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四代目市川猿之助

新作歌舞伎「NARUTO」@新橋演舞場

201808naruto      ワンピースに続いて、少年ジャンプの人気コミックの歌舞伎化ということで話題の新作歌舞伎NARUTOです。ワンピースで活躍した巳之助、隼人をナルト、サスケに据え、G2さん脚本・演出、脇は澤瀉屋やワンピース歌舞伎の嘉島・市瀬で固め、ラスボスのマダラは愛之助・猿之助のダブルキャストで集客力アップ、セットにはお金かけすぎずという、採算をきっちり考えたと思われるプロダクション。

NARUTOのコミックは、家にあって途中まで読んだきりでしたが、きちんと説明があるのと、主な人物の関係や九尾の狐の件は記憶にあったので、わかりにくいこともなく見られました。

やっぱり、巳之助、隼人がキラキラしていていいです。巳之助はほんとに主役として安定。化粧も合っててとてもかっこよくて、動きもかわいい。パンフレットの写真はキメているんですが、ほんとは笑顔がナルトらしくて似合ってました。隼人は影のある役なんですが、ほれぼれする美形。こういうのも何ですが、声も多彩になって、うまくなってた感強かったです。二人とも、立ち回りほんとにがんばってましたし、本水場面もちょっと素の感じもよくて見ごたえありました。これを1日2回とは!

猿弥さんの自来也がいいのは当たり前として、意外性が評判な笑三郎さんの大蛇丸が初めて見る中性的な悪役で、前半ほぼ主役ではという大活躍。綱手の笑也もきれいでした。ワンピース組の、嘉島典俊のカカシ先生もよかったし、市瀬秀和のイタチはビジュアルも立ち回りのスピードもかっこよかった!梅丸のサクラもかわいかった。

猿四郎さんの3代目火影、國矢さんのカブト、段之さんのうたたねコハル、安田桃太郎さんの鬼鮫。

そして猿之助マダラ、最初その仮面の人物がマダラだとは思っていなくて(1幕<弥次喜多やってる時間>から出てたので)、仮面をとる動きに入るところでやっとわかって、驚いてしまったんですが、禍々しく、迫力半端なかったです。そのゆっくりとした動作、舞台の空気の持って行き方を知っているなあと感動。

納涼歌舞伎を見たばかりだけに、さっきまでチャラチャラ喜多さんと花魁の早替わりをやっていたはずなのに、見得の迫力、同じ人とはまったく信じられません。久しぶりに見るカーテンコールでは、上の階まで目線を配り、最後まで役のまま素に戻らないのもいつもの通り。しかしあくまで主役に敬意を払い、必要以上に目立たないのもこの人のあざといまでの賢さ(←好き)。

さて、作品というと、うまくまとめてはいるものの、コミックが長編で設定が複雑になっているナルトとサスケの生い立ちについて、舞台であんなに詳しく説明しなくてもいいのでは、という感じがしました。とくに2幕の説明は冗長で見せ場が少ない。九尾が入っててたいへんだ、というのでいいじゃないかと思うんですよ。役者さんたちを見るほうに忙しくて、ある程度わかっている説明がちっとも頭に入ってこなくて(すみません)。その意味でも、三忍が出ている場面のほうがおもしろかったです。大蝦蟇とかもっと出せばよかったのに。

そしてやっぱり音楽問題。立ち回り時や芝居のところでのバックの音楽がちょっと気になるんですよね。せっかく六太夫さんの語りもよかったし、歌舞伎の下座というのか黒御簾音楽もあるのに、録音エレキギターの音楽が逆に安っぽく感じます。

いろんな意味で、ワンピース歌舞伎の遺産でひとつ作り上げたって感じですかね。でも巳之助、隼人、梅丸はこれで自信をつけて、これからの活躍を見せてほしいと思いました。

(おまけ)

Reserve_2018_08_bento_naruto_ ギリギリに駆け込んだので、お弁当がお寿司しか残ってなくてどうしようと思っていたら、ナルト弁当とサスケ弁当は、予約販売できたんですよ。代金払ってチケットをもらうと、次の幕間で受け取るしくみ。殆ど時間のロスはないうえに、ご飯がほんのりあったかくて出来立て感。ナルト弁当はご飯少なめ、おかず多めでヘルシーで美味でした。

八月納涼歌舞伎第2部「東海道中膝栗毛 再伊勢参?! YJKT」「雨乞其角」

201808     納涼歌舞伎第2部です。弥次喜多第3作、これまでで一番面白い!と評判でしたので、待ち焦がれてました。買い足そうにも、2部は早々に完売していましたから。

幕が上がると、いきなり巨大な喜多さん(猿之助)の葬式写真がバーン、松竹座の女殺油地獄の片づけ中に油で滑って頭を打って喜多さんが死んだことを、皆が悲しんでいます。弥次さん(幸四郎)があまりに泣き続けるので、梵太郎(染五郎)、政之助(團子)は、お伊勢参りをして喜多さんとの思い出を辿るとともに、天照大神さまに復活を願おうといい、3人は再び旅に出ます。まだ成仏できない喜多さん幽霊も3人を追うことに…。

さて、前述のとおり、期待値はかなり上がっていたのですが、それ以上に最高に楽しめました。まず、七之助、獅童、中車の早替りが何度も。タイトルにも「早替り相勤め申し候」とありましたが、こんなにこの3人に無理やらせて、とおかしくて。また、3人の持ち味のバランスがよくて、そろっているだけで面白いんですよね。しかし、3部でも主要なキャストの3人、後半は出番がなくなっていて、配慮してるんだなと思いました。

猿之助の幽霊、最初の場面は待ってました、という感じ。贔屓目ですが、歌舞伎座の広い舞台が、猿之助ひとりに支配されたように見えてゾクゾクしました。いや、ほかの役者ばかりではなくて、ちゃんと自分の見せ場も作ってるじゃありませんか。花道の引っ込みもちょっと長めでうれしかったです。

そして花魁赤尾太夫!貼り眉なんで、アップで見ちゃうとアレですが、やっぱり豪奢な拵えの猿之助の女方を見るとそれだけでありがたい気持ち。幸四郎との絡みは、ああん吉田屋、籠鶴瓶、と夢が膨らみました。花魁で出るのはうわさで知っていましたが、こんなにたっぷり出てくれるとは。さすがに早替わりの本家だけあって、難易度の高そうな花魁・幽霊を驚異の早さで行ったりきたり。

もちろん、野次さんも、あの間抜けな顔とのんきな性格をつらぬいたままながら、軽やかにかっこいい場面もたくさんあって、さすが幸四郎のもともとの華やかさを活かしているなと思いました。

そして若手の舞踊!千之助の藤娘、超かわいいし、鷹之資、玉太郎のSUGATAコンビも「三番叟」を思い出してムネアツだったし、橋之助ほか成駒屋3兄弟も振りがよくて楽しませてもらいました、米吉も最年少花車方か。右近ちゃんがかわいくて、お芝居もしっかり入ってやっているのに感心。右團次さんの親バカぶりも無理ないんですが、それもパロってて最高です(なんで右團次さんが、普通撮れないアングルの写真をブログにアップしているのかがわかりました)。弘太郎・鶴松の犬猫コンビも達者でした。

ハチャメチャではありますが、染團のしっかり坊ちゃんたちがストーリーを押さえてて、あまり脱線しすぎないバランスもよくできているなと思いました。7月は27日まで松竹座だったのに、帰ってきてからお稽古して演出して、と猿之助の頭の中はどうなっているのか(もちろん幸四郎も超人か、ですよね)。

第3部はシネマ歌舞伎にならないそうで、ファンはがっかりしているんですが、これまでのようにシネマ用にがっつり編集しなくていいから、記録映像としてDVD三部作買わせてくださいよ、松竹さん。

さて、2時間弱のやじきたのあとは、「雨乞其角」。其角(扇雀)が雨乞いをする短い舞踊ものです。

ちょっとコテコテした弥次喜多の後で、すっきりとした夏着物の扇雀さんに、船頭 歌昇、とさわやかな夏の風が吹くような舞台。彌十郎が芸者新悟、廣松を船に乗せて行き会います。

最後は若手と其角が踊りますが、評判通り、鷹之資が目を引きます。多数の若手の中からいい役がついて、ファンがつくというのはたいへんなことなんだな、とちょっと思ったりして。

七月大歌舞伎「御浜御殿綱豊卿」「口上」「女殺油地獄」@松竹座

201806_4      松竹座での高麗屋襲名興行、昼夜通しの夜の部です。昼よりよいお席。

まずは「御浜御殿綱豊卿」。初めて見たときはセリフばかりであまり面白くない印象だったんですが、前回仁左衛門丈と染五郎丈で見て、セリフが入ってくるのに驚きました。今回はその上を行く感動でした。

まず綱豊の側室お喜世(壱太郎)が隠す手紙を見せよと迫る浦尾(吉弥)、助けに入る江島(扇雀--貫禄ありました)。

綱豊(仁左衛門)が新井勘解由(歌六)と大石たちについて話す場面。さすが歌六さん、こういう勘解由、この綱豊との会話が見たいと思っていました。理詰めのやりとりの後で、討たせてやりたい、と述懐する綱豊。仁左衛門さんの綱豊、なんていうのか、物語の中から飛び出して骨肉をまとっているというか、現実にはいないけれども、でも目の前に実在する感があって、すごいなと思いました。

お喜世の兄富森助右衛門(中車)登場。のっけから、隙あらば吉良暗殺のための情報を得ようと抜け目なく見回します。染五郎で見たとき、仇討ちに思いつめる青年助右衛門の決定版で、綱豊とも対照的でいいなと思ったんですが、中車の助右衛門は、おじさんではあるんですが、その一途さ、覚悟、綱豊に一歩も引かない意地が見えて、だからこそほとんど動きのないセリフ劇に緊張感があって、とてもよかったです。

ちょっと声がかすれているし、歌舞伎の技術がもうちょっとあればという気もするのですが、この緊迫感は、さすが役者としての実力だと思いました。

綱豊卿は、大石内蔵助が仇討ちをするつもりなのかどうか、言葉をつくして助右衛門につめよるのですが、その会話から浮かび上がってくる大石という人が、「祇園一力茶屋の場」(最近TVでも見たばかり)での姿や、「判官切腹の場」での判官と大石との別れが思い出されて、より胸に迫ります。歌舞伎にはこういう楽しみもあるのだなと思いました。

次は「口上」です。藤十郎さんの読み上げから、皆さんの口上が続きます。猿之助丈は上手側、白鸚さんとも、もちろん幸四郎さんともさんざん共演していますし、口上には出られなかった1月のことを思えば、いろいろ思いはあると思うのですが、なんと高祖父二代目段四郎と七代目幸四郎の縁を話すという内容。目立つ人が一切自分のことは言わないのが、逆にどれだけ幸四郎さんを思っているか、と思いました。最近お顔が丸くなったといわれていますが、丸いというより、青年を脱した貫禄をにじませていましたよ。

夜の部は口上だけの白鸚さん、とても力が入っていて美声を聞かせていました。37年前の三大襲名の際の初代白鸚さんは、すでに体調が悪く、その後まもなく亡くなられていますが、当代はますますお元気で、新たな境地を開きそう。

さて、お待ちかねの「女殺油地獄」。

野崎詣りに、子どもの手を引き、赤子を抱いてお吉(猿之助)登場です。着物の下のちょっとむっちりした感じが、とても色っぽい。といって、あくまで気のいい女房、やんちゃな(この時点では子どもっぽい、無邪気な若者)与兵衛(幸四郎)を、身内のように、ちょいと気に入っている感じが絶妙。

河内屋の場。母おさわ(竹三郎)、継父徳兵衛(歌六)が絶品。4月のワンピースではややお元気なさそうに見えた竹三郎さん、来月には86歳になられるとは見えない肌のきれいさ、セリフも力がこもっていて、ワンピースとはまた違った猿之助丈との共演を楽しんでいるように見えました。

ここまで、ちょいちょい笑いが起きるのは、むしろその後の悲劇と対照的で私は結構好き。幸さんの持つ、天性のボンボンぶりとか明るさがとっても合っているなあと思いました。だいいちかっこいいしね(ポスター見てください)。

あっという間に、殺し場です。見る前は、猿之助丈の左腕を打ち付けないかなどと気にしていたのですが、あまりに自然で、ほとんど気にならずに舞台に集中できました。殺して金を奪っても、その先は見えないのに、なんと刹那的な与兵衛。二人の動きがピタリと決まり、滑るところが動きとしておかしいのはそれとして、陰惨な殺し場が様式美に昇華していました。いい母親でしっかりした、幸せだったお吉が「死にとうない!」というのが何とかわいそうだったこと。

昼の勧進帳も大健闘でしたが、やっぱり幸四郎丈のニンは仁左衛門さんに近いような気がして、というか、ニザ様の当たり役をやってほしいと常々思っているんですが、そういえば口上でも父とニザ様に挟まれていたのをほほえましく見ていたのでした。

ドラマ「ブラックペアン」

201806     TBS日曜劇場「ブラックペアン」は今日最終回でした。ニノのドラマはほとんどハズレがないし、なんたって猿之助がレギュラーで出る、久々に内野聖陽も、ってことで初回からきっちり毎週見ましたよ。

外科医渡海(二宮和也)は露悪的な天才外科医。さすが雰囲気つかむのうまいのと、芝居にメリハリがきいてて、よかったです。

初回、第2回と手術シーンに驚かされて、しかしその後は失敗手術にニノが出てきて鮮やかにフォローして患者を助けるという、ワンパターン(患者や家族のキャスティングがバラエティに富んでいて面白かったですが)。ブラックペアンの秘密解明はなかなか進まないし、佐伯教授(内野聖陽)もさほど出番ないし、むしろ一生懸命な研修医世良くん(竹内涼真)と、意外といい人で、教授たちからあれこれ無理言われて眉間にシワを寄せる高階先生(小泉孝太郎)の方が主役みたい。

しかし、やや強引ながら、最終回、全ての謎を解明してくれて、すっきりしました。「ブラックペアン」ってそういう意味だったのかあ。原作読んでいた人は全てわかっていたんですか?読んでなくてよかったです、面白かった。

それにニノが、最終回にいろいろな表情を見せてくれて、ちゃんと主役としてドラマを引っ張っていたのがよかったです。比べては申し訳ないですが、部屋でうろうろするばかりで、最後は浅野忠信に持っていかれた「A LIFE」よりはずっとよかったですね。

いや、2回見たら、さすが内野聖陽は迫力ありましたね。セリフの重みがちがうし、ちらっとでしたがアフリカのワイルドな佐伯教授もかっこよかったです。こう持ってきたくて、これまで抑えめだったのか。

最後までいいところのなかった黒崎教授の橋本さとし。ほんとにミュージカルで主役やってる人?そしてあのステージアラウンド第2弾のメタルマクベスに出る橋本さとしだよね?(いや、間違えるとしたら橋本じゅんだからちがうし)。変貌ぶりが楽しみです。

ところで、わが西崎教授(猿之助)、わかりやすく傲慢で、「実は」的なところのない敵役。自らカエサルを操作する回では、秀才のプライドとか、頭のいい人が失敗しておろおろする感じがリアルで、客観的にはみっともなくてなかなか見ものでした。しかしなあ、私が歌舞伎をみたことのない「ワンピース」ファンだったら、こんなイヤミなおじさんがやるルフィなんて誰が見るもんか、って思いますね。

シネマ歌舞伎「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖」

201806     去年の納涼歌舞伎第2部の「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖(こびきちょうなぞときばなし)」のシネマ歌舞伎版です。

去年は歌舞伎座で見た1作目はシネマ歌舞伎のみ)ので、感想もまったく同じですが、マイクできっちりセリフを拾っているせいか、各人の見せ場がよりくっきりしています。寿猿さん、竹三郎さんから、金太郎・團子、そしてお弟子さんたちまで、みんな持ち味を生かしてもらってます。

作・演出の猿之助は、その立場と狂言回し的な役割りからか、ショットが多くて満足。本当に気を抜くことなく、盛り上げるのにがんばってます。ふと見せる所作がきれいで、染さんともども華があって楽しいです。二人で無邪気にぴょんぴょんするのはかわいかった!

そしてやっぱり「四の切」絡みの場面は楽しい。巳之助、隼人、そして新悟がそれぞれ四の切の見せ場を持たせてもらって売り出しているのもさすが猿之助、ワンピース歌舞伎の前宣伝だったかも。

高麗屋襲名で一気に美少年ぶりが評判になった金太郎(現染五郎)ですが、若様の衣装がよく似合ってます。しかし、美少年というか美少女ぶりが気になるのは千之助ですよ。どこから見ても、玉さまをかわいくしたような美しさ。

結末は盛り上がると評判だったB。結局Bしか見られませんでしたが、児太郎の快演が再び見られて満足。

ま、歌舞伎を見たことのない人にとって、面白いかどうかはわかりませんが、主な役者がわかって、御曹司が誰かも知っていて、四の切を見たことがあって、さらに猿之助ファンだったらとっても楽しめるご褒美みたいな作品ですね。

今年のの納涼も楽しみです。千穐楽で「名前が変わっても一緒に飛ぶ」と言っていた二人ですからね。

「スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース」@大阪松竹座

201804    猿之助復活のワンピース歌舞伎@大阪松竹座、行ってまいりました。あの大怪我から復活した舞台を見届けたい、と。熱心なファンの方は複数回遠征も当たり前ですが、自分としては、大阪まで行くなんてびっくりです。

初の大阪松竹座、なんばの賑やかな一角にあります。東京の歌舞伎劇場と比べると、間口が狭く、こぢんまりとした印象。大正時代につくられたレトロモダンな大理石の建物(中は平成に改装)もステキ。

そして行った甲斐はありました。猿之助丈はキラキラと、本当に楽しそうに大活躍でした。1月も2月もほんの短い出演だったので、これだけたっぷり、生き生きとした本来の姿を見て、本当にうれしかったです。

ワンピース歌舞伎自体は昨年の再演も見ていますが、猿之助ルフィは初演時以来。そのときは、ワンピースが歌舞伎になるなんて、とやや懐疑的だったので、コミックのキャラクターの再現度の高いほかのキャストに驚きすぎて、それに比べ、猿之助ルフィはさほどでもないように思っていたんです。

しかし、「ワンピース歌舞伎」のルフィを見慣れた今は、彼が歌舞伎の手法を様々に使って、まっすぐな純真なルフィを演じ、私たちの心を揺さぶってくれるのに感動しました。毒にやられた病ルフィの魂っぽさ、透き通って見えるような感じがしましたし、ここぞという時のキメのエネルギー。!「なおったー!」「やったー!」のかわいらしさ。宙乗りのときのうれしそうな顔!

ハンコックがきれいになっているというウワサだったんですが、確かにカツラと化粧のためもあって、きれいでした。きっと「右近のハンコックきれい」という声をきいて、負けず嫌いの血が騒いだんだわ。タカピーキャラと早変わりの鮮やかさはもちろん見事。

心配していた左腕ですが、アマゾン・リリーのダンスの振りは変わっていたような気がしますが(いつもはここで踊りの達者さが印象深い)、後は、素人目にはほとんど気づかず。斜め上にもパーンと上がっているし、今は前ほどの力は入らないのかもしれませんが、きっと完治して素晴らしい舞踊を見せてくれるはず、と確信できてほっとしました。

昨年10月、怪我をしたときは、再演始まってすぐで、2か月間の公演のこと、そして順風満帆だった自分の役者人生のこと、心中はどんなにかと想像もつきませんが、伝え聞く限り(ワンピース歌舞伎関係者はブログやTwitterの発信がお弟子さんたちも含めたくさんなので)、あくまで明るく周囲を励まし、無理はしないものの、アンコール出演などできる限りの公演サポートをしてきた猿之助。そして、ここまでの回復をアピールしてくれて、「開放骨折しても痛くない」なんて台詞まで言って、でも、芝居を壊すほどのネタにはせずその具合が程よいのもさすが…改めて、凄い人だと思った次第。

(この舞台の脚本を書いた横内謙介さんが、ブログで再演初日の思いを熱く書いています。ファンなら泣けちゃう。l)

そしてますますパワーアップしたキャストたちが、本当にそれぞれの場面で輝いていました。隼人は自分をかっこよく見せるという点で一段進化していて、惹き付けられましたし、巳之助は何度見てもいいし(「NARUTO」も楽しみですね)、新悟、右近もいうまでもないですが、笑三郎、猿弥、門之助そしていいところで出てくる右團次が説得力ある台詞と存在感で舞台全体を締めます。さすが澤瀉屋。

脇の役者さんたちみんながレベルアップしていて、たとえばインペルダウンのやり取りなども普通のお芝居として見てもクォリティ高し。ダンスもうまくなってるし、アクションチームも素晴らしかったです。みっくんボン・クレーの花道の引っ込みの海軍の方もすごかった!

さて、今回クルーに初参加の下村青(あお)さん。四季で長くメインキャストを演じた方(時期的に「美女と野獣」のルミエール見てるかもしれません)ですが、まだ間もないせいか、少し硬い感じ。浅野イワンコフにない、グラマラスな魅力と、ミュージカルな歌と、素晴らしいバトンパフォーマンスがあるんですから、もっと振り切れて、と思いながら見てました(ま(浅野さんが希代の名優なだけにたいへんだと思いますが)。ちょっと古田新太の「ロッキー・ホラー・ショウ」をほうふつとさせるんですよね。青さんのブログを見ると、猿之助丈が初参加の彼に細やかな気遣いをしているのが感じられます。ファントムは、自分がやりたかったんだろうな。

松竹座のお客さんたち、まだ初見とか、初歌舞伎といった方も多いようで、台詞への反応も新鮮。2幕、3幕にかけて盛り上がっていくのが感じられて、とっても気持ちよく観劇できました。お客さんが盛り上がると、キャストも元気が出そう、大阪も名古屋もお客さんがたくさん入りますように。

大河ドラマアンコール「風林火山(2007)」

2017    昨年4月から放送されていたBSの大河ドラマアンコール「風林火山」、2007年の作品です。6月、猿之助強化月間((笑)から見始め、途中録画の抜けなどもありましたが、今月の最終回まで見ました!

「新選組!」もそうですが、2000年代は「どうぶつ奇想天外」を家族で楽しんでいたので、この時期の大河はほとんど見ていなかったんですね。内野聖陽も亀治郎も知らなかったし。紅白でGACKTがあの謙信の扮装で出てきたのがかっこいいけど異様だな、と思った記憶があります。

お話は、武田信玄(亀治郎)の隻眼の軍師山本勘助(内野聖陽)の武田家への士官から、川中島の戦いでの死までを描く戦国ものです。全体に男臭いドラマで、信玄の父信虎(仲代達也)、家臣千葉真一、加藤武、高橋和也、高橋一生、竜雷太、田辺誠一、今川家の谷原章介、伊武雅刀、そのほか松井誠、小日向文世、永島敏行等、画面が男くさいこと。

戦国武将とその家来を入れると、登場人物は多く、細かく見ていくとその後売れた人も多くて、昔からNHKはいいキャスティングしているな、と思います。個性的なおじさん役者たちを見るには楽しい大河でした。

しかし、ドラマとしては、中盤の(井上靖の原作小説では中心の)、信玄の側室由布姫(柴本幸)に対する勘助の思慕のくだりが決定的につまらないんですね。ストイックなまでに役作りをしている内野聖陽に対して、当時新人女優の由布姫の拙さ。なんでこんなに熱くかっこいい勘助が由布姫にという感がぬぐえません。そしてよく言われているらしいのが、佐藤隆太の妙な使い方。暗くて彼のよさを殺しているようで、ずっと出てるわりには意味不明でした。

ただし、GACKTが出てきてから、今のゲームやアニメ人気を先取りしたようなメイクとざんばら髪の美形謙信で、それなりに見てて面白かったです。ミスター大河、緒形拳の軍師がまたちょうどいい存在感に抑えていたところがすごいと思いました。

さて、亀治郎。これがドラマというか映像初出演ですよ。プロデューサーが「NINAGAWA十二夜」を見て決めたという話もありますが、そんなまさか。30才そこそこで図々しいけど魅力的な中年女を演じたあの舞台を見て、信玄にキャスティング、というのが信じられません。NHKに「亀治郎の会」の相当コアなファンがいて、何とか彼をメジャーにしたいと画策したのかなと想像しちゃいます。まあ、伝統芸能枠では、和泉元彌や橋之助(現芝翫)、海老蔵等が大河に主演してますが。

当時の亀治郎の評判はかなり悪いといっていいでしょう。大河ファンからは、見たことのない歌舞伎役者が大げさな演技で浮いている、とか、ブサイクだとか、カピバラみたいだとか(ショック!)。

若い頃はちょっと声の出し方もへんに見えるんですよね。何より、当時まだ女方が中心で華奢な亀ちゃんと、大柄で表情の乏しい由布姫の取り合わせが、なんとも。一応英雄色を好む設定で、由布姫も信玄を憎みながらも愛し…っていうのがかなり無理がありました。

しかし、中盤からは、徐々に貫禄が増していき、勘助とのツーカー感も気持ちよく、川中島前に出家した頃には、異様な凄み。「カメ流」には、スタッフと仲良くなって、カメラさんもよく映してくれたと書かれていましたが、そうかもと思えました。そうなる背景には、香川照之が、よろしくとあいさつしてくれたり、こまめにアドバイスくれたりしたそうで、猿之助はたびたび彼への感謝を書いてます。

そして、キャストをよく見ると、その後も共演したり、なかよくしている役者さんがいます。佐々木蔵之介(←この蔵さん、ほんとに合ってていい役です)、高橋一生(このドラマではそんなに目立ってはいないんですが、亀治郎は「カメ流」で、長いキャリアと実力をひけらかさない、難しいことをさらっとやる人、と絶賛しています)、佐藤隆太、池松壮亮、ワンピースの市瀬秀和、嘉島典俊。嘉島演ずる弟との別れは、1年間演じてきた絆を感じる熱いものでした。とにかく、この「風林火山」がなかったら、今のような猿之助の活躍はなかったか、もっと小粒なものになっていたでしょう。

その後の亀治郎=猿之助は、映像でも違和感なくしかし個性を発揮できる俳優となり、(まだ見ていない作品もたくさんありますが)「超高速!参勤交代」の吉宗は気品と包容力のある将軍だし、「花戦さ」は猿で我儘な秀吉だし。驚いたのは最近見た「龍馬伝」の龍馬暗殺下手人今井信郎役。幕末や明治の写真で見る、小柄で淡白な容貌ながら凄みのある日本人そのもので、あの画面からほとばしる異様な殺気、同じくらいの質量感のある従弟香川照之とのにらみあいはゾクゾクしました。

さて、「風林火山」では、父上、段四郎さんも天皇役でちょっとだけ出ているんですが、特筆すべきは関東管領を演じた左團次さん。享楽的で自分勝手な役柄にはまっていて(すいません)、意外に美形で最高でした。

草刈民代×古典芸能のトップランナーたち「舞うひと」

201803     草刈民代さんが、舞踊をテーマに、古典芸能のスターたちと対談する和の文化雑誌「なごみ」の連載の単行本化、2017年9月発行の本です。実はこの本、先日行った国立能楽堂のロビーで売られていまして、誰が出てるのかな、あ、宗家(藤間勘十郎さん)だ、歌舞伎は菊之助ね、やっぱり萬斎さんもか、あーー!猿之助出てる、って買いました。

ほかに、日本舞踊は藤間勘十郎さん、花柳寿楽さん、井上八千代さん、能楽は観世清和さん、梅若玄祥さん、人形遣いの桐竹勘十郎さん、琉球舞踊の志田真木さん、雅楽の多忠輝さん、そして舞踏の麿赤児さん。

各々の舞踊の特徴や、踊るときの気持ち、体の使い方について、草刈さんがバレエと比較しながらいろいろなお話を引き出すのが面白いです。しかし、印象に残ったのは、踊りには心が一番大事だという趣旨のことをおっしゃる方が多いこと。技術や華を身に着けて輝いているからこその言葉なのでしょう。

さほど見ていない文楽でも好きな桐竹勘十郎さん、足遣い時代の話が面白かったです。雅楽の多(おおの)さん、なんと神武天皇の末裔、バイオリンから和楽器、舞踊までをなさる宮内庁雅楽師、という謎の世界。そして神事につながる能楽。

大御所というよりは、今才能と努力が花開いている油の乗った盛りの方々ばかりで、それが浅井佳代子さんのモノクロの写真にくっきりと映し出されています。草刈さんと並んだ写真も堂々と立派ですが、何枚か、その場の素踊りで見せる体の形の美しさ。

見たことのない方もいるのになぜそうはっきり言えるかというと、見慣れた猿之助丈の、自信に満ちたその表情の美しいこと。歌舞伎座の稽古場で、紋の浴衣に薄物の羽織を羽織った姿がまたちょうどいい感じにリラックスしていて。踊っている写真も完璧です。この写真だけでもこの本、価値があります(オレを美しく撮れ、というオーラがあふれ出てます)。

ただ、猿之助丈との対談は、歌舞伎役者たちがワンピース歌舞伎での洋舞にどう戸惑ったかといった話が中心で、興味深い話ではあるんですが、ワンピース歌舞伎の本で読んでいたので、ご本人の舞踊の話をもっとしてほしかったな、と思いました―― ああ、でもあの大怪我のことを思うと胸がつぶれるんですが。

最後は、あの麿赤児さんですよ。舞台の怪物のような迫力あるたたずまいでした。

高麗屋襲名披露二月大歌舞伎「熊谷陣屋」「壽三代歌舞伎賑」「仮名手本忠臣蔵七段目」

201802_4     高麗屋三代襲名歌舞伎座興行の二か月目、夜の部です。まずは幸四郎「熊谷陣屋」。昨年4月に先代幸四郎の熊谷、先代染五郎の義経で見てますね。

相模が魁春、藤の方は雀右衛門と、立派な奥方二人。今回は二人が子の生死にどう反応するか、きめ細かい演技をじっくり見られて堪能しました。義経は菊五郎、さすがの貫禄、弥陀六は当たり役左團次、さらに堤軍次(鴈治郎)、梶原平次(芝翫)、義経の家来たちに隼人、巳之助、萬太郎、歌昇という豪華さ。

さて、肝心の幸四郎熊谷ですが、所作は美しく、悪くはないんですが、なんとなく声が小さくて迫力に欠ける感じがしました。もともと私、この演目好きじゃないんだと思います。高麗屋の当たり役かもしれないけど、そんなにやらなくてもいいんじゃないですかねっ。弥陀六の長台詞で少しうとうとしちゃいました。

201802_5 二月の祝幕は、幸四郎が直接手紙で頼んだという草間彌生のデザイン(頼めばやってくれるもなのか、と驚きました)。大きな幕いっぱいの3つのデザインの鮮やかさ、草間彌生という人は本当に天才だと思いましたし、彼女の代表作のひとつともいえるのではと思いました。この大襲名にふさわしい、一見の価値ある祝幕だと思います。

次は「壽三代歌舞伎賑 木挽町芝居前」。両花道を使っての、大幹部花形総出演でございます。一人だけわからないーと思ったのは東蔵さんでした。立ち役に比べ、女方は友右衛門さんとか梅枝ちゃんまで出ていて、不足気味なんだなと思います。

猿之助は高麗屋番頭役。こういう演目なのでせりふは一言ですが、いかにも高麗屋の身内のように腰低くしています。風呂敷包みを左手で自然に持っていて、ちょっとほっとしました。持っていても不自然ではないですが、持つ必要もないもので、もし、これで目立たないように「左手大丈夫だよ」とファンに知らせてくれるつもりだったとしたら、ちょっと恐ろしいです。そう思った瞬間になんか鳥肌たっちゃいました。

201802_6    最後は「仮名手本忠臣蔵七段目 祇園一力茶屋の場」です。由良之助(白鸚)の茶屋での放蕩の場面、あんなに人が多かったでしたっけ。時事ネタも入って面白かったです。

力弥の染五郎。前回の三代襲名で父幸四郎が8才で演じた役で、その映像を見るとかわいい中にもきりっとうまかったですが、当代染五郎も、先月の義経を演じた余裕か、立派な力弥でした。ここで由良之助は、少しだけ本来の立派な姿を見せます。

斧九太夫(錦吾)、鷺坂伴内(高麗五郎)は、真面目すぎだと思うんですが、しかし、この高麗屋襲名の歌舞伎座興行で、先月の幸右衛門さんといい、お弟子さんたちに大きな役をつけるというのは(錦吾さんはそういうことではないかもしれませんが)、長年の貢献への感謝が感じられてじんとしました。

そしていよいよお軽(玉三郎)登場。ほんとに美しい。手紙を読まれたことに気づいた由良之助が二階から降りてこいと手伝う場面、もちろん本意はほかにあるわけですが、それでも目の前のお軽の愛らしさに、まんざらでもない気持ちが溢れていていいです。あの「かわいい」は台本になかったのではという自然な呼吸でした。
平右衛門(仁左衛門)の若々しさ、一途さ。足軽とはいえ、奴なので、2016年国立劇場の又五郎さんのイメージが強かったんですが、どうして、このかっこいい平右衛門。

何より、長年の名コンビである玉三郎とのもう、なんとも言えない関係。「久しぶりだな」という甘やかなセリフ、二人に通い合う情愛、素直でかわいいお軽。平右衛門の刀を怖がるお軽の、これでもかという繰り返しが、自在なアドリブを見るようで、本当に面白かったです。思えば玉三郎さんって、「孤城落月」とか「天守物語」とか「瞼の母」とか「楊貴妃」とか、エキセントリックだったり人間超越したりという役を拝見することが多く、こんなに共演者との呼吸で見せる芝居は初めてだったかもしれません。七段目って、こんなに面白い段だったんだ。

最後に由良之助。国立劇場の通しでは、切腹する判官(梅玉)にやっと間に合って、絶対に仇討ちをすると誓う由良之助が現白鸚さんでした。本来の姿に立ち返った由良之助にあの涙の誓がよみがえり、もう感動。大満足の打ち出しでした。

(追 記)

この七段目があまりに面白かったので、偶数日の海老蔵菊之助はどうだろうと、幕見で行ってまいりました。

いやー、菊之助、美しかった。やっぱり女方としての美しさでいったら、今一番ではないでしょうか。どの場面も絵になります。そして、菊之助自身のもつ真面目な人柄が、お軽に合ってるなあと思いました(2016年の国立劇場でも、五、六段目のお軽は菊之助、七段目は雀右衛門だったんですが、七段目も菊之助で見たかったと思っていたんです)。

そして久しぶりの海老蔵、どんな扮装でも整った見栄えのするお顔立ち、とても足軽には見えませんが、どこまでも気のいいお兄ちゃんで、こういうのもなんですが、なかなかがんばっていると見えました。

それにしても、二人の間の特別な親しみというか、ニザ玉の濃密な関係のようなものがなく、(ほんとは同い年のこの二人には、特別感があってほしいんですが)、何だか通り一遍のような。刀のくだりも何でニザ玉では、あんなに笑えたんだろうと思ってしまいました。

同じ演目なのに、2016年の国立では平右衛門がやっと仇討ちに加えられたことへの拍手、今回のニザ玉さまは、お軽のけなげさ、そして海老菊は最後の由良之助の貫禄と、主役が変わって見えるのも面白いと思いました。

中川右介「海老蔵を見る、歌舞伎を見る」 小玉祥子「二代目―聞き書き中村吉右衛門」

201801   中川右介さんの新刊(1月26日発売)売「海老蔵を見る、歌舞伎を見る」です。

中川氏、歌舞伎ファンからはどうも評判が悪く、2013年出版の「歌舞伎 家と血と藝」も何と下世話ななどと言われていましたが、歌舞伎を見始めたばかりの私には、歌舞伎役者の家系が一気にわかってたいへんありがたい本でした。この新刊も気になっていたところへ、猿之助が重要人物として取り上げられてるなんていうのを見たものですから、つい買ってしまいました。

本文の前半は、最近5年ほどの海老蔵の舞台と私生活、後半は猿之助、歌右衛門家、高麗屋、音羽屋…のそれぞれの動向です。12月の舞台の話まで載っているのは、出版界もスピード化されているんですね。私が歌舞伎を見始めた頃からの話なので、登場人物は知っているし、でも地方公演はもちろん東京でも見たことがないものの方が多いので興味深くはあったんですけれども。

まあ、海老蔵が好きなのは自由ですけど、(私が歌舞伎を見始めて一番驚いたのは、海老蔵のオーラや容姿はともかく、なんか違う方に努力している、という声が多いことと、それでも歌舞伎座に長年通うマダムに海老蔵ファンが多数いて、チケットがとりにくいことでした)、海老蔵が好きというと「スターウォーズやカラヤンを好きというのと同じように『分かってない』と言われてしまう」というのは、それこそちょっと違いますよねえ。

それはいいとして、歌舞伎座出演の役者や、誰が座頭かとか演目の選び方とか、松竹の内部事情はプロとしてご存知なんでしょうか。取材された内容だったら、知りたいんですが、海老蔵や中村兄弟は別に売った方が儲かるなんて、ちょっと見てれば誰でもわかるし(役者さん自身もトークで言ってたりします)。

芸については語らないと言いつつ、「華がない」「客が呼べない」といちばんキツイことを、今の役者さんについて書くのもどうかと思います。ってことで、何しに読んだんだ、という話でした。

201801    直後に読んだのが、毎日新聞のベテラン演劇記者小玉祥子さんの「二代目― 聞き書き中村吉右衛門」です。2009年出版の単行本に最近の動きを加筆して2016年12月に出版された文庫版。

吉右衛門さんは最近毎月のように見ていますが、恵まれた容姿に豊かな声、どの役も渾身の覚悟が伝わってくるようで、それは見事です。この人間国宝がどんな風に形成されてきたか、誕生からこれまでの歩みを、吉右衛門さんのインタビューはもちろん、家族や師匠、亡くなった大名跡の本等から、くっきりと描き出す本になっています。

吉右衛門さんといえば、父は八代目幸四郎、母は名優初代吉右衛門の一人娘。兄が幸四郎家を継ぎ、弟が祖父の養子になり、吉右衛門を継ぐのが、生まれた時からの宿命でした。自分だけ養子に出されて屈折し、実家を継いだ兄にわだかまりがあった、という風なことを目にすることもあるのですが、この克明な聞き書きを読むと、養子に出されたと言っても実家で暮らしており、親の愛情を奪われたというわけではありません。吉右衛門さんがストイックなまでに芸にまい進するのは、もともとの寡黙でまじめな性格と、たった10歳で偉大な先代を失い、その名優の後を継げるかと思い悩んだためだと理解しました。

ミュージカルやストレートプレイ、ドラマで多彩な活躍をした兄白鸚と対照的のように言われますが、吉右衛門さんも少年時代からさまざまな舞台や、多少は映画にも出ており、兄や山田五十鈴、岩下志麻など大女優たちと共演しています。それは、この一家が父初代白鸚とともに一時期松竹を離れて東宝に移籍し帝劇をホームにしていたためで、兄(当時染五郎)は、東宝ミュージカルのスターになりますが、吉右衛門はミュージカルはオーディションに落ち、もっと歌舞伎がやりたいという気持ちもあって松竹に戻ります。

アメリカの地方で歌舞伎巡業をやったこともあり、歌舞伎の普及に対する思いや、役への掘り下げ方、美しい奥様のこと、そして若手では唯一菊之助のことを語ったりしています(じゅふたんへの愛情も)。

吉右衛門さん、声変わり期は苦労し、その後も声が出なくて、竹本で修行するなどしてあの豊かな声を獲得したそうです。今の染五郎くんもそうなのかしら。

小玉さんの工夫もあって、たいへん面白く読みました。

 

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