分たちで芝居を作ってしまう歌舞伎は自分には壁があってもうやらない、と書いているんですが(別のところで、菊五郎さんとの共作のようだったというのも読みました)、もったいなかったなあ。せめて十二夜、DVDにならないかなあと思うのでした。

(おまけ)

2017年3月の俳優祭の模様をEテレでやっていました。かぐや姫歌舞伎版、豪華キャストで面白かった!猿之助のドSキャラかぐや姫は最高ですし、菊之助のおじいさん、海老蔵のおばあさんも面白かったし(菊之助は年取ったら世話物なんでもできそう)、獅童、松也、染五郎、勘九郎、七之助、弥十郎に猿之助がそろったところは華やかで、歌舞伎は安泰だという気分になりました。弥十郎さんを除けば、みな30代、40代前半ですもんね。

(おまけその2)

ちょっと前ですが、鶴瓶の番組に猿之助が出てて、「『澤瀉屋は丈夫で何やっても平気』と思われているのがつらい、伯父の作品に出るとほんとにしんどくて、よくこんなの作ったと思う。昼夜23役やって1時間しか休みがないとかある。点滴しながらご飯食べてたこともある。本水かぶってぐったりしたところに、10役の踊りがあったりして、まるで罰ゲーム」と話していました。

ちょっと心配になってしまいますが、実際企画するところでは、自らこれやるあれやると決めていそうな気がしますね。

(おまけその3)

「高田馬場」のDVD、コメンタリーがついているんですが、そこで三谷さんが「最初にコクーン歌舞伎をやったほどの話題にはならなかった、なんでも最初がいい。水中歌舞伎なんてどうだろう。」染五郎「水中はちょっと…氷上ならいいかもしれない。やってみたい」と言ってるんですよ。結局行きませんでしたが、フィギュアとのコラボ「氷艶」、やりましたね。当初チケットが高くて余りまくってるという話でしたが、始まってみるとすごい評判。ちょっと悔しいです。

(おまけその4)

その後、松之丞の講談独演会で堀部安兵衛もの3作「赤穂義士伝 堀部安兵衛」 を聞きました。この決闘!高田馬場の演者を思い浮かべながら、感動倍増でした。

 

三谷幸喜「エノケソ一代記」@世田谷パブリックシアター

2    今年1年間本当におもしろかった「真田丸」で、三谷さんの実力を改めて思い知ったわけですが(今頃すみません)、早くもお芝居の上演、しかも猿之助主演で三谷さんご本人も24年ぶりに舞台に立つということで、見てきました(といってもあまりの人気に自力ではチケットとれなかったんですけどねTheater Goerに持つべきものは観劇友達。)。

  田所(猿之助)はエノケンに憧れるあまり、「エノケソ一座」としてエノケンを騙り地方を回っています。一座は妻の季代子(吉田羊)、座付き作家蟇田一夫(浅野和之)、運転手兼相手役の熊吉(春海四方)。簡素なセットもノスタルジックで、全編古い空気が流れています。

  猿之助、CMやトーク番組では素の姿を見ますが、歌舞伎でない舞台では初めて。衣装のせいなのか、歌舞伎のときより小柄に見えます(171cmだそうですが、もっと小さく見えた)。ダンスも歌も達者、ちょっとうさん臭さもあって、何より舞台に立つ人のオーラがあります。声の深さや豊かさ、今まで数は多くないですが、その場の空気を支配する歌舞伎の猿之助を思い起こしながら、やっぱりこの人好き、来てよかったと何度も思いました。あとね、現代劇で見ると、香川照之に似てるんですよ。そりゃいとこだから当たり前ですけど、これまではさほど似てないと思ってましたし、あまり中車の猿之助化粧(先代もそうですが、目の際を赤くするやつね)を見たことがないので、歌舞伎でも似てると思ったことがありませんでした。

苦労を共にする妻の吉田羊。やっぱり「真田丸」の稲に見えます。着物やヘアスタイルがよく似合って、素敵な奥様ですが、ちょっと情愛には薄い感じがしました。エノケソとの夫婦愛が見せ所なんでしょうが、季代子気丈だな、と。これは猿之助がちょっと女性にクールに見えるからかもしれません。

大好きな浅野さんは安定。春海四方も達者ですし、エノケソ一座を呼ぶ座元を何役もこなした山中崇、とっても面白くて、この役がうまくなかったら、この芝居は成り立たないくらいの重要な役でした。

エノケソ一座に入りたいと願う女の子紅ちゃんの水上京香、いかにも手馴れたベテラン舞台女優さんの雰囲気だったんですが、まだ20歳そこそこのアイドル女優だそうで、達者さと泥臭さに感心しました。実際にはかなりかわいくて、これから活躍しそうです。

そして三谷さん!古川ロッパ役(あえてそれ以上は言いませんが)なんですが、そっくりなうえになんか太ってる!ほんとに?コスチュームだとしたらよくできていました。で、演技がまさに的確。役に求められているものを、ほんとにきっちり演じていて、なんだ、俳優としてはイマイチなのではと、勝手に思い込んでいてすみません、という感じでした。三谷さんが舞台にいる間が、私的には一番盛り上がりましたよ。

さて、なぜか連続してまったく違うタイプのお芝居で、圧倒的な主演俳優の力を見せつけられた3本でしたが、井上芳雄、轟悠、猿之助と、さほど一般的な知名度はないんでしょうが(猿之助には失礼ですかね。でも大河に出たときは亀治郎だったし歌舞伎見ない人はさほど知らないよね)、見た人は知っているんだ、と思ったことでした。

(追記)

映画「花戦さ」で秀吉を演じた猿之助、知名度低いなんてすみません。クイズやバラエティにもけっこう出てたんですね。ソルマックCMとクイズ番組でしか猿之助を知らなかった方が、「猿之助ってちゃんとした役者さんだったんだね」と言ったそうです。「このうえなく楽しそうに踊りを踊る、頭のいい人」という印象だったとか。答えは正しい(笑)。

(追記その2)

その後WOWWOWで放送された映像の録画をずっと後になって見ました。

ストーリーがわかっているだけに、役の心情がよく伝わってきて、より感動しました。何より、猿之助の表情が、ハッタリ、調子のよさ、希代子に対するきまりわるさ、エノケンへの思い、本当に足を切ることになったときの後悔と、何と的確に、過不足なく表現していることか。映像の要所のアップでさらに強調され、凄みすら感じました。

三谷ファンでエノケンは知らない(無理もない)観客にとっては、何故エノケソが足を切るまで思い入れるのかわからない、といった感想がけっこうあったようですが、エノケソが、エノケンの舞台の思い出を語る場面の、遠くを見る目で十分語られていたと思いました。歌舞伎に全身全霊を捧げる猿之助を思うと、舞台への思いが重なって、ムネアツってやつですよ。

そして、舞台を見たときは、強いトーンの声にちょっと惑わされて見えていなかった希代子の、エノケソへの深い愛情に感動しました。エノケンバカな夫をどこまでも支える希代子、2回の涙のシーンは、ほんとにジーンときました。

最後に、ロッパ姿のままの三谷さんのインタビュー。ロッパで出たのは、ビジュアルと役者としての力量で、猿之助に匹敵する人が思い当たらず、変化球で自分にしたそうです。24年振りの舞台で、台本通りに繰り返すことを越えたセリフが、ときどき出てきて、演じる気持ちがわかった(←演出はいつもやっているけれど)、猿之助とのシーンでは、そのすばらしさに毎回感動しているだけだった(「外見はロッパだけど中身はただの猿之助ファン」)、「ダンスを振り付けたら、5分で覚えてすぐに自分のアレンジを加えて、さすがだった」と、興味深いお話が聞けて(猿之助ファンとしてはさらにですよ)面白かったです。

踊り稽古の時も、初日に細かい振付をものの5分で覚えてすぐ自分の解釈を入れて仕上げてくるのには、踊りを極めた人は和洋関係ないのだなと感動したとか。

そして、吉田羊と浅野和之が、稽古していくうちに、エノケソを追い込んだのは彼らだったということが、脚本を書いたのは自分だけどわかってきて、役が膨らんだとか。浅野さんのあの瞬間のマッドドクターぶりは、二人の作品だったのだな、と興味深かったです。

(追記その3)

さらにその後、「A-Studio」で吉田羊がこの芝居のことを語っています。猿之助はとにかく稽古がきらいで、遅れてきて予定より早く終わろうとする。稽古のつもりで本番を迎えたら、いきなり本気を出してきて、「それなら稽古からやってよ!」と。猿之助には、普通の芝居の稽古期間は長すぎるんだろうな。さらに千穐楽はすごかったそうですが、それは千穐楽に行く人だけしか見られないと思うとやや残念。

三谷幸喜「抜目のない未亡人」@新国立劇場

Nukeme大竹しのぶが初めて三谷幸喜の舞台に主演するということで話題の「抜目のない未亡人」を見てきました。台本は三谷さん作ですが、原作は18世紀のイタリアの喜劇作家ゴルドーニの戯曲です。

といっても、ヴェネツィアの裕福な未亡人ロザーウラ(大竹しのぶ)が、イギリス人、フランス人、スペイン人、イタリア人からアプローチされるというのと、変装して彼らの本心を聞き出すという設定が同じだけで、ほとんどオリジナルです。なお、「抜目のない」というと、日本語ではやや悪いイメージがありますが、イタリア語では、タフで騙されないたくましいといったよい意味なんだとか。

上記の設定だけでも面白くなりそうなんですが、三谷さんはさらにロザーウラは夫が死ぬまで10年間仕事をしなかった大女優、4人の求婚者はロザーウラの復帰第1作を撮りたい映画監督ということにして、ヴェネツィアのホテルを舞台に繰り広げられるコメディに仕上げました。

イギリス人が中川晃教、フランス人岡本健一、スペイン人高橋克美、イタリア人段田安則、狂言回しのホテルマン八嶋智人、ロザーウラの妹の女優に木村佳乃、マネージャー峯村リエ、脚本家パンタローネに浅野和之と、人気者としてのオーラと舞台人としてのキャリアたっぷりのキャスティングで、これでつまらなかったらどうかしていますね。

台詞も動きも激しいのですが、笑いもきっちりとって、緻密な演出に仕上がっていました。

大竹しのぶが、舞台ではドラマや映画での繊細な雰囲気とは違う、たくましい女優であるのはわかってましたが、この作品では、最初から最後まで、膨大なエネルギーを発散するコメディエンヌで圧倒されました。八嶋智人も小さな体が気持ちよくキビキビと動き、出ずっぱりの間、反応も含めてきめ細かい演技。この中でどんな感じかなと思っていた(ミュージカルの人なので何だか身内のような気持ちで)オレ様中川アッキーくんもきっちり役割を果たし、ちょっとだけですが美声を聞かせてくれました。

浅野和之は、猿之助の「空ヲ刻ム者」では狂言回しのおばば役で、本当に面白かったのですが、この舞台でも、もっと見たいと思わせるほどの怪演でした。

三谷幸喜の朝日新聞連載のエッセー によれば、段田さんが初日に足をくじいて大変だったそうですが、そう思ってみると少し動きが少ないかなと思うくらいです。「おのれナポレオン」のときといい、突発事態への対応力はさすがです。

このように、非の打ちどころのない楽しいコメディだったんですが、ほんのちょっと、希望を言うとすると、一言も聞きもらすまいと、かなり前のめりでギッチリ見てるものですから、ちょっと疲れちゃうので、1時間半超えたら、15分くらい休憩入れてもらえないでしょうかね。後半リフレッシュして改めて見るよさもあると思うんですよね。ほら、観客も大人が多いから、ね、三谷さん。

(追記)
せっかくなので、原作のゴルドーニの戯曲「抜目のない未亡人」も読んでみました。解説も興味深かったです。

三谷幸喜「酒と涙とジキルとハイド」@天王洲銀河劇場

Jikiru_2いまだに歌舞伎では見たことのない愛之助、三谷幸喜の芝居に主演するというので、ダメかもと思いながらとったチケット、東京では珍しく芸術劇場プレイハウスと銀河劇場の2か所での上演ですが、銀河劇場の方に行ってみました。きれいなビルの中にあるのに、クラシックな雰囲気の小ぶりの劇場なので、温かみのあるセットととっても合っていました。

入口にお花がたくさんありましたが、優香への志村けんの豪華なお花をチェック。新聞の三谷さんのエッセーにも、優香の好演について志村けんとのやりとりが書かれていましたね。

さて、物語は、人格を善悪に分ける薬の研究をしているジキル博士(愛之助)、助手のプール(迫田孝也)、売れない俳優ビクター(藤井隆)、そしてジキル博士の婚約者、伯爵令嬢イブ(優香)の4人だけで、博士の研究室の場のみで進みます。

「おのれナポレオン」 では、おしい、説明の分、全体がちょっとだけ長いと感じましたが、こちらは1時間45分と短めでテンポよく、快適に楽しい気持ちのまま一気に最後まで行きました。シーンのバリエーションの入れ方がちょうどいいというか。それと、もっと下品にもなりかねないシーンの表現が、せりふも演出もさすがうまいなあと思いました。

藤井隆は、もともと器用な才人というイメージだったのですが、軽快で的確な演技。この人、私の中では、山口智充と並んでもっと派手に売れてもいい人の箱の中に入ってます。

プールの迫田孝也、初めて認識しましたが、とってもよかった。最初から最後まで、突っ込み役、進行役として舞台を回していました。これまでそんなに目立つ役はやっていない方のようですが、実力ある役者さんっていっぱいいるんだなあと感心。

愛之助さんは期待どおり、声もいいしロン毛の立ち姿も似合ってましたが、この人の振れ幅ってもっと大きい気がします。三谷さんがすこーしだけ歌舞伎の彼に遠慮したのかな、という感じもありました。

そして、今回の舞台では初舞台ながらあちこちで絶賛の優香。最初は、まあこんな感じね、と思ったのですが、後半はもうラブリンと藤井隆を振り回して大熱演。

台詞もきれいに聞こえていましたし、ナチュラルな素の彼女からのギャップの大きさや、シーン毎のキレや、終盤までも息切れ感がまったくないところ、そして何よりちゃんと笑わせてくれるところが、予想をはるかに超えていました。志村けんとのコントは、あまり真面目に見たことはないんですが、コメディセンスはそこで磨かれたにせよ、2時間弱の舞台を演じきるのはまた別で、さぞ努力したでしょうし、もともとの才能もそれだけのものがあったのでしょう。

ほんというと、1幕物のストレートプレイなら、もう少し手ごろな価格だとありがたいし、もしかしたら有名な俳優でなくても、例えば劇団でこのレベルの脚本なら十分面白いのかもしれないとも思いますが、有名な人には出てきたときに見る側に情報量が多いということはあるんですね。このお芝居では、優香ならではの面白さというのがあったと思います。ここまでできるとわかってたのかと思うと三谷幸喜えらい。

今回3階席(あったんだ!)だったのですが、思ったよりも見やすく(いちおうS席)、セットの高い部分にも見どころがありました。また、そこにいる、2人のミュージシャンが奏でる、温かみのある音楽や効果音が、丁寧に作りこんだ室内のセットともとても合っていました。
(追記2016.1.16)
大河ドラマ「真田丸」、信繁の親族で家臣という役どころで見慣れない俳優が出てると思ったら、プール役の迫田孝也だったんですね。髪型がまったくちがってわからなかった。上記のとおり、いい俳優さんだなあって思ってたから、これを機にメジャーになりそうでうれしいな。

三谷幸喜「おのれナポレオン」(追記あり)

20130412_napoleon_01_2(宮沢りえ代役の件について追記しました)

三谷幸喜が野田秀樹を主演として脚本を書いたことで話題となった「おのれナポレオン」。さらに共演が内野聖陽、山本耕史、天海祐希と、人気・実力を備えた俳優が揃って、いろいろなメディアでの露出もあって、チケットがとれないこと半端ではなく、とってくれた友人に大感謝でした。

東京芸術劇場プレイハウスはこじんまりとした(でも2階席がある)、しゃれた劇場で、すこしタテになって横にもお客を入れた舞台からは、俳優の声も姿も近くて、生の演劇空間を堪能することができました。

お話は、セントヘレナ島に追放されて亡くなったナポレオン(野田秀樹)の死までの生活について、主治医アントンマルキ(今井朋彦)、側近モントロン(山本耕史)、モントロンの妻でナポレオンの愛人アルヴィーヌ(天海祐希)、イギリス軍の監視役ハドソン・ロウ(内野聖陽)、ナポレオンの身の周りの世話をするマルシャン(浅利陽介)が語るというもので、当時と20年後の現在とを行ったり来たりしながら、謎解きの趣で進みます。

さて、野田秀樹。私が野田秀樹の舞台を見ていたのは、ずいぶん前の夢の遊眠社時代なので、あのエネルギッシュな動きと人を食ったようなセリフ回しは今どうなってるのかな(きっと変わってない)と思いながら楽しみにしていたのですが、期待以上でした。容姿を含め、才能も性格も常人とはかけ離れた天才ナポレオン。この設定により、野田秀樹には何をやってもかまわないという自由さが与えられ、彼は彼にしかできないナポレオンを見せてくれたという感じでした。セリフ1行1行をどう多彩に見せるか、この舞台、演出も三谷幸喜ですが、野田秀樹自身のアイディアがつまっているのではと思います。

内野聖陽が一番ナポレオンと対極のキャラクターで、プライドの高いイギリス軍人役を見事に演じていました。彼のキャラが強烈であればあるほど、ナポレオンが引き立つというか。さすが今最高に脂が乗った俳優で、立ち姿も表情も美しく、ほれぼれしました。

もう1人のお気に入りの山本耕史、やや屈折した役ですが、芝居的にはもう少し彼に見せ場があってもよかったかも。すらっとした二枚目ですが、好青年(としてはもう少し年か)の中に暗いものがあるのが彼の魅力なのにと思いつつ、山本耕史自身というより脚本の作りの問題かなと思いました。

天海祐季、これだけのキャストの紅一点として、存在感はバッチリ。コメディエンヌとしての演技も楽しませてくれました。ただ、ナポレオンの愛人としての情感がもうちょっとあってもよかったかなという気もしました。この役、とことんかわいらしいけど毒のあるタイプの女優もありかなと思いました。

あとの二人は初めて見たのですが、今井朋彦は声もよく、機敏な浅利陽介はナポレオンの忠実な僕をきっちり演じていて、他の有名俳優たちにひけをとらない好演でした。

休憩なしの2時間20分、作品としては休憩を入れるか、もう少し短くするという選択肢もあったのでしょうが(三谷幸喜って映画も編集が甘いのは、自分の書いたものを切るのが苦手な人なのではという気がします)、だれることもなく最後まで突っ走ったのは、このキャストならではでしょう。

カーテンコールは2回。盛大な拍手にも関わらず3回目はなし。カテコの数はともかく(多けりゃいいってモノじゃないので)、この熱演に、立ってこたえて上げたかったと、2回目のカーテンコールで、最初に立つ勇気のなかった自分に、少なからず後悔した夜でした。

(追記)

天海祐希が、ライブビューイング目前でまさかの急病!さぞ無念だったと思います。ゆっくり療養して、元気になってほしいですね。ちょっとへんなこと書いて、ごめんなさい。

そして、2日間の準備で舞台に上がった宮沢りえ。野田秀樹との関係で引き受けたのでしょうが(引き受けさせた野田さんもえらい!)、Twitterでみると、見事に宮沢りえならではのアルヴィーヌを演じたそうで、膨大なセリフもほとんどかまず、代役を逆手に笑いまでとっていたとか。

最近の活躍は知ってはいましたが、この舞台を見ただけに、たった2日間でこの役を演じたすごさがわかります。かわいかった10代の宮沢りえ、いろいろあったけど、こんな女優になるなんて、思わなかったな。

(追記その2)

その後無事に千秋楽までの4公演を無事に務めた宮沢りえ、いろいろな話が伝えられていますね。

天海祐希が休演やむなしとなったとき、三谷幸喜は、中止を覚悟したそうです。これだけの評判となった舞台の主要キャストが急に倒れたとあっては無理もないでしょうし、誰も非難はしないでしょう。それを宮沢りえならできる、と主張して彼女を説得した野田秀樹。成功したから美談になりましたが、もしできなかったらカバーのしようがない舞台、宮沢りえのことをよく知っていて自信もあったのでしょうが、相当なバクチだったと思います。同じ舞台に立って、自分が何とかするつもりもあったでしょうが、導入部の一人語りなど、どうしようもない部分も多いのに。さすが野田秀樹。こういうお芝居ではそうは言わないのでしょうが、まさに「座長」でしたね。

そしてアルヴィーヌといちばん絡みの多かった山本耕史は、三日三晩徹夜で、翌日の制作発表を欠席しましたね。ものすごいプレッシャーと、その中でも間に合わせではない作品にしようと、がんばったんだなあ、彼らしいと思いました。「チック、チック、ブーン」では演出も手がけた山本耕史、きっと彼の財産になったんじゃないでしょうか。

天海祐希が入院してから代役の発表、再開延期、再開と賞賛、裏話と、1週間ほど、この話題が大きなニュースとなりました。天海祐希と宮沢りえだからでもありますが、テレビでも映画でもない、芝居の話がこんなに大きく伝えられ、広く話題となったのは、演劇ファンとしてはある意味うれしい驚きでした。