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四代目市川猿之助

六月大歌舞伎「月光露針路日本 風雲児たち」

201906_1   三谷幸喜さんがPARCO歌舞伎「決闘!高田馬場」以来、13年ぶりに歌舞伎の脚本を書いたことで話題の、六月歌舞伎座夜の部「月光露針路日本 風雲児たち」です。 高田馬場は何度もDVDで見ていましたので、歌舞伎座での観劇をとっても楽しみにしておりました。5月はお稽古で休演の幸四郎・猿之助は、余裕があったのか、バラエティに出まくってくれるし。

以下、ネタバレは控えめで。

 まず松也(眼鏡にスーツで教授風)の口上というか、前説。ある意味もったいないくらいの使い方で、声の良さに感激。しっかりお客を温めます。今日はzeroに出るのか。  

さてお話は、江戸後期、1782年に伊勢を出港し、遭難した神昌丸、17人の乗組員。初めて認識したのが(すみません)、二枚目の松十郎さん、幸蔵さん。さすがにこんなにいると、最初舞台がごちゃっとしているんですが、猿之助、愛之助は最初からそこだけピンスポットが当たっているようなオーラで際立っています。そして徐々に乗組員それぞれのキャラクターが立ってくるのは、群像劇が得意な三谷さんならでは。

一行は、オホーツク、ヤクーツク、イルクーツクとロシアを西進していき、とうとう光太夫は、ロシアの西端に近いサンペテルブルクまで達してエカテリーナ女王に帰国を嘆願し、認められます。17人の乗組員のうち、帰国できたのはたった2人でした…。

幸四郎の光太夫、最初のうちは自分のリーダーシップに迷いながら成長し、日本に帰るために皆を引っ張る役柄はぴったり。彼のキャラクターが一貫して造形されていることもあり、見る方もクルーと一緒に旅をしている気持ちになります。

四代目は、紅長的な、チャラチャラした役がおいしくて、公開稽古の取材では、「早く帰りたがる」なんて言われていたとは思えない、終始何かやっている力の入りよう。ラブリンはまたちょっと黒い役ですが、すっきりとかっこよくて。とにかく幸四郎とこの二人が舞台で何かやっているだけでもう私的にはうれしくて、ずっと幸せでした。

脚本は(常になく)早く上がっていたそうですが、やはりお稽古で当て書きの部分があるのか、どの役者さんについても、三谷さんの役者の使い方は最高にうまいです。高麗蔵さん、宗之助さんの高田馬場組はもちろん、彌十郎さん、男女蔵さんの使い方わかってる。彌十郎さん、野田版といい、こういう新作でほんとにいい味出すなあ。千次郎さん、鶴松くん、弘太郎さんも、稽古で膨らんでいったんだろうな。新悟ちゃんもかわいくて、新悟ちゃんでなければ成り立たない役。

染五郎くんが、三幕通して大活躍ですが、すごいお芝居上手になってて、美貌とか、ヒョロヒョロした雰囲気なども生かされていて、とてもよかった。白鸚さんとの絡みも、ドキュメンタリーで見た白鸚さんの厳しい指導を思い出します。

三谷さんのアイドル白鸚さんの、一幕の「黄金の日々」みと、三幕のポチョムキンの洋装のはまり具合と安定感と美しい台詞回し。CMなんてめじゃないくらい、若々しくて素敵。白鸚さんと幸四郎の場面では、二人が演じた「アマデウス」、なんで私見てないのかな、と思ってしまいました。

四代目のエカテリーナ、ポスター以上でしたよ!毛皮もあしらったゴージャスなドレス(さすが前田文子さんの衣装)、王冠、美しいデコルテ、前にすっと出てきたときの輝き、ポチョムキンの台詞への細かい反応。変身の時間があれと思うくらい短くて(顔色違うからたいへんだと思うんですが)、さすが早替わりの超上級者。

前後しますが、この宮廷のドレスの女性たちの美しいこと。猿紫ちゃん、りき彌くんが目を惹きました。竹三郎さんもかわいかった。

おっと、単身歌舞伎座に乗り込んだ八嶋智人、きっちり役割を果たしていました。見得の形もきれいなのは、ほんとに器用な人ですね。3月からこっち、ミュージカル「愛のレキシアター」、劇団かもめんたる「宇宙人はクラゲが嫌い」ときてこの歌舞伎座。観客数はそれぞれ1324、176、1808ですよ。それぞれ印象に残る好演で、事前から終わるまで面白いツイートでしっかり宣伝してくれて、なんて人。この役は松也でもよかったかもしれませんが、クルーとは異質な人間という意味で、はまっていました。

そして、3人の別れの場面。「なぜあそこで笑うのか」とおっしゃる向きもありますが、笑ってもいいんですよ。それだけたっぷりあるし、笑ったり感動したりしていく間に、盛り上がっていきます。ずっとシリアスだとそれに照れちゃうのが三谷さんだし、そこがわかっている、三谷さんの芝居をよく知っている3人。あのほどの良さが品がよくて素敵でした。ある種の俊寛。

実話だけど壮大なストーリーなだけに、歌舞伎とかミュージカルじゃないとショボくなってしまいそうで、歌舞伎座でこの座組で見られてよかったです。カーテンコール2回、何度もやらない歌舞伎座だけに、1回目から立ち始め、2回目はオールスタンディングでした。

【3幕目のみ幕見追記】

3幕目のみ、幕見に行ってきました。イルクーツクの場、エカテリーナの宮殿、そしてイルクーツクの別れ。エカテリーナ宮殿での愛之助にほろり(ここでのマリアンナのいい味)、そして豪華な謁見の場。

ドレスの貴婦人たちはもちろん、衛兵さんたちもみんな彫の深い顔にメイクしてて、立ち姿がすうっとしてかっこいい!一人一人もっとゆっくり顔を確認したくて時間が足りない!その間もポチョムキンと光太夫のやりとりに細かく反応するエカテリーナも見なくちゃいけないんですもん。

今回、やっとエカテリーナの背後に立つ小姓のくん確認。つか、あんなにすぐそばに立っていて、小姓役と知っていたのに目に入らなかったのは、猿さんエカテリーナ様があまりに神々しく光り輝いていたからなんですね。

イルクーツクの別れの場は、やはり2度目なのでじっくり見ることができて、3人の熱演と緩急にぐっときました。帰りたかったよなあ二人。間も数日前とは微妙に変わって、より効果的になっていたように思います。千穐楽まで、どんなふうに進化するんでしょう。

ところで、先日の一階前方席では気づかなかったんですが、愛之助と猿之助がマイクをつけているのがはっきりわかりました。全員がわかったわけではなかったんですが、いつも4階までちゃんと声が届くので、ちょっと驚き。三谷さんの細かい台詞を聞き取りやすくするためだったんでしょうか。そのうちに明らかになりますかね。

(おまけ・池田理代子「女帝エカテリーナ」)

201906_20190626234901 ところで、このお芝居、池田理代子先生の名作「女帝エカテリーナ」を知っているとより面白いです。タイトル通り、ドイツの貴族の少女だったエカテリーナが、ロシアの女王として君臨する一代記なのですが、国王始めダメ男しか知らなかった彼女が初めて恋した強い男がポチョムキン。二人が愛を確かめ合うとき、エカテリーナは、「もうこの広大なロシアを一人で治めなくていいんだ」と言うんですが、そのシーンが最高です。二人はそういう仲なのですよ。

 アンリ・トロワイヤの小説が原作なんですが、原作も面白いですがさすが池田先生という優れたコミック化でして、婦人公論だったかの連載なので表現も大人向けです。ポチョムキンは、エカテリーナとの恋が終わると、美形の若い男を女帝に与え、統治は続けるのですよね。その頃の話かな、などと思ってみておりました。

 

三代目市川猿之助「猿之助の歌舞伎講座」「スーパー歌舞伎」

201905kabukikouza  当代猿之助が好きすぎて、彼のアイドルである三代目猿之助さん(現猿翁)の書いた本ということで読んでみました。四代目が、先月の黒塚についても、三代目がいろいろ本に書いていると言っていたのもきっかけです。

 1冊目は、「猿之助の歌舞伎講座」1984年初版、1989年5刷。新書より一回り大きい正方形の本で、 四の切、新装鏡山再岩藤、當世流小栗判官、黒塚、海外での歌舞伎ゼミナール、などを、豊富なカラー写真で解説していきます。

 三代目の舞台にかける情熱、いかに観客を楽しませるかの工夫や苦労を惜しみなく書いてくれています。これが出版されたころは、40代で一番気力体力があって活躍している頃でしょうに、ここまで読者に親切な本まで出すとは驚きです。

海外での歌舞伎ゼミナールも本格的です。4都市で1か月。人気役者がていねいに海外で歌舞伎を指導し、その過程で歌舞伎の在り方について考える三代目。

第六講に、「女方・デフォルメの美意識」と題し、女方の修行のことが書かれています。澤瀉屋は立ち役の家系ですが、二代目が、「役者には最終的に色気がなきゃだめだ、團子(三代目)だけは女方のできる役者にしたい」と言って、藤間勘十郎(二代目)さんのところに三代目を預けたとあります(当時の二代目の妻が紫さん!)。三代目曰く、若い頃はやせ型で美しかったが、成長後首は短くずんぐりになったものの、勘十郎さんに六代目菊五郎に似ているといわれ、体型が不利だからこそ女方を美しく見せるための努力をしたと。

最後のページに梅原猛さんの「猿之助賛」があります。演劇に対する猿之助の情熱を称賛しつつ、「彼のような新しい歌舞伎の創造者には、真に新しい、歌舞伎の脚本が必要なのである」――これがきっかけで、梅原さんが「ヤマトタケル」を書くんですね。

 

201905_4 2冊目は、「スーパー歌舞伎 ― ものづくりノート」(2003年)です。集英社新書、300ページとたっぷり。題名通り、第1作の「ヤマトタケル」から、「新・三国志 Ⅱ」までについて、制作の過程を克明に記載しています。

 いや、すさまじい。「ヤマトタケル」の初演は1986年2月、それから2003年の「新・三国志Ⅲ」まで、9作を制作しています。脚本家は別にいるといっても、第1稿にダメ出しして脚本を練り上げ、美術、衣装のイメージを指定し、音楽を決めていくのはまさに猿之助。新作で出演者も多いので、稽古もたいへんです。

 驚くべきなのは、当時人気役者である三代目が、復活通し狂言や、連獅子などで毎月のように舞台に立ちながら(しかも七月は今の海老蔵のような猿之助奮闘公演!)、これらの大作を作り上げていったことです。そして、関係するスタッフが国際的なこと!京劇の学院長さんや、ドイツの宙乗りの第一人者の力を借りて、どこまでも自分の理想を追求する三代目。

フランスでのオペラ「コックドール」、バイエルンのオペラ「影のない女」の演出の経緯もあります。日本と違って、休み時間をきっちりとるキャストに、身をもって演じながら教える苦労。

1995年から2000年にかけて、春秋座で苦手な役に挑戦する自主公演も行っていますし、澤瀉屋の御曹司ではない役者さんを集めて二十一世紀歌舞伎組を作って公演をしたり、とその意欲はとどまるところをしりません。

記述も極めて明確で、ご自身の考えがしっかりあるところにも感心します。演技も踊りはもちろん、演出家としても決断は早く、役者の育て方もうまい四代目、すごいと思っていましたが、三代目の仕事ぶりをみると、新作の制作頻度、国際的な活動、他の分野の一流の方々との交流、歌舞伎座での奮闘公演、二十一世紀歌舞伎組の育成等、四代目にしてまだまだ三代目には及ばないといえましょう。

(しかしながら、四代目が三代目よりすごいところもあって、まずきれい<←ひいき!>、女方も含めると役柄が広い、同世代の人気役者との共演は歌舞伎ファンを喜ばせている、大幹部と若手の間の世代として若手を育て機会を与えている、現代劇でも名演を残している、バラエティ番組をさらりとこなして、若い層にもアピールしている…)

歌舞伎というだけでなく、真摯にものづくりを行う天才の克明な記録という点で、すばらしい本なのですが、前述のようにこの本の出版は2003年2月、三代目は、この年の11月の博多座「西太后」(藤間紫主演)公演中に病に倒れ、2012年の澤瀉屋4人同時襲名公演まで歌舞伎の舞台に立つことができませんでした。結果的に、この本は、三代目が病に倒れるまでのほぼ全記録という形となりました。

このときまだ64才、体力頼みのお役はともかく、歌舞伎役者としてはこれからが楽しみというお年です。映像でちらりと見た筆屋幸兵衛や加賀鳶の迫力、古典でもファンの方はもっと見たかったことでしょう。今の大幹部との共演だって、みられたはずです。

その後に書かれた日経「私の履歴書」(2014年)の記述の確かさはこの本と同様ですし、四代目へのアドバイスなども的確で驚きますが、その考えをそのまま言葉で伝えることが難しくなったことも、どんなにもどかしい思いをされただろうと、悲しくせつないです。

できうれば、このすぐれた見識を、本という形ででももっと残していただけたらな、と思いました。

四代目市川猿之助出演記録

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  四代目猿之助丈の、初舞台からの出演記録表(猿之助年表pdf) を作ってしまいました(恐縮ですが、個人でご覧になる以外のご利用はご遠慮くださいませ)。

   歌舞伎を見始めたのが2012年で猿之助襲名の年、それからさらに数年たって、好きな歌舞伎役者さんがたくさんできた中でも、四代目がとくに好きだなあと思い始めたのがつい最近(2017年春頃)なので、web情報や本でこれまでの軌跡をたどってきたのですが、生来の記録ヘキから、まとめたくなって。

歌舞伎公演データベースから公演をチェックし、ドラマ等は「僕は、亀治郎でした。」やwikipedia等を参考にしています。

単発の舞踊会等は、ネットで調べようとすると、告知は多いのですが、過去の公演の一覧等は意外とないので、けっこうたいへんでした。TVのバラエティで入れておきたいものもまだありそうです。間違いなど、お気づきの点があればお知らせくださいませ。

ここまでまとめると、いろいろな発見がありました。

子どもの頃は、三代目の興行で、子役で出ています。初御目見は4才で碇知盛の安徳帝、その後、「実盛物語」の太郎吉「牡丹景清」の娘人丸(阿古屋の娘ですね)、「加賀見山再岩藤」又助弟志賀市など子役の大役を務めていますし、10才で奴道成寺も踊っています(段之さんの歌舞伎座ギャラリートークで映像を見ましたがすごかった!)。亀治郎襲名は7才、「御目見太閤記」の禿たより

舞踊が得意な人ですので、数々の舞踊発表会に出ています。NHKで「供奴」が放送されたりしていますね。ご本人も、ほめられるのでうれしくて舞踊が好きになった、と語っています。10代後半は、「子守」や、先代との「連獅子」での仔獅子、右近さん忠信の鳥居前での静御前などがありますが、大学時代は学業優先で殆ど本興行での出演はなく、舞踊会等ばかりです。歌舞伎役者は大学からは本格的に本興行に出演する人が多く、ここまで学業優先は、澤瀉屋ならではかも。

そして大学4年以降、それまでを取り戻すかのように、スーパー歌舞伎、本興行とがんばっていきます。22才で名題昇進。年4,5か月のスーパー歌舞伎(お稽古も長い)と普通の興行。そういう中で、三代目の勧めから、自分自身でプロデュースする力と自分のために協力してくれるスタッフを得るために、2002年(26才)の夏に第1回亀治郎の会を開催します。

そして翌年の2003年7月の歌舞伎座を最後に、父段四郎とともに、三代目の元を離れます。知ってはいたけれど、当時大人気だった猿之助劇団を離れるというのは、ものすごい決断だったと思います。段四郎さんが一緒に、というのは、やはりお弟子さんは皆段四郎さんのお弟子さんたちであり、亀治郎一人で独立させることができなかった親の情なのでしょうか。ここまで兄を支えてきた段四郎さんは、息子の才能を早くから認めて、期待してきたのでしょう。

幸いにも1999年からはじまった新春浅草歌舞伎での大役への挑戦は続いていましたし、菊五郎劇団や海老蔵襲名公演への出演、そして亀治郎の会での努力もあって、独立の2年後には、「NINAGAWA十二夜」で麻亜役を演じ、高い評価を得ます。2006年3月には、三谷幸喜のPARCO歌舞伎「決闘!高田馬場」で染五郎・勘九郎とともに主要人物を演じ、コミカルな役柄に開眼しました。

2007年には、初めての映像作品にして大河ドラマ「風林火山」の武田信玄という準主役。3月の團十郎さんのパリ公演にも帯同し、「勧進帳」の義経、「紅葉狩」の山神を好演するとともに、暁星仕込みのフランス語の口上で沸かせました。2008年になると、地方公演では、かなりいい役もつくようになってきます。

2009年は、まず、テレビ東京のお正月ワイド時代劇「おんな太閤記」の秀吉役を務めました。「NINAGAWA十二夜」がロンドンで再演、またその凱旋公演が演舞場、松竹座と2か月ありました。3代目との交流が復活し、2010年新春浅草歌舞伎に向けた「悪太郎」のお稽古もみてもらいます。

2010年は浅草に続き、博多座、南座、こんぴら歌舞伎と、澤瀉屋の猿之助四十八選に奮闘します。秋には蜷川幸雄演出の「じゃじゃ馬馴らし」で主演。この辺りで、猿之助襲名が確実になってきたといえましょう。

2011年新春浅草歌舞伎公演中に、三代目から襲名を告げられ、5月に「四の切」初演、9月に猿翁、猿之助、中車、團子のスーパー襲名が発表されます。36才でした。

ここ辺りでやっと私の四代目認識とつながるんですね。

どんな世界も、一人を追いかけることで、その世界がより深く理解できるような気がします(アダム・パスカルを追いかけることで、ブロードウェイの作品の作り方やテコ入れ、当たらなかったときの非情なクローズをみることができました)。四代目の軌跡は、人気役者の一門の御曹司の成長の過程をみるという意味でも興味深かったです。

さて、これからはリアルタイムで見ていくことができるのは幸せといえましょう。

喜熨斗勝「歌舞伎 芸と血筋の熱い裏側」

201904_2  歌舞伎評論家としてときどきコメントを目にする、喜熨斗勝氏の「歌舞伎 芸と血筋の熱い裏側」。著者は初代猿之助の四男小太夫の息子とのことで、四代目からみると曽祖父初代猿翁の甥、仲良しの貞子さんの従兄に当たります。

タイトルは、中川右介「歌舞伎 家と血と藝」によく似ていますが、出版社も講談社で同じなのか。

内容は、とりとめのない歌舞伎関連エッセイという感じなのですが、面白かったのは、歌舞伎の小道具をやっていたことがある舞台制作の手塚優子さん、関洋子さんとの対談。と、最後の父小太夫さんとのことを書いたあたり。

手塚さんとの対談では、梅丸の小さいころや、福助さんのいい話が出ていましたし、先代の歌舞伎座で洗い場が外にあってたいへんだったことや、浅草歌舞伎で男女蔵さんにお弟子さんがついていなかった(左團次さんの方に行っちゃってた)ので手塚さんがサポートしたが、亀治郎にはたくさんお弟子さんがついていたこと(この頃は先代の下を離れているころですから段四郎さんが後ろ盾でよかったですね)など。関さんとの対談では、歌右衛門さんと福助さんのこと、海老蔵のこと、勘三郎さんの思い出や、平成中村座でのお弟子さんたちの公演の思い出などが興味深かったです。

最後の著者と父であり初代猿翁の弟である小太夫さんとのことは、その時代に苦労した一歌舞伎役者の記録として貴重でした。

残念な点もけっこうあります。例えば、直侍のそばを食べるくだりが違うとか、海老蔵と獅童への思い入れ強すぎるとか、勘九郎・七之助への評が辛めなんですが、その内容が、たとえば、七之助はか弱い女性しかできない(菊之助の方が男を手玉に取る女性もできる)とか、昨年12月に出たばかりの本なのに、ここ数年の七之助の舞台を見ていないのか?って感じです。

ということで、歌舞伎に興味のない方が読んでも、興味がわくわけではないし、歌舞伎をよく見ている人は違和感のあるところが多いし、だれがターゲットなんだという感じの本でした。

 

 

四月大歌舞伎「実盛物語」「黒塚」

2019043  歌舞伎座夜の部、1階前方センターでの観劇です。

 最初は、評判高い仁左衛門さまの「実盛物語」2017年に愛之助の実盛で見ています。そのとき、愛之助がニザ様に似ていると思ったのですが、本家ニザ様ですよ。さすが、この美しい衣装がお似合いの美しいニザ様。

葵御前の生んだのが腕だという小よしの言葉を、うまいこと言って瀬尾十郎(歌六)に信じさせてしまうところから、小万の腕を切り取る次第の目に見えるような語り口、義太夫への乗り方、太郎吉への情け、馬に乗ったときの姿の美しさ、と、たいそう立派な実盛。長台詞も、ニザ様が語るとすんなり入ってくるのはどうしてなんでしょう。

また、この一座の配役が見事で、九郎助夫婦が松之助、斎入、この二人は、もう最高の九郎助夫婦じゃないでしょうか。松之助さんは、うまいというあざとさなく、本当にその芝居に生きる人物を見せてくれて、大好きです。小万が孝太郎、葵御前の米吉が、かわいさを抑えて、気品のある葵御前を健気に演じていました。。

歌六さんの瀬尾は、表情豊かで、意外に黒目が大きくてかわいい瀬尾。ずっしりとした貫禄があって、情愛があって、まあ、何やっても歌六さんはまちがいありませんよ。

太郎吉の寺嶋真秀、まほろんがずっと出ずっぱりなんですが、台詞も多いし、見得だの瀬尾を斬るだの、本当に重要なお役。そして、瀬尾の述懐や、実盛の馬乗りなどをじっと見る顔が、まあ小学校入りたての坊ちゃんとは思えない落ち着き。先日「サワコの朝」に、しのぶさんと一緒に出ていましたが、天性の明るさ、豊かな表情、芝居好きと見える様子、たぶん大柄な美丈夫になりそう、既に日仏英のトリリンガルと、本当に期待膨らむ坊やですよ。直系のじゅふたんは来月丑之助という立派な名をもらいますが、まほろんも早く何か名前もらってあげて!

2つめは、いよいよ「黒塚」2015年1月歌舞伎座は幕見。2017年1月新橋演舞場は2階右、今月もこれまでは幕見だったので、1階で見るのは初めてでしたが、もう、四代目に圧倒されるというか、四代目の世界に引き込まれて終始 掌の上でもてあそばれているような気持ちになりました。

1景、阿闍梨祐慶(錦之助)一行と岩手(猿之助)のやりとり。岩手の豊かな表情に、一瞬も目が離せません。衣装もきれい。祐慶、もっと口跡がよければ、と思いはしたものの、尊い美しさに、ありがたい気持ちになります。種之助、鷹之資は、当初と比べると、驚くほど力強くなっていて、踊りのうまい二人だけに、どの場面も美しかったです。特に鷹之資は、ちょっとぼっとしたお役の先月とくらべて、メリハリのきいていること、化粧もきれい。

2景。筝と三味線、尺八の力のこもった演奏に、たっぷりの岩手の舞踊。だんだん救われる喜びにあふれていくのが、切なく、でも楽しく、耳も目も喜びます。自分の影と戯れるのは見えないのですが、あの大きな月と重なって見える岩手、前方ならではの迫力。舞台写真だと月の下に岩手がいますが、岩手の後ろに月が見えるのは、新鮮でした。強力太郎吾(猿弥)とのくだりも見事、高さのあるジャンプ、背面宙返りの退場。猿弥さんの体型からは驚くようなキレのある動き。

そして、いよいよ第3景。阿闍梨一行の容赦ない調伏に、だんだん弱る鬼女。花道での仏倒れ、ものすごく素早く体勢を整えていました。きっちりと計算された展開に、もっていかれます。最後は小さくなってしまいます。

能を題材に、古風ではありますが、要領よい説明や素早い場面展開、次から次へと見せ場が続くこの作品、全く古くありません。囃子方、唄の思い入れ、音楽と舞踊が一体となった充実感、四代目、猿弥さんの身体能力を惜しげもなく見せてくれるありがたさ。

惜しむらくは、劇評の先生方、「黒塚は素晴らしい」前提なのか、照明を変えたとかなんとか小さいことについて書いているんですが、見ていない人に、まったく良さが伝わってないですよ。歌舞伎には、歌舞伎が好きな人だけが受け入れられるものと、歌舞伎のみならず舞台芸術が好きな人に十分アピールできるものとがあると思うんですが、まちがいなく、黒塚は後者だと思います。

そして、こんなにも激しい演目を本興行でやれるまでに快復してくれた四代目、本当にありがとう。

(最後の幕見)

目の前で見て、ああ、もう満足と思ってはいたものの、楽日近くに幕見に行ってしまいました。こんなにリピートできるのも、歌舞伎座のありがたいところ。立ち見の番号でしたが、下手で座ることができました。

この日はイヤホンガイドをを借りてみました。衣装の説明は柄のことまでは細かくて覚えていられないし(水衣と能鉢巻だけ覚えてます)、役者名はわかるし、台詞の説明も黒塚は新歌舞伎で台詞がわかりやすいのでさほどいらないのですが、やはり舞踊は、長唄の歌詞と合わせての動きの意味を細かく教えてもらって、初めてわかることもたくさんありました。こんなにリピートするなら、早いうちに借りておけばよかったかも。でも1,2回見るだけなら、音楽をめいっぱい聞きたいですけどね。

解説をききながらじっくり見る2景は、岩手の心の高揚が胸に迫って、感動でした。

そして、3景は、イヤホンガイドも少なめ、台詞はほとんどないので、もっと話しても大丈夫なんですが、この熱演の前では、説明など不要ということをわかってくれてよかった。

ますます阿闍梨一行のチームワークというか動きが気持ちよく、鬼女とのアンサンブルが素晴らしい。そして、仏倒れの一瞬前に、戯れていた木の影が舞台中央に蘇ります。そのあと、驚異の後ろ向きジャンプをピークに、力尽きていく鬼女、終盤に向けて、ときどき岩手が顔を出すのがはっきりとわかります。鬼なのにかわいらしさがあって、切なくなります。ああ、これが最後の黒塚。

最近の素顔の猿之助さん、ちょっとあごのあたりがすっきりして、黒塚のハードな舞台のためなのか、でも充実感があふれていて、これからますます楽しみです。

 

四月大歌舞伎「平成代名残絵巻」「新版歌祭文 座摩社 野崎村」「寿栄藤末廣」「御存鈴ヶ森」

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 4月の歌舞伎座、昼の部です。バラエティに富んだ演目が並び、のべ5時間(!)でした。

 1つめは、「平成代名残絵巻(おさまるみよのなごりえまき)」。平清盛の屋敷、徳子(壱太郎)の入内を前に、叔母の淑子(笑也)、時子(笑三郎)、宗盛(男女蔵)、藤原基房(権十郎)らが集まっています。徳子と知盛(巳之助)が舞います。

 次の場では、遮那王(=義経、児太郎)が、鎌田正近(市蔵)とともに、母の常盤御前(福助)と対面します。打倒平家を誓う遮那王。福助さん、声に張りがあり、お元気そうでした。そして遮那王と知盛との対決、宗清(彌十郎)の仲裁。巳之助と児太郎の両花道の引っ込みが力がこもっていて、よかったです。

2つめは、「新版歌祭文」。野崎村は、まだ見ていない有名演目の一つでしたので、楽しみにしていました。めったに出ない「座摩社」からです。

大店油屋の丁稚久松(錦之助)は、手代小助(又五郎)に騙されて、商い先から受け取った金をとられてしまいます。久松は油屋の娘お染(雀右衛門)といい仲。そのお染に岡惚れしている佐四郎(門之助)に調子よいことを言って金を巻き上げる小助と法印(松之助)。

久松の人柄と状況を説明してくれる場なんですが、主役は又五郎さん。生き生きと小悪党を演じています。松之助さんの味のあること、門之助さんのおっとりとしたカモの若旦那。

そしていよいよ野崎村。久松が育ての親の久作(歌六)の家に、小助とともに帰ってきます。久松がだまし取られた金を、小助にたたき返す久作。小助が帰った後、久作に久松と祝言するよう告げられて喜ぶ久作の娘お光(時蔵)。そこへ久松を追ってお染がやってきます。

お光ちゃんが最初に出たところから、素直で率直ないい娘なんですよ。祝言の御馳走のなますのために大根を刻む(時蔵さん手つきがうまい)ときの弾んだ気持ち、お染への嫉妬。お染も跡取り娘ながら、久松に惚れぬいているかわいい女。二人が取り合うのも無理もない、優男の久松。酸いも甘いもかみ分けたわれらがお父さん、歌六。

ストーリーは知っていたんですが、実際に見ると、意外に明るい面白いやりとり。役者さんがきっちり役に合っていて、それぞれの気持ちがよくわかります。身を引くお光のせつなさ。そして留め男(男じゃないけど)の役割で出てくるお染の母お常(秀太郎)。別れて帰るがけじめ、というのがまた胸にしみました。

両花道で、花道からはお常・お染親子が舟で、仮花道から久松が駕籠で帰ります。残されるお光と久作。駕籠かきの着物を脱ぐコミカルなひとくさりの後で、皆を見送ったお光の慟哭がかわいそうでほろりとしました。

上記の通り、時蔵・錦之助、歌六・又五郎がそれぞれ好演なんですが、この2兄弟はいとこ同士、そして今年は彼らの曽祖父の3代目歌六の没後100年なんだそうです。今の歌舞伎になくてはならない個性的な役者さん、この演目は、何よりの追善になったことでしょう。

2019044_1 3つめは、「寿栄藤末廣 鶴亀」藤十郎さんの米寿記念の舞踊です。1月の松竹座では藤十郎さんと、雁治郎・壱太郎、扇雀・虎之介でしたが、今回は、雁治郎・猿之助・亀鶴・壱太郎で登場。亀鶴さんは初代雁治郎さんの曾孫で、雁治郎さんたちのまたいとこにあたるんですね。

それで、今月の「演劇界」のロングインタビューで、猿之助が「一門の皆様に入れていただいてありがたい」って言ってたのか。その通りで、5人がせりあがってくるのを見ると、「何でいるの」感。しかし、ちんまりしている藤十郎さんの隣で、薄黄緑の衣装が似合って、ここ最近では一番きれい、もうオーラで輝いているように、そして次期女王は私、みたいに見えました。藤十郎さんと四代目の芸風はかなりちがうように思えるのに、このインタビューでは、いくつも役を教わったと言っていますし、別のところでは、「何をきいても論理的に答えてくれる」とも語っていて、本当に藤十郎さんのことを敬愛しているんだなと思います。高齢の方となぜか仲いい四代目。

さらに歌昇・種之助、児太郎、米吉と若手が花を添えて。壱太郎は、上の5人でいるときには妹分に見えるんですが、衣装を変えて児太郎・米吉と並ぶとお姉さんに見えて楽しかったです。

歌舞伎美人ニュースの記念写真 →勢揃いの華やかなお写真!これほしかったです。

さて最後は「御存 鈴ヶ森」。これも見たかった演目です。ここでも又五郎の飛脚が、鈴ヶ森に集まっているならず者たちに身ぐるみはがされる場面から。そこへ国元を出奔してきた白井権八(菊五郎)が駕籠から降ろされ、賞金目当ての雲助たちが襲い掛かるのをバッタバッタと斬ります。立ち合いながらユーモラス。

2019042_1 そして、幡随院長兵衛(吉右衛門)がやってきて、「おわけぇの、おまちなせぇ」に始まる名台詞の場面。ひーかっこいいよ吉右衛門さん。吉右衛門さんの役の中でも、長兵衛はかなり上位に入るので、また見られて感動でした。

 余談ですが、左近くんがネットで「左近センパイ」と言われるようになったのは、俳優祭で金太郎権八とやった鈴ヶ森の長兵衛が大ウケで、そのあと松緑が長兵衛をやったからなんですよね。これだったのかあ(「左近襲名披露のニュース」に出てました)。

ということで、盛りだくさんの昼の部でした。

 

 

四月大歌舞伎「黒塚」「二人夕霧」幕見(追記あり)

  201904kabukiza   今月の歌舞伎座夜の部、初日の評判に待ちきれなくて(←いや、最初からわかってたか)、黒塚」の幕見です。先月の弁天娘よりも1時間開演が早いのでどうかと思いましたが、開演10分前到着でも座れました。桜満開の時期とあって外国人の方が多くてほぼ満席。

 ああ黒塚!私が猿之助丈のファンになったのは、2014年11月の明治座の女團七と2015年1月の歌舞伎座の黒塚がきっかけといえるんですが、その黒塚です。2017年1月の新橋演舞場の黒塚以来3回目ですが、今回は奥田雅楽之一さんや杵屋佐喜さんのTwitterで黒塚についてつぶやいているのを拝見したりして、囃子方の方々にも特別な演目なのだなと思いました。雅楽之一さんは、黒塚についての記事も紹介してくださっています。猿之助さんの、舞台を作り上げる全ての人たちとのいいコミュニケーションが感じられました。

安達ケ原に住む岩手(猿之助)のところに、阿闍梨(錦之助)一行が宿を求めます。錦之助さん、もう少し口跡がよければと思わないではないですが、やはり美しいたたずまい。種之助、鷹之資は、気合が入っていてとてもよかったです。鷹之資は、先月の浜松屋の宗之助よりずっと合っている感じ。

2景。一面のススキの原の前で、岩手が初めは静かに、そして阿闍梨に妄執を取り除いてくれる嬉しさに、楽しそうに踊ります。4階から、木と自分の影と戯れる姿がはっきり見えました。なめらかな手の動き、神様ありがとう、とまた泣きたくなりました。2景のみの筝の演奏も見事。

そして、岩手に禁止されていたのに、寝屋をのぞいてしまった強力太郎吾(猿弥)と出くわした岩手。岩手のままのしつらえながら、鬼女の本性を現し、凄い高さのジャンプ、強力につめよる動き、バク転での引っ込み。腰の抜けた強力の猿弥さん、さすが踊りの名手です。

3景は鬼女と阿闍梨一行との激しい戦い。長袴の衣装がきれいなんですよ。言葉のいらない迫力に、幕見席全体が引き込まれました。やはり、すばらしい作品でした。

さて、続けて「二人夕霧」。あの廓文章 吉田屋の夕霧は病で亡くなり、伊左衛門(雁治郎)は、同じ夕霧という名の傾城(孝太郎)と所帯を持ち、傾城買指南を商売にしています。教えを乞いに、彌十郎、萬太郎、千之助がやってきます。このあたりコミカルなやりとりなんですが、彌十郎さんというより、市蔵さんや亀蔵さんあたりが面白かったかも。萬太郎はかわいい目を細くして、この舞台の雰囲気を盛り上げようと好演でした。千之助もがんばってた!

後半は、幽霊の夕霧(魁春)が登場して、伊左衛門と踊り、おきさ(東蔵)も加わって、最後は伊左衛門に大金が転がり込んでめでたしです。

うーん、役者さんも常磐津も、誰も悪くないんですけどね、雁治郎・孝太郎は先月女鳴神コンビだし、最近孝太郎さんいいし。しかし、夕霧二人と二股ってなんだよってことですよ。吉田屋の伊左衛門は、どうしようもないボンボンだけど、夕霧に惚れぬいているところだけがいいところなのに。のっぺりした赤い壁のセット、笑っていいのか微妙な芝居、そしてどこに行こうとしてるのかわからない舞踊。小判を降らせるのも、ちょっと下品に感じました。

これ、弁慶上使や熊谷陣屋や碇知盛のような重い演目のあとならまだよかったと思うんです。しかし、上記のような、完成形をさらにつきつめたような舞台づくり(歌舞伎座でもここまで美意識を貫くのは稀では)のうえで、踊りの名手が、代表作の一つとして、大怪我から復帰して命がけで踊った演目の後でのゆるいお芝居と踊りですか…。観客もどう見ていいのかわからない雰囲気でした。これからお客の入り大丈夫かな。ただでさえ、黒塚だけ繰り返し見たい猿之助ファンって多そうなのに。

「オペラ座の怪人」の続編、なんでこんなの作っちゃったの感が強い「ラブ・ネバー・ダイ」みたいなものでしょうか。私は吉田屋好きなので、ニザ玉、幸七で見た吉田屋の感動返して。

うーん、やっぱり黒塚、夜の部のキリの演目ですよね。ざんねん。

(幕見2回目)

1週間ほど後、黒塚2度目の幕見です。見るたびに、衣装やセット、照明を含めた美しさ、現代の時間感覚にギリギリ斬り込んでくるような静の場面(=長すぎない)、常よりもずっと存在感があって、芝居の重要な要素となっている、演奏会のような鳴り物、囃子方、意外にわかりやすい詞、に感心します。

仕立ては能に見えますが、立派に今に生きる作品。「熊谷陣屋」のような芝居はもしかしたら廃れてしまうかもしれませんが、これは猿翁十種といいながら、もっと残るような気がします。

再演とちがって、短い間をおいての観劇ですと、流れを覚えていてじっくり見られます。大詰の花道では、鬼女の荒い息やうなり声が聞こえて、苦しみが4階まで伝わってきました。あの両手をブンブンするのは煽っているようにも見えます。大胆な隈取の向こうに、猿之助のキラキラした目が見えて何だか感動でした。

やっぱりキリの演目だなあ。

(幕見3回目)

2景では、筝が加わるのですが、何日かは、正派の家元(今月家元を譲られて宗家となられるそうですが)、93歳の中島靖子さんが出演されるときき、その日に行ってきました。筝は、靖子さんのソロ(特別ですか?いつもよく見ていないので気づかなかった)の部分が結構長くあり、丸く美しい音色が聞けました。昭和20年から出演されているそうで、74年ですよ!わずかな出番のために、それだけ高名な方が出てくださるのは、それだけこの澤瀉屋の演目を大事に思ってくださり、四代目のこの演目への思い入れやその成果を認めてくださっているからでは、と思います。

(しかし藤十郎さん、竹三郎さん、寿猿さん、紅長のときの玉之助さんと、80代後半以上の方々と仲良しな四代目)。

毎回どこがちがうかとはっきり言えないのですが、2景の踊りがより楽し気で、メリハリが際立っているように思いました。さあ、もうすぐ真近で見られます。

(1階席での感想+前楽幕見)

三月大歌舞伎「盛綱陣屋」「雷船頭」「弁天娘女男白浪」(偶数日)<偶数日楽幕見追記あり>

201903benten 歌舞伎座夜の部、偶数日のフル観劇です。待ちきれなくて、猿之助弁天小僧だけ幕見2回してました。奇数日の感想はこちら。

 最初は「盛綱陣屋」。秀太郎さんの微妙がやはりとてもよく、日を追って、小四郎への愛情が高まっているのか、祖母が孫に死を迫るのがどんなにつらいか、秀太郎さんに共感して泣かされました。

義太夫も素晴らしかったんですが、錦之助さんの信楽太郎のところだけ、あまりに目が忙しくて何言ってるか完全に抜けてました。錦之助さん、美しかった!

勘太郎くん、お芝居の間が進歩していて、毎日いろいろ考えながら工夫しているんだなと思いました。真秀くんの小三郎も、長い首実検の場面、武士としての気の入った表情をしていて、感心。

道太夫、葵太夫、谷太夫とちからのこもった義太夫も含め、最高の盛綱陣屋。

2つ目は初見の「雷船頭」幸四郎・鷹之資版です。幸四郎さんのシュッとしてかっこいいことといったら、もう最高。金剛像のようなたくましい足(膝には大きな座りタコ!)。若い鷹之資のつやつやのお面をかぶっているのかと見まがう肌と、軽やかで楽し気な舞踊。こういう楽しい舞踊を華のある役者さんで見るのはいいですね。

そしていよいよ「弁天娘女男白浪」。初めて1階で猿之助弁天小僧を見ます。

すでに1週間前に見たときには、だいぶこなれてきた感じがしましたが、もう猿之助弁天小僧としては、現時点のほぼ完成形です。娘のときのさすがの女方のかわいらしさ、正体を現したときの凄み、南郷への甘え、わがままさ加減、やりたい放題感が最高。

弁天小僧としては、菊五郎おやじさまの域にはまだまだだということは置いといてですよ、弁天・南郷の、この勢いのある花形同士の関係というのは、もう菊五郎・左團次コンビにはないわくわく感。猿之助と幸四郎の関係を思うと、今これ以上の弁天小僧・南郷力丸はないのではないかと思います。これからは、あるとすれば、勘九郎・七之助とか、猿之助・愛之助とかですかね。幸四郎丈が今後猿之助につきあってくれなければ、見られないものとして、とても得難い演目となりました。

そして、浜松屋の手代たちのチームワークもきびきびと、橘三郎さんもテンポよく、とにかく楽しかった!

そして稲瀬川の場。この配役での1階は初めてなので、幸四郎南郷が花道に元気よく突っ込んでくるのを初めて見ました。元気がよくて無頼な感じで、手ぬぐいもラフに巻いててかっこいい!花道から舞台に出るところでは、5人が、ひとりひとり目くばせするんですね。衣装も地が同じで柄が個人に合っていて最高なんです。

ということで、夜の部、充実していました。難をいうと、弁天小僧を奇数日・偶数日両方見すぎて、盛綱陣屋はパス!する方が出てきちゃったことですかね。お隣のおばさまも、「もう3回見たからいいの」と雷船頭からいらしてました。うう、1階なのにもったいない!

(偶数日楽日幕見追記)

いい席で見たし、もういいかなと思っていたんですが、気づいたら朝オペラグラスをバッグに入れ、気づいたら幕見に急いでいました。さすが猿之助弁天小僧楽日、発売20分前に到着した時にはすでにお立ち見。雷船頭からの通しの方が多かったようでした。

花道での弁天、南郷の出からして、拍手が止まらず、弁天の台詞が聞こえません。この熱気にこたえるように、すべてがタップリの猿之助弁天。当初の上演時間は奇数日より8分長かったのを数日後揃えていましたが、楽日は少し戻したんですね。

このタップリさが、音羽屋とちがう、ってことなんでしょうが、緋鹿子を落とすときのワルイ表情(鬼揃い紅葉狩みたい!)、正体を現してから、信頼する相棒の南郷がついていてくれることで、安心しているかのように好き勝手悪態つく弁天小僧のかわいらしさ。番屋に突き出せ、切りやがれ、とミーアキャットのように同じ角度で下手を向く弁天・南郷!

そして花道の引っ込み、分け前を多くとられた後、南郷が「この埋め合わせはするから」というのに、「いつもそうなんだから」という言葉が、さらに色っぽくなってました。ここは、わかりやすく変えたのでしょうが、私は、初日の、さらっという「そうなんだから」の方が、「ちょっと待って、もしかしてそうなの?やだー💛」って感じで好きでした。まあ、メリハリ聞かせてわかりやすく、というのが澤瀉屋なんでしょう。猿之助の台詞は、黙阿弥の台本を今の観客にしっかり聞かせるというようでした。

稲瀬川の勢ぞろいでの生意気そうな表情。ああ、楽しい3月でした。最近妙に悟ったような言動が多かったような気もしていたけど、こういうお役を力いっぱい楽しそうに演じる猿之助丈、ほんとにありがとう。

 

 

 

 

三月大歌舞伎「盛綱陣屋」「雷船頭」「弁天娘女男白浪」(奇数日)

201903morituna      三月大歌舞伎、夜の部奇数日です。

ひとつめは、仁左衛門さんの決定版と評判の「盛綱陣屋」。和田兵衛(左團次)、微妙(秀太郎)、時政(歌六)、篝火(雀右衛門)、早瀬(孝太郎)と、ニザ様の盛綱にふさわしい素晴らしい配役。さらに、小四郎(勘太郎)、小三郎(寺嶋真秀)に、信楽太郎(錦之助)、伊吹藤太(猿弥)とご注進も華やか。見事な一幕でした。

2016年11月に芝翫さん襲名披露で見た時と秀太郎さんの微妙は同じなんですが、やはり仁左衛門さんとの芝居が濃いような感じがして、盛綱が小四郎の死を微妙に託す場面が印象的。秀太郎さんの微妙、盛綱、小四郎、高綱への愛情があふれた老母がすてき。雀右衛門さんがこの役にはまっているのは当然として、最近、孝太郎さんが美しく、貫禄もあっていいです。

しかし、役者それぞれに見せ場がありつつも、やはり一番の見どころは盛綱の首実検。たしか歌舞伎座新開場のときに、ニザ様が手順を解説したTV番組を見て、そういうものかと感心したのですが、確認するのが怖い、高綱でなくてよかった、ではなぜ小四郎は切腹、小四郎、そうだったのか、という過程がとてもわかりやすく、そして美しく感動的です。
葵太夫さんの義太夫がまた、良い席だとよけい響いて感動でした。

そして中村屋の役者がまったくいない座組で健気に務める勘太郎君。義太夫にも乗って、きっかけを自分でつかむ場面も多くて熱演。上記の首実検での盛綱とのことばのないやりとりがじんとしました。しかし話には聞いていましたが、子役独特の台詞や誇張した演技にけっこうな笑いが起きているんですよね。我慢してよ。真秀くんは、立派な鎧姿、うれしそうにきれいな見得を切っていました。この子はほんとに歌舞伎が好きそう。

四天王に廣太郎、種之助、米吉、千之助。歌昇くんは国立で助右衛門やってるのに、種ちゃんこの一役とはややさみしい。米吉はチラシに名前があるのにいなーいといわれるくらい、珍しい武者姿でした。しかし並んでいるときの目力大事。最近の隼人なんかほんと力入ってて、そのためかブレイクしてますもんね。

2つ目は、20分ほどの舞踊「雷船頭」。日替わりで、幸四郎、猿之助が船頭役ですが、奇数日の猿之助は女船頭。かわいい雷(弘太郎)が落ちてきて、お酒を飲んだり楽しく踊ります。昼の「傀儡師」とちがって、予備知識もまったく不要な、楽しい舞踊。初めて見ても楽しいという点では、「浮世風呂」や「団子売」と同じです。

そして猿之助丈のほんとうに滑らかな腕、手の動きを見るたび、完全に治ってくれて、神様ありがとうとやはり思います。

最後は「弁天娘女男白浪」。奇数日で、幸四郎弁天、猿弥力丸、猿之助清次の配役です。幸四郎の弁天小僧、クールビューティできれい!軽やかで、幸さんの独特のユーモアと相まって魅力ある弁天です。猿弥南郷は骨っぽく、悪事を働くにはいいコンビ。

しかし、ようく見ていましたが、やっぱりこの二人はいい仕事仲間で、友情はあるけどそれ以上のものはない!「埋め合わせはするから」が、完全に損得勘定の話に見えました。

猿之助の清次はすっきりとかっこよく、めりはりもきいていていい感じ。ちょっと着物のえり気にしすぎ。

偶数日初日に見た時より、浜松屋のメンバーもきびきびと芝居のテンポがよくなっていて、お芝居全体が心地よいリズムで楽しかったです。鷹之資は若いんだからもっと出て行ってもいいのに。

さあまた偶数日に見ますよ!

三月大歌舞伎「女鳴神」「傀儡師」「傾城反魂香」<2回目追記あり>

201903_2
 三月大歌舞伎昼の部です。

 1つめは、「女鳴神」。鳴神の男女を入れ替えたものです。織田信長に滅ぼされた松阪弾正の娘鳴神尼(孝太郎)が、昔の恋人雲野絶間之助(雁治郎)にほだされて、龍神を封じ込めた秘密を話してしまいます。 

鳴神を誘惑するのが雁治郎はんかあ、と思っていたら、見ているうちに雁治郎さんがかっこよく見えてきて(さすが、そしてごめんなさい)、姫とのなれそめを話す場面なども所作が美しく、素敵。しかし強いはずなのに、岩を登るときはヨロヨロ。ここ、姫姿の絶間姫は蔦をつかんでこけつまろびつ登るのもしかたないですが、立派な武者の絶間之助は一気に登るのかと思ってましたよ。

前述のとおり、絶間姫の色香に迷う鳴神に対し、昔の恋人との愛が再燃する女鳴神はなんか気の毒。ぶっ返った後も、しなやかであくまで女性の女鳴神、かわいらしい。鳴神尼に仕える白雲尼(猿三郎)、黒雲尼(猿四郎)の二人が達者で楽しかったです。

2つめは幸四郎の舞踊「傀儡師」。傀儡師が、お七吉三、牛若丸と浄瑠璃姫、船弁慶などを踊り分けるという趣向で、柔らかな表情の幸さんが、軽やかに踊ります。物語まではきっちりわからないながら、演じ分けはなんとなくわかる感じ。

3つめは「傾城反魂香」。三代猿之助四十八選の「高島館」「竹藪」がついています。この場は、私の人生2回目の歌舞伎で、2012年に明治座で見た場です。笑野さんの銀杏の前がかわいくてよかったなあ。

さて、今回は四郎二郎が幸四郎、銀杏の前が米吉で、美形の四郎二郎と無理やり一緒になりたい銀杏の前の面白い場になりました。道犬(猿弥)、雲谷(松之助)も憎々し気。四郎二郎は縛られて、自らの血で描いた虎が助けてくれます。ああ、こういう幸四郎大好き。花道の引っ込みも美しく、かっこよかったです。明治座でも虎の動きの面白さを楽しみましたが。やはりこの虎、強くてユーモラスで楽しませてくれました。

またもや雁治郎さんが雅楽之助で立ち回りに大活躍。これがけっこう長くて、傷ついた雁治郎さんが本当にヘロヘロのように見えました。

 いよいよ土佐将監閑居場。通常出る吃又です。猿之助のおとくは、かつて浅草歌舞伎で演じた時、勘三郎さんが、自分が又平のときおとくをやってねと言ったという、数少ない勘三郎・猿之助のエピソードとなっている役。今月のおとく、SNSでは、又平への愛情にあふれた女房おとくに泣いた、という声が多く、さすが女房得意だし、と思いつつ見に行ったわけですが。

おとく・又平登場直後から、ちゃきちゃきしゃべり、場を制圧する猿之助に、これ、こんな芝居だっけ、と目を見張ります。といっても、出しゃばりというより、又平のことが好きすぎて、なんとか引き上げてもらいたいという熱意のあまりという行動。対する白鸚丈の又平、さぞこれまで真面目に修行してきたであろうという健気な雰囲気。

そして、懇願しても土佐の苗字はもらえないと知って、あの「手は2本、指は10本ありながら…」があり、二人が涙ながらに手を握り合う。ここがもうたっぷりで、静まり返って劇場全体がみつめます。そこから、おとく又平の描いた手水の絵姿を確認するところ、くるぞ、くるぞと待ち構えるこちらの気持ちをひきつけます。

 猿之助丈、歌舞伎とはと聞かれれば、無限に正解を持つ型で伝える演劇だといつも言っているのに、この間合いは、歌舞伎の型から出てくるものではないのではと思います。あの吉右衛門・菊之助の吃又はすばらしかったけれど、これとはちがう。

 猿之助にこれをやらせてくれるのは白鸚さんならでは、と、「一本刀土俵入り」も思い出します。あの、アドリブのような素のようなやりとり。現代劇との共通項を持っている二人だからなのか。

無事姓とお役目をもらい、喜んで舞う又平。おとくは鼓を打ちます。吹き替え(というのか?)ではなく、実際に打っていて、皮の感想が気になったのか、息を吹きかけたりしていました。かなりきれいな音で、さすが器用な人。

というわけで、こういう猿之助が見られて大満足の昼の部でした。

(2回目追記)

この2週間後、今度は3階ですが、昼の部を再見しました。

「女鳴神」、雁治郎・孝太郎のお二人、ますます意気が合ってます。絶間之介は、はっきり騙りだったと言ってたんですね(なぜ前回聞き逃していたのか)。絶間之介もやむを得ずやっていたという立場が明確になって、今度はすっきり見られました。

気になっていた、ヨロヨロ登りも、険しくてというより、結界のように、登りづらくなっていてがんばったように見えました。

「傀儡師」、写真が入った筋書を買ったので、前回よりは細かく場面もわかって、常磐津も聞き取れて楽しかったです。後見の京純さんイケメン。坂東流の踊りで、三津五郎さんが何度か踊っているようです。幸四郎が踊ることでまたつながっていくんですね。

そして「傾城反魂香」。前回予想を超えたよさだったので、もう1回見たかったんです。

お百姓の寿猿さんがとてもいい芝居をしていて、ちょっと好きな高麗五郎さんもいい味でした。そして高麗蔵さんの龍の字がきっちり書かれているのも、ちゃんと認識しました。

今回は、最初のおしゃべりのおとくが、すでに修理之助が苗字を許されたことを知って必死の思いで来ているということがわかっているだけに、切ない気持ちになります。そして、白鸚さんの又平の必死さが胸に迫ります。こんなに、思うようにならない言葉にいらだち、必死な又平がいたでしょうか。この又平と、猿之助のおとくの組み合わせが、やはり独特のリアルさをもって、歌舞伎座を支配するあの空気!

猿之助とおとく、いいといわれていても普段の才気煥発な雰囲気からはぴんとこなかったのですが、確かに当たり役といえましょう。

最後の喜びの又平の舞、おとくの鼓の音もよく、気持ちの良い昼の部の打ち出しでした。

 

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