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四代目市川猿之助

スーパー歌舞伎Ⅱ「新版オグリ」@南座 期間限定配信 (追記 歓喜の舞!)

2004oguri   3月の南座での「新版オグリ」、行きたかったんですよ。「ワンピース」も地方公演でブラッシュアップしてたから期待できたし、四代目オグリは2階でしか見ていなかったし、鷹之資も出るし!

延期が繰り返されたうえで全公演中止が決まり(それ自体はやむをえませんが)、最後に猿之助・隼人の2バージョンを気合を入れて無観客で上演したらしいのはインスタなどでわかってましたが、まさかの1週間限定無料配信(4月13日から19日まで)!もうありがたい限りです(詳細な配役)。

猿之助オグリ2019年11月の感想)は、フルバージョンです。休憩を飛ばして、アンコール込みで3幕3時間10分!新橋演舞場の初演は3時間25分なので、15分ちょっとの短縮ですが、だいぶ刈り込んだ気がしました。

演舞場の初演をあまり細かく覚えているわけではないんですが、気が付いたのは、照手姫の横山家のドロドロや高倉さま(嘉島典俊)の悪さが少しアッサリになってる。鬼鹿毛乗りこなす場面のフラッグがみんなカッコイイ、鷹之資の踊りがどれもキレッキレでみてて楽しい(セリフもいい)。一部不評だった二幕のSNSはなし。猿三郎さんひとみばあさん、女郎屋の最初の方の場面はなく、照手が操を立てるところもなし、遊行上人短く、金坊登場せず、福之助の山賊は鉄拳。遊行上人とのダブル宙乗りなし。なぜ高橋くんと宙乗り?寿猿さんとあかねちゃん(玉太郎)登場で二人ともよかった。

刈り込んではいますが、1幕は前述の鬼鹿毛、2幕は地獄の立ち回り、3幕は餓鬼病みオグリと歓喜の踊り、と見せ場がそれぞれより際立つようになっていて、面白さは増幅されたと思います。2幕は、オグリ衆大活躍で、鷹之資の鮮やかな飛び六法や、玉太郎の蘭平ばりのハシゴ、そしてオグリと全員の本水!

福之助がどうしちゃったのというくらい台詞が進歩していて、新悟ちゃんの照手ももはや安定感。新悟は10、11月がオグリ、12月チャップリン歌舞伎、1月浅草、2月博多座オグリ。これだけ芯になる役を続けていたら、千本ノックばりにうまくなりますよねー。声が強いのも凄いと思いました。

さて四代目ですよ。3月、京都でずっと開演を待っていたためなのか、あれ、顔がまんまるに、全体にむっくりしてません?もともとストレートな二枚目って、(唯一の)ウィークポイントではという感じもあって、1幕はうーむと思ってたんですが、やっぱり3幕の餓鬼病み!この多彩な声、苦しみ、後悔、純粋な照手への思い、役者としての力量を感じさせてくれます。熊野の滝に上るところ、ああ、左手だけでぶら下がっちゃって~。「思い知ることができましたぁー」で、思わず画面の前で両手を握っていっしょにガッツポーズしてしまいます(映像でよかった!)

こういう感情盛り盛りの、セリフで劇場空間を(空席ですけどね)支配するお役って、なかなか歌舞伎座でみることはできません。19年6月の「風雲児たち」の別れの場面くらいですかね。熊野の滝に飛び込む前の場面は「俊寛」を思わせますが、ほんとに俊寛やってほしい。

そして隼人オグリ2019年10月の感想)。隼人の出番だけをつなげたハイライトバージョンですが、それでも1時間44分あります。うーん、隼人オグリも完全版でアップすればよかったのに。隼人の良さは若さと美貌(!)なので、オグリ党のあれこれがあって、若いオグリにつながる方が説得力が増すと思うんですよね。隼人の出番だけが隼人のよさじゃない。

隼人オグリ、大きくて美しい~。照手がひとめぼれするのもうなずけます。このキラキラ衣装がほんと似合ってます。表情も台詞も確実に進化してて、座長感も増してます。立ち回りもキレてて、四代目より手数も多くて派手。ただ、歌舞伎の台詞と、見得のキマリ方は、比較してはかわいそうですよね。キャリアが違うし。やはり熊野についての餓鬼病みの述懐は、長いだけに差がはっきり出てました。

四代目の遊行上人は、怪しさ感が若干薄れていました。物語の転換点として、これぐらい強烈なキャラクターじゃないと説得力がないのかもしれません。

そしてどちらのオグリでも、この上なく華やかな、歓喜に満ちた踊りのフィナーレ。ここまで、この緻密な殺陣、踊り、細かく作られた場面を積み上げてきて(セットもあまり変わらないから役者さんがふっと気が抜けたりして一つ間違えばたいへんでしょう)、1か月初日を待っていた彼らが南座のお客に見せられなかったのはどんなに無念だったか。関西のみならず遠方のファンも悲しかった。

でも、今の状況では、こんな作品、無理ですよね。舞台の上でのリスク、役者もスタッフも、感染者が出れば即中止となることを思えば、当面演劇が上演されるとは思えません(号泣)。

まだ配信期間中ですが、オリンピックに合わせてインバウンド客も期待されていたステージアラウンドの「ヤマトタケル」再演の中止が早々に発表されました。稽古にも入れないということで、来年のオリンピックに合わせて準備するそうです。それまで、歌舞伎を演じ、つくるすべての皆さんが健やかでありますように。

【追記・歓喜の舞】

5月12日、四代目の指揮の下、キャストが集結して、エンディングの「歓喜の舞」を踊った映像をつくってくれました!(猿之助さんのインスタの動画)

これが、 よくあるリモートのやつね、と思って気軽に見始めたら、冒頭の四代目のイントロダクションに始まり、下川真矢さん(アクション俳優なんですね)の編集による、5分近くのすばらしい完成度の映像!

隼人、新悟、鷹之資、玉太郎、福之助らフィーチャーされた若手といい、猿弥、笑也、猿三郎、段之等澤瀉屋の皆さんといい、皆お家の普段着なのに動きだけプロでキレキレ。若手坊ちゃんたち、楽しそうに軽やかに踊っててかわいいったら。

四代目は一際ラフなスタイルにねじり鉢巻きでちょこっとだけ。もーうまいくせに。でもそういうところがさっくり皆をまとめてしまう所以かなと思いました。ダイエットする気はなさそうなので、早く本舞台に出て、すっきりときれいな四代目となったところが見たいです。

DVD「博奕十王」

  アシェット2003_20200312221001社の歌舞伎DVDシリーズ、ときどき買っていますが、15巻は、2014年、猿之助の最後の新春浅草歌舞伎、「博奕十王」です。サイコロを持って悪そうな顔をしている猿之助の写真は見ていたので、楽しみにしていました。

舞台の背景は茶色い松、閻魔大王(男女蔵)と獄卒(弘太郎、猿史郎)がいる冥途、六道の辻。地方の皆さんも(そして後見も!)三角布(天冠)をつけています。

そこへやってきた、白装束の博奕打(猿之助)、愛嬌たっぷり。大王からせしめた酒の肴にと、身の上話をはじめます。博奕での喧嘩で死んでしまった博奕打ですが、浄玻璃の鏡で映すと悪行ばかり。地獄に落ちそうになりますが、博奕を知らない大王をサイコロ博奕に誘い、次々と装束を巻き上げ、さらに虎拳(和藤内、母、虎のじゃんけん)で勝った博奕打は極楽への送り状を手に入れ、悠々と引き上げます。

と、他愛ない話なのですが、こずるくて賢しげで軽妙な博奕打って、ものすごく猿之助に合ってるんですよ。衣装も花札柄の着物にサイコロ柄の裁着袴と遊び心のある美しいもので、出ずっぱりでたっぷり舞踊を見せてくれます。話もテンポよく面白いので、目を凝らしてみつめるというより、ああ、楽しいなと思わせてくれます。

嵩高い立派な拵えながらおっとりと間抜けな閻魔大王も、男女蔵さんにぴったり。動きキレキレの弘太朗・猿四郎、後見には段之さん、蔦之助(つーたんは、この後自主公演でこの博奕十王をやっていますね)。地方も長唄今藤尚之さん、巳津也さん、三味線稀音屋祐介さんって、お正月の連獅子と同じ方々が舞台を盛り上げていました。

この若さでの舞踊のDVD化、ありがたいです。ほかの舞踊もぜひぜひDVD化を!

(追 記)

この浅草のすぐ後に、NHK「SWITCHインタビュー」で、野村萬斎さんと四代目が対談しています。「空ヲ刻ム者」と、萬斎さんの「神なき国の騎士」(ドン・キホーテの物語)の稽古場がSWITCH!萬斎さんも狂言で博奕十王を演じているので、ストーリーや小道具の種類は同じなのに、歌舞伎と狂言の表現がいかに違うかということを比較してくれて面白い!狂言の中でも、衣装も道具も派手な演目だと思いますが(萬斎さんのは最後博奕打が宙乗りするバージョンもある)、歌舞伎しかも澤瀉屋ですから、歌舞伎の客向けのサービス精神がよくわかります。

そして、この二人が大好きなNHKさんの、幼い頃からの豊富な映像で、御曹司として生まれた二人の芸への向き合い方の違いが語られていきます。伝統芸能の中でも聡明で言葉で表現するのがうまい二人なので、優れた演出家の対談のようで無駄な言葉がない。年上の萬斎さんが、ややヒネくれててでも自信たっぷりな(この時期って猿之助がある意味得意の絶頂期では)猿之助を面白がっている感じが出てて、私にはたまりません。

歌舞伎と狂言が染み付いた二人なので、現代劇では立ち方や歩き方まで一から学んだとか。そして、演劇としての表現を追求する二人が、舞踊での表現力が素晴らしいのも大好きです。

壽初春大歌舞伎「義経腰越状 五斗三番叟」「連獅子」「鰯売戀曳網」

   2001_20200114223502お正月の歌舞伎座で澤瀉屋の連獅子!ということで、前方センターで見てまいりました夜の部です。

一つ目は「義経腰越状 五斗三番叟」。やる気をなくして遊興にふけっている義経(芝翫)を、亀井六郎(猿之助)が諫めます。えー連獅子目当てだったのに、芝居の冒頭、いきなり隈取の奴みたいな拵え(荒事の若者ってことですね)で立ち回りですよ。化粧が鮮やかで、若々しくて光り輝いててもう手を合わせたいありがたさ。「足の親指に注目」というTwitterがあったので見ていたのですが、ほんとに歩く時以外は親指がピン、と立ってるんですよ。

世話もののひねった役だといい味の芝翫ですが、ストレートにやってほしい義経としての声が残念。どうしても、手前で控えながら細かい表情をしている四代目を見ちゃいます。

さて、泉三郎(歌六)によって軍師として呼ばれた五斗兵衛(白鸚)。義経の遊興をそそのかしている太郎(錦吾)、次郎(男女蔵)は、御目見えまで酒を飲まないという五斗兵衛に酒を勧めます。断っていたくせにどんどん大きな杯を求めて飲む五斗兵衛。端正な武士の白鸚さんが酔っていく過程の演技がさすが緻密です。

そして竹田奴登場。これまで阿古屋でしか見たことなかったですが、この演目での竹田奴はけっこうしゃべるし、立ち回り、アクロバットと忙しいです。そして最後は三番叟に。おめでたくて楽しい演目でした。

いよいよ澤瀉屋の「連獅子」です。もう三味線の最初から、(立三味線は稀音家祐介さん)盛り上がっていきます。すぐに狂言師左近(猿之助)と右近(團子)が出てきます。

見てませんが、「ノンストップ」の密着で「感想は?」という質問に対し、「なにもない。当たり前だから」と答えた四代目。そう、彼が團子の名をもらったときから、澤瀉屋を継いでいく者として、この連獅子は必須のものであり、いつかはやるのが当たり前の演目だったということでしょう。しかし、それが初春の歌舞伎座であるというのは、これまでの四代目の活躍があってこその晴れ舞台です。

もう公演も半ばとあって、四代目は余裕さえ感じられる自在な舞踊、團子は若々しく、きっちりとついていきます。後見は、四代目が鬘でとてもお年に見えない若さの寿猿さん、團子が段之さん。澤瀉屋なので、振りが派手で見てて面白いです。

崖から突き落とし、水面に映る親獅子を見て仔獅子が登ってくるくだりもとてもわかりやすく、心配し、子が登ってくるのを待つ親の気持ちがストレートに伝わってきました。私が連獅子を初めて見たのはシネマ歌舞伎の中村屋でしたが、その時は前シテの意味があまりよくわからず、その後国立劇場の鑑賞教室も経て、今回は直前にアシェットのDVD(22年4月の中村屋の連獅子)で予習していったので、さらによくわかりました。間狂言は男女蔵と福之助。愛嬌は男女蔵さんですが、福之助も体幹の強さというか、舞踊のうまさで見せます。

そして後シテです。激しい動きの連続で、一瞬も目を離せません。ここまでくると、四代目もオーラ全開。隈取の奥のドヤ顔が美しく、観客の心を鷲掴みです。初日のNHK中継のときよりも化粧がうまくなった気のする團子。お囃子もいやがうえにも盛り上がり、観客もテンションMAX、最後は、正面の私が二人の視界に入っていると信じて最大限の拍手を送りました。

舞踊では、芝居以上にオーラ全開の四代目、劇場全体を掌握するような圧、ああ、素晴らしいです。そして誰よりもそれを感じたであろう團子君、ますますがんばってほしいです。

3演目めは、三島由紀夫作の「鰯売戀曳網」。中村屋ファンからは「鰯売はもういいからもっと古典を」という声がありましたが、事前に「三島由紀夫と歌舞伎」という本を読んだら、三島の新作歌舞伎5本の中でも、御伽草子を題材に、歌舞伎の伝統をうまく入れた傑作で、初演は三島の愛した六代目歌右衛門と十七代目勘三郎、十八代目勘三郎と玉三郎でも上演されているという中村屋ゆかりの演目だったんですね。

鰯売の猿源氏(勘九郎)は、見染めた傾城の蛍火(七之助)に会うため大名を装いますが、蛍火は、もと武家の姫でしたが、鰯売の声に引かれて城を出奔したときに騙されて傾城となったのです。結局、姫を助けに来た次郎太のおかげで身請けのうえ、蛍火は猿源氏と結ばれます。

猿源氏の純で愛らしい人柄、応援する父海老名(東蔵)、馬喰(男女蔵)も楽しいうえに、蛍火の朋輩の女性たち(笑也、笑三郎、鶴松)らも賑やかで、しかもハッピーエンドという、お正月にふさわしい演目。あの三島がこんな芝居を書くなんてと思います。禿で勘太郎も出てましたが、ちょっとした動作の勘がよくて、かわいかった。

三島が歌右衛門の崇拝者だったということを思うと、蛍火が後半、次郎太その他を一喝する威厳のある場面など、ただの恋する女でない蛍火の描き方が、今の目から見ても好感が持てますし、またそれをきっちり演じる七之助。勘九郎の愛嬌と身体能力等、中村兄弟の魅力をたっぷり堪能できる、いい演目だと思いました。

もちろん、勘九郎と七之助には、もっともっといろいろな役をやってほしいですが。

(追記―連獅子幕見)

日毎に成長しているという團子くん。何日もたっていないのに、躍動感と自信が増したような気がしました。ちょっとドヤ顔も入って、オレを見ろ的な澤瀉屋の雰囲気も感じられました。振りも派手で、芝居心たっぷりの前シテ、そしてやはり盛り上がる後シテでは、立ち見も出ている幕見席から1階まで劇場全体に拍手と感動が広がっていく四代目ワールド連獅子!行ってよかった!

(ところで、下村青さんが観劇後楽屋にいらしたら、ビデオを見ながら四代目が團子を指導していたんだそうです。毎日ダメ出ししてるんだ…)

ところで、ふと、猿翁さんと亀治郎の連獅子初演ってどうだったんだろうって思いました。「團子がこんなに踊れるとは」と言われている團子とちがって、亀治郎は小さい頃から「この子は踊りがうまい」って澤瀉屋ファンには期待されてたと思いますし、猿翁さんの人気もすごかったですからね。

データベースで調べたら、亀治郎初演はなんと11歳、南座で段四郎さんと。間狂言は先代猿之助・宗十郎という豪華版です。歌舞伎座では14歳のとき、先代と、間狂言は段四郎、歌六。すごかっただろうなあ。

(追記―連獅子幕見その2)

千穐楽近くになって、また見られました。連日札止めの盛況で、発売時間前でも立ち見。團子くん、振りがしっかり身について動きが生き生きと滑らか。四代目との連れ舞感もますます高まっていて、ほんとに素晴らしいです。途中で四代目がポン、って團子くんの肩をたたくのがまたぐっときます。

地方の皆さんの盛り上がり(長唄 今藤尚之さん、巳津也さん、杵屋佐喜さん、そして傳左衛門、傅次郎兄弟の気合の入った掛け声!)、クライマックスに向けての観客の興奮と拍手、ああ、歌舞伎ってすばらしい。

シネマ歌舞伎「女殺油地獄」

Onnagoroshi_koshiro_poster_fixw_234  昨年7月松竹座の高麗屋襲名披露「女殺油地獄」のシネマ歌舞伎です。このチラシ、そしてムビチケのビジュアルが公表されたときには、幸四郎・猿之助ファンから悲鳴があがるカッコよさでしたが、とうとう映画館へ。

舞台とはちがう、シネマ歌舞伎ならではのものを作りたいという幸四郎と井上昌徳監督の意気込みで、凝ったつくりになっています。序幕「徳庵堤茶店の場」は通常の舞台中継風、2幕「河内屋内の場」は、アップも多く家庭内ドラマ、そして3幕は義太夫を使わずに撮影し、スローモーションなどの効果を加えて、義太夫をつけています。むしろ劇場でみるよりも、迫力ある義太夫でした(3幕は谷太夫さん)。

この義太夫なしで撮影とはどんなんだろうと思っていたんですが、芝居自体は松竹座の舞台稽古の後で、3幕だけを義太夫なしに撮影したんだそうです。そういう意味では、本番前のものなので、二人が観客の前で見せる芝居とはちょっとちがうのかもとは思いましたが、再演でもあり、さすがの名コンビ。

201911_20191124095201 襲名披露公演のため、配役が最高です。与兵衛の父歌六、母竹三郎、兄又五郎、妹壱太郎、白稲荷法印 嵐橘三郎の2幕は見ごたえたっぷり。与兵衛かわいさのあまりの河内屋の苦悩。

しかしやはりこの演目は幸四郎の豊かな表情!かわいかったり、シュンとしたり、開き直ったり、そして3幕でのお吉へのくどき、殺意のめばえ、目が少し赤いのも狂気じみていて。ああ、幸四郎さん、かっこいい(←最後はこれか)。

四代目は、役柄としても抑え目のしっかりした若妻で、与兵衛よりも姉さんに見えます。やはりあの大怪我からまだ9か月、顔が丸々していますが、このチラシ・ムビチケは後から撮ったものらしく、もう少しすっきりとしています(オグリ終盤の今はもっと顔が細くなったような)。文楽の人形を思わせるような、白磁の肌と表情。

恋愛関係にはない、お吉は与兵衛に同業の知り合いの青年への親しみしか感じていない、でも運命を変えられたという関係の二人。どうしてこんな表情になったのか、ギリギリのこの顔が、四代目の役者としての凄みを見せているような気がします。

松竹座の番付は買いそびれていたのですが、これらの写真が大きく載っているパンフレット、買ってよかった!

 

スーパー歌舞伎Ⅱ「新版 オグリ」猿之助オグリ

201911oguri2   やっと猿之助オグリの「新版 オグリ」です。隼人オグリの回を見てから約1か月、もうすぐ千穐楽ですが、ああ、見られてよかった!

前回、予想の範囲でのエンタテインメント作品でそれなりに満足だったものの、どうなのスーパー歌舞伎Ⅱよ、なんて言ってごめんなさい四代目!四代目のファンなのに。やっぱりスーパー歌舞伎でしか見られない四代目がいるのだということがよくわかりました。

まず登場。隼人が歌舞伎界きってのイケメン故、ビジュアルはとても敵わないなんて思ってたんですが、うわあ、こんなかっこいい、ポスターから抜け出てきたようなオグリ!(少し顔の輪郭がすっきりした?)オグリ衆たちと比べて長身ではないですし、照手の新悟ちゃんよりもちろん小さいですが、なんかピカーっと光るオーラの迫力がすごくて、舞台にいる間、目が離せません。台詞の説得力がすごい。内容が耳にすーっと入ってきます。そしてとにかく歌舞伎。

思えば、今年は、紅長、おとく、弁天小僧、岩手、風雲児たち、かさね、弥次喜多、と、アンサンブルに配慮した役が多く、白塗りの立役で見得たっぷりというのは久しぶり。ああ、オレがオレがのくどい四代目猿之助、こんなにもうれしいものかと、改めて思い知りました。往年の熱狂的な猿之助(現猿翁さん)歌舞伎ファンの気持ちがちょっぴりわかったというか。照手とのロマンスも、四代目らしい愛情が感じられて素敵でした。

1幕は、オグリ衆の若手の成長を確認。男寅もがんばっていましたが、やはり福之助がすごい安定感。踊りはしっかりやっている人なので、立ち回りもよくて見違えました。

2幕、婆たちの場面が好きじゃない人が多いみたいですが、さほど長くないし、今回もそんなに抵抗なかったです。下村青さんも石橋正次さんも好演だと思うんですが、むしろ二人のシーンがやや長い感じ。

さて、今回の注目はなんといっても3幕の四代目の餓鬼病ですよ。前回冗長と感じた照手と餓鬼病の場面が、渾身の四代目の演技で、もうずっと見ていたい!この場面、隼人はどうやっていたかもはや記憶していないくらい。劇的効果としても、オグリの心境の変化を端的に表していて、感動しました。

しかし、これを1日2回はたいへんだと思いました。今回2回公演も必ずオグリは交互、それを考えたら、隼人は十分貢献したと思います。

そして、隼人の遊行上人。清らかで純粋で、四代目のラスプーチン味は皆無。しかしどんな扮装でも隼人は美しい。照手の新悟、2か月の長丁場を一人で務め上げ、動きも台詞も磨きあげられて疲れもみせず、成長を感じました。あ、今回はくんの金坊、右近くん、猿くんにあてたいいお役です。

本編のオグリの台詞が正論的なだけに、それを茶化す浅野和之さんの台詞の数々の効果的なこと。正面から語るオグリとの対比が面白く、今の時代での照れくささを中和するようで、この芝居の中での浅野さんの自在感の意味、と思いました。

あとね、今回、初めの方のスタッフ紹介で、亀井三兄弟のお名前が!お能の囃子方の、あのカーンという力強い大鼓は、広忠さまだったんですね。くー、すごい。

演舞場はこれで最後ですが、南座か博多座は行きたいかも、と思うオグリでした。    

スーパー歌舞伎Ⅱ「新版 オグリ」(隼人オグリ)

  猿之助の201910oguri_20191014220601スーパー歌舞伎Ⅱの新作「新版 オグリ」です。先代のスーパー歌舞伎「オグリ」のリメイクで、先代が技術的・予算的に断念した映像を使った演出を実現したという触れ込みです。オグリは猿之助・隼人のWキャストですが、隼人オグリを先に見ました。

 (その後、猿之助オグリも見ました!)

小栗判官ものは、お正月の菊五郎劇団の「世界花小栗判官」を見たことがありますが、暴れ馬を乗りこなすところと、ヒロインが照手姫で望まぬ結婚から逃れること、ハッピーエンドであることくらいが同じで、その過程はだいぶ印象がちがいます。

都から来た藤原正清、小栗判官(隼人)は、文武に秀で、いろいろ訳ありの若者たちを率いて人気となっています。望まぬ嫁入り道中の照手姫(新悟)をさらってから愛し合うようになった小栗と照手姫ですが、あくまで嫁入りを望む横山家によって、小栗一党は陥れられ、閻魔大王(浅野和之)と奥方(笑三郎)の支配する地獄に落ちます。一方照手姫は、一命を救われ、女郎屋で働くことになります…。地獄から、餓鬼病みの状態でこの世に帰ってきた小栗は…。

歌舞伎役者は澤瀉屋と若手、歌舞伎以外の俳優はワンピース歌舞伎の出演者、そして今回初傘下の舞台の実力派と多彩ですが、そこは四代目猿之助得意の役者の使い方や演出で、お弟子さんたちも含めて、一人一人に見せ場があって輝いていたのはよかったです。

隼人、大きくて美しくてヒーロー感たっぷり。ヒロイン照手の新悟は、もう一人の主役といってもいいくらい物語の芯を務めていて、この抜擢によく応えていたと思います。

猿之助の遊行上人の出番は少しなんですが、待ってましたの存在感。しかし、もう少し前半でオグリとの絡みがないと、人々を救うというより、迫力がありすぎる美坊主で、天下転覆を企んでいそうな雰囲気。何かどんでん返しがあるのではという気がしてなりませんでした。

オグリ党の笑也、竹松、福之助、男寅、猿弥、玉太郎。正直、全体にちょっと台詞が不器用なメンバーなんですが、いやー、うまく使ってましたよ。福之助、1か月も稽古したらうまくなったねー。今まで君が出てくると、お、と気づくくらいだったもん。男寅ってこんなにきれいな顔してたっけ。そして玉太郎!いい役どころで期待に応えてました。SUGATAで鷹之資と一緒に鍛えられてきたただけのことはあります!

歌舞伎外の役者さんも舞台で活躍する方たちなので芝居はしっかり。浅野和之さんは別格として、下村青、石黒英雄はビジュアルも存在感もとっても素敵、元ニナガワカンパニーの高橋洋は1幕を支えていました。嘉島典俊、市瀬秀和はもはや欠かせない存在。

段之さん、猿三郎さん、猿四郎さん、門松さん、欣也さん、笑野・猿紫ちゃんペアといった澤瀉屋の方々が、いい役どころで輝いていたのもよかったし、蔦之助も生き生きとしてたし、右近くんはやっぱり華があって落ち着いててよかったです。

豪華で今風テイストでかつ歌舞伎な衣装、効果的な鏡と映像、音楽も舞台にぴたりとはまり(衣装、美術、映像、音楽はとにかく超一流なスタッフ!)、既にお約束の宙乗りと本水で、いかにもなスーパー歌舞伎。脚本もいろいろ言われていますが、いいたいことはよくわかるし、現代にふさわしいものをという四代目の意図はきちんと伝わってくるものだったと思います。

しかし、スーパー歌舞伎という形については、考えてしまいました。四代目、男女蔵さん以外、先代の育てた澤瀉屋を除けば、浅草あるいは浅草未満な歌舞伎役者のみの座組。今後、四代目ファン以外の、演目を選んでみる歌舞伎ファンはどれだけ見てくれるんでしょうか。3幕は、明らかに隼人新悟の二人では間がもたないなと思いました。

四代目で見たい古典がほんとにたくさんありますし、四代目と大幹部、同世代(幸四郎~松也、梅枝くらいまで)の共演も見たいし、気鋭の作家と組んだ四代目の現代劇やシェイクスピアも見たい私にとっては、スーパー歌舞伎、5年に1回くらいでいい(それでも地方公演があるし)なんて言ったら、先代に怒られちゃいますかね。

ところで、今回の光るリストバンド、きれいでしたよ!また行くときに忘れないようにしなくっちゃ。

パンフレットも、いつもながらよかったです。役者の白シャツ写真と、三谷幸喜、赤川次郎、藤山直美、松任谷正隆、武豊、坂崎幸之助、大泉洋…といった有名人の方のエッセイが組になっていて、意外な縁に驚いたり。

四代目への福山雅治のコメントはとってもよかったですし、高橋洋には、演出家森新太郎が「クレシダ」のときのことを書いていて私的にはにっこり。

(追記)

その後、新型コロナウィルス感染症の影響で2020年3月の南座の全公演中止に伴い、20年4月ゲネプロの期間限定配信がありましたのでその感想。隼人、あくまで美しく、一段と成長を感じました。

八月納涼歌舞伎「東海道中膝栗毛」

201908yjkt   八月納涼第2部、「東海道中膝栗毛」です。来夏は猿之助がステージアラウンドで「ヤマトタケル」を上演するので、とりあえずは最後、初心に返って弥次喜多中心のお話になりました。

前回死んじゃったはずの弥次さん(幸四郎)、喜多さん(猿之助)は、それが夢だったと目覚め、改めて伊勢参りをすることにします。しかし、義賊を装った風珍、戸乱武の二人と顔がそっくりなところから、追っ手に追われることに…。

この悪党たちと、弥次喜多の早替わりが一つの見もの。ウソでしょ、とびっくりするようなタイミングで替わります。お面も使わず、涼しい顔しての早替わりは、さすが澤瀉屋のお家芸と、伊達の十役をやった幸四郎。替わればいいってもんじゃなくて(cf 七月の千本桜)面白いです。

そして、私としてはとても珍しい大敵の四代目が見られたのもうれしい。たぶん四代目のこういう役は、猿翁さんの復活狂言とかスーパー歌舞伎での一役といった形でしか見られないのでしょうが、元は女方というのを忘れそうな骨太の演技で、あくまでかっこよかったです。

御存知鈴ヶ森、切られ与三郎、女殺油地獄、一本刀土俵入、組討など、名作歌舞伎のパロディと、若手の活躍はお約束。浅草組は、実力をつけてきたのと同時に華も身に着けて、短い場面でも「おっ」っと目を惹きます。隼人の一瞬の殺気の美しさ、受ける新悟の色っぽさ。巳之助はいうまでもなく。児太郎、その場の皆が笑う中澄まして普通にセリフを言うのがすごい。鷹之資はもうかなり出来上がっていて、とろろ場でも目立つ衣装で引き立っていました。鶴松も登場したときにははっとするようなきれいなお蔦の形(オチあり)。虎之介ちゃんは意外にはっちゃけてよかったんですが、お顔の拵えがいまいち。育ちのよさそうな素顔の方がかわいいので惜しい。

そして第二の主役というべき染五郎、團子。染五郎の台詞がものすごくよくなっていて、やっぱり6月の風雲児たちで揉まれた成果だなあと思いました。二人ともすらりと、声も張っていて、とってもよかったです。

久しぶりの中車も、台詞、見得、舞踊ともにしっかり進化していて、努力を続けているんだなあと感心(3部も好評ですもんね)。こういう中にあって、最初出てきたとき誰かわからなかった(でもこのうまさは、と途中でわかった)笑三郎、藤山直美のようなかわいい顔になっている娘義太夫姿の猿弥、本役風なのにめちゃくちゃ面白かった門之助、ほかに弘太郎、笑也と、澤瀉屋の面々も持ち場でしっかり輝いていました。

そして七之助がちょいちょい出てくるんですけど、やっぱりこの座組では役者ぶりが際立っていて、声も大きいし、ありがたい感じがします。1部でたいへんなのに、こんなに出てくれるのは、幸猿との絆を感じてうれしいな。

終盤の本水。幸四郎なぜそうまで(というかバカでしょ)という奮闘ぶり。全体に、制作に入っている猿之助(今回は主演になってる!)がしっかり話を回しているんですが、二人とも惜しみなく体も使っていて、芝居を引っ張っていく姿にムネアツです。この二人でこんな大規模なおふざけはもう二度とみられないかもと思うと、感慨深い弥次喜多でした。

(2回目追記)

2回目は、花外の前方で見ました。花道での見得は後ろ姿になっちゃいますが、花道での演技がよく見えるし、役者さんが通るたびにいい香りがして楽しいです。至近距離で見た隼人の横顔が、文楽の人形のようにキレイで感動。弥次喜多が舞台にいる時間が長くて幸せ。日に日に染團の型が決まってうまくなっているのも感じます。

前回気づかなかった四代目の高麗五郎さんいじり、段之さん、猿三郎さん、猿四郎さん、くん、を認識しました。宗之助、わかってみるとひときわ声に力があってうまいなあ。

この日は、虎之介が自分で笑っちゃってましたが、出オチみたいなものなのに、キミの立場で笑っている場合じゃないぞ、と心配になりました。逆に巳之助の鬘プレイで全員笑いをこらえ切れないのに、健気に台詞を言う児太郎に拍手。

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  ところで、数日前から、木挽町広場~1階へのエスカレーターの両側に、このポスターが左右5枚ずつ掲示されています。二人とも超かっこいい!眉と目張りと衣装でここまで別人になるとは(喜多さんと比べてね)。この表情、「オレはやるぜ、文句あるか」、という、四代目の本質が表れているようで(でも意外と人に優しい)、最高ですね。「オグリ」、楽しみです。

中村達史「若手歌舞伎」 大西匡輔「歌舞伎のいま どの芝居をどの役者でみるか」

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  1986年生まれ、30代前半という若い中村達史さんの2017年出版の初の歌舞伎評論本「若手歌舞伎」です。詳しいプロフィールはわからないんですが、歌舞伎評論家の和角仁さんの指導で勉強中ということが、同氏による解説に書いてありました。

 「若手歌舞伎」という書名の通り、染五郎から梅枝までの花形役者についての役者論。といっても11人を110ページちょっとで書いているので、だいぶ駆け足です。

 この方、古典歌舞伎の技法を維持していってほしいということを第一に考えているようで、その観点から、彼らの名跡、受け継ぐべき芸と役と現在の状況について語っています。「演劇界」や新聞とのしがらみがないせいか(言い過ぎ?)、松緑の台詞回し等、それ言っちゃうんだ、ということも書いてあるのはいいんですが、全体としては、この著者にいい印象が持てませんでした。

ひとつには、人気者ばかりで読者は承知のうえと考えてあえて書いていないのかもしれませんが、その役者の魅力や美点についての記述が乏しく、もっとこういう役をやれとか、この役でこうしたのは失敗だとかのやや近視眼的な記述が多いように思えることです。私はとにかくこの世代がすぐ上・下と比べて圧倒的に好きなので、もうちょっと各人独自の魅力を踏まえて書いてほしいし、歌舞伎を楽しむ部分や役者への共感や尊敬が薄く感じられるのは、歌舞伎評論家としてもどうなのかという気がします。

歌舞伎の技法的な部分はよくわかりませんが、菊之助の立ち役の感想や、勘九郎の役の幅とか、七之助が勉強していないとか、松也の過小評価とか、海老蔵について書きながら、全く持ち味の違う十二代團十郎をいっしょくたにしているところとか、気になるところはいろいろあります。

四代目については、スーパー歌舞伎の承継者でなければならないことと、「客入りが何より大事」との言葉を額面通りに受け取りすぎで、その芝居に至るまでの、彼が表に出さない工夫や試行錯誤が見えてないように思います。「黒塚はすでに古典だから変えるな」なんて、たしかこの4月の歌舞伎座の劇評でも書いていたと思いますが、初代猿翁が「まだ足りないところがあるから完成させてほしい」と言い残した演目で、代々の猿之助が澤瀉屋としてさまざまに工夫することを止めることなど、誰にもできないというものでしょう。

最後の40ページほどは、最近の芝居でよかったものの劇評ですが、そりゃ吉右衛門さんの芝居になりますよね。襲名後の雀右衛門さんが役者ぶり大きくなったというのも誰が見てもそうですし。劇評の文体が年配者の借り物みたいでぱっとしないのも若いのに残念。

 

  201907_20190725072602さて、もう1冊は、1939年生まれの大西匡輔さんの2013年出版「歌舞伎のいま どの芝居をどの役者でみるか」です。著者は、長年高校の国語教員をされていたそうで、参考書の著書は多数ありますが、この本は、長年の歌舞伎ファンとして、「団塊の世代を始めとして、新しい世界に楽しみを見つけようとしている人に、歌舞伎という最高のエンターティンメントを楽しんでいる道案内をする」(あとがき抜粋)というコンセプトで書かれたそうです。2013年は歌舞伎座新開場で、歌舞伎が世間の関心を集めたときでもあります。

 なるほど、評論家ではない、歌舞伎ファンとしての目線で書かれていて、歌舞伎役者の世代が要領よく把握できます。第2部は作者毎に、主な演目の解説と、今のどの役者でみるかということが書かれているのですが、短いながらとてもわかりやすく、あらすじをさっと紹介する以上に立体的に芝居が理解できるようなものになっています。大西先生の授業はさぞ面白かったでしょう。作者毎の章立てというアイディアも、歌舞伎を大まかに理解するのに役立ちます。

神戸在住の著者は、やはり上方歌舞伎に思い入れがあり、江戸と上方の違いや、松嶋屋、とくに愛之助や成駒家等、上方に縁のある役者についての記述も多いです。ただ、この本の出版はわずか6年前なのに、その間の変化も大きいと感じます。例えば、坂東薪車について、御曹司ではないものの、自身の会をやり、上方にはなくてはならない役者として期待していることが書かれていますが、彼はその後、竹三郎さんからの破門を経て、今やすっかり海老蔵一座で欠かせない役者になってしまいました。

勘三郎・團十郎の早すぎる死のショックがまだ癒えず、三津五郎さんがまだお元気で、海老蔵が今より古典をやっていて、猿之助・勘九郎は襲名を機に飛躍しているという状況で、それがわずか数年前の話なんだなという感じがします。猿之助の四代目襲名に関しては、それにより亀治郎時代のように様々な役者と共演しなくなるくらいなら亀治郎のままでよかったとまで書いていて、なるほど当時はそう思われていたのか、と。

また、著者は、勘三郎さんが大好きだったためか、コクーン歌舞伎にも好意的。今の観客にはみどりは不親切である一方、通しは退屈になりがちで、その両者の欠点を補う、演出家の一貫した目による通しの再構成は意義があり、また稽古が十分行われる点がよいと。演出にもよりますが、私もこの意見には同意です。音楽は邦楽でやってほしいというのも同じですね。

巡業高麗屋襲名披露「口上」「双蝶々曲輪日記 引窓」「色彩間苅豆 かさね」

201907   高麗屋襲名興業の巡業東コースです。先月の歌舞伎座で25日まで「みたに歌舞伎」に出ていた出演者たち、5日後の30日から巡業が始まったわけですよ。始まってすぐから評判がよくて、楽しみにしていました。客席はぎっしりと満員。

まずは「口上」。白鸚さんの力強い滑らかな口上。猿之助(少し砥の粉な拵え。白鸚さんとの共演の話が主)、高麗蔵さん、錦吾さん(親の代から100年高麗屋に仕えていると!)、廣太郎、幸四郎、そして最後に白鸚さんが演目について、「親の口からいうのも何ですが、猿之助さんと幸四郎は若手歌舞伎役者ではとっても踊りがうまいからお楽しみに」という趣旨の話をされてました。

いよいよ「引窓」です。2017年3月に現白鸚さんの与兵衛、彌十郎の長五郎で見ていますが、もっと細かく筋を押さえておくべきだったなどという記憶がありました。今回は2度目のためか、白鸚さんの長五郎、幸四郎の与兵衛のきめ細かい心理描写がすんなりとこちらに入ってきて、とても見ごたえがありました。

人を殺めて逃亡中、実母お幸(幸雀)に会いに来た長五郎(大きくて立派)。温かく迎えるお幸と与兵衛の妻お早(高麗蔵)。さすが高麗蔵さん、元花街の女らしい華やかさと、姑とも仲良くやっている気立ての良さが表れていて、とってもよかったです。

そして与兵衛の幸四郎。町人から郷代官となってうれしさを母に伝える様子、長五郎のことがわかって苦悩し、結局助ける心の動きが克明で、根底に与兵衛の人の好さが、幸四郎さんっていい人なんだあとと思わせるほど真に迫っていてよかったです。

お待ちかねの「かさね」。噂には聞いていましたが初見です。ロンドンでも上演して、亀治郎のかさねは大好評だったんですよね。

逃げていた恋人与右衛門(幸四郎)を追ってきたかさね(猿之助)。チラシよりちょっと年増になっちゃったかな、とちらと思ったのですが、娘らしいかわいい仕草を見るうちに、すぐに一途なかわいい娘に見えてきました。藤間紫さんの型という赤い袱紗を使いながら恋しさを訴えるかさね。

一方、水も滴る色悪な幸さん。幸さん、先ほどの「いい人」な感じが一ミリも残っていない完ぺきな色悪がまた似合うこと。最近、圓朝さんの「中村仲蔵」を聞いたところだったので、豊かな言語表現で聞いた「色悪」が、お手本のような形で目の前に現れている、という感激がありました。

そして、鎌の刺さった髑髏を拾い上げてからの形相の変わったかさねの迫力!いろいろな型での絡みに、一時も目が離せず、これでもかと見物に見せつける四代目の面目躍如。猿之助・幸四郎の名コンビの一つの究極の形を見せてもらいました。

そうそう、かさねの清元には、栄寿太夫として右近くんが出てたんですよ(父延寿太夫さん、三味線の兄斎寿さんも)。普通に一員として出ていましたので、巡業の筋書にも名前のみで写真は出ていないんですが、伸びやかな高音は、舞台に目を集中していてもわかるくらいで、栄寿太夫の襲名披露よりずっとよかったです。

お芝居と物語性の濃い所作事というとてもいいバランスの、いい巡業だと思いました。

(追記)

「演劇界」10月号の劇評の、この巡業の項は、児玉竜一先生。「かさね」については、幸四郎が、どこかでいい人風を見せるようなことがなく、「花道で糸立てを取ったところから黒々とした悪役肚で、それが最後まで微塵揺るがない」、「猿之助のかさねが…面倒くさそうな女を徹底して体現する」、そして「すっきりと図太い幸四郎と、手練手管を尽くした猿之助と、両者の絡み合いの濃密なことは、近来無比といってもいい」、とまあ絶賛でした。ふふ。

六月大歌舞伎「月光露針路日本 風雲児たち」

201906_1   三谷幸喜さんがPARCO歌舞伎「決闘!高田馬場」以来、13年ぶりに歌舞伎の脚本を書いたことで話題の、六月歌舞伎座夜の部「月光露針路日本 風雲児たち」です。 高田馬場は何度もDVDで見ていましたので、歌舞伎座での観劇をとっても楽しみにしておりました。5月はお稽古で休演の幸四郎・猿之助は、余裕があったのか、バラエティに出まくってくれるし。

以下、ネタバレは控えめで。

 まず松也(眼鏡にスーツで教授風)の口上というか、前説。ある意味もったいないくらいの使い方で、声の良さに感激。しっかりお客を温めます。今日はzeroに出るのか。  

さてお話は、江戸後期、1782年に伊勢を出港し、遭難した神昌丸、17人の乗組員。初めて認識したのが(すみません)、二枚目の松十郎さん、幸蔵さん。さすがにこんなにいると、最初舞台がごちゃっとしているんですが、猿之助、愛之助は最初からそこだけピンスポットが当たっているようなオーラで際立っています。そして徐々に乗組員それぞれのキャラクターが立ってくるのは、群像劇が得意な三谷さんならでは。

一行は、オホーツク、ヤクーツク、イルクーツクとロシアを西進していき、とうとう光太夫は、ロシアの西端に近いサンペテルブルクまで達してエカテリーナ女王に帰国を嘆願し、認められます。17人の乗組員のうち、帰国できたのはたった2人でした…。

幸四郎の光太夫、最初のうちは自分のリーダーシップに迷いながら成長し、日本に帰るために皆を引っ張る役柄はぴったり。彼のキャラクターが一貫して造形されていることもあり、見る方もクルーと一緒に旅をしている気持ちになります。

四代目は、紅長的な、チャラチャラした役がおいしくて、公開稽古の取材では、「早く帰りたがる」なんて言われていたとは思えない、終始何かやっている力の入りよう。ラブリンはまたちょっと黒い役ですが、すっきりとかっこよくて。とにかく幸四郎とこの二人が舞台で何かやっているだけでもう私的にはうれしくて、ずっと幸せでした。

脚本は(常になく)早く上がっていたそうですが、やはりお稽古で当て書きの部分があるのか、どの役者さんについても、三谷さんの役者の使い方は最高にうまいです。高麗蔵さん、宗之助さんの高田馬場組はもちろん、彌十郎さん、男女蔵さんの使い方わかってる。彌十郎さん、野田版といい、こういう新作でほんとにいい味出すなあ。千次郎さん、鶴松くん、弘太郎さんも、稽古で膨らんでいったんだろうな。新悟ちゃんもかわいくて、新悟ちゃんでなければ成り立たない役。

染五郎くんが、三幕通して大活躍ですが、すごいお芝居上手になってて、美貌とか、ヒョロヒョロした雰囲気なども生かされていて、とてもよかった。白鸚さんとの絡みも、ドキュメンタリーで見た白鸚さんの厳しい指導を思い出します。

三谷さんのアイドル白鸚さんの、一幕の「黄金の日々」みと、三幕のポチョムキンの洋装のはまり具合と安定感と美しい台詞回し。CMなんてめじゃないくらい、若々しくて素敵。白鸚さんと幸四郎の場面では、二人が演じた「アマデウス」、なんで私見てないのかな、と思ってしまいました。

四代目のエカテリーナ、ポスター以上でしたよ!毛皮もあしらったゴージャスなドレス(さすが前田文子さんの衣装)、王冠、美しいデコルテ、前にすっと出てきたときの輝き、ポチョムキンの台詞への細かい反応。変身の時間があれと思うくらい短くて(顔色違うからたいへんだと思うんですが)、さすが早替わりの超上級者。

前後しますが、この宮廷のドレスの女性たちの美しいこと。猿紫ちゃん、りき彌くんが目を惹きました。竹三郎さんもかわいかった。

おっと、単身歌舞伎座に乗り込んだ八嶋智人、きっちり役割を果たしていました。見得の形もきれいなのは、ほんとに器用な人ですね。3月からこっち、ミュージカル「愛のレキシアター」、劇団かもめんたる「宇宙人はクラゲが嫌い」ときてこの歌舞伎座。観客数はそれぞれ1324、176、1808ですよ。それぞれ印象に残る好演で、事前から終わるまで面白いツイートでしっかり宣伝してくれて、なんて人。この役は松也でもよかったかもしれませんが、クルーとは異質な人間という意味で、はまっていました。

そして、3人の別れの場面。「なぜあそこで笑うのか」とおっしゃる向きもありますが、笑ってもいいんですよ。それだけたっぷりあるし、笑ったり感動したりしていく間に、盛り上がっていきます。ずっとシリアスだとそれに照れちゃうのが三谷さんだし、そこがわかっている、三谷さんの芝居をよく知っている3人。あのほどの良さが品がよくて素敵でした。ある種の俊寛。

実話だけど壮大なストーリーなだけに、歌舞伎とかミュージカルじゃないとショボくなってしまいそうで、歌舞伎座でこの座組で見られてよかったです。カーテンコール2回、何度もやらない歌舞伎座だけに、1回目から立ち始め、2回目はオールスタンディングでした。

【3幕目のみ幕見追記】

3幕目のみ、幕見に行ってきました。イルクーツクの場、エカテリーナの宮殿、そしてイルクーツクの別れ。エカテリーナ宮殿での愛之助にほろり(ここでのマリアンナのいい味)、そして豪華な謁見の場。

ドレスの貴婦人たちはもちろん、衛兵さんたちもみんな彫の深い顔にメイクしてて、立ち姿がすうっとしてかっこいい!一人一人もっとゆっくり顔を確認したくて時間が足りない!その間もポチョムキンと光太夫のやりとりに細かく反応するエカテリーナも見なくちゃいけないんですもん。

今回、やっとエカテリーナの背後に立つ小姓のくん確認。つか、あんなにすぐそばに立っていて、小姓役と知っていたのに目に入らなかったのは、猿さんエカテリーナ様があまりに神々しく光り輝いていたからなんですね。

イルクーツクの別れの場は、やはり2度目なのでじっくり見ることができて、3人の熱演と緩急にぐっときました。帰りたかったよなあ二人。間も数日前とは微妙に変わって、より効果的になっていたように思います。千穐楽まで、どんなふうに進化するんでしょう。

ところで、先日の一階前方席では気づかなかったんですが、愛之助と猿之助がマイクをつけているのがはっきりわかりました。全員がわかったわけではなかったんですが、いつも4階までちゃんと声が届くので、ちょっと驚き。三谷さんの細かい台詞を聞き取りやすくするためだったんでしょうか。そのうちに明らかになりますかね。

(おまけ・池田理代子「女帝エカテリーナ」)

201906_20190626234901 ところで、このお芝居、池田理代子先生の名作「女帝エカテリーナ」を知っているとより面白いです。タイトル通り、ドイツの貴族の少女だったエカテリーナが、ロシアの女王として君臨する一代記なのですが、国王始めダメ男しか知らなかった彼女が初めて恋した強い男がポチョムキン。二人が愛を確かめ合うとき、エカテリーナは、「もうこの広大なロシアを一人で治めなくていいんだ」と言うんですが、そのシーンが最高です。二人はそういう仲なのですよ。

 アンリ・トロワイヤの小説が原作なんですが、原作も面白いですがさすが池田先生という優れたコミック化でして、婦人公論だったかの連載なので表現も大人向けです。ポチョムキンは、エカテリーナとの恋が終わると、美形の若い男を女帝に与え、統治は続けるのですよね。その頃の話かな、などと思ってみておりました。

 

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