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四代目市川猿之助

八月納涼歌舞伎「東海道中膝栗毛」

201908yjkt   八月納涼第2部、「東海道中膝栗毛」です。来夏は猿之助がステージアラウンドで「ヤマトタケル」を上演するので、とりあえずは最後、初心に返って弥次喜多中心のお話になりました。

前回死んじゃったはずの弥次さん(幸四郎)、喜多さん(猿之助)は、それが夢だったと目覚め、改めて伊勢参りをすることにします。しかし、義賊を装った風珍、戸乱武の二人と顔がそっくりなところから、追っ手に追われることに…。

この悪党たちと、弥次喜多の早替わりが一つの見もの。ウソでしょ、とびっくりするようなタイミングで替わります。お面も使わず、涼しい顔しての早替わりは、さすが澤瀉屋のお家芸と、伊達の十役をやった幸四郎。替わればいいってもんじゃなくて(cf 七月の千本桜)面白いです。

そして、私としてはとても珍しい大敵の四代目が見られたのもうれしい。たぶん四代目のこういう役は、猿翁さんの復活狂言とかスーパー歌舞伎での一役といった形でしか見られないのでしょうが、元は女方というのを忘れそうな骨太の演技で、あくまでかっこよかったです。

御存知鈴ヶ森、切られ与三郎、女殺油地獄、一本刀土俵入、組討など、名作歌舞伎のパロディと、若手の活躍はお約束。浅草組は、実力をつけてきたのと同時に華も身に着けて、短い場面でも「おっ」っと目を惹きます。隼人の一瞬の殺気の美しさ、受ける新悟の色っぽさ。巳之助はいうまでもなく。児太郎、その場の皆が笑う中澄まして普通にセリフを言うのがすごい。鷹之資はもうかなり出来上がっていて、とろろ場でも目立つ衣装で引き立っていました。鶴松も登場したときにははっとするようなきれいなお蔦の形(オチあり)。虎之介ちゃんは意外にはっちゃけてよかったんですが、お顔の拵えがいまいち。育ちのよさそうな素顔の方がかわいいので惜しい。

そして第二の主役というべき染五郎、團子。染五郎の台詞がものすごくよくなっていて、やっぱり6月の風雲児たちで揉まれた成果だなあと思いました。二人ともすらりと、声も張っていて、とってもよかったです。

久しぶりの中車も、台詞、見得、舞踊ともにしっかり進化していて、努力を続けているんだなあと感心(3部も好評ですもんね)。こういう中にあって、最初出てきたとき誰かわからなかった(でもこのうまさは、と途中でわかった)笑三郎、藤山直美のようなかわいい顔になっている娘義太夫姿の猿弥、本役風なのにめちゃくちゃ面白かった門之助、ほかに弘太郎、笑也と、澤瀉屋の面々も持ち場でしっかり輝いていました。

そして七之助がちょいちょい出てくるんですけど、やっぱりこの座組では役者ぶりが際立っていて、声も大きいし、ありがたい感じがします。1部でたいへんなのに、こんなに出てくれるのは、幸猿との絆を感じてうれしいな。

終盤の本水。幸四郎なぜそうまで(というかバカでしょ)という奮闘ぶり。全体に、制作に入っている猿之助(今回は主演になってる!)がしっかり話を回しているんですが、二人とも惜しみなく体も使っていて、芝居を引っ張っていく姿にムネアツです。この二人でこんな大規模なおふざけはもう二度とみられないかもと思うと、感慨深い弥次喜多でした。

(2回目追記)

2回目は、花外の前方で見ました。花道での見得は後ろ姿になっちゃいますが、花道での演技がよく見えるし、役者さんが通るたびにいい香りがして楽しいです。至近距離で見た隼人の横顔が、文楽の人形のようにキレイで感動。弥次喜多が舞台にいる時間が長くて幸せ。日に日に染團の型が決まってうまくなっているのも感じます。

前回気づかなかった四代目の高麗五郎さんいじり、段之さん、猿三郎さん、猿四郎さん、くん、を認識しました。宗之助、わかってみるとひときわ声に力があってうまいなあ。

この日は、虎之介が自分で笑っちゃってましたが、出オチみたいなものなのに、キミの立場で笑っている場合じゃないぞ、と心配になりました。逆に巳之助の鬘プレイで全員笑いをこらえ切れないのに、健気に台詞を言う児太郎に拍手。

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  ところで、数日前から、木挽町広場~1階へのエスカレーターの両側に、このポスターが左右5枚ずつ掲示されています。二人とも超かっこいい!眉と目張りと衣装でここまで別人になるとは(喜多さんと比べてね)。この表情、「オレはやるぜ、文句あるか」、という、四代目の本質が表れているようで(でも意外と人に優しい)、最高ですね。「オグリ」、楽しみです。

中村達史「若手歌舞伎」 大西匡輔「歌舞伎のいま どの芝居をどの役者でみるか」

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  1986年生まれ、30代前半という若い中村達史さんの2017年出版の初の歌舞伎評論本「若手歌舞伎」です。詳しいプロフィールはわからないんですが、歌舞伎評論家の和角仁さんの指導で勉強中ということが、同氏による解説に書いてありました。

 「若手歌舞伎」という書名の通り、染五郎から梅枝までの花形役者についての役者論。といっても11人を110ページちょっとで書いているので、だいぶ駆け足です。

 この方、古典歌舞伎の技法を維持していってほしいということを第一に考えているようで、その観点から、彼らの名跡、受け継ぐべき芸と役と現在の状況について語っています。「演劇界」や新聞とのしがらみがないせいか(言い過ぎ?)、松緑の台詞回し等、それ言っちゃうんだ、ということも書いてあるのはいいんですが、全体としては、この著者にいい印象が持てませんでした。

ひとつには、人気者ばかりで読者は承知のうえと考えてあえて書いていないのかもしれませんが、その役者の魅力や美点についての記述が乏しく、もっとこういう役をやれとか、この役でこうしたのは失敗だとかのやや近視眼的な記述が多いように思えることです。私はとにかくこの世代がすぐ上・下と比べて圧倒的に好きなので、もうちょっと各人独自の魅力を踏まえて書いてほしいし、歌舞伎を楽しむ部分や役者への共感や尊敬が薄く感じられるのは、歌舞伎評論家としてもどうなのかという気がします。

歌舞伎の技法的な部分はよくわかりませんが、菊之助の立ち役の感想や、勘九郎の役の幅とか、七之助が勉強していないとか、松也の過小評価とか、海老蔵について書きながら、全く持ち味の違う十二代團十郎をいっしょくたにしているところとか、気になるところはいろいろあります。

四代目については、スーパー歌舞伎の承継者でなければならないことと、「客入りが何より大事」との言葉を額面通りに受け取りすぎで、その芝居に至るまでの、彼が表に出さない工夫や試行錯誤が見えてないように思います。「黒塚はすでに古典だから変えるな」なんて、たしかこの4月の歌舞伎座の劇評でも書いていたと思いますが、初代猿翁が「まだ足りないところがあるから完成させてほしい」と言い残した演目で、代々の猿之助が澤瀉屋としてさまざまに工夫することを止めることなど、誰にもできないというものでしょう。

最後の40ページほどは、最近の芝居でよかったものの劇評ですが、そりゃ吉右衛門さんの芝居になりますよね。襲名後の雀右衛門さんが役者ぶり大きくなったというのも誰が見てもそうですし。劇評の文体が年配者の借り物みたいでぱっとしないのも若いのに残念。

 

  201907_20190725072602さて、もう1冊は、1939年生まれの大西匡輔さんの2013年出版「歌舞伎のいま どの芝居をどの役者でみるか」です。著者は、長年高校の国語教員をされていたそうで、参考書の著書は多数ありますが、この本は、長年の歌舞伎ファンとして、「団塊の世代を始めとして、新しい世界に楽しみを見つけようとしている人に、歌舞伎という最高のエンターティンメントを楽しんでいる道案内をする」(あとがき抜粋)というコンセプトで書かれたそうです。2013年は歌舞伎座新開場で、歌舞伎が世間の関心を集めたときでもあります。

 なるほど、評論家ではない、歌舞伎ファンとしての目線で書かれていて、歌舞伎役者の世代が要領よく把握できます。第2部は作者毎に、主な演目の解説と、今のどの役者でみるかということが書かれているのですが、短いながらとてもわかりやすく、あらすじをさっと紹介する以上に立体的に芝居が理解できるようなものになっています。大西先生の授業はさぞ面白かったでしょう。作者毎の章立てというアイディアも、歌舞伎を大まかに理解するのに役立ちます。

神戸在住の著者は、やはり上方歌舞伎に思い入れがあり、江戸と上方の違いや、松嶋屋、とくに愛之助や成駒家等、上方に縁のある役者についての記述も多いです。ただ、この本の出版はわずか6年前なのに、その間の変化も大きいと感じます。例えば、坂東薪車について、御曹司ではないものの、自身の会をやり、上方にはなくてはならない役者として期待していることが書かれていますが、彼はその後、竹三郎さんからの破門を経て、今やすっかり海老蔵一座で欠かせない役者になってしまいました。

勘三郎・團十郎の早すぎる死のショックがまだ癒えず、三津五郎さんがまだお元気で、海老蔵が今より古典をやっていて、猿之助・勘九郎は襲名を機に飛躍しているという状況で、それがわずか数年前の話なんだなという感じがします。猿之助の四代目襲名に関しては、それにより亀治郎時代のように様々な役者と共演しなくなるくらいなら亀治郎のままでよかったとまで書いていて、なるほど当時はそう思われていたのか、と。

また、著者は、勘三郎さんが大好きだったためか、コクーン歌舞伎にも好意的。今の観客にはみどりは不親切である一方、通しは退屈になりがちで、その両者の欠点を補う、演出家の一貫した目による通しの再構成は意義があり、また稽古が十分行われる点がよいと。演出にもよりますが、私もこの意見には同意です。音楽は邦楽でやってほしいというのも同じですね。

巡業高麗屋襲名披露「口上」「双蝶々曲輪日記 引窓」「色彩間苅豆 かさね」

201907   高麗屋襲名興業の巡業東コースです。先月の歌舞伎座で25日まで「みたに歌舞伎」に出ていた出演者たち、5日後の30日から巡業が始まったわけですよ。始まってすぐから評判がよくて、楽しみにしていました。客席はぎっしりと満員。

まずは「口上」。白鸚さんの力強い滑らかな口上。猿之助(少し砥の粉な拵え。白鸚さんとの共演の話が主)、高麗蔵さん、錦吾さん(親の代から100年高麗屋に仕えていると!)、廣太郎、幸四郎、そして最後に白鸚さんが演目について、「親の口からいうのも何ですが、猿之助さんと幸四郎は若手歌舞伎役者ではとっても踊りがうまいからお楽しみに」という趣旨の話をされてました。

いよいよ「引窓」です。2017年3月に現白鸚さんの与兵衛、彌十郎の長五郎で見ていますが、もっと細かく筋を押さえておくべきだったなどという記憶がありました。今回は2度目のためか、白鸚さんの長五郎、幸四郎の与兵衛のきめ細かい心理描写がすんなりとこちらに入ってきて、とても見ごたえがありました。

人を殺めて逃亡中、実母お幸(幸雀)に会いに来た長五郎(大きくて立派)。温かく迎えるお幸と与兵衛の妻お早(高麗蔵)。さすが高麗蔵さん、元花街の女らしい華やかさと、姑とも仲良くやっている気立ての良さが表れていて、とってもよかったです。

そして与兵衛の幸四郎。町人から郷代官となってうれしさを母に伝える様子、長五郎のことがわかって苦悩し、結局助ける心の動きが克明で、根底に与兵衛の人の好さが、幸四郎さんっていい人なんだあとと思わせるほど真に迫っていてよかったです。

お待ちかねの「かさね」。噂には聞いていましたが初見です。ロンドンでも上演して、亀治郎のかさねは大好評だったんですよね。

逃げていた恋人与右衛門(幸四郎)を追ってきたかさね(猿之助)。チラシよりちょっと年増になっちゃったかな、とちらと思ったのですが、娘らしいかわいい仕草を見るうちに、すぐに一途なかわいい娘に見えてきました。藤間紫さんの型という赤い袱紗を使いながら恋しさを訴えるかさね。

一方、水も滴る色悪な幸さん。幸さん、先ほどの「いい人」な感じが一ミリも残っていない完ぺきな色悪がまた似合うこと。最近、圓朝さんの「中村仲蔵」を聞いたところだったので、豊かな言語表現で聞いた「色悪」が、お手本のような形で目の前に現れている、という感激がありました。

そして、鎌の刺さった髑髏を拾い上げてからの形相の変わったかさねの迫力!いろいろな型での絡みに、一時も目が離せず、これでもかと見物に見せつける四代目の面目躍如。猿之助・幸四郎の名コンビの一つの究極の形を見せてもらいました。

そうそう、かさねの清元には、栄寿太夫として右近くんが出てたんですよ(父延寿太夫さん、三味線の兄斎寿さんも)。普通に一員として出ていましたので、巡業の筋書にも名前のみで写真は出ていないんですが、伸びやかな高音は、舞台に目を集中していてもわかるくらいで、栄寿太夫の襲名披露よりずっとよかったです。

お芝居と物語性の濃い所作事というとてもいいバランスの、いい巡業だと思いました。

(追記)

「演劇界」10月号の劇評の、この巡業の項は、児玉竜一先生。「かさね」については、幸四郎が、どこかでいい人風を見せるようなことがなく、「花道で糸立てを取ったところから黒々とした悪役肚で、それが最後まで微塵揺るがない」、「猿之助のかさねが…面倒くさそうな女を徹底して体現する」、そして「すっきりと図太い幸四郎と、手練手管を尽くした猿之助と、両者の絡み合いの濃密なことは、近来無比といってもいい」、とまあ絶賛でした。ふふ。

六月大歌舞伎「月光露針路日本 風雲児たち」

201906_1   三谷幸喜さんがPARCO歌舞伎「決闘!高田馬場」以来、13年ぶりに歌舞伎の脚本を書いたことで話題の、六月歌舞伎座夜の部「月光露針路日本 風雲児たち」です。 高田馬場は何度もDVDで見ていましたので、歌舞伎座での観劇をとっても楽しみにしておりました。5月はお稽古で休演の幸四郎・猿之助は、余裕があったのか、バラエティに出まくってくれるし。

以下、ネタバレは控えめで。

 まず松也(眼鏡にスーツで教授風)の口上というか、前説。ある意味もったいないくらいの使い方で、声の良さに感激。しっかりお客を温めます。今日はzeroに出るのか。  

さてお話は、江戸後期、1782年に伊勢を出港し、遭難した神昌丸、17人の乗組員。初めて認識したのが(すみません)、二枚目の松十郎さん、幸蔵さん。さすがにこんなにいると、最初舞台がごちゃっとしているんですが、猿之助、愛之助は最初からそこだけピンスポットが当たっているようなオーラで際立っています。そして徐々に乗組員それぞれのキャラクターが立ってくるのは、群像劇が得意な三谷さんならでは。

一行は、オホーツク、ヤクーツク、イルクーツクとロシアを西進していき、とうとう光太夫は、ロシアの西端に近いサンペテルブルクまで達してエカテリーナ女王に帰国を嘆願し、認められます。17人の乗組員のうち、帰国できたのはたった2人でした…。

幸四郎の光太夫、最初のうちは自分のリーダーシップに迷いながら成長し、日本に帰るために皆を引っ張る役柄はぴったり。彼のキャラクターが一貫して造形されていることもあり、見る方もクルーと一緒に旅をしている気持ちになります。

四代目は、紅長的な、チャラチャラした役がおいしくて、公開稽古の取材では、「早く帰りたがる」なんて言われていたとは思えない、終始何かやっている力の入りよう。ラブリンはまたちょっと黒い役ですが、すっきりとかっこよくて。とにかく幸四郎とこの二人が舞台で何かやっているだけでもう私的にはうれしくて、ずっと幸せでした。

脚本は(常になく)早く上がっていたそうですが、やはりお稽古で当て書きの部分があるのか、どの役者さんについても、三谷さんの役者の使い方は最高にうまいです。高麗蔵さん、宗之助さんの高田馬場組はもちろん、彌十郎さん、男女蔵さんの使い方わかってる。彌十郎さん、野田版といい、こういう新作でほんとにいい味出すなあ。千次郎さん、鶴松くん、弘太郎さんも、稽古で膨らんでいったんだろうな。新悟ちゃんもかわいくて、新悟ちゃんでなければ成り立たない役。

染五郎くんが、三幕通して大活躍ですが、すごいお芝居上手になってて、美貌とか、ヒョロヒョロした雰囲気なども生かされていて、とてもよかった。白鸚さんとの絡みも、ドキュメンタリーで見た白鸚さんの厳しい指導を思い出します。

三谷さんのアイドル白鸚さんの、一幕の「黄金の日々」みと、三幕のポチョムキンの洋装のはまり具合と安定感と美しい台詞回し。CMなんてめじゃないくらい、若々しくて素敵。白鸚さんと幸四郎の場面では、二人が演じた「アマデウス」、なんで私見てないのかな、と思ってしまいました。

四代目のエカテリーナ、ポスター以上でしたよ!毛皮もあしらったゴージャスなドレス(さすが前田文子さんの衣装)、王冠、美しいデコルテ、前にすっと出てきたときの輝き、ポチョムキンの台詞への細かい反応。変身の時間があれと思うくらい短くて(顔色違うからたいへんだと思うんですが)、さすが早替わりの超上級者。

前後しますが、この宮廷のドレスの女性たちの美しいこと。猿紫ちゃん、りき彌くんが目を惹きました。竹三郎さんもかわいかった。

おっと、単身歌舞伎座に乗り込んだ八嶋智人、きっちり役割を果たしていました。見得の形もきれいなのは、ほんとに器用な人ですね。3月からこっち、ミュージカル「愛のレキシアター」、劇団かもめんたる「宇宙人はクラゲが嫌い」ときてこの歌舞伎座。観客数はそれぞれ1324、176、1808ですよ。それぞれ印象に残る好演で、事前から終わるまで面白いツイートでしっかり宣伝してくれて、なんて人。この役は松也でもよかったかもしれませんが、クルーとは異質な人間という意味で、はまっていました。

そして、3人の別れの場面。「なぜあそこで笑うのか」とおっしゃる向きもありますが、笑ってもいいんですよ。それだけたっぷりあるし、笑ったり感動したりしていく間に、盛り上がっていきます。ずっとシリアスだとそれに照れちゃうのが三谷さんだし、そこがわかっている、三谷さんの芝居をよく知っている3人。あのほどの良さが品がよくて素敵でした。ある種の俊寛。

実話だけど壮大なストーリーなだけに、歌舞伎とかミュージカルじゃないとショボくなってしまいそうで、歌舞伎座でこの座組で見られてよかったです。カーテンコール2回、何度もやらない歌舞伎座だけに、1回目から立ち始め、2回目はオールスタンディングでした。

【3幕目のみ幕見追記】

3幕目のみ、幕見に行ってきました。イルクーツクの場、エカテリーナの宮殿、そしてイルクーツクの別れ。エカテリーナ宮殿での愛之助にほろり(ここでのマリアンナのいい味)、そして豪華な謁見の場。

ドレスの貴婦人たちはもちろん、衛兵さんたちもみんな彫の深い顔にメイクしてて、立ち姿がすうっとしてかっこいい!一人一人もっとゆっくり顔を確認したくて時間が足りない!その間もポチョムキンと光太夫のやりとりに細かく反応するエカテリーナも見なくちゃいけないんですもん。

今回、やっとエカテリーナの背後に立つ小姓のくん確認。つか、あんなにすぐそばに立っていて、小姓役と知っていたのに目に入らなかったのは、猿さんエカテリーナ様があまりに神々しく光り輝いていたからなんですね。

イルクーツクの別れの場は、やはり2度目なのでじっくり見ることができて、3人の熱演と緩急にぐっときました。帰りたかったよなあ二人。間も数日前とは微妙に変わって、より効果的になっていたように思います。千穐楽まで、どんなふうに進化するんでしょう。

ところで、先日の一階前方席では気づかなかったんですが、愛之助と猿之助がマイクをつけているのがはっきりわかりました。全員がわかったわけではなかったんですが、いつも4階までちゃんと声が届くので、ちょっと驚き。三谷さんの細かい台詞を聞き取りやすくするためだったんでしょうか。そのうちに明らかになりますかね。

(おまけ・池田理代子「女帝エカテリーナ」)

201906_20190626234901 ところで、このお芝居、池田理代子先生の名作「女帝エカテリーナ」を知っているとより面白いです。タイトル通り、ドイツの貴族の少女だったエカテリーナが、ロシアの女王として君臨する一代記なのですが、国王始めダメ男しか知らなかった彼女が初めて恋した強い男がポチョムキン。二人が愛を確かめ合うとき、エカテリーナは、「もうこの広大なロシアを一人で治めなくていいんだ」と言うんですが、そのシーンが最高です。二人はそういう仲なのですよ。

 アンリ・トロワイヤの小説が原作なんですが、原作も面白いですがさすが池田先生という優れたコミック化でして、婦人公論だったかの連載なので表現も大人向けです。ポチョムキンは、エカテリーナとの恋が終わると、美形の若い男を女帝に与え、統治は続けるのですよね。その頃の話かな、などと思ってみておりました。

 

三代目市川猿之助「猿之助の歌舞伎講座」「スーパー歌舞伎」

201905kabukikouza  当代猿之助が好きすぎて、彼のアイドルである三代目猿之助さん(現猿翁)の書いた本ということで読んでみました。四代目が、先月の黒塚についても、三代目がいろいろ本に書いていると言っていたのもきっかけです。

 1冊目は、「猿之助の歌舞伎講座」1984年初版、1989年5刷。新書より一回り大きい正方形の本で、 四の切、新装鏡山再岩藤、當世流小栗判官、黒塚、海外での歌舞伎ゼミナール、などを、豊富なカラー写真で解説していきます。

 三代目の舞台にかける情熱、いかに観客を楽しませるかの工夫や苦労を惜しみなく書いてくれています。これが出版されたころは、40代で一番気力体力があって活躍している頃でしょうに、ここまで読者に親切な本まで出すとは驚きです。

海外での歌舞伎ゼミナールも本格的です。4都市で1か月。人気役者がていねいに海外で歌舞伎を指導し、その過程で歌舞伎の在り方について考える三代目。

第六講に、「女方・デフォルメの美意識」と題し、女方の修行のことが書かれています。澤瀉屋は立ち役の家系ですが、二代目が、「役者には最終的に色気がなきゃだめだ、團子(三代目)だけは女方のできる役者にしたい」と言って、藤間勘十郎(二代目)さんのところに三代目を預けたとあります(当時の二代目の妻が紫さん!)。三代目曰く、若い頃はやせ型で美しかったが、成長後首は短くずんぐりになったものの、勘十郎さんに六代目菊五郎に似ているといわれ、体型が不利だからこそ女方を美しく見せるための努力をしたと。

最後のページに梅原猛さんの「猿之助賛」があります。演劇に対する猿之助の情熱を称賛しつつ、「彼のような新しい歌舞伎の創造者には、真に新しい、歌舞伎の脚本が必要なのである」――これがきっかけで、梅原さんが「ヤマトタケル」を書くんですね。

 

201905_4 2冊目は、「スーパー歌舞伎 ― ものづくりノート」(2003年)です。集英社新書、300ページとたっぷり。題名通り、第1作の「ヤマトタケル」から、「新・三国志 Ⅱ」までについて、制作の過程を克明に記載しています。

 いや、すさまじい。「ヤマトタケル」の初演は1986年2月、それから2003年の「新・三国志Ⅲ」まで、9作を制作しています。脚本家は別にいるといっても、第1稿にダメ出しして脚本を練り上げ、美術、衣装のイメージを指定し、音楽を決めていくのはまさに猿之助。新作で出演者も多いので、稽古もたいへんです。

 驚くべきなのは、当時人気役者である三代目が、復活通し狂言や、連獅子などで毎月のように舞台に立ちながら(しかも七月は今の海老蔵のような猿之助奮闘公演!)、これらの大作を作り上げていったことです。そして、関係するスタッフが国際的なこと!京劇の学院長さんや、ドイツの宙乗りの第一人者の力を借りて、どこまでも自分の理想を追求する三代目。

フランスでのオペラ「コックドール」、バイエルンのオペラ「影のない女」の演出の経緯もあります。日本と違って、休み時間をきっちりとるキャストに、身をもって演じながら教える苦労。

1995年から2000年にかけて、春秋座で苦手な役に挑戦する自主公演も行っていますし、澤瀉屋の御曹司ではない役者さんを集めて二十一世紀歌舞伎組を作って公演をしたり、とその意欲はとどまるところをしりません。

記述も極めて明確で、ご自身の考えがしっかりあるところにも感心します。演技も踊りはもちろん、演出家としても決断は早く、役者の育て方もうまい四代目、すごいと思っていましたが、三代目の仕事ぶりをみると、新作の制作頻度、国際的な活動、他の分野の一流の方々との交流、歌舞伎座での奮闘公演、二十一世紀歌舞伎組の育成等、四代目にしてまだまだ三代目には及ばないといえましょう。

(しかしながら、四代目が三代目よりすごいところもあって、まずきれい<←ひいき!>、女方も含めると役柄が広い、同世代の人気役者との共演は歌舞伎ファンを喜ばせている、大幹部と若手の間の世代として若手を育て機会を与えている、現代劇でも名演を残している、バラエティ番組をさらりとこなして、若い層にもアピールしている…)

歌舞伎というだけでなく、真摯にものづくりを行う天才の克明な記録という点で、すばらしい本なのですが、前述のようにこの本の出版は2003年2月、三代目は、この年の11月の博多座「西太后」(藤間紫主演)公演中に病に倒れ、2012年の澤瀉屋4人同時襲名公演まで歌舞伎の舞台に立つことができませんでした。結果的に、この本は、三代目が病に倒れるまでのほぼ全記録という形となりました。

このときまだ64才、体力頼みのお役はともかく、歌舞伎役者としてはこれからが楽しみというお年です。映像でちらりと見た筆屋幸兵衛や加賀鳶の迫力、古典でもファンの方はもっと見たかったことでしょう。今の大幹部との共演だって、みられたはずです。

その後に書かれた日経「私の履歴書」(2014年)の記述の確かさはこの本と同様ですし、四代目へのアドバイスなども的確で驚きますが、その考えをそのまま言葉で伝えることが難しくなったことも、どんなにもどかしい思いをされただろうと、悲しくせつないです。

できうれば、このすぐれた見識を、本という形ででももっと残していただけたらな、と思いました。

四代目市川猿之助出演記録

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  四代目猿之助丈の、初舞台からの出演記録表(猿之助年表pdf) を作ってしまいました(恐縮ですが、個人でご覧になる以外のご利用はご遠慮くださいませ)。

   歌舞伎を見始めたのが2012年で猿之助襲名の年、それからさらに数年たって、好きな歌舞伎役者さんがたくさんできた中でも、四代目がとくに好きだなあと思い始めたのがつい最近(2017年春頃)なので、web情報や本でこれまでの軌跡をたどってきたのですが、生来の記録ヘキから、まとめたくなって。

歌舞伎公演データベースから公演をチェックし、ドラマ等は「僕は、亀治郎でした。」やwikipedia等を参考にしています。

単発の舞踊会等は、ネットで調べようとすると、告知は多いのですが、過去の公演の一覧等は意外とないので、けっこうたいへんでした。TVのバラエティで入れておきたいものもまだありそうです。間違いなど、お気づきの点があればお知らせくださいませ。

ここまでまとめると、いろいろな発見がありました。

子どもの頃は、三代目の興行で、子役で出ています。初御目見は4才で碇知盛の安徳帝、その後、「実盛物語」の太郎吉「牡丹景清」の娘人丸(阿古屋の娘ですね)、「加賀見山再岩藤」又助弟志賀市など子役の大役を務めていますし、10才で奴道成寺も踊っています(段之さんの歌舞伎座ギャラリートークで映像を見ましたがすごかった!)。亀治郎襲名は7才、「御目見太閤記」の禿たより

舞踊が得意な人ですので、数々の舞踊発表会に出ています。NHKで「供奴」が放送されたりしていますね。ご本人も、ほめられるのでうれしくて舞踊が好きになった、と語っています。10代後半は、「子守」や、先代との「連獅子」での仔獅子、右近さん忠信の鳥居前での静御前などがありますが、大学時代は学業優先で殆ど本興行での出演はなく、舞踊会等ばかりです。歌舞伎役者は大学からは本格的に本興行に出演する人が多く、ここまで学業優先は、澤瀉屋ならではかも。

そして大学4年以降、それまでを取り戻すかのように、スーパー歌舞伎、本興行とがんばっていきます。22才で名題昇進。年4,5か月のスーパー歌舞伎(お稽古も長い)と普通の興行。そういう中で、三代目の勧めから、自分自身でプロデュースする力と自分のために協力してくれるスタッフを得るために、2002年(26才)の夏に第1回亀治郎の会を開催します。

そして翌年の2003年7月の歌舞伎座を最後に、父段四郎とともに、三代目の元を離れます。知ってはいたけれど、当時大人気だった猿之助劇団を離れるというのは、ものすごい決断だったと思います。段四郎さんが一緒に、というのは、やはりお弟子さんは皆段四郎さんのお弟子さんたちであり、亀治郎一人で独立させることができなかった親の情なのでしょうか。ここまで兄を支えてきた段四郎さんは、息子の才能を早くから認めて、期待してきたのでしょう。

幸いにも1999年からはじまった新春浅草歌舞伎での大役への挑戦は続いていましたし、菊五郎劇団や海老蔵襲名公演への出演、そして亀治郎の会での努力もあって、独立の2年後2005年には、「NINAGAWA十二夜」で麻亜役を演じ、高い評価を得ます。2006年3月には、三谷幸喜のPARCO歌舞伎「決闘!高田馬場」で染五郎・勘九郎とともに主要人物を演じ、コミカルな役柄に開眼しました。

2007年には、初めての映像作品にして大河ドラマ「風林火山」の武田信玄という準主役。3月の團十郎さんのパリ公演にも帯同し、「勧進帳」の義経、「紅葉狩」の山神を好演するとともに、暁星仕込みのフランス語の口上で沸かせました。2008年になると、地方公演では、かなりいい役もつくようになってきます。

2009年は、まず、テレビ東京のお正月ワイド時代劇「おんな太閤記」の秀吉役を務めました。「NINAGAWA十二夜」がロンドンで再演、またその凱旋公演が演舞場、松竹座と2か月ありました。3代目との交流が復活し、2010年新春浅草歌舞伎に向けた「悪太郎」のお稽古もみてもらいます。

2010年は浅草に続き、博多座、南座、こんぴら歌舞伎と、澤瀉屋の猿之助四十八選に奮闘します。秋には蜷川幸雄演出の「じゃじゃ馬馴らし」で主演。この辺りで、猿之助襲名が確実になってきたといえましょう。

2011年新春浅草歌舞伎公演中に、三代目から襲名を告げられ、5月に「四の切」初演、9月に猿翁、猿之助、中車、團子のスーパー襲名が発表されます。36才でした。

ここ辺りでやっと私の四代目認識とつながるんですね(初めて四代目を舞台で見たのは襲名直後、2012年11月です)。

どんな世界も、一人を追いかけることで、その世界がより深く理解できるような気がします(アダム・パスカルを追いかけることで、ブロードウェイの作品の作り方やテコ入れ、当たらなかったときの非情なクローズをみることができました)。四代目の軌跡は、人気役者の一門の御曹司の成長の過程をみるという意味でも興味深かったです。

さて、これからはリアルタイムで見ていくことができるのは幸せといえましょう。

喜熨斗勝「歌舞伎 芸と血筋の熱い裏側」

201904_2  歌舞伎評論家としてときどきコメントを目にする、喜熨斗勝氏の「歌舞伎 芸と血筋の熱い裏側」。著者は初代猿之助の四男小太夫の息子とのことで、四代目からみると曽祖父初代猿翁の甥、仲良しの貞子さんの従兄に当たります。

タイトルは、中川右介「歌舞伎 家と血と藝」によく似ていますが、出版社も講談社で同じなのか。

内容は、とりとめのない歌舞伎関連エッセイという感じなのですが、面白かったのは、歌舞伎の小道具をやっていたことがある舞台制作の手塚優子さん、関洋子さんとの対談。と、最後の父小太夫さんとのことを書いたあたり。

手塚さんとの対談では、梅丸の小さいころや、福助さんのいい話が出ていましたし、先代の歌舞伎座で洗い場が外にあってたいへんだったことや、浅草歌舞伎で男女蔵さんにお弟子さんがついていなかった(左團次さんの方に行っちゃってた)ので手塚さんがサポートしたが、亀治郎にはたくさんお弟子さんがついていたこと(この頃は先代の下を離れているころですから段四郎さんが後ろ盾でよかったですね)など。関さんとの対談では、歌右衛門さんと福助さんのこと、海老蔵のこと、勘三郎さんの思い出や、平成中村座でのお弟子さんたちの公演の思い出などが興味深かったです。

最後の著者と父であり初代猿翁の弟である小太夫さんとのことは、その時代に苦労した一歌舞伎役者の記録として貴重でした。

残念な点もけっこうあります。例えば、直侍のそばを食べるくだりが違うとか、海老蔵と獅童への思い入れ強すぎるとか、勘九郎・七之助への評が辛めなんですが、その内容が、たとえば、七之助はか弱い女性しかできない(菊之助の方が男を手玉に取る女性もできる)とか、昨年12月に出たばかりの本なのに、ここ数年の七之助の舞台を見ていないのか?って感じです。

ということで、歌舞伎に興味のない方が読んでも、興味がわくわけではないし、歌舞伎をよく見ている人は違和感のあるところが多いし、だれがターゲットなんだという感じの本でした。

 

 

四月大歌舞伎「実盛物語」「黒塚」

2019043  歌舞伎座夜の部、1階前方センターでの観劇です。

 最初は、評判高い仁左衛門さまの「実盛物語」2017年に愛之助の実盛で見ています。そのとき、愛之助がニザ様に似ていると思ったのですが、本家ニザ様ですよ。さすが、この美しい衣装がお似合いの美しいニザ様。

葵御前の生んだのが腕だという小よしの言葉を、うまいこと言って瀬尾十郎(歌六)に信じさせてしまうところから、小万の腕を切り取る次第の目に見えるような語り口、義太夫への乗り方、太郎吉への情け、馬に乗ったときの姿の美しさ、と、たいそう立派な実盛。長台詞も、ニザ様が語るとすんなり入ってくるのはどうしてなんでしょう。

また、この一座の配役が見事で、九郎助夫婦が松之助、斎入、この二人は、もう最高の九郎助夫婦じゃないでしょうか。松之助さんは、うまいというあざとさなく、本当にその芝居に生きる人物を見せてくれて、大好きです。小万が孝太郎、葵御前の米吉が、かわいさを抑えて、気品のある葵御前を健気に演じていました。。

歌六さんの瀬尾は、表情豊かで、意外に黒目が大きくてかわいい瀬尾。ずっしりとした貫禄があって、情愛があって、まあ、何やっても歌六さんはまちがいありませんよ。

太郎吉の寺嶋真秀、まほろんがずっと出ずっぱりなんですが、台詞も多いし、見得だの瀬尾を斬るだの、本当に重要なお役。そして、瀬尾の述懐や、実盛の馬乗りなどをじっと見る顔が、まあ小学校入りたての坊ちゃんとは思えない落ち着き。先日「サワコの朝」に、しのぶさんと一緒に出ていましたが、天性の明るさ、豊かな表情、芝居好きと見える様子、たぶん大柄な美丈夫になりそう、既に日仏英のトリリンガルと、本当に期待膨らむ坊やですよ。直系のじゅふたんは来月丑之助という立派な名をもらいますが、まほろんも早く何か名前もらってあげて!

2つめは、いよいよ「黒塚」2015年1月歌舞伎座は幕見。2017年1月新橋演舞場は2階右、今月もこれまでは幕見だったので、1階で見るのは初めてでしたが、もう、四代目に圧倒されるというか、四代目の世界に引き込まれて終始 掌の上でもてあそばれているような気持ちになりました。

1景、阿闍梨祐慶(錦之助)一行と岩手(猿之助)のやりとり。岩手の豊かな表情に、一瞬も目が離せません。衣装もきれい。祐慶、もっと口跡がよければ、と思いはしたものの、尊い美しさに、ありがたい気持ちになります。種之助、鷹之資は、当初と比べると、驚くほど力強くなっていて、踊りのうまい二人だけに、どの場面も美しかったです。特に鷹之資は、ちょっとぼっとしたお役の先月とくらべて、メリハリのきいていること、化粧もきれい。

2景。筝と三味線、尺八の力のこもった演奏に、たっぷりの岩手の舞踊。だんだん救われる喜びにあふれていくのが、切なく、でも楽しく、耳も目も喜びます。自分の影と戯れるのは見えないのですが、あの大きな月と重なって見える岩手、前方ならではの迫力。舞台写真だと月の下に岩手がいますが、岩手の後ろに月が見えるのは、新鮮でした。強力太郎吾(猿弥)とのくだりも見事、高さのあるジャンプ、背面宙返りの退場。猿弥さんの体型からは驚くようなキレのある動き。

そして、いよいよ第3景。阿闍梨一行の容赦ない調伏に、だんだん弱る鬼女。花道での仏倒れ、ものすごく素早く体勢を整えていました。きっちりと計算された展開に、もっていかれます。最後は小さくなってしまいます。

能を題材に、古風ではありますが、要領よい説明や素早い場面展開、次から次へと見せ場が続くこの作品、全く古くありません。囃子方、唄の思い入れ、音楽と舞踊が一体となった充実感、四代目、猿弥さんの身体能力を惜しげもなく見せてくれるありがたさ。

惜しむらくは、劇評の先生方、「黒塚は素晴らしい」前提なのか、照明を変えたとかなんとか小さいことについて書いているんですが、見ていない人に、まったく良さが伝わってないですよ。歌舞伎には、歌舞伎が好きな人だけが受け入れられるものと、歌舞伎のみならず舞台芸術が好きな人に十分アピールできるものとがあると思うんですが、まちがいなく、黒塚は後者だと思います。

そして、こんなにも激しい演目を本興行でやれるまでに快復してくれた四代目、本当にありがとう。

(最後の幕見)

目の前で見て、ああ、もう満足と思ってはいたものの、楽日近くに幕見に行ってしまいました。こんなにリピートできるのも、歌舞伎座のありがたいところ。立ち見の番号でしたが、下手で座ることができました。

この日はイヤホンガイドをを借りてみました。衣装の説明は柄のことまでは細かくて覚えていられないし(水衣と能鉢巻だけ覚えてます)、役者名はわかるし、台詞の説明も黒塚は新歌舞伎で台詞がわかりやすいのでさほどいらないのですが、やはり舞踊は、長唄の歌詞と合わせての動きの意味を細かく教えてもらって、初めてわかることもたくさんありました。こんなにリピートするなら、早いうちに借りておけばよかったかも。でも1,2回見るだけなら、音楽をめいっぱい聞きたいですけどね。

解説をききながらじっくり見る2景は、岩手の心の高揚が胸に迫って、感動でした。

そして、3景は、イヤホンガイドも少なめ、台詞はほとんどないので、もっと話しても大丈夫なんですが、この熱演の前では、説明など不要ということをわかってくれてよかった。

ますます阿闍梨一行のチームワークというか動きが気持ちよく、鬼女とのアンサンブルが素晴らしい。そして、仏倒れの一瞬前に、戯れていた木の影が舞台中央に蘇ります。そのあと、驚異の後ろ向きジャンプをピークに、力尽きていく鬼女、終盤に向けて、ときどき岩手が顔を出すのがはっきりとわかります。鬼なのにかわいらしさがあって、切なくなります。ああ、これが最後の黒塚。

最近の素顔の猿之助さん、ちょっとあごのあたりがすっきりして、黒塚のハードな舞台のためなのか、でも充実感があふれていて、これからますます楽しみです。

 

四月大歌舞伎「平成代名残絵巻」「新版歌祭文 座摩社 野崎村」「寿栄藤末廣」「御存鈴ヶ森」

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 4月の歌舞伎座、昼の部です。バラエティに富んだ演目が並び、のべ5時間(!)でした。

 1つめは、「平成代名残絵巻(おさまるみよのなごりえまき)」。平清盛の屋敷、徳子(壱太郎)の入内を前に、叔母の淑子(笑也)、時子(笑三郎)、宗盛(男女蔵)、藤原基房(権十郎)らが集まっています。徳子と知盛(巳之助)が舞います。

 次の場では、遮那王(=義経、児太郎)が、鎌田正近(市蔵)とともに、母の常盤御前(福助)と対面します。打倒平家を誓う遮那王。福助さん、声に張りがあり、お元気そうでした。そして遮那王と知盛との対決、宗清(彌十郎)の仲裁。巳之助と児太郎の両花道の引っ込みが力がこもっていて、よかったです。

2つめは、「新版歌祭文」。野崎村は、まだ見ていない有名演目の一つでしたので、楽しみにしていました。めったに出ない「座摩社」からです。

大店油屋の丁稚久松(錦之助)は、手代小助(又五郎)に騙されて、商い先から受け取った金をとられてしまいます。久松は油屋の娘お染(雀右衛門)といい仲。そのお染に岡惚れしている佐四郎(門之助)に調子よいことを言って金を巻き上げる小助と法印(松之助)。

久松の人柄と状況を説明してくれる場なんですが、主役は又五郎さん。生き生きと小悪党を演じています。松之助さんの味のあること、門之助さんのおっとりとしたカモの若旦那。

そしていよいよ野崎村。久松が育ての親の久作(歌六)の家に、小助とともに帰ってきます。久松がだまし取られた金を、小助にたたき返す久作。小助が帰った後、久作に久松と祝言するよう告げられて喜ぶ久作の娘お光(時蔵)。そこへ久松を追ってお染がやってきます。

お光ちゃんが最初に出たところから、素直で率直ないい娘なんですよ。祝言の御馳走のなますのために大根を刻む(時蔵さん手つきがうまい)ときの弾んだ気持ち、お染への嫉妬。お染も跡取り娘ながら、久松に惚れぬいているかわいい女。二人が取り合うのも無理もない、優男の久松。酸いも甘いもかみ分けたわれらがお父さん、歌六。

ストーリーは知っていたんですが、実際に見ると、意外に明るい面白いやりとり。役者さんがきっちり役に合っていて、それぞれの気持ちがよくわかります。身を引くお光のせつなさ。そして留め男(男じゃないけど)の役割で出てくるお染の母お常(秀太郎)。別れて帰るがけじめ、というのがまた胸にしみました。

両花道で、花道からはお常・お染親子が舟で、仮花道から久松が駕籠で帰ります。残されるお光と久作。駕籠かきの着物を脱ぐコミカルなひとくさりの後で、皆を見送ったお光の慟哭がかわいそうでほろりとしました。

上記の通り、時蔵・錦之助、歌六・又五郎がそれぞれ好演なんですが、この2兄弟はいとこ同士、そして今年は彼らの曽祖父の3代目歌六の没後100年なんだそうです。今の歌舞伎になくてはならない個性的な役者さん、この演目は、何よりの追善になったことでしょう。

2019044_1 3つめは、「寿栄藤末廣 鶴亀」藤十郎さんの米寿記念の舞踊です。1月の松竹座では藤十郎さんと、雁治郎・壱太郎、扇雀・虎之介でしたが、今回は、雁治郎・猿之助・亀鶴・壱太郎で登場。亀鶴さんは初代雁治郎さんの曾孫で、雁治郎さんたちのまたいとこにあたるんですね。

それで、今月の「演劇界」のロングインタビューで、猿之助が「一門の皆様に入れていただいてありがたい」って言ってたのか。その通りで、5人がせりあがってくるのを見ると、「何でいるの」感。しかし、ちんまりしている藤十郎さんの隣で、薄黄緑の衣装が似合って、ここ最近では一番きれい、もうオーラで輝いているように、そして次期女王は私、みたいに見えました。藤十郎さんと四代目の芸風はかなりちがうように思えるのに、このインタビューでは、いくつも役を教わったと言っていますし、別のところでは、「何をきいても論理的に答えてくれる」とも語っていて、本当に藤十郎さんのことを敬愛しているんだなと思います。高齢の方となぜか仲いい四代目。

さらに歌昇・種之助、児太郎、米吉と若手が花を添えて。壱太郎は、上の5人でいるときには妹分に見えるんですが、衣装を変えて児太郎・米吉と並ぶとお姉さんに見えて楽しかったです。

歌舞伎美人ニュースの記念写真 →勢揃いの華やかなお写真!これほしかったです。

さて最後は「御存 鈴ヶ森」。これも見たかった演目です。ここでも又五郎の飛脚が、鈴ヶ森に集まっているならず者たちに身ぐるみはがされる場面から。そこへ国元を出奔してきた白井権八(菊五郎)が駕籠から降ろされ、賞金目当ての雲助たちが襲い掛かるのをバッタバッタと斬ります。立ち合いながらユーモラス。

2019042_1 そして、幡随院長兵衛(吉右衛門)がやってきて、「おわけぇの、おまちなせぇ」に始まる名台詞の場面。ひーかっこいいよ吉右衛門さん。吉右衛門さんの役の中でも、長兵衛はかなり上位に入るので、また見られて感動でした。

 余談ですが、左近くんがネットで「左近センパイ」と言われるようになったのは、俳優祭で金太郎権八とやった鈴ヶ森の長兵衛が大ウケで、そのあと松緑が長兵衛をやったからなんですよね。これだったのかあ(「左近襲名披露のニュース」に出てました)。

ということで、盛りだくさんの昼の部でした。

 

 

四月大歌舞伎「黒塚」「二人夕霧」幕見(追記あり)

  201904kabukiza   今月の歌舞伎座夜の部、初日の評判に待ちきれなくて(←いや、最初からわかってたか)、黒塚」の幕見です。先月の弁天娘よりも1時間開演が早いのでどうかと思いましたが、開演10分前到着でも座れました。桜満開の時期とあって外国人の方が多くてほぼ満席。

 ああ黒塚!私が猿之助丈のファンになったのは、2014年11月の明治座の女團七と2015年1月の歌舞伎座の黒塚がきっかけといえるんですが、その黒塚です。2017年1月の新橋演舞場の黒塚以来3回目ですが、今回は奥田雅楽之一さんや杵屋佐喜さんのTwitterで黒塚についてつぶやいているのを拝見したりして、囃子方の方々にも特別な演目なのだなと思いました。雅楽之一さんは、黒塚についての記事も紹介してくださっています。猿之助さんの、舞台を作り上げる全ての人たちとのいいコミュニケーションが感じられました。

安達ケ原に住む岩手(猿之助)のところに、阿闍梨(錦之助)一行が宿を求めます。錦之助さん、もう少し口跡がよければと思わないではないですが、やはり美しいたたずまい。種之助、鷹之資は、気合が入っていてとてもよかったです。鷹之資は、先月の浜松屋の宗之助よりずっと合っている感じ。

2景。一面のススキの原の前で、岩手が初めは静かに、そして阿闍梨に妄執を取り除いてくれる嬉しさに、楽しそうに踊ります。4階から、木と自分の影と戯れる姿がはっきり見えました。なめらかな手の動き、神様ありがとう、とまた泣きたくなりました。2景のみの筝の演奏も見事。

そして、岩手に禁止されていたのに、寝屋をのぞいてしまった強力太郎吾(猿弥)と出くわした岩手。岩手のままのしつらえながら、鬼女の本性を現し、凄い高さのジャンプ、強力につめよる動き、バク転での引っ込み。腰の抜けた強力の猿弥さん、さすが踊りの名手です。

3景は鬼女と阿闍梨一行との激しい戦い。長袴の衣装がきれいなんですよ。言葉のいらない迫力に、幕見席全体が引き込まれました。やはり、すばらしい作品でした。

さて、続けて「二人夕霧」。あの廓文章 吉田屋の夕霧は病で亡くなり、伊左衛門(雁治郎)は、同じ夕霧という名の傾城(孝太郎)と所帯を持ち、傾城買指南を商売にしています。教えを乞いに、彌十郎、萬太郎、千之助がやってきます。このあたりコミカルなやりとりなんですが、彌十郎さんというより、市蔵さんや亀蔵さんあたりが面白かったかも。萬太郎はかわいい目を細くして、この舞台の雰囲気を盛り上げようと好演でした。千之助もがんばってた!

後半は、幽霊の夕霧(魁春)が登場して、伊左衛門と踊り、おきさ(東蔵)も加わって、最後は伊左衛門に大金が転がり込んでめでたしです。

うーん、役者さんも常磐津も、誰も悪くないんですけどね、雁治郎・孝太郎は先月女鳴神コンビだし、最近孝太郎さんいいし。しかし、夕霧二人と二股ってなんだよってことですよ。吉田屋の伊左衛門は、どうしようもないボンボンだけど、夕霧に惚れぬいているところだけがいいところなのに。のっぺりした赤い壁のセット、笑っていいのか微妙な芝居、そしてどこに行こうとしてるのかわからない舞踊。小判を降らせるのも、ちょっと下品に感じました。

これ、弁慶上使や熊谷陣屋や碇知盛のような重い演目のあとならまだよかったと思うんです。しかし、上記のような、完成形をさらにつきつめたような舞台づくり(歌舞伎座でもここまで美意識を貫くのは稀では)のうえで、踊りの名手が、代表作の一つとして、大怪我から復帰して命がけで踊った演目の後でのゆるいお芝居と踊りですか…。観客もどう見ていいのかわからない雰囲気でした。これからお客の入り大丈夫かな。ただでさえ、黒塚だけ繰り返し見たい猿之助ファンって多そうなのに。

「オペラ座の怪人」の続編、なんでこんなの作っちゃったの感が強い「ラブ・ネバー・ダイ」みたいなものでしょうか。私は吉田屋好きなので、ニザ玉、幸七で見た吉田屋の感動返して。

うーん、やっぱり黒塚、夜の部のキリの演目ですよね。ざんねん。

(幕見2回目)

1週間ほど後、黒塚2度目の幕見です。見るたびに、衣装やセット、照明を含めた美しさ、現代の時間感覚にギリギリ斬り込んでくるような静の場面(=長すぎない)、常よりもずっと存在感があって、芝居の重要な要素となっている、演奏会のような鳴り物、囃子方、意外にわかりやすい詞、に感心します。

仕立ては能に見えますが、立派に今に生きる作品。「熊谷陣屋」のような芝居はもしかしたら廃れてしまうかもしれませんが、これは猿翁十種といいながら、もっと残るような気がします。

再演とちがって、短い間をおいての観劇ですと、流れを覚えていてじっくり見られます。大詰の花道では、鬼女の荒い息やうなり声が聞こえて、苦しみが4階まで伝わってきました。あの両手をブンブンするのは煽っているようにも見えます。大胆な隈取の向こうに、猿之助のキラキラした目が見えて何だか感動でした。

やっぱりキリの演目だなあ。

(幕見3回目)

2景では、筝が加わるのですが、何日かは、正派の家元(今月家元を譲られて宗家となられるそうですが)、93歳の中島靖子さんが出演されるときき、その日に行ってきました。筝は、靖子さんのソロ(特別ですか?いつもよく見ていないので気づかなかった)の部分が結構長くあり、丸く美しい音色が聞けました。昭和20年から出演されているそうで、74年ですよ!わずかな出番のために、それだけ高名な方が出てくださるのは、それだけこの澤瀉屋の演目を大事に思ってくださり、四代目のこの演目への思い入れやその成果を認めてくださっているからでは、と思います。

(しかし藤十郎さん、竹三郎さん、寿猿さん、紅長のときの玉之助さんと、80代後半以上の方々と仲良しな四代目)。

毎回どこがちがうかとはっきり言えないのですが、2景の踊りがより楽し気で、メリハリが際立っているように思いました。さあ、もうすぐ真近で見られます。

(1階席での感想+前楽幕見)

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