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図夢歌舞伎「忠臣蔵」第4回(七段目)、第5回(九段目、十一段目)、写真絵本「仮名手本忠臣蔵 由良之助とおかる勘平」

2007zumukabuki_20200721212201 図夢歌舞伎4.5回の完結編です。第1回(大序~三段目)・第2回(四段目)第3回(五、六段目)もご覧ください。 

 図夢歌舞伎「忠臣蔵」第4回七段目「祇園一力茶屋の場」

幸四郎の平右衛門は初見です。由良之助と兼ねるわけにはいかないので、前半の放蕩や三人侍や九太夫とのあれこれはカット。事前にTwitterでみたてを募集していましたが、どうやってと思ったら、平右衛門と猿弥人形で。3題披露されましたが、思った以上に「うまい!」という内容で、感心しました。

この忠臣蔵でいろいろな役をやっている幸四郎さんですが、平右衛門はなかなかいいです。身分は低く、あまり賢くなさそうだけどまっすぐで優しい平右衛門。ここまできたら、前回の勘平も(猿之助がやってくれたのはもちろんうれしいんだけど)見たかったかも。運命に翻弄される悲劇の幸さんて好きなんですよね。

さて、おかるは雀右衛門さん。ひいたアングルはおきれいです。何より台詞回しが、ああ、歌舞伎ってこうだった、今歌舞伎を見ている、という満足感を味わわせてくれました。図夢歌舞伎に出てくださってありがとうございます。インスタライブなどもなさったりして、若々しくていらっしゃる。

平右衛門とおかるの仲の良い兄妹が、どこかのんびりしたくどいやりとりをする面白さは、花道を使っての二人の距離の遠近がないだけ、本来よりはだいぶダイジェストなんですが、二人の関係性などは伝わってきたと思います。

そして、映像だからこそ可能となった、初代白鸚(八代目幸四郎)の由良之助の登場。お顔といい、迫力ある台詞といい、堂々たる立ち姿は、まごうかたなき現白鸚、吉右衛門さんの父。初代吉右衛門さんの娘さんがお稽古に通ってきた八代目とどうしても結婚したい、男の子を二人産んで一人は吉右衛門を継がせます、と言ったという話を思い出すのですが、さもあらん、なんて思ってしまいます。この方の、七段目前半の酔態見たかったなあ。

舞台映像なので、「高麗屋!」「八代目!」と、盛んに大向こうがかかります。歌舞伎の幸せな時代だったな、と悲しくなりますよね。

第5回(最終回)九段目、十一段目

さて、とうとう最終回です。まず九段目、山科閑居の場。山科の大星家に、戸無瀬(猿之助)が娘小浪を連れて、力弥への嫁入りを願います。お石は出ず、由良之助(幸四郎)が拒絶。しかし小浪(葵太夫さんの語り)はあきらめられず、戸無瀬はいっそ娘を殺して自分も死のうとします。そこに小浪の父本蔵(幸四郎)が虚無僧姿でやってきて…

雪の中傘をさしてやってくる戸無瀬、凛としてちょっと若さもあって美しい!思いつめたような目、ゆったりとした台詞回し、太棹と義太夫。そんならいっそと小浪に向けて刀を抜く、赤い着物姿の所作の見事さ。(死ぬ覚悟の小浪に)「でかしゃった」が、わー政岡じゃなくてもこんな風に言うんだ、と感動。この戸無瀬も、藤十郎さんそっくりだそうですが、たしかに感じることができました。

(2014年12月には南座で戸無瀬藤十郎、小浪壱太郎、お石 秀太郎、本蔵 現白鸚、由良之助梅玉、力弥扇雀という座組での上演があったそうです。うわー見たい)

本蔵が三方を踏みつけて力弥(染五郎)に自分を討たせ、師直に賂を贈ったことで矛先が判官にいってしまったこと、松の廊下で判官を止めたことで、一命を救ったつもりが無念の死となったことを述懐し、師直邸の地図を引出物として渡します。力弥の雨戸倒しの工夫も見事に見せてくれました。

後半は、由良之助と本蔵の早替わりで幸さん汗だくの熱演!渾身の演技が、吉右衛門さんに似てました。鬘、着物のほか、本蔵は白髪交じりの眉毛が長く、早替わりはなかなかたいへんだったと思いますが、幕間の猿弥人形が、「今日はあーちゃんと私の二人だけ、あーちゃんは殆ど生です」とのことで驚きました。

猿弥人形の出番もこれが最後、明るくわかりやすく、その場でのチャットの読み上げもうまくて、猿弥さんがいなかったら、成り立たなかったといっても過言でない大活躍でした。猿弥さん、弁天娘とかチャップリンとか、幸四郎さんとのがっつり共演けっこうあるんですよね。ほんとすばらしい!

さて、十一段目、大詰です。討ち入りの由良之助の太鼓の後、雪景色の中、一画面一人ずつでの立ち回り。やゑ亮、右田六、喜楽、松悟、やゑ六、笑猿と、いろんなお家のイキのよい若手で、楽しい場面になりました。泉水の立ち回りでは右田六くん活躍で、いい顔してましたです。

そして師直の首をとった由良之助、殿の位牌の前に備えます。勝鬨の後の独白!この時代のつらさにあって、皆で頑張るという覚悟、そして「必ず明日は日本晴れ」…目に浮かべた涙が、清らかに美しかったですよ!

最後は化粧を落としてさっぱりとした浴衣姿の幸四郎さんと戸部さんのアフタートーク。久しぶりに大道具さん、衣装さんたちと会ったときのことを思い出して声を詰まらせる幸さん。世の中の40代後半ってもっとおじさんだと思うんですが、夢を追いかけているためか、若いんですよね。

この図夢歌舞伎は、歌舞伎を知らない人にその素晴らしさを伝えるにはやや未熟でしたけど、通してみるとやっぱり見てよかったと思います。松竹の有志の会の皆さん、出演者、スタッフの皆さん、お疲れさまでした。これから、歌舞伎にもっと気軽に触れたい人のきっかけになるようなわかりやすいコンテンツを作って行ったらいいのに、と思いますね。

(おまけ)

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 「仮名手本忠臣蔵 由良之助とおかる勘平」という写真絵本をみつけました。昭和61年(1986)二月花形歌舞伎での仮名手本忠臣蔵通しのうち、五、六、七段目を豊富な写真と宇野信夫氏の浄瑠璃台本を元にした平易な文章(まるで少年文学のようです)で綴ったものです。

由良之助と斧定九郎を十二代目團十郎、勘平を仁左衛門、おかる玉三郎、それぞれ40才、42才、36才という正に花形な年代ですが、人気もあってこんな本まで出したんですね。

ニザ玉さまがこのうえなく美しいのは当然として、團十郎さんもいい表情ですよ。冒頭のあらすじ部分の血をなめる表情とか、あまり上背があった感じはしないのに定九郎もかっこいい!ほかに高師直 富十郎、塩谷判官 先代芝翫、顔世御前 時蔵、鷺坂伴内 又五郎なんて配役です。

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  文章が丸々1ページのところもありますが、写真の間に文があるところもあって、歌舞伎好きには楽しい絵本です。図書館などにはあるのではないでしょうか。

 

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原田マハ「サロメ」

2007sarome 美術を題材にした小説の書き手ということで気になっていた原田マハ、題名と表紙に惹かれて「サロメ」を読みました。

19世紀末の画家オーブリー・ビアズリーの研究者甲斐とオスカー・ワイルドの研究者であるジェーンが会うところから始まりますが、二人は、ビアズリーとワイルドの現代の評価を紹介するために出てくるだけで、物語の大半は、オーブリーとその姉メイベルの話です。

オスカー・ワイルドは、「幸福の王子」や「ドリアン・グレイの肖像」で有名ですが、19世紀末当時は禁忌されていた男色家で旧弊にとらわれない人気者。「サロメ」は聖書の中でも特に背徳的な物語を取り上げた戯曲ですが(←サロメのモチーフは絵画で取り上げられているので知っていましたが、そうだったんだ!)、25歳の若さで結核のため早逝したオーブリー・ビアズリーはこの本の挿絵を描いて名を残したのです(私が惹かれた左の表紙も彼の絵だったんです!)。

オーブリーは、絵については独学で天才ぶりを発揮しますが、彼が世に認められるまでには、女優志望の姉メイベルの献身的な働きがありました。しかし、悪魔のようなオスカーに魅入られる弟に対して姉は…。

オスカーとオーブリーの関係は、史実だけでも興味深いのに、そこにメイベルが絡んで話が展開していきます。空気の悪い重苦しいロンドン、若い女性を食い物にする劇場経営者や紳士たち、面白かった!

オーブリーの絵は、今見ると、モダンなイラストという感じで(肩書もイラストレーターになっていたりする)、明らかに現代のイラスト界に大きな影響を与えています(山岸涼子や魔矢峰央にも!)。もっと生きていたら、さらに深化していったのではないでしょうか。

メイベル・オーブリーは、英語版ウィキによると、「派手でちょっと評判の女優だった」そうですが、31歳で年下の俳優と結婚し、45歳のときガンでなくなっています。その前に、著名な詩人イェーツの詩の会に出入りしており、ガン(当時のことゆえ診断されたのは末期でしょう)とわかってからイェーツは彼女の許を訪れて'Upon a Dying Lady’と題された一連の詩を作ったんだそうです。

オーブリーもメイベルも、写真が残っているのが、リアルな息遣いが感じられます。原田マハさん、おもしろーい。

歌舞伎の本まとめ

Arasujikabuki  カテゴリ内に「歌舞伎の本」はありますが、もっと手っ取り早くということで、タイトルだけまとめてみることにしました。クリックするとこのブログの記事に飛びます。カテゴリ(【歌舞伎入門・歴史・知識、】、【歌舞伎役者・演者の著書】、【歌舞伎役者についての本】、【歌舞伎演目】、【歌舞伎批評】、【歌舞伎を題材とした小説】)毎に、最近読んだ順に並んでいます。随時追加していく予定です。

【歌舞伎入門・歴史・知識】

八坂堅二郎「音で観る歌舞伎―舞台裏からのぞいた伝統芸能」
中村義裕「歌舞伎と日本人」
早稲田大学演劇博物館編「芝居絵に見る江戸・明治の歌舞伎
大西匡輔「歌舞伎のいま どの芝居をどの役者でみるか」
丸山伸彦監修「演目別 歌舞伎の衣装ー鑑賞入門」 
小山観翁「歌舞伎通になる本」
戸板康二「歌舞伎ちょっといい話」
中條嘉明「歌舞伎大向 細見」
双葉社スーパームック「歌舞伎がわかる本」

【歌舞伎役者・演者の著書】

中村雀右衛門「私事」
中村勘三郎「襲名十八代」
澤村田之助「澤村田之助むかし語り~回想の昭和歌舞伎」
坂田藤十郎「坂田藤十郎―歌舞伎の真髄を生きる」
田中佐太郎「鼓に生きる」
三代目市川猿之助「猿之助の歌舞伎講座」
三代目市川猿之助「スーパー歌舞伎」
中村勘九郎「勘九郎日記『か』の字」
坂東三津五郎「踊りの愉しみ」
市川亀治郎著「カメ流」
市川染五郎「染五郎の超訳的歌舞伎」
市川染五郎「人生いろいろ染模様」
四代目猿之助「僕は、亀治郎でした。」
香川照之「市川中車―46歳の新参者」
坂東三津五郎「歌舞伎の愉しみ」
市川團十郎「團十郎の歌舞伎案内」

【歌舞伎役者についての本】

演劇界「歌舞伎俳優から皆様へ― このひと役」
織田紘二「芸と人―戦後歌舞伎の名優たち」
長谷部浩「菊五郎の色気」
山川静夫「私の出会えた名優たち」
中村達史「若手歌舞伎」
鈴木英一「十代目松本幸四郎への軌跡」
喜熨斗勝「歌舞伎 芸と血筋の熱い裏側」
上村以和於「新世紀の歌舞伎俳優たち」
別冊カドカワ「総力特集 新世代歌舞伎~新春浅草歌舞伎~」
上村以和於「21世紀の歌舞伎俳優たち」
小松成美「仁左衛門恋し」
長谷部浩「菊之助の礼儀」
中川右介「海老蔵を見る、歌舞伎を見る」
小玉祥子「二代目聞き書き中村吉右衛門」
齋藤芳弘 写真集「亀治郎の肖像」
葛西聖司「僕らの歌舞伎」
関容子「海老蔵そして團十郎」
長塚誠志「四代目市川猿之助」写真集
関容子「勘三郎伝説」
長谷部浩「天才と名人 中村勘三郎と坂東三津五郎」
中川右介「歌舞伎 家と血と藝」
渡辺保「名女形 雀右衛門」

【歌舞伎演目】

伊藤比呂美「新訳 説教節 小栗判官・しんとく丸・山椒大夫」
木谷真紀子「三島由紀夫と歌舞伎」
関容子「芸づくし忠臣蔵」
藤田洋「歌舞伎の事典ー演目ガイド181選」
四代目市川猿之助監修「スーパー歌舞伎IIワンピース偉大なる世界」
酒井順子「女を観る歌舞伎」
鎌倉恵子監修「一冊でわかる歌舞伎名作ガイド50選」
赤坂治績『しらざあ言って聞かせやしょう」
利根川裕「あらすじで読む名作歌舞伎50」

【歌舞伎批評】

渡辺保「歌舞伎の見方」
山川静夫「歌舞伎の愉しみ」
山川静夫「歌舞伎は恋」

【歌舞伎を題材とした小説】

吉田修一「国宝」
近藤史恵 「ねむりねずみ」「散りしかたみに」「桜姫」「二人道成寺」「胡蝶殺し」

 

ミッチ・アルボム「時の番人」

Timekeeper アメリカのベストセラー作家・脚本家の小説ミッチ・アルボム「時の番人」です。翻訳は甲斐理恵子。表紙が素敵なので読んでみました。原書は2012年出版。

 まだ人が時間を計ることを知らなかった頃、日時計や水時計で時間を計ることばかりしていたドールは、幼馴染のアリと幸せな結婚をします。いろいろあって、ドールは年を取らないTime Keeperとして、洞窟に一人、時間についての世界中の様々な人々の願いを聞くことになります。人気者のイケメンに恋する地味なサラ・レモンと、末期がんの寿命を延ばそうとする大富豪ヴィクターの人生が、ドールと絡んで…。

ファンタジーなんですが、サラとヴィクターは現代に生きる人物でリアリティがあって、シチュエイションも彼らの運命にかかわる事柄も今のものであるのが、同時代の作品ならではで、ちょっと胸が痛い。それが、ドールのまとう神話的な雰囲気(手塚治虫の「火の鳥」のマサトを思いだします)と対照的で、小説的に面白いです。

エンディングに向けて、物語がぐっとテンポを速めていきますが、私はこの結末好きです。映画にしてほしいです。舞台を日本にしてもできそう。

 

万城目学「鴨川ホルモー」と 映画「鴨川ホルモー」、追記「ホルモー六景」

Photo_20200705180701 鴨川は京都だけど、ホルモーって何だろうと前から思ってた万城目学「鴨川ホルモー」読んでみました。そりゃわかるわけないや、ホルモンじゃなくてホルモーだもん。オニ語により、小さいオニ(式神)を使って大学対抗で戦う「ホルモー」のお話でした。2006年の出版です。

ホルモーを戦うサークルの勧誘から、オニ語の訓練、試合、ペナルティまで、とってもよく構築されたファンタジーで、ファンタジーを読みなれない私にも面白かった!著者の20代でのデビュー作ですので、大学生の雰囲気がよく出ていると思います。青龍、玄武、白虎、朱雀っていうのもいいじゃないですか。ちなみに、私自身の運動会の対抗チームの名前がこの4つだったので、親しみ(でも白虎は映画のように白ではなくて黄色だったんですよね。玄武が白黒)。

Photo_20200705180601 この映像も見てみたくなって、2009年の映画「鴨川ホルモー」も見ました。「超高速!参勤交代」等の本木克英監督ですね。

主人公の安倍明(←安倍晴明からですね)山田孝之、高村・濱田岳、鼻の美しい早良京子・芦名星、楠木ふみ・栗山千明、スガ先輩・荒川良々ってみんなぴったり。やっぱり若き山田孝之が、かっこいいのにダサい感じで表情豊かでいいんです。濱田岳も若いのに(20才そこそこ)今と変わらないうまさ、つか、こんな20才います?スガ先輩に荒川良々持ってきたのもすごいし、玄武の会長和田正人も。

しかしこの映画、緑の美しい京都のあちこちや、葵祭や祇園祭の人出、京大やほんとに今の時代にあるのかという百万遍寮(吉田寮)、安倍の住む銀月アパート、べろべろばあ等の背景が魅力です。古臭くないのに懐かしい雰囲気の学生生活を描き出していてます。

そして、見たかったオニたちは、原作の描写どおり。よくできたCGで、安っぽくない。ああ、ホルモーを見られてよかった!

ただ、ほんとはもっとキャストが関西弁とか京都弁使ってほしかったかも。京大の人って関西弁でよくしゃべる秀才ばかりというイメージなので、全員じゃなくても、もっと関西弁アクセントききたかったな。原作もあまり関西弁出てこないんですけどね。

【追記】

 2007horu6 この記事読んだ方からお勧めいただき、「ホルモー六景」も読んでみました。ホルモーの登場人物や、ホルモーをやっていた他の大学生の恋物語6編という、読者へのサービスみたいな本です。

一番面白かったのが「もっちゃん」。梶井基次郎の「檸檬」は学生時代に読みましたが、早逝したことしか知らず、「檸檬」だなと思いながらも、ほんとに基次郎の生涯がなぞられているとはと、後から調べて驚きました。小説の印象とはちょっとちがう、愛すべきもっちゃん像がよかったです。

ほかも、芦屋の元カノの話、高村のちょんまげの謎、楠木ふみのバイト先の活躍と、あーそれもっと知りたかった、というところが描かれていて、面白かったです。大手町の将門塚も出てきて、東京も!と。

ただ、登場人物がちょっと歴史知らなすぎ。京大法学部卒の著者からしたら、歴史の認識はその程度と思ってるのかもしれないですが、京都の文系大学生だったら、そりゃ調べなくたって知ってるよねレベルがちょいちょい。←ちっちゃないちゃもんですみません。

宮本輝「泥の河」「蛍川」「道頓堀川」

2006_20200623233501 宮本輝って結構好きだったな、と思って全集第1巻の「川三部作」を読んでみました。

最初は作家デビュー作の「泥の河」。舞台は大阪の安治川って、中之島の堂島川の下流の川ですね。まだ戦後の雰囲気の残る昭和30年、食堂の息子と、川の船に住む母子との交流を描くもので、母は船で女を売っているので、ひとところに長くいられません。食堂の夫婦がいい人なのが救いですが、泥が深く積もった川と貧しい生活が、淡々と描かれています。とても小説らしい作品で、日本文学というとこういう作品を読んできたなと、懐かしい気がしました。

自主制作のモノクロの映画がありますが、食堂の夫婦に田村高廣(いい顔!)と藤田弓子、船の母が加賀まりこ。モノクロ画面の効果でその貧しさに迫力がありますが、子役が健康的すぎる感じ。

2作めは「蛍川」。宮本輝氏は関西育ちなのですが、一時住んだ富山を舞台に、老いた父を亡くす少年の周囲を描いています。父は少年を身ごもった女と結婚するために妻を捨てた男。商売がうまくいかなくなったところに病気になります。元の妻は金沢で商売が成功しています。最後にいたち川の上流に、少年が好きな少女と母と近所の老人とで大量発生した蛍を見に行きます。

これも映画化されています。父・三国連太郎、母・十朱幸代、元妻奈良岡朋子と文芸路線。蛍のシーンが特殊効果で評判だったそうです。

最後は一番の力作、「道頓堀川」。バイトする喫茶店の2階で暮らす大学生の邦彦、男と逃げた妻が帰ってきたときに蹴ったことで、その後病死してしまうという苦い過去を持つ元ハスラーの喫茶店主武内とやはりハスラーになりたい息子政夫の確執、武内の昔の仲間、まち子姐さんやゲイボーイかおる、ストリッパーさとみなど周囲の人々を描きます。武内の喫茶店はとても流行っていて、花をたくさん惜しげなく取り換えたりします。描く世界には影があるものの、登場人物は個性的ながら何となく品があって、ドロドロしていないところがこの作家の持ち味なのかなと思いました。

道頓堀といえば松竹座!(ただし著者は芝居には興味ないのか、劇場から人が出てくる、くらいの描写しかありません)。宗右衛門通りも松竹座遠征の時に、夜の部開演前に歩いたっけ。

深作欣二監督で映画化されていて、まち子・松阪慶子、邦彦・真田広之、武内・山崎努、政夫・佐藤浩市、かおる・カルーセル麻紀。ちょっと息子たちがイメージよりカッコよすぎるし、小説では脇役でどんな人かよくわからないまち子が主演とは。でも山崎努の武内はぴったりで見てみたい気がします。この作品、NHKの銀河ドラマ枠でも作られていて、武内は藤田まこと、渋い~。

 

恩田陸「チョコレートコスモス」

2006  久しぶりの小説、まちがいなさそうな恩田陸「チョコレートコスモス」です。単行本で500pちょっとですが、読みだしたら面白くてあっという間でした。

 内容はまったく知らずに手に取ったんですが、何と演劇もの。脚本家、大学の演劇サークル、気鋭の人気女優、天才少女、こだわりのプロデューサーなどの演劇にかかわるキャラクターの話がそれぞれ進んでいき、後半一つに収束していくという、著者らしいうまいストーリー運び。ちょっと「ガラスの仮面」も感じさせて。

早稲田の演劇サークルなんだろうなとか、初めの方に出てくる「ララバイ」の演者を兼ねる演出家は野田秀樹かなとか、アイドルだけどうまい安積あおいは、「Q」の広瀬すずみたいだなとか、響子は北川景子の雰囲気の松たか子かなとか、葉月は安藤サクラかなとか、映画全盛期に活躍とは違うけど還暦過ぎて瑞々しい若槻徳子は大竹しのぶを思い浮かべようとか、本多劇場とか新国立とか、演劇周辺がイメージできると、より楽しめる小説です。

で、「欲望という名の電車」を知っているとなおいいです。きちんとストーリーは説明しているんですが、やっぱり見てないとわかりにくいかも。

 

御厨貴「権力の館を歩く」「政治の眼力 ―永田町「快人・怪物」列伝 」

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  御厨貴先生の本2冊、まずは「知の格闘」で知って是非読みたいと思っていた力作「権力の館を歩く」。政治や統治機構を語るうえで、その「場」である建物の場所、間取り、動線等が重要であるとして、さまざまな建物を紹介するもの。2007年1月から3年間の毎日新聞への月1回の連載をまとめたものです。巻末の「あとがきにかえて」には、この著作が、東大先端研で建築学の学生と議論したことから生まれたものと書かれています。

第1部は、吉田茂、岸信介、佐藤栄作といった大物政治家たちの邸宅や別荘。記者や派閥の政治家が出入りしたり、喧騒から離れて政策を練ったり、要人を招待したり。ドラマに出てくるような、権謀術数の舞台ですよ。軽井沢別荘地における戦中・戦後の交遊関係もなかなか面白かったです。

第2部は、「権力機構の館」と題し、首相官邸、国会の各院、警視庁、検察庁、都庁舎など。首相官邸は、この項が書かれた時点ではまだ新官邸が完成して6年、官邸主導政治がどうなるか、御厨先生は注目していますが、この時点では官房長官を務めた安倍(一次)、福田の両首相は短命に終わっており、新官邸がまだ使いこなされていないことを示しているとみていたようです。

第3部は「政党権力の館」で、自民党本部、砂防会館、社会党、共産党、公明党の本部等。自民党とその他の党の本部の機能の違いが印象的です。

350pの労作ですが、取り上げられている建物や人物からすれば、各項に割り当てられたページは多くありません。著者の知識とではあまりに彼我の違いがあり、個々のエピソードや政治家の個性と建物との符合にはなかなかついていけないのですが、むしろ普通の社会生活を送り、普通程度に新聞を読んでいるだけでは、政治のことは十分理解できないものなのだという感想を持ちました。

  2005seiji 御厨貴さんが、第二次安倍内閣発足後の2013年から2年間、毎日新聞に連載していた同時代の政治家評「政治の眼力 ―永田町「快人・怪物」列伝 」です。前に読んだ「知の格闘」でこの本のことを知り、読みたいと思っていました。200pほどの新書に、のべ26人の評(石破茂さんのみ2回)ですから、ひとりひとりは少な目。

御厨さんは、「本人に面と向かって言うことのできない悪口や批判は書かないという流儀」で、「政治家の個性をその矛盾を含めて書き出し、人間味を評価する」という戦前のジャーナリスト馬場恒吾氏を研究し、その手法でこの連載に取り組んだそうです。

政治家って、大臣といえども実際には何をしているのか部外者にはわかりにくいですから、はっきり言って、欠点というか悪口を書いてくれないと、よくわからないのは否めません。おまけに、御厨先生とは、歴史や政治的な出来事についての知識の土壌が全然ちがうわけですから、知っていれば「ああ、あのときの彼の行動を連想しているんだな」と理解できる表現も、知らなければ読み流してしまいます(前述の「権力の館」と同じ感想を言ってますね私)。

ということで、御厨先生が個々の政治家をどう評価しているのか今一つわかりにくかったうらみはあるものの(それ自体は意図的なものでしょうが)、やはり小沢一郎氏、石破茂氏、与謝野馨氏、麻生太郎氏などは興味深かったですし、元首相の森、小泉、福田の各氏は、ほかの方たちよりは知っているだけに面白かったです。

第二次安倍内閣発足の後で、今よりはうまくいっている頃でもあり、とくに安倍さんの印象はだいぶちがいます。舛添さんも都知事時代で、まさかあのような形で辞任するとは。同時代批評の難しいところでしょう。

 

 

演劇界「歌舞伎俳優から皆様へ― このひと役」と私の「このひと役」

 2006enngekikai  3月以来の歌舞伎公演全中止で、役者さんやスタッフさんだけでなく、雑誌「演劇界」さんもさぞ困ったことでしょう。ほんとなら3月は歌舞伎座のほか、明治座の中村屋、国立の菊之助丈義経千本桜通し、南座の新版オグリがあったはずですし、何より5月の團十郎襲名に向けて、いろいろな記事を用意されていたと思います。そんな未曽有の苦境を逆手にとった6・7月合併号の特集企画が、これ。

(なお、児玉竜一先生の「三~五月 劇界の動向」は、歌舞伎のみならず、この間の演劇界全体の苦境を克明に記録した、後世への保存版だと思います)。

117名の役者さんが、「このひと役」を選んで大きなカラー写真に短い一言を添えています。巻頭の海老蔵インタビュー以外のほとんどの誌面を費やした労作で、かえって保存版になってしまって、発売後3日で在庫払底、重版が決まるという人気。本人コメントのついた「かぶき手帖」大判という感じです。

役や写真の選び方がバラエティに富んでいて楽しい!えーっこのお役、と思うと、息子さんと一緒にもう一枚出ていたり、故人の父、祖父、師、大先輩との写真の方もいて。見ているうちに、つい、自分の「このひと役」を選びたくなってしまいました。といっても、2012年から歌舞伎を見始めたニワカなので、ほんとに私の個人的なものです。映像のみで見たものも含めてしまいました。迷う方はブログ内検索で思い出したりして。117名のうち、最近出られていない方など見ていない方、20代前半以下の方は除いています。

新作歌舞伎が多いのは、当て書きだったり、本公演より役が大きくなったりして、印象が強いからかもしれません。これに対して大幹部は、古典の大役のどれにしようか迷いました。

(演劇界での選出と並べていますので、まだご覧になっていなくてネタバレしたくない方はご注意ください)

   演劇界  私の「このひと役」
海老蔵 (インタビュー掲載のためなし) 助六 助六
嵐橘三郎 新口村 孫右衛門 弁天小僧 浜松屋番頭
右團次 華果西遊記 孫悟空 名高大岡越前裁 天一坊
中車 綱豊卿 富森助右衛門 綱豊卿 富森助右衛門
猿弥 當世流小栗判官 矢橋の橋蔵 ワンピース ジンベエ
笑也 新・三国志 劉備玄徳 空ヲ刻ム者 双葉
笑三郎 四の切 静御前 ナルト 大蛇丸
弘太郎 ヤマトタケル ヘタルベ ヤマトタケル ヘタルベ
寿猿 黒塚 強力太郎吾 黒塚 強力太郎吾
猿之助 ワンピース ルフィ 黒塚 岩手・鬼女
左團次 助六 髭の意休 助六 髭の意休
男女蔵 博奕十王 閻魔大王 月光露針路日本 水主小市
團蔵 髪結新三 弥太五郎源七 髪結新三 弥太五郎源七
門之助 新版オグリ 薬師如来 新版歌祭文 座摩社山家屋佐四郎
友右衛門 綱豊卿 お喜世 不知火検校 岩瀬藤十郎
雀右衛門 二人道成寺 白拍子桜子 伊賀越道中双六岡崎 お谷
菊五郎 魚屋宗五郎 宗五郎 文七元結 長兵衛
菊之助 土蜘 土蜘の精 NINAGAWA十二夜 琵琶姫・獅子丸
尾上右近 弁天娘 弁天小僧菊之助 ワンピース ルフィ
松緑 慶安太平記 丸橋忠弥 名月八幡祭 縮屋新助
松也 御所五郎蔵 義賢最期 義賢
市蔵 切られ与三 蝙蝠の安 らくだ 家主幸兵衛
片岡亀蔵 大江戸りびんぐでっど くさや弟 阿弖流為 蛮甲
吉弥 天守物語 薄 帯屋 おとせ
秀太郎 近頃河原の逢引 遊女お俊 木の実 おせん
愛之助 新八犬伝 網干左母次郎 義賢最期 義賢
仁左衛門 吉田屋 伊左衛門 盛綱陣屋 盛綱
孝太郎 女鳴神 鳴神尼 女鳴神 鳴神尼
松之助 夏姿浪花暦 千草屋番頭幸助 実盛物語 九郎助
藤十郎 曾根崎心中 お初 伽羅先代萩 政岡
鴈治郎 曾根崎心中 徳兵衛 河庄 治兵衛
壱太郎 神霊矢口渡 お舟 GOEMON 出雲阿国
扇雀 艶容女舞衣 酒屋 お園 法界坊 お組
亀鶴 幸助餅 関取雷五 すし屋 梶原景時
宗之助 阿弖流為 無碍隋鏡 決闘!高田馬場 おもん
勘九郎 門出二人桃太郎 桃太郎 桜の森の満開の下 耳男
七之助 門出二人桃太郎 桃太郎 阿弖流為 立烏帽子・鈴鹿
吉右衛門 熊谷陣屋 熊谷直実 幡随院長兵衛 長兵衛
吉之丞 一条大蔵譚 勘解由 滝の白糸 裁判長
歌六 沼津 平作 伊賀越道中双六岡崎 幸兵衛
米吉 祇園一力茶屋 お軽 すし屋 お里
又五郎 鳥羽絵 下男升六 ひらかな盛衰記源太勘當 梶原景高
歌昇 絵本太功記 光秀 雨乞其角 船頭
種之助 祇園一力茶屋 平右衛門 ナウシカ 道化
時蔵 切られお富 お富 絵本合法衢 うんざりお松
梅枝 阿古屋 阿古屋 関の扉 小野小町・墨染
萬太郎 連獅子 仔獅子 義経千本桜 小金吾
錦之助 勧進帳 富樫 霊験亀山鉾 源之丞
隼人  寺子屋 源蔵 ナルト サスケ
獅童 今昔響宴千本桜 忠信 四谷怪談 伊右衛門
梅玉 菊畑 鬼三太 寺子屋 武部源蔵
莟玉 菊畑 虎蔵 文七元結 お七
魁春 新薄雪物語 梅の方 新薄雪物語 梅の方
東蔵 籠釣瓶 おきつ 競伊勢物語 小由
松江 九十九折 養子新造 仮名手本忠臣蔵大序 足利直義
児太郎 金閣寺 雪姫 大石最後の一日 おみの
芝翫 熊谷陣屋 熊谷直実 巷談宵宮雨 龍達
梅花 雷神不動北山櫻 腰元うてな すし屋 母おくら
竹三郎 四谷怪談 お岩 夏姿女団七 おとら
玉三郎 二人道成寺 白拍子花子 籠釣瓶 八ッ橋
巳之助 ナルト ナルト ワンピース ボン・クレー
彌十郎 関の扉 大友黒主 阿弖流為 藤原稀継
新悟 景清 保童丸 新版オグリ 照手姫
彦三郎 明君行状記 青地善左衛門 明君行状記 青地善左衛門
坂東亀蔵 弥生の花浅草祭 獅子の精 弥生の花浅草祭 獅子の精
萬次郎 女暫 巴御前 阿弖流為 御霊御前
橘太郎 曽我対面 清重 暗闇の丑松 湯屋番頭甚太郎
権十郎 角力場 放駒長吉 髪結新三 勝奴
白鸚 勧進帳弁慶 不知火検校 検校
幸四郎 勧進帳弁慶 決闘!高田馬場 堀部安兵衛
高麗蔵 熊谷陣屋 藤の方 石切梶原 梢
錦吾 河内山 北村大膳 決闘!高田馬場 菅野六郎左衛門

 

八坂堅二郎「音で観る歌舞伎―舞台裏からのぞいた伝統芸能」

2005otodemiru  国立劇場で長年伝統芸能全般の音響を担当してきた八坂堅二郎さんの「音で観る歌舞伎―舞台裏からのぞいた伝統芸能」(2009年)です。

 全260pのうち、80pくらいが能楽と文楽の基礎知識として舞台の構造や楽器など(歌舞伎じゃない!)、その後の80pくらいが演技以外の歌舞伎の舞台、大道具・小道具、衣装、かつら等の基礎知識です。知らなかったことが多かったんですが、舞台の高さに4パターンほどあり、1尺4寸高の「常足」は商家や民家の家、2尺8寸の高足は立派な寺院や御殿の高さ、その中間の中足は武士の屋敷などなのだそうです。なるほどそういえば。

そして最後の100pほどが、浄瑠璃(義太夫、常磐津、清元)と長唄などの音楽、効果音などの歌舞伎の音響について。音楽の種類毎に見台や肩衣がちがっているとか、赤子の鳴き声や動物の鳴き声、雨等の効果音をどうやって作っているか等。後者の音作りは、筆者の経験した具体的な苦労も交えて詳しく書かれています。

音楽については、メモしておきますね。

義太夫(竹本)…状況説明や心情の語り。三味線は太棹 見台は黒塗り。出語りあり。
清元…高い調子。三味線は中棹だが常磐津より柔らかい音。黒塗りの一本足の見台。萌葱色の肩衣。
常磐津…清元より語りの要素が強い。三味線は中棹。舞台下手で演奏することが多い。三本足の朱塗りの見台。柿色の肩衣。
長唄…歯切れよく速いテンポの演奏。三味線は細棹。見台は桐で足が交差しているもの。肩衣は演目によって違う。

国立劇場のスタッフの方の著作というと、織田紘二さんの「芸と人―戦後歌舞伎の名優たち」を読みましたが、八坂さんも同年代くらいなので、国立のスタッフなのに、公務員的なイメージと異なり、先輩の厳しい指導、ハードな仕事と必死の工夫の様子が、伝わってきます。そして、やはり歌右衛門さんの言葉の重みが、スタッフ一同に響いていたのだなと感じられます。

歌舞伎の上演が、伝統と多くのスタッフに支えられていることを改めて感じた本でした。

 

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