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四代目市川猿之助

BD「じゃじゃ馬馴らし」

Photo    猿之助の亀治郎時代の軌跡を追ってきて、どうしても見たくなった蜷川幸雄の「じゃじゃ馬馴らし」(2010年10月)。これまで蜷川シェイクスピアシリーズのBOXしかなかったんですが、単品のブルーレイがオンデマンド(注文生産)で売られるようになったので、入手しましたですよ(「ベニスの商人」といっしょに!)オールメールシリーズです。

美人でしとやかな妹のビアンカ(月川悠貴)と比べて、じゃじゃ馬のカタリーナ(ケイト、亀治郎)には求婚者はいませんが、父親のミノーラ(磯部勉)は、カタリーナの結婚が決まらなければ、ビアンカは誰にもやらないと言います。お金目当てのペトル―チオ(筧利夫)は、ケイトに求婚し、彼女を眠らせない、食べさせないといろんな手段で手なづけ、従順な妻にします。ビアンカの家庭教師に扮したルーセンシオ(山本裕典)はビアンカの愛を得ますが、ビアンカは実はさほど従順な妻ではなく…。

蜷川さんのシェイクスピアですから、キャスト隅々に至るまで、きっちり世界観を共有しているというか、日本でやるシェイクスピアに必要なバタ臭さ(特に冒頭の、貴族になったと騙されるスライとか)を備えて演じているんですが、亀治郎だけは別次元。「歌舞伎役者の自分が呼ばれたからにはそういうものを見せねば」という信念よろしく、見得は切るわ奇声は発するわ、やりたい放題です。側転からのパンチには驚きました。

しかし、亀治郎の登場場面を見ていくと、実はきめ細かにカタリーナの心情を演じているのに気づきます。そもそも、この芝居、じゃじゃ馬のカタリーナがペトル―チオにやや乱暴に押さえつけられて、ラストに女は従順が美徳という演説をぶつのが、女性蔑視で不快という感想を持つ方も多いようです。

でも亀治郎のカタリーナ、じゃじゃ馬ぶりは、妹ばかりが周囲から愛される状況への反発のように見えるし、ペトル―チオに触れられて心が動かされるんですよ。たしかにラストの演説は文字で書けばあまりに男尊女卑にもみえますが、ぎすぎすしないで夫婦仲良く、というだけのような気もするし、このまま堂々たるカタリーナがただ従順なだけで終わるようにも見えません。そこは、亀治郎の工夫なのか(この方、女性の生き方に興味があるようには見えないので)、蜷川演出の妙なのか。

カーテンコール、ドレスに沈み込むお辞儀をしたりして、亀治郎ファンには必見の舞台だったと思います。

カタリーナに比べると、ほかの人物は深みがなくて類型的、ペトル―チオの筧利夫は達者で熱演でしたが、もうちょっと愛嬌や優しさがないと、ただの暴君でカタリーナがかわいそうな印象。山本裕典は、先日事務所をクビになってしまいましたが、こんな大舞台でいい役をもらっていたのに残念ですね。この山本ルーセンシオの従者がなかなかいいなと思ってみていたらば、この人も数年前に寝過ごして主演舞台をキャンセルし、活動自粛していた田島優成だったようです。

ところで姉妹の父ミノーラの磯部勉さんって、昔NHKの「風神の門」というドラマでいいなと思った方ですよ。舞台でずっと活躍されてたんだな、と懐かしく思いました。

十二月大歌舞伎第三部「瞼の母」「楊貴妃」

201712_2   第三部1つめは長谷川伸作の新歌舞伎「瞼の母」

渡世人番場の忠太郎(中車)は、幼い頃別れた母に会いたいと願っています。敵に追われて実家に逃げてきた半次郎(彦三郎)を助けた忠太郎は、半次郎の母(萬次郎)に母恋しさを訴えます。

実母を探して江戸に来た忠太郎は、老いた夜鷹おとら(歌女之丞)を助けたことで、大店の料理茶屋の女主人おはま(玉三郎)が母の可能性があることを知り、と押しかけます。忠太郎を部屋に通したおはまは、娘お登勢(梅枝)との幸せな暮らしを壊されまいと、忠太郎の母であることを否定するのでした…。

中車は、八月納涼歌舞伎の「刺青奇偶」の半太郎で見せた、優しい気持ちのまっすぐな博徒。着物の着方や襟の直し方も様になっています。母を知らないからこその母への思慕で、冒頭からしんみりさせます。

おとらとの場面も、歌女之丞さんのうまさもあって、庶民の切なさを描く長谷川伸らしいいい場面でした。歌女之丞さんいいなあ。

そしておはまとの邂逅。息子であることを否定されて、長年の母恋しさを語る忠太郎。どうしたって、幼い頃生き別れた父猿之助に、25歳で会いに行って、すげなく帰された香川照之の逸話を思い出します。博徒ではあるけれど、お金はしっかりためて、母が貧しかったら助けようと思っていた、と切々と言う中車。俳優として名を成し、歌舞伎役者としても着実に成長している今とはいえ、その時を思い出さずにいられましょうか。どんな気持ちで、と思うと、体が熱くなるような気がしました。しかし、このような、そのまんまの芝居を彼にさせて、それをメインの出し物にする興業の世界。それでもそれを売りにするとかしないとかを超えた演技を堂々と見せる中車。凄い、と思いました。

さて、対する玉三郎、世話物での彼は器用な役者とはいえないと思うんですが、その不器用なセリフが、かえって技巧を凝らすよりも感動を呼ぶというか、とにかくすすり泣きの声以外は聞こえない、歌舞伎座全体が舞台に集中する素晴らしい一瞬でした。

おはまの愛娘お登勢が忠太郎とすれ違って、「ねえ、あの母さんとそっくりな人は?」と言うんですが、もちろん、玉様と中車は似てません。でも、先代猿之助と中車は誰が見ても親子とわかるくらい似ているので、それも思い出されました。

おはまは忠太郎が出て行って後悔します。お登勢にも言われて(お登勢がまた優しいいい子なんです)、忠太郎を探すおはまとお登勢。しかし忠太郎は、もうおはまに会いたいとは思うまい、瞼を閉じれば優しい母の姿が目に浮かぶから、と言って去ります。

切ないけれど、おはまが忠太郎を追うところでほっとしました。単なるハッピーエンドにはしないのが、長谷川伸なんでしょうね。

2つめは、夢枕獏作の舞踊劇「楊貴妃」。黄泉の国に楊貴妃を訪ねる方士(中車)と、楊貴妃(玉三郎)の物語です。舞台があくと、上手に囃方がいます。お琴の調べがそれはそれは美しく、夢のよう。

まず登場する方士の中車、9月に「藤娘」を舞踊の会で踊ったとのことですが(技術はともかく、娘のかわいらしさが出ていて感動的だったとか)、その勇気や努力が、ここに生きていたというか、いくらいい俳優でも、ゆったりした舞踊の舞台で、おかしくなく歩くだけでもたいへんなことだと思います。彼の努力をして、玉様が相手役として十分と判断なさったんでしょう。ほんとに、堂々とした方士で、作品世界を作り上げていました。

その玉三郎さま、能でいう引廻しから出てきますが、まあ、この世のものとは思われぬ美しさ、この拵えが一番お似合いな気がします。ほんとにほんとに素敵な玉様と、玉様の美意識が横溢した舞台でございました。

おまけ。

12月6日に、1月、2月の高麗屋三代襲名披露の配役変更が発表になり、猿之助が演じるはずだった「箱根霊験誓仇討」の主役勝五郎、「角力場」の与五郎、「一條大蔵譚」のお京をそれぞれ勘九郎、愛之助、孝太郎が代役することとなり、出演は「寺子屋」の涎くり与太郎だけどなりました。1月の歌舞伎座で復帰することはワンピース千穐楽のときに報道されていたので、復帰はするんだろうなと思っていましたが、千穐楽の様子を見てまだ回復からは程遠い感じでしたので、無理しないこととなってかえってほっとしました。そもそも開放骨折といえば、普通全治6カ月ということですので、ゆっくり養生してほしいというのが、ファンの願いだったわけで。松竹ゴールド会員の発売日を前に、はっきりさせてくれてよかったです。ワンピースの降板もあって、猿之助ファンは手ぐすね引いてましたから、後から代役が発表されたりしたら、せっかくの襲名公演のチケットがおかしなことになりそうですもんね。

染さんの襲名披露の口上には澤瀉屋を代表して連なるのは、うれしいにちがいありません。舞台で見るのを楽しみにしています。

齋藤芳弘「亀治郎の肖像」

Photo   齋藤芳弘さんが、2008年から2012年までの、四代目猿之助の亀治郎時代の舞台を、撮った写真集です。大部なので躊躇してましたが、とうとう入手しました。これで四代目関係の本は、神仏と比叡山と器以外は揃いました(笑)

時期的には、長塚誠志さんの写真集「四代目市川猿之助」の後半部分と重なっていますが、長塚さんの写真は、本番舞台の際に黒いバックの臨時スタジオで撮っているのに対し、こちらは舞台写真。アートディレクターでもあって、パンフレットやポスターを手掛けてきた齋藤さんらしく、1つの画面に複数の写真の亀治郎を合成したりして、舞台の雰囲気をうまく伝えようとしています。何より分厚くて、1つの芝居での早替わりや違う場面での表情をたくさん見せてくれて、構図もさまざまで面白いです。

猿之助が、歌舞伎の特徴はと聞かれて答えることのひとつに、「すべての所作が美しいことだ」というのがありますが、本当にどの写真も役の人柄、心情があふれていてすばらしい。

たとえば、「男の花道」(素の歌右衛門、劇中劇のお七がきれい)、「悪太郎」、「浮世風呂」と続きます。この役柄の広さ。そして、様々な化粧の巧みさ。四代目は化粧もとりわけ早いんだそうです。

この齋藤さんって、お茶の水のブックカフェ、「エスパス・ビブリオ」のオーナーなんですね。それで四代目の写真展や猿三郎さんの個展をやったりしていたのかー。2008年の「亀治郎の会」のパンフレットに、まだ華奢な亀さんが渋谷のブックカフェにいる写真が多数使われていましたが、そこから移転したのがエスパス・ビブリオだったんですね。斎藤さん、さまざまな舞台を務めながら、それを記録にも残したい四代目を支える方であって、彼の魅力に憑かれた方なんだなあと思いました。

「スーパー歌舞伎IIワンピース “偉大なる世界」とワンピース歌舞伎2回目(追記・猿之助ワンピース写真展)

Photo   ワンピース歌舞伎の写真集・メイキングの2冊組の本、「スーパー歌舞伎IIワンピース “偉大なる世界(グランド・ライブ)」が、発売されました。四代目猿之助さんとしては、もともとのファンが一巡した2カ月連続公演の2か月目に、写真とスタッフのインタビュー満載の本を出版する、ということだったんでしょうが、ご存知の通り、開演わずか4日目の事故で、猿之助自身は出演できない事態に。

猿之助、右近を両方見ようと何回もチケットを取っていた人の中にはリセールに出す人もいて、そうした中、タンバリン交換や猿之助のカーテンコール登場等、話題には事欠かないワンピース歌舞伎再演となりました。

しかし、右近ルフィ、若くて純粋で元々ルフィのキャラに合っているうえに、女方は絶品。3時間奮闘した後でもツヤツヤのお肌のハンコックは美形女形です。そうなると、芝居自体の骨格の確かさやエンタテインメント性が、否応なく四代目の演出の凄さを感じさせる舞台になっているわけで、このメイキングブックが、面白くないわけはありません。

お芝居というものが好きな私にとっては、脚本、衣装、舞台装置、照明、音楽…、のプロの仕事を語るインタビューは本当に興味深く読ませていただきました。一流のプロである彼らの力を最大限に引き出す歌舞伎役者猿之助。出るか出ないかなんて、この作品の価値には関係ないとさえ思えます。

そして、猿之助と尾田栄一郎、北川悠仁の対談がたっぷり載っているんですが、猿之助の歌舞伎以外の人に歌舞伎の表現や特徴をわかりやすく理路整然と説明する能力には感心します。例えば、歌舞伎と普通の演劇の違いはときかれて、「すべての所作が美しいことです」と言うんですよ。そういえば、「LIFE」のときも、コントの後のトークがとても面白かったですね。

かと思うと、竹三郎さんが、以前公演中に体調不良で倒れたときの、猿之助の親身になっての優しさのエピソードを語り、「四代目さんのなさることなら何でも力になってさしあげたい」なんておっしゃるんですよ。お二人の共演は大好きなんですが、そういう絆があったんですね。

そしてこの本を読んだ直後に、再演2回目の観劇日がやってきました。代役もほぼ1カ月、すっかりルフィを自分のものにしている右近。初演よりはるかに存在感と安定感を増している巳之助、隼人、そしてナミとサンダーソニアとサディちゃんを楽し気に演じて輝いている新悟。

今日は休日マチネとあって、小学生くらいのお子さんも多く。コミックを知っていればこそのセリフでたくさん笑いが起きていました。

元は、猿之助の歌舞伎シャンクスが見たくてとった「麦わらの挑戦」チケット、猿之助さん自身がいなくても、とっても満足でした。2回目の大手術を終えた猿之助さん、どうか、順調に完治されますように。

(追記)

Photoその後、お茶の水のエスパス・ビブリオというブックカフェで開催されている、「市川猿之助ワンピース写真展」に行ってまいりました。

広いカフェ(壁はぎっしりと本!ゆっくり来たいものです)の壁に、引き伸ばした猿之助のルフィ、ハンコックの写真!生き生きとしたルフィの表情、目力、そのシーンを思い起こさせる迫力。実はルフィは若く初々しい右近の方が合ってると思っていた私ですが、これを見ると、演舞場初演時よりさらにこの役の真髄をつかんだような猿之助ルフィを見たいと思わずにはいられませんでした。

奥の落ち着いたコーナーでは、立派なアルバムに、応援寄せ書きが。私も書かせていただきました。

そして、たくさんのポストカードを、1枚162円で売っています。舞台写真よりサイズは小さいですが、美しい写真ばかりで、狐忠信、勘平、シャイロック等買いました。

さらにはですよ、第8回亀治郎の会のパンフレットが積まれていました。パンフレットといっても、ハードカバーの本で、厚い紙にたくさん写真が載っているので、これはいい、と買ってきました。

持っていないファンの方。これはもう貴重なものですよ!発行日は2010年8月、この年の浅草新春歌舞伎から始まった猿之助襲名へのカウントダウンが始まっているのが、よくわかります。演目は四の切初演ですし、2代目、3代目と同じ役の写真が見開きで並んでいたりします。なぜ外部の俳優(福士誠治等)と新作歌舞伎「上州土産百両首」なんかやるんだ、と言われたようですが、3代目ほか名優たちが演じた作品。

3代目やスタッフ、蔵之介さんや浅野和之さんのコメントもあり、何より4代目自身の短いながら彼らしいエッセイが多数載っていて、買えてよかった!(しかも540円)と思いました。

「スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース」@新橋演舞場

2    ワンピース歌舞伎再演、2カ月間のちょうど真ん中くらいでと思ってとったチケットでしたが、猿之助の事故で右近ルフィを見ることになりました。2年前の初演時は、見る前は大丈夫かと案じていたものの、予想外のハマり具合に大興奮でした。

まず再演の感想。ストーリーは同じなんですが、いい場面はそのまま残しつつも、お話やセットはすっきりさせてメリハリをきかせ、ダンスや戦闘シーンの迫力が増した、という感じ。印象的だったルフィの早変わり、ボンちゃん・イナズマの本水立ち回り、青雉との氷の戦い、白ひげの最後等はそのまま、アマゾンリリーやニューカマーのダンスはよりレベルアップ、赤犬とエースの戦いの迫力は倍増です。

右近ルフィは、さすがに若くはつらつとしていて、無邪気に思ったままをまっすぐぶつけるセリフが、猿之助より合っているんじゃないか、と思えました。踊りのうまい人でそこも見どころですし、動き全体にキレがあります。ハンコックもきれい。

新悟のナミは春猿よりもサバサバしていてこうみると合ってますし、サディちゃんも長身のスタイルがステキで熱演でした。チョッパーは右近ちゃん。長いセリフをしっかりと。

平岳大エースは文句なしにかっこいいですし、シャンクスも歌舞伎役者の早変わりとちがって長くエースを演じた後だけに難しいと思うんですが、しっかり演じていました。

巳之助のゾロとボン・クレー、スクアード、隼人のサンジ・イナズマそしてマルコは、もはや安定。初演時は、こんなにがんばって大丈夫かと心配になったものですが、今回はむしろ舞台をしっかり支えていて頼もしい感じさえしました。アンコール、この二人と右近、新悟が四人並ぶ場面はジーンとしました。

全体がすっきりしているせいか、ルフィが仲間を信じる気持ちや、イワンコフ(浅野和之)、白ひげ(右團次)、ジンベエ(猿弥)のいいセリフがぐっと迫ってきて感動的でした。出てくるキャラは自由過ぎていても、こういういいセリフがあるから、ワンピースに普遍的な魅力があるんですよね。

そして今回は、猿三郎さんのブログを知り、出演者のエピソードをいろいろ読んでいたので、大病から復活してフランキーやダズを熱演していた石橋直也さんや、ダンスシーンで一際鮮やかに踊っていた穴井豪さんのことがわかったのも楽しめました。ディスコやクロコダイルをやっていた猿三郎さんもしっかり認識できました(ほんとこの方、いい人なんですよね)。

Photo     もちろん、2幕最後のファーファ―タイムは、タンバリン振って楽しみましたが、ここのルフィの宙乗り、初日に猿之助は、客席を見回しながら、一瞬ルフィじゃなくて四代目猿之助の顔になったと、複数のファンがTwitterでつぶやいていました。その、客席の私たちが盛り上がっている様子を見て、満足げにドヤ顔している猿之助がみたかった!

ああ、猿之助さん、再演できたこと、初演そのままじゃなくて納得のいくまでブラッシュアップできて満足のいく作品になったこと、若手バージョンさえ実現したこと、あらゆるメディアでときに右近込みで宣伝しまくったこと――とにかく、彼は満を持して10月6日の初日を迎えたと思うんですよ。そしてたった4日後、あの、10月9日は、NHKの「LIFE」で歌舞伎コントをウッチャンとやるということも宣伝されていました。その日の夕方、事故のニュースを知り、しかも「開放骨折」という、聞いたことのない症状が伝えられたんです。

あんなにせっかちで、常に動いていないと落ち着かないような人が(ワンピース直前に新国劇の劇団若獅子でヒロインを演じたり、ワンピース直後に地方を回る舞踊公演を予定していたり)、病室でやきもきしていると思うだけでもつらいです。

しかもその後まもなく、大好きな染五郎の幸四郎襲名をはじめ高麗屋3代同時襲名の来年1,2月歌舞伎座の演目が発表となり、1月は1作で主演、寺子屋の涎くりまで3役ついているじゃありませんか。でも、ほんとに無理をしないで、ゆっくり直して、リハビリも十分時間をとって、完全に治してほしいです。

その「LIFE」、短いコントに歌舞伎の型をふんだんに入れ、しかも面白いという傑作でした。どうか後遺症なく、順調に完治されますように。

(追 記)

と、余韻に浸っていたら、なんと今日、10月公演の千穐楽ということで、夜の部のアンコールに、猿之助がサプライズ登場というニュースが!それもあのすっぽんからですよ!私なんか役者が出入りするたびに怖いなと思ってみていたのに、そんなこと吹き飛ばすようなさわやかな笑顔。やっぱり舞台にいてこそ輝く人なんですね。このスタイルも、シャンクスを思わせるところがにくい!

Twitterでも驚きでにぎわっていますが、即座に歌舞伎美人できちんとレポートされています。http://www.kabuki-bito.jp/news/4371 でもやっぱりちゃんと養生してくださいませ。

猿之助@「伝統芸能の若き獅子たち(2010)」「ごごナマ」「スジナシ」

猿之助フィーチャーのこれら3本のテレビ番組、すべて9月12日の放映ということで(きゃあ、猿之助まつり!)、録画して見ました。

まず「伝統芸能の若き獅子たち 市川亀治郎」。2010年放送の番組の再放送です。猿之助襲名の2012年に出た「僕は、亀治郎でした。」という本では、この頃の話が詳しく出ていてゆかしく思っていたので、映像で見られて感激でした。

両者を合わせてみると、2009年から始まった亀治郎と3代目猿之助さんの新たな師弟関係、2010年初春からの澤瀉屋の演目の(しかも大作の)復活上演、そして四代目襲名へ、という流れがよくわかります。

2009年末、浅草新春歌舞伎の出し物として、二代目猿之助(初代猿翁)の「悪太郎」に取り組む亀治郎、化粧や振付に苦労していただけに、3代目が稽古を見に来た日、「今日『猿翁さんに似てる』って言われた」と、うれしさを隠せないようにぽろっと言うところがあります。しかし上記の「僕は、亀治郎でした。」によると、このとき、本当は三代目に「猿翁さんに似てるね。…猿之助、継いでね」と何気なく言われた、とあるんですよ!うわあ、それについて、猿之助がどう思ったのか、映像ははっきり語っています。それが見られるなんて。

そして、2月、博多座での猿之助18番の一つ「金幣猿島郡(きんのざいさるしまだいり) 」制作の克明なドキュメンタリー。猿之助ファンなら、彼が新作の苦心を惜しみなく見せるのは当たり前のように思いますが、ほかの役者ではなかなかありません。染五郎、獅童の姿、綿密に打ち合わせる囃方に傅次郎さん、そして不自由な体をおして通し稽古にダメ出しする三代目、そばに寄り添う笑三郎さん。三代目は、自分が半生をかけて作ってきたものが引き継がれるのを見て、そりゃ四代目を彼にするしかない、と思われたことでしょう。

衣装を着けないシルエットで、「金幣猿島郡」の最後の舞踊を少し踊っているシーンも素敵です。当時の華奢な(女形中心だったこともあるのでしょうか)亀治郎の動きの滑らかで美しいこと。白拍子の踊りではずっと膝を内側に曲げたまま、回転のときに少しも体の軸がブレないのがよくわかります。被り物が揺れないのが口伝だとか(「あ、言っちゃった」って、なかなか誰にでもはできないでしょう。

化粧の筆が絵筆であることを説明してくれるお弟子の澤五郎さん、いかにも古風な番頭さんという雰囲気の方ですが、「隈取をするときは坊ちゃんも(猿之助さんと)同じようにやって…」の坊ちゃん呼び!あの大人数のキャストとスタッフをまとめ上げて細かい指示を出しているヒゲの濃い大人なのに。

NHKの午後のバラエティ「ごごナマ」は、ワンピース歌舞伎再演を前に、猿之助と尾上右近がゲスト。紹介に黒塚や四の切(狐忠信の回転は、先月のみっくんに比べてやはり格段の美しさ!)、二人が共演した連獅子の映像があったり、二人のほほえましい関係をうかがわせるエピソード満載で、さすがNHK、たっぷりでした。

質問コーナーで、「相手よりいい男だ」にYESと答えた猿之助、理由を問われて、「実際には彼の方が若くてかっこいいかもしれないけど、自分がいい男だ、と思って出なければ、お金を払っていただくお客様に失礼」。――ああ、なんていい言葉。どんな役でも常にドヤ顔の、究極のドヤ役者、ですもんね。

最後はTBSで深夜に放送された「スジナシ」。鶴瓶がゲストと台本なしの即興で観客の前で芝居をし、あとから録画を見ながら振り返りを行う、というシリーズ。

今まで見たことがなかったので、ほかの俳優と比較してどうかはわかりませんが、とある理事長室を舞台に、理事長カモイケ(猿之助)が政治スキャンダルで逮捕の危機、信者をどうする、と傀儡教祖(鶴瓶)と話し合うという設定を猿之助が強引に作り、関西弁を封じられた鶴瓶がタジタジとなるという展開。でも本人がいうほど何もできなかったわけではなく、ちょいちょい繰り出すジャブもあって、なかなか面白かったです。「カリスマに足りないものがない」なんて、へんなセリフもありましたが、力でねじ伏せた感じ。

振り返りで話す内容がやはり論理的で、ファン的にはそちらも見どころ。実名をちょっと変えて、政治批判だと言われないようにしてきた歌舞伎の技を使ったとか、スーパー歌舞伎の「大いなる詐欺師」のセリフを使ってみたかった、とか。

というわけで、いろいろな猿之助をみられた、たいへん充実した1日でありました。

亀治郎/猿之助関係のコンテンツを検索していたら、こういうのもありました。玉木正之さんの亀治郎インタビュー初出は2001年です。亀治郎の言っていることが、驚くほどその後と同じなんですが、それより注目は、2000年頃のスーパー歌舞伎「新・三国志」で本水の立ち回りをした直後の亀治郎の顔についての、玉木さんの以下の記述。

「花道に立っていた役者の横顔がよかった。見事だった。まるで客席を睥睨するかのように、顎を突きあげていた。その姿は傲岸不遜のようでありながら、若き花形役者ならではの心意気と美臭が匂い立っていた。 観客に媚びず、しかし、観客を侮らず、「何なら、もう少し、お水をおかけしましょうか……」とでもいいたげな若者…」、

これですよ、これ。それから20年近くたっても、変わらない彼の魅力です。

そしてもう一つ、首都大学東京の高本教之助教の「三代目から四代目へ…「市川猿之助」覚書」 。分析的でありながら、ファン感情満載の面白い論文です。その一節に、2002年の第1回亀治郎の会のときの、三代目の評があります。「非常に才能があるし、努力家で頭もいい。ただ一点足りないのは、華が足りない。それから器量があんまりよくない…(それは自分で克服すべきという趣旨)…」。それに対して筆者は、今では四代目の器量が悪いというのは少数派のようであり、それは顔の造作云々というよりも「華」があるから美しく見えるいという種類のものであるからである。だから、彼の器量の良さは四代目が十年の歳月をかけて自身でえたものり、亀治郎が自ら獲得したもの、と書いています。亀治郎愛にあふれた記述ですよねえ。

このほか、天才子役時代のお話や、三代目が天才子役と評したのは富十郎、十八代勘三郎、亀治郎とか、興味深い記述が続きます。この論文、歌舞伎のもっと大きな話もしているのですが、今日はファン目線の記事なので、割愛します、すみません。

八月納涼歌舞伎第一部「刺青奇偶」「玉兎」「団子売」

201708_4  納涼歌舞伎第1部は、長谷川伸作、玉三郎演出の「刺青奇偶(いれずみちょうはん)」です。

博打うちの半太郎(中車)は、熊介(猿弥)に絡まれた夜、身投げをした酌婦お仲(七之助)を助けます。当然見返りを求めると思っていたお仲は、金をくれて去っていく半太郎に惹かれます。半太郎とお仲は夫婦になるものの、半太郎は博打をやめられず、お仲は重病に。死を覚悟したお仲は、博打をやめさせようと、半太郎の腕にサイコロの刺青を彫り、これを見たら博打を控えてくれと頼みます。お仲のためにお金をつくろうと、政五郎(染五郎)の賭場を荒らした半太郎は、子分たちにボコボコにされますが、事情をきいた政五郎は、子分になるかどうか、サイコロでカタをつけようとします…。

最初の、いかにも損得抜きの男気のある半太郎がいい男(川に飛び込むために着物を脱ぎますが、引き締まったいい体!)で、荒んだお仲の気持ちがほぐれるところが丁寧に描かれていて、じーんとします。七之助のお仲は、声の出し方がいつものちょっとあだっぽい七之助とちがっていて、新鮮な感じ。玉さまのセリフをきっちり映しているのではとも言われていますが、そういうところが彼らしいといえましょう。半太郎の母梅花や、お仲のめんどうをみるおたけ(芝のぶ)もいい味です。染五郎の親分が、意外なくらい貫禄があって、感心しました。

最後のかけの場面は、半太郎の迫力ある述懐と、最後の賭けをする男の切なさがあふれていて、さすが名優香川照之たる中車でございました。

演出面でいうと、前半がいくら夜とはいえ、ずっと暗い(客席も)のが、せっかく役者は一生懸命演じているのにな、と思いました。

次は勘太郎ちゃんの「玉兎」。月を背景に、餅つき、かちかち山の振りなどを上手に踊ります。10分ほど、あの大きな歌舞伎座の舞台で後見のいてうさんと二人きり、迷いもなく堂々と踊る6歳。満場の拍手を聞きながら、どう思ったでしょうか。

そして、最後はお待ちかね、猿之助・勘九郎の夫婦の「団子売」。花道の出から息の合ったうちわ使い。団子作りからおかめ・ひょっとこの面をつけた踊りまで、こちらも15分ほどのほんとに短い時間ながら、踊りの名手の二人を堪能します。キビキビした夫勘九郎と、たおやかな妻猿之助。ぴったり同じ動きではなく、夫婦としての合わせ方が、さすが上級者という感じです。

愛し合いながら、幸せになれなかった半太郎・お仲の夫婦の物語を見た後で、健康で家業に励む仲のいい幸せな夫婦を見て、ほっとするような、半太郎たちがさらに気の毒な気持ちになるような。

さて、面をつけると、これまで控えめだった分、おかしみたっぷりのキレキレの動きになる猿之助。客席へのあいさつのとき、猿之助は2階3階へも目をやるんですよ。

とにかく絶賛のこの舞踊、こういうわくわくする舞踊は、これからももっと見たいと思いました。勘三郎・三津五郎なき後、この二人のコンビが定番になるといいな。

八月納涼歌舞伎第二部「修禅寺物語」「東海道中膝栗毛歌舞伎座捕物帳」(2回目追記あり)

201708    三部とも出演者も演目も楽しみな納涼歌舞伎、観劇日が楽前に集中するので、前半に見られないかなあと思っていたら、ふっと出ていた5列目、思わず買ってしまった第二部です。

1つめは「修禅寺物語」。初代坂東好太郎、二世坂東吉弥の追善狂言ということで、お二人の子、弟である彌十郎さんが夜叉王を務めます。好太郎さんとういうのは、13代目守田勘弥(玉三郎さんの養父は14代目守田勘弥)の息子なんですね。玉さまと弥十郎さんはいとこにあたるのか。

面作師夜叉王は、娘桂(猿之助)と楓(新悟)と暮らしています。実直な職人春彦(巳之助)と結婚した楓と比べ、気位の高い桂は高貴な夫を持ちたいと願っています。頼家(勘九郎)が夜叉王に頼んだ面を取りにやってきますが、夜叉王はいくら作っても、面に生気がなくて納得しないといいますが、頼家はすでにできている面と、桂を召して帰ります。その晩、北条に差し向けられた軍勢に命を落とす頼家、頼家の面をつけて身代わりとなろうとした桂。夜叉丸は自身の作った面がまさに頼家の運命を暗示していたことを知り、さらに面作りに精進するため、死にゆく桂の顔を絵に描き始めるのでした…。

短いながら、物語の骨格がしっかりしていて、人物の性格が際立ち、いろいろ見どころのあるよい作品です。各人が追い求めるものに共感できるんですよね。

猿之助は、冒頭で作業が嫌い、と言い放つところからゾクゾクします。身の程の幸せに満足する楓とは違いますが、彼女なりに幸せを求めるかわいい女。頼家の勘九郎が品があり、運命をわかっている哀しい殿なので、桂とは短いやりとりながら、二人の間に通い合うものがあり、桂が身を犠牲にしても悔いがないと言い切るのも頷けます。ラストの顔は本当に美しかった!

彌十郎さんの夜叉王は、それまでが常識人で(桂には困ったものだという)、芸術に生きる迫力とか狂気の部分があまり描かれていないせいか、ラストはやや唐突感があるんですが、まあ、他がよかったのもあって、お芝居としては成り立っていました。

新悟と巳之助の夫婦は対照的に初々しくほのぼのとしているし、頼家側近の萬太郎、秀調もよかったです。

2つめはいよいよ「東海道中膝栗毛歌舞伎座捕物帳」。

今回は旅道中ではなく、「四の切」を舞台にした「四の切殺人事件」とでもいうようなもの。猿之助脚本・演出でなければ、あの四の切をここまで(こういうふうには)見せはしないでしょうという作りです(つか、いいのか大事なお家の芸を)。

やじきたさんより若手大活躍、と評判のとおり、巳之助、隼人、児太郎が大活躍。児太郎なんか、数年前とはもう別人の大人の女ですよ。同様に中車も大活躍です。

お子達世代も、團子、金太郎コンビは言うまでもなく、久しぶりに虎之介くん、千之助ちゃんを見ました。千くん、かわいいですよ。

そしてもう一つ、竹三郎さん、寿猿さんも活躍。とくに竹三郎さんには大笑いです。

染猿の出番は少ないとは聞いていたので覚悟はしていましたが、どうして、猿之助、ガヤのときは人一倍大きい声で芝居をぐっと押していくし、ある危なっかしい場面(←終わったので書きますが、隼人の組体操みたいなのを支えるところ!)では真剣な顔で支えているし、楽屋落ちセリフで笑わせてくれるし、制作者の顔をチラチラ見せながらがんばってました。大好きな染さんと一緒で楽しそうで、お客さんも喜んでいてよかったです。

そうそう、今回は結末Bでした。AかBかは、意味なくどちらかを選ぶのではなくて、とっかかりがあるんですよ。たぶん、最初はAを見たい方が多くて、すでに多数いると思われるリピーターがBを推したのではと思ってます。次はAを見たい!

(追記)

楽前日、今度は3階から2部を見ました。

「修禅寺物語」 は、彌十郎さんの気合が増加して迫力が増した感じがしました。ラスト、上を向いて苦痛を堪える桂の顔を上から見られて幸せ。

そして「東海道中膝栗毛歌舞伎座捕物帳」 2回めでも笑えるところが多く、リピーターが多いせいか、場面毎の拍手も多くて盛り上がりました。

今回も弘太郎を取り調べるB。でも明らかに観客の拍手はBが多く、たぶんBの方が面白いってことなんだろうなと思います。児太郎が大迫力ですもんね。

弥次喜多の見得での二人の息の合った動き、だんまり、釘の謎解き、荒法師姿で四の切を乗っ取る猿之助、あくまでアホ顔の染五郎と、ほんとに楽しくて2時間近くがあっという間。歌舞伎をちょっと見てきて、幕見だけど四の切も見ておいてよかったと、楽しさ倍増でした。

これだけのものをまとめ上げた猿之助、すごいです。3代目猿之助のスーパー歌舞伎は「ヤマトタケル」しか知らないくせに敢えていうと、3代目はどうだ素晴らしいだろうと観客に、と見せつけるもの、4代目は観客を巻き込んで一緒に盛り上げるのが好き、という持ち味の違いがあるのかな、と思いました。秋にはワンピースですね。

歌舞伎座ギャラリー特別映像「『宙乗りができるまで~新臺猿初翔(しんぶたいごえんのかけぞめ)~』

Photo     歌舞伎座タワー5階には、前月の舞台写真も売っている歌舞伎関係のお店と、歌舞伎の扮装をして写真を撮ってもらえるスタジオアリスと、歌舞伎座ギャラリーというミニ博物館があります(入場料600円、この有料エリア、よくわかってなかったんですが、その月のチケットで100円割引。こんなに松竹さんにつぎ込んでるのに、今月はチケットとれなかったので割引なしです)。8月末まで「宙乗りができるまで」という特別映像が見られるというので行ってみました。

まず、歌舞伎の馬が置いてあって、乗ってみることができます。思っていたより大きくて、またがった感じはとても本物に近い!馬自体も重いと思いますが、役者を乗せて、しかも「矢の根」のように衣装も重いものもあって、それを2人で軽快に運ぶのは、かなりの重労働だろうなと思いました。

歌舞伎の効果音の道具や、お女中の持つ明かり、センスなども触ることができます。魯の音、雨音、波の効果音はよくできていて、面白かったです。

短い花道と、小さいながら舞台のあるスペースも。はだしだったので、ひのき舞台を踏んで、バンバンと踏み鳴らすのも楽しかった!

さてお目当ての24分の映像。昨年6月、猿之助が新歌舞伎座開場4年目にして初めて「四の切」の宙乗りをするまでの、設営、テスト、宙乗り目線のカメラ、そして翌月7月の猿之助の「流星」、8月の「やじきた」の猿之助・染五郎との2人宙乗りのリハーサル、本番、猿之助の狐忠信の扮装でのコメントもあります。

今でこそ歌舞伎以外でも宙乗りのような演出はよくありますし、猿之助と宙乗りってちょっと慣れっこになっていますが、ドキュメントをみると、やっぱりすごいなと思います(勧玄くんよくやりました)。

少しですが、猿之助が浴衣姿でスタッフに指示を出すシーンがかっこいい。やじきたのリハでは、実は高所恐怖症だという染五郎と仲良さげに二人の演技を相談します。染ちゃん、怖いのにまるで空中ブランコみたいな動きをしてたんですね。

今年も八月納涼歌舞伎でやじきたをやるのがとっても楽しみです。

團十郎・海老蔵 パリ・オペラ座公演 「勧進帳・紅葉狩」(DVDブック)

Photo    2007年3月、團十郎、海老蔵のパリ。オペラ座公演、「勧進帳」「紅葉狩」のDVDです。「勧進帳」のDVDは、同じ團十郎さんでも富樫・富十郎、義経・菊五郎とか、弁慶・7世幸四郎、富樫・15世羽左衛門、義経・6世菊五郎といった、明らかに名演とおぼしきものも入手可能なんですが、本作は、小学館DVD-BOOKシリーズということで、演目の台本がついていて勉強にいいな、と思ったのと、何といっても猿之助(当時は亀治郎)が出演しているということで、買ってみました。

「勧進帳」私の初めての歌舞伎、團十郎さんの最後の勧進帳 となったわけですが、じっくり見ると、なるほど、台詞は漢語が多く、文字で見て初めて意味がとれるものが多いんですが、 弁慶の必死の勧進帳読み・問答と、その後の義経との主従の絆、酔態、富樫との無言の心の通い合い、と、見どころが多く、やはり名作だなあと思います。字幕を見たり、音声解説を聞いたりして、この作品への理解が深まったのは、よかったです。イヤホンガイドは最初に借りて以来、鑑賞の妨げになる気がして使っていないんですが、何度も見ることのできるDVDではほんとにいいですね。

オペラ座なので花道を作れず、それがかなり演劇的効果を減殺しているのは否定できないのですが、團十郎さんの堂々とした弁慶、美しい海老蔵の富樫、手堅い四天王(権十郎、右之助、市蔵、段四郎)と、やはりこの演目のすばらしさは味わうことができます。

そして義経の亀治郎!2012年の勧進帳では、藤十郎さんが染五郎の代役で務めたんですが、歌舞伎初心者としては、丸っこい体形の藤十郎さんがあの義経?イメージじゃないと思ってしまいました。亀治郎の義経は、さすが義経という若き武将の品があって、弁慶にそこまでさせてしまった哀しみが伝わってきて、この人が器用なだけの役者でないことを思い知らされます。

もう一つの演目は「紅葉狩」。更科姫・扇雀、惟茂・錦之助と、更科姫・染五郎、惟茂・松緑という配役で見たことがありますが、この公演では更科姫を海老蔵、惟茂を團十郎さん。團十郎さんの惟茂はさすが気品があって素敵。吉弥、市蔵、右之助、權十郎、京妙も適役でよかったです。梅枝が野菊の大役を立派に務めています。海老蔵は、黙っていれば美しい姫で、扇さばきも危なげないんですが、女方のセリフはちょっとひどすぎる、いくら何でもこの役やるならもうちょっと(俳優祭の媼もひどかったですもんね)。鬼神はさすがの迫力でした。

Photo そして見たかった亀治郎の山神。写真集でも、山神の装束がとても少年ぽくて、 みたいなあと思っていましたが、やっぱり若々しい、かわいい山神で、この演目の舞踊の中でも白眉でした。

DVDには、口上も収められています。さすが團十郎さんは、気迫のこもった口調、内容ですが、最後の亀治郎、暁星のフランス語教育、最も長く、ジョークも入れて観客から笑いも起こっていました。

(長塚さんの写真集より)

2007年は、亀治郎は大河ドラマ「風林火山」で信玄を演じていた年。とてもパリ公演には行けないと最初は断ったそうですが。海老蔵から是非にと言われて行ったそうです。配役も口上も一座の三番手として重きをなしていて、パリでもダンスのワークショップを行ったりして、きっと彼にとっていい経験になったんだろうな、と思ったりしたことでした。

 

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