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齋藤芳弘「亀治郎の肖像」

Photo   齋藤芳弘さんが、2008年から2012年までの、四代目猿之助の亀治郎時代の舞台を、撮った写真集です。大部なので躊躇してましたが、とうとう入手しました。これで四代目関係の本は、神仏と比叡山と器以外は揃いました(笑)

時期的には、長塚誠志さんの写真集「四代目市川猿之助」の後半部分と重なっていますが、長塚さんの写真は、本番舞台の際に黒いバックの臨時スタジオで撮っているのに対し、こちらは舞台写真。アートディレクターでもあって、パンフレットやポスターを手掛けてきた齋藤さんらしく、1つの画面に複数の写真の亀治郎を合成したりして、舞台の雰囲気をうまく伝えようとしています。何より分厚くて、1つの芝居での早替わりや違う場面での表情をたくさん見せてくれて、構図もさまざまで面白いです。

猿之助が、歌舞伎の特徴はと聞かれて答えることのひとつに、「すべての所作が美しいことだ」というのがありますが、本当にどの写真も役の人柄、心情があふれていてすばらしい。

たとえば、「男の花道」(素の歌右衛門、劇中劇のお七がきれい)、「悪太郎」、「浮世風呂」と続きます。この役柄の広さ。そして、様々な化粧の巧みさ。四代目は化粧もとりわけ早いんだそうです。

この齋藤さんって、お茶の水のブックカフェ、「エスパス・ビブリオ」のオーナーなんですね。それで四代目の写真展や猿三郎さんの個展をやったりしていたのかー。2008年の「亀治郎の会」のパンフレットに、まだ華奢な亀さんが渋谷のブックカフェにいる写真が多数使われていましたが、そこから移転したのがエスパス・ビブリオだったんですね。斎藤さん、さまざまな舞台を務めながら、それを記録にも残したい四代目を支える方であって、彼の魅力に憑かれた方なんだなあと思いました。

「スーパー歌舞伎IIワンピース “偉大なる世界」とワンピース歌舞伎2回目(追記・猿之助ワンピース写真展)

Photo   ワンピース歌舞伎の写真集・メイキングの2冊組の本、「スーパー歌舞伎IIワンピース “偉大なる世界(グランド・ライブ)」が、発売されました。四代目猿之助さんとしては、もともとのファンが一巡した2カ月連続公演の2か月目に、写真とスタッフのインタビュー満載の本を出版する、ということだったんでしょうが、ご存知の通り、開演わずか4日目の事故で、猿之助自身は出演できない事態に。

猿之助、右近を両方見ようと何回もチケットを取っていた人の中にはリセールに出す人もいて、そうした中、タンバリン交換や猿之助のカーテンコール登場等、話題には事欠かないワンピース歌舞伎再演となりました。

しかし、右近ルフィ、若くて純粋で元々ルフィのキャラに合っているうえに、女方は絶品。3時間奮闘した後でもツヤツヤのお肌のハンコックは美形女形です。そうなると、芝居自体の骨格の確かさやエンタテインメント性が、否応なく四代目の演出の凄さを感じさせる舞台になっているわけで、このメイキングブックが、面白くないわけはありません。

お芝居というものが好きな私にとっては、脚本、衣装、舞台装置、照明、音楽…、のプロの仕事を語るインタビューは本当に興味深く読ませていただきました。一流のプロである彼らの力を最大限に引き出す歌舞伎役者猿之助。出るか出ないかなんて、この作品の価値には関係ないとさえ思えます。

そして、猿之助と尾田栄一郎、北川悠仁の対談がたっぷり載っているんですが、猿之助の歌舞伎以外の人に歌舞伎の表現や特徴をわかりやすく理路整然と説明する能力には感心します。例えば、歌舞伎と普通の演劇の違いはときかれて、「すべての所作が美しいことです」と言うんですよ。そういえば、「LIFE」のときも、コントの後のトークがとても面白かったですね。

かと思うと、竹三郎さんが、以前公演中に体調不良で倒れたときの、猿之助の親身になっての優しさのエピソードを語り、「四代目さんのなさることなら何でも力になってさしあげたい」なんておっしゃるんですよ。お二人の共演は大好きなんですが、そういう絆があったんですね。

そしてこの本を読んだ直後に、再演2回目の観劇日がやってきました。代役もほぼ1カ月、すっかりルフィを自分のものにしている右近。初演よりはるかに存在感と安定感を増している巳之助、隼人、そしてナミとサンダーソニアとサディちゃんを楽し気に演じて輝いている新悟。

今日は休日マチネとあって、小学生くらいのお子さんも多く。コミックを知っていればこそのセリフでたくさん笑いが起きていました。

元は、猿之助の歌舞伎シャンクスが見たくてとった「麦わらの挑戦」チケット、猿之助さん自身がいなくても、とっても満足でした。2回目の大手術を終えた猿之助さん、どうか、順調に完治されますように。

(追記)

Photoその後、お茶の水のエスパス・ビブリオというブックカフェで開催されている、「市川猿之助ワンピース写真展」に行ってまいりました。

広いカフェ(壁はぎっしりと本!ゆっくり来たいものです)の壁に、引き伸ばした猿之助のルフィ、ハンコックの写真!生き生きとしたルフィの表情、目力、そのシーンを思い起こさせる迫力。実はルフィは若く初々しい右近の方が合ってると思っていた私ですが、これを見ると、演舞場初演時よりさらにこの役の真髄をつかんだような猿之助ルフィを見たいと思わずにはいられませんでした。

奥の落ち着いたコーナーでは、立派なアルバムに、応援寄せ書きが。私も書かせていただきました。

そして、たくさんのポストカードを、1枚162円で売っています。舞台写真よりサイズは小さいですが、美しい写真ばかりで、狐忠信、勘平、シャイロック等買いました。

さらにはですよ、第8回亀治郎の会のパンフレットが積まれていました。パンフレットといっても、ハードカバーの本で、厚い紙にたくさん写真が載っているので、これはいい、と買ってきました。

持っていないファンの方。これはもう貴重なものですよ!発行日は2010年8月、この年の浅草新春歌舞伎から始まった猿之助襲名へのカウントダウンが始まっているのが、よくわかります。演目は四の切初演ですし、2代目、3代目と同じ役の写真が見開きで並んでいたりします。なぜ外部の俳優(福士誠治等)と新作歌舞伎「上州土産百両首」なんかやるんだ、と言われたようですが、3代目ほか名優たちが演じた作品。

3代目やスタッフ、蔵之介さんや浅野和之さんのコメントもあり、何より4代目自身の短いながら彼らしいエッセイが多数載っていて、買えてよかった!(しかも540円)と思いました。

小山観翁「歌舞伎通になる本」戸板康二「歌舞伎ちょっといい話」中條嘉明「歌舞伎大向 細見」

Photo   相変わらず歌舞伎の本を読んでます(記憶力が不確かで内容をよく覚えていないのがザンネンなんですが)。

1冊目は、古典芸能評論家、イヤホンガイドの導入に尽力し解説者としても長く務めた小山観翁さんの「歌舞伎通になる本」(1993年)。

花道や大道具、小道具の区分けなど歌舞伎の知識、見得や演出、女方といった歌舞伎の演劇としての特色、役者の世界のしきたり、過去の名優、歌舞伎役者切手誕生の裏話など、235ページの単行本としては驚くべき情報量です。歌舞伎の成り立ちや、江戸と上方の違いなど、各話に歴史的な深みがあって、たいへん興味深く読みました。何より、1929年生まれということで、戦中から戦後にかけての名優たちの記憶も確かで、歌舞伎界の変化についても窺うことができます。

この方、「勧進帳」がたいへんお好きなようで、何度か違う角度から取り上げています。実は、先日見たオペラ座の「勧進帳」の解説が、小山観翁さんだったんですよ。たしかに、解説も熱がこもっていたような気がします。この本で、いい勧進帳の見分け方、は最後に弁慶の富樫への感謝を感じられるかどうかだ、とおっしゃっていますが、初歌舞伎で見た勧進帳の弁慶の礼で泣けた團十郎さんは、やはりよい弁慶役者だったってことですかね。

お、と思ったのが、「子役」の項で、「蘭平物狂」の子役の大役繁蔵に出た子の父が、初日に風疹を発症してひやひやしたという話なんですが、その父というのが市川延夫、そう、今ブログで大人気の澤瀉屋の猿三郎さんですよ。そんなことがあったんですね。

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小山さんより少し年上(1915年生まれ)の演劇評論家・小説家の戸板康二さんの「歌舞伎ちょっといい話」。昭和58年から平成4年までの歌舞伎座の筋書(パンフレット)に連載されたコラムを集めた文庫本です。筋書に載っているわけですから、当月の芝居ではなく、その演目にまつわる思い出話が主で、さらに古い昔話なんですが、「歌舞伎――家と藝と血」を読んでますからね、名前と役者の格だけはイメージがあるので、それなりに面白かったです。

よく出てくるのが、九代目團十郎、六代目菊五郎、十五代羽左衛門。戸板さんは、初代猿翁のロシア旅行に同行しており、猿翁さんのこともよく出てきます。このロシア旅行があの「黒塚」のヒントになったんですよね。歌舞伎にまつわる駄洒落も多く、洒脱なお人柄がうかがえます。

この本、役者名と演目名の索引がついていて、歌舞伎事典としても使えます。

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3冊目はちょっと毛色が変わった本、中條嘉昭さんの「歌舞伎大向 細見」。

1936年生まれ、サラリーマンの傍ら、長年大向として活躍してきた方の、大向の歴史、掛け声のルーツ、歌舞伎役者の身分、見得、掛け声のタイミング、屋号、実際の演目におけるかけどころ、等について、丁寧に解説されています(各論は詞書に合わせて細かく記載されているので、全部は読み切れていません)。

大向、いろいろルールがあるのだろうと思っていましたが、やっぱりきちんと受け継いでいるものがあるんですね。見ていて気になるのは、特定の役者に多すぎたり、立派な見得なのに掛け声がなかったり、二人で出ているのに片方だけだったりというパターン。拍手が多すぎると(自然発生のものはいいんですよ)、芝居の流れに差し支えたりするので、掛け声がうまく入ると芝居が止まらず、それが歌舞伎の良さだと思います。ちょうどいい大向さんがいると、観劇の満足度はあがりますが、これからもそれが続くのか、ちょっと心もとない気も致します。

本の中で、ちょっと異様にみえたのが、平成19年ごろ、松竹から、玉三郎の出演する演目に大向の声掛け禁止が言い渡されるくだり。演目全部だったり、勧進帳で玉三郎の演じた義経にだけ禁止だったり。控えめな書き振りながら、筆者はかなり怒っている様子なんですが、この頃だけだったんでしょうか。

葛西聖司「僕らの歌舞伎」坂東三津五郎「踊りの愉しみ」

Photo_2     NHKの古典芸能番組でお馴染みの葛西聖司アナウンサーが20代の若い歌舞伎役者15人にインタビューした「僕らの歌舞伎」です。2016年11月発行と、まさに伸び盛りの彼らの、今が切り取られた本で、楽しく読みました。新書サイズですが、最初に舞台のカラー写真があるところもうれしいです。

15人の中から、私の注目は、松也、尾上右近、巳之助、壱太郎、梅枝、児太郎、米吉。萬太郎、歌昇・種之助兄弟も好感度大。彼らのここ数年の成長ぶりは、頼もしい限りです。

このうち松也は、浅草歌舞伎に出ているとはいえ、この中ではお兄さん格で、歌舞伎座でも主役や重要な役を務めていますし、ミュージカルでも活躍。大柄ですっきりした男前は、これからも期待大です。

同世代が競っている彼ら、若いのにほんとにまじめに歌舞伎に取り組んでいる様子がよく伝わってきます。同時に、役を十分務め切れなくて葛藤するのもまた若さならでは。

歌舞伎らしく、彼らを教える先輩たちの姿も興味深いです。知的で段階を追ってきちんと教える三津五郎、印象的な言葉をかける福助、温かく若手を応援する勘三郎。猿之助や染五郎、愛之助の話も出てきて、彼らも教える立場なんだなあと思います。聞き手葛西さんの各人へのコメントが、ホントは彼ら(の実力)をどう思っているのかな、とつい、細かく読んでしまいますが、そこはさすが、微妙な言い回しで、葛西さんの推しはわかりません。

Photo  踊りの名手、故10代目三津五郎さんの「踊りの愉しみ」。長谷川浩さんの聞き書きスタイルは、「歌舞伎の愉しみ」 の続編です。

猿之助のおかげで、舞踊が前より好きになって、今だからこそ、三津五郎さんの踊りについての見識を、興味深く読みました。ほんとにご自身の個性とか、家の持ち味とか、長年その世界にいなければわからないことをまさに的確に言葉にできる方。「僕らの歌舞伎」で、巳之助が、具体的で、相手ができることを教える名手だったと述懐する通りです。

「踊りの神様」と言われた7代目。その三津五郎家を引き受け、さまざまな上の世代の芸を学んできた三津五郎さん。最後の個別の舞踊の演目の解説は、見ていないものについてはぴんとこないのですが、これからすべて見たい、と思わせるものでした。

  
   

関容子「舞台の神に愛される男たち」

Photo_2   関容子さんの本を検索していたら、舞台人にインタビューした面白そうな本があったので読んでみました。2012年8月出版です(2代目猿翁といっています)。

取り上げているのは13人、柄本明、笹野高史、すまけい、平幹二朗、山崎努、加藤武、笈田ヨシ、加藤健一、坂東三津五郎、白井晃、奥田瑛二、山田太一、横内謙介という濃い人選です。この方たちの、役者になったきっかけ、演出家や影響を受けた人々、役作りや芝居との向き合い方などをじっくり聞いています。

誰を取り上げているのかはよく知らずに読み始めましたが、強烈な個性のある役者さんや脚本家、好きな方や気になってた方ばかりで、たいへん面白く読みました。

少しマイナーかなと思うところではすまけいさん、ずっと前のなんてことはないドラマのお医者さん役で見ていいなあと思ってましたし、海外に拠点を移してオペラの演出などをしているという笈川ヨシさんは、コクーン歌舞伎「三人吉三」でチェックしていた方でした。白井晃さんは、演出の舞台で気になっているところに大河ドラマ「新選組!」で認識し、直後に「マハゴニー市の興亡」に感心した人。横内謙介さんは、高橋一生や六角精児のいた扉座にもいましたが、スーパー歌舞伎の台本を何本も書き、今またヒット作のワンピース歌舞伎の脚本を書いた方です。

奥田瑛二のトレンディドラマ時代は大好きで、今でも渋い役で活躍していますが、監督した映画の話はどれも興味深く、とくに緒方拳さんのような俳優は細かい芝居をしなくともスクリーンにその魅力を見せつければよい、という信念で撮った遺作「長い散歩」はぜひ見なくては、と思いました。

勘三郎さんと仲の良かった関さん、三津五郎さんからもいい話を引き出しています。父や母の願いをかなえた形で主役を張るようになった三津五郎さん。「おていちゃん」に翫雀さんとともに出演していたのは知りませんでした。

そして、さすが、長年舞台を見ていらっしゃるだけあって、合間にちらちら見える観劇経験の豊かなこと。生の舞台は、見なければそれ限り。見ることの価値を教えてくれる本でもありました。

関容子「海老蔵そして團十郎」

Photo    「勘三郎伝説」に続く、2004年出版の、関容子さんの歌舞伎役者もの、主として12代團十郎さんや成田屋の古いお弟子さんたちの話をもとに、團十郎・当代海老蔵親子のみならず、11代團十郎の役者ぶり、人となりを克明に描き出しています。

  11代目といえば、その美男ぶりから「海老様」と言われた人気役者で、7代目松本幸四郎の長男ながら市川家の養子となった人。純粋なるが故の、その激しい、時に人を傷つける性格は、宮尾登美子の「きのね」に描かれた通りだったようです。11代目は、見合い結婚した妻と離婚した後、ずっと支えてくれた千代さんと二人の子との家庭を隠していたのですが、長男の小学校入学を機に結婚を公表し、初お目見得をさせます。

このことは、千代夫人を主人公とする宮尾登美子の「きのね」でも書かれていますが、この本では、下町の歌舞伎好きの家に育った著者が、その舞台を見た話が出てきます。演目は「大徳寺」、信長の敵を討った秀吉が信長の孫三法師を抱いて家中をひれふさせる、その三法師役で、著者の母上は、「海老様もじーっと考えたんだわね、弟たちの子(=辰之助等)が次々初舞台で、うちの子にはとびきり目立つ役をさせようって」とおっしゃったそうです。その、後の12代團十郎さんは、大きな目の、日陰生活がみじんも感じられない明るいかわいい子で、人気を博したんだそうです。

当時は歌舞伎役者の結婚が人々の間で話題になり、「びっくりしたねえ」だけで、海老様のことだとわかったと書かれていますが、つい先日も、真央さんの訃報が大ニュースとなったのは、やはり成田屋ということでしょうか。

11代目は、團十郎襲名直後、胃がんで12代目がまだ若い頃に亡くなってしまいますが、素顔は優しく、魅力的なエピソードがたくさん出てきます。三津五郎さんは、当時子役に出ると親に反物などのお礼を渡す習慣だったのを、11代目が最新のおもちゃを買ってくれたことに、一人前の役者扱いをしてくれたようで、いたく感激したそうです。まじめで大らかで優しい團十郎さんの語り口、個性的なお弟子さんたちの歌舞伎愛に満ちたインタビューも楽しく、全編楽しく読みました。

何かにつけて祖父に似ているといわれる当代海老蔵さんへの愛情も随所に感じられます。祖父同様、役についてとてもこだわって調べ上げるところ、家族への愛情(妹ぼたんさんの舞台で「成田屋!」を感極まって叫んでしまうなど)、勘三郎さんにも愛された、独特の華やぎ。

私が面白かったのは、1991年、中学生くらいのとき、海老蔵は舞台「スタンド・バイ・ミー」の主人公クリス役で、山本耕史とWキャストで出演していたんですね。演出の永山耕三氏曰く、海老蔵は長台詞の滑舌に難があったものの、存在感やたたずまいの美しさは素晴らしかったそうで、「もう一人の山本耕史という子はレミゼラブルのガブローシュもやった子で、動きも台詞も断然うまい。彼(海老蔵)はそれにびっくりするんですが、耕史の方は、どうしてあんなに台詞がモヤモヤしてるのに僕より心が届くんだろう、て感嘆する。両方いい勝負だったんですけどね」。山本耕史が器用なだけの役者とは思いませんが、二人のちがいを示すいい話です。

ほかに、11代目と片岡我童さんの話など、中山右介「家と血と藝」の元ネタになったと思われるところも随所にありました。

 

六月大歌舞伎「鎌倉三代記」「曽我綉俠御所染 御所五郎蔵」「一本刀土俵入り」 市川亀治郎著「カメ流」

62017r      六月大歌舞伎、夜の部です。

1つめは「鎌倉三代記 絹川村閑居の場。 源頼家の家臣三浦之助(松也)が負傷して病気の母長門(秀太郎)の閑居を訪ねると、許嫁の時姫(雀右衛門)が看病してくれていました。しかし時姫は頼家と敵対する北条時政の娘。時姫を父の元に取り戻そうとする局(吉弥、宗之助)や軽輩の藤三郎(幸四郎)。しかし藤三郎は実はあの佐々木高綱、ほんとの姿に立ち返り、時姫に時政を討つよう説得するのでした。

三浦之助の松也が、橙の鎧姿で華々しく美しく、登場してすぐ門の前で倒れて眠るその寝顔がほんとにきれい(3階席からよく見えました)、これに対する雀右衛門が、歌舞伎の三大赤姫といわれる時姫を熱演。けなげな嫁、戦場に立つ三浦之助にせめて一夜とすがる情熱。幸四郎、秀太郎、藤三郎の妻おくる(門之助)、局の二人までぴったりとしていて、さらに義太夫の幹太夫、東大夫さんも素晴らしく、立派な義太夫狂言でした。「決闘!高田馬場」に出ていた宗之助、10年たったのに変わらぬかわいさです。

2つめは「御所五郎蔵」。

元武士の侠客五郎蔵(仁左衛門)、妻の遊女皐月(雀右衛門)、皐月を狙う土右衛門(左團次)。両花道での登場といい(3階さみしい)、廓が舞台で最初の場面が桜どーんという華やかさといい、助六とか籠鶴瓶みたいな、粋なお芝居です。

五郎蔵のため、土右衛門から200両を引き出そうと、五郎蔵に愛想尽かしをして土右衛門のものになるとウソをつきますが、怒った五郎蔵は、皐月の友である元主君の寵愛する逢州(米吉)を皐月とまちがえて殺してしまい…(お話はかわいそうですね)。

ニザさま、驚くべき若さ、すっきりした粋な立ち姿。巳之助男女蔵歌昇・種之助兄弟らを従えて左團次に相対するところ、眼福。この芝居でも、雀右衛門さん盛装で大活躍。こういう盛装で、生真面目な薄幸の女性が似合う方ですね。米吉は大抜擢ですが、かわいい。そして花魁の衣装に負けない体力ですっすっと動くのが気持ちいいです(雀右衛門さんだとどうしてもよいこらしょみたいになっちゃう)。

愛想尽かしの場面は、借金の取りたてに五郎蔵についてきた花形屋吾助(松之助)が絶妙で、五郎蔵とのお芝居の息がぴったりで楽しかったです。

3本目、いよいよ「一本刀土俵入り」。2015年お正月に見たときは魁春さんのお蔦 で、人情が身に染みてほんとに感動したんですが、猿之助のお蔦やいかに。

最初の船宿の前のけんかの場面から、酌婦お松(笑三郎)、弥八(猿弥)を中心に、お芝居が生き生きとはじまります。取的茂兵衛の幸四郎は、前回よりは体型もふっくらと取的っぽいですが、出所不明の方言が、やっぱり何だかフランケンシュタインみたいです(失礼)。

宿の2階で飲んだくれているお蔦と下にいる茂兵衛。一文無しで再度横綱を目指して江戸に帰るという身の上を聞き出しながら、酔うにつれ、茂兵衛に金をやる気持ちになるお蔦。とくに親切な、慈善の心からではなく、投げやりななかでの気まぐれという方が強い感じ。ここの、茂兵衛とのやりとりが、台本通りなのかわからないくらい、生の自然なセリフの応酬で、現代劇でも経験を積んだ二人の真剣勝負ともいえます。

ほんとに、何気ないやりとりなんですが、お蔦をみつめるうちに、ふうーっと気持ちが盛り上がってぐっときました。その感動をまた外して笑わせたり、幸四郎さんの胸を借りて、観客の呼吸をつかんで引き寄せる猿之助の真骨頂を見た思い。歌も渋いですが、三味線がいかにも手すさびという感じでよかったです。

そして10年後。茂兵衛は夢破れ、渡世人姿でお蔦を探しています。お蔦は、娘お君(市川右近ちゃん)とつましく暮らしていましたが、10年ぶりに帰ってきた夫辰三郎(松緑)はイカサマばくちをやって追われています。茂兵衛はお蔦一家に金を渡し、辰三郎を追う儀十親分(歌六)たちをやっつけて、一家を逃がしてやるのでした。

子供もいるのに10年もほっつき歩いて帰ってきた男をそんなに暖かく迎えられるか、という気もしますが、一応、理由らしいものもあり、何より昼の部「名月八幡祭」で生真面目一方の新助だった松緑の謝り方が誠実で、納得しちゃいました。

茂兵衛を忘れていたお蔦。思い出した時の膝を打つ勢いに、また持っていかれてしまいました。

このお芝居、昔船宿で遊んだ老船頭(錦吾)、船大工(由次郎)とのやりとりも味があるし、あれ以来取的が苦手の弥八、儀十親分の子分のすっきりした根吉(松也)と、出演者がそれぞれの場面で味を出していて、本当に満足な1本でした。終盤にかけて、流れる歌も美声でよかったなあ。

(これで、6月は、歌舞伎座昼夜、シネマ歌舞伎「やじきた」、蜷川シアター「ヴェニスの商人」、「花戦さ」と、猿之助コンプリート!舞台写真も買ったし、大満足でございます。)

Photo       こんな本市川亀治郎「カメ流」)まで読んじゃいました。2008年の書下ろしエッセイ&写真の本です。幼い頃の思い出、初舞台で観客の反応が心地よかった話、既に知っているエピソード(「NINAGAWA十二夜」や「決闘!高田馬場」のもあります)の亀ちゃんから見た文章とか、30歳そこそこの気概がつまっていて、ファンには楽しい本。海外での素顔の写真は、ちょっと男性アイドル風なのもうれしいです。

そういう自分と自分のやることが好きなアナタがファンは好き。

そうそう、この時点では、香川照之の歌舞伎界入りは決まっていなかったと思いますが、有名な祖母のお墓での彼との邂逅、その後「武田信玄」に出演する際に、香川照之が亀ちゃんのためにあいさつ回りをしてくれたことなどが書かれていて、お互いに尊敬しあう立派ないとこ同士だな、と思いました。猿之助は團子ちゃんをほんとにかわいがっているようですし。

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麻央さんのブログを読んでいたので、やっぱりこの日が来てしまったかと残念です。何より、あのかわいいお子さんたちを残してどんなに心残りだったか、看板役者として毎月舞台に立つ海老蔵のことが心配だったかと思うと。

こんなつらい日にも、座頭として舞台を務めた海老蔵。今月は2時間の自主公演でしたが、この6月のABIKAIが終わっても、7月は降板した獅童の分も、昼夜大奮闘の予定のようで、とくに夜の部は新作でお稽古もたいへんでしょう。がんばれ海老蔵。

市川染五郎「染五郎の超訳的歌舞伎」「人生いろいろ染模様」長塚誠志「四代目市川猿之助」写真集

Photo    染五郎の本2冊、まず2013年の「染五郎の超訳的歌舞伎」、人気演目についての解説集です。古典、名作合わせて16作品のうち、初心者の私でも14作品は見たことがあるもので、花形役者ならではの難しさや工夫が見えて、とても興味深かったです。

例えば、「梶原平蔵誉石切」。刀剣屋に行って、店の主人の目利きを目の当たりにし、目が光るのを参考にしたりします。「女殺油地獄」での心情なども興味深いです。

さらに復活狂言、新作が8つ、それらはほとんどみたことがありませんが、染五郎さんの歌舞伎に対する情熱や、新作を作る苦労が描かれていて、毎月舞台に立ちながらの超人的な活動を垣間見ることができました。

カラーも含めて写真もたくさんあって、すっきりと姿のいい染五郎がたくさん見られます。そして、巻末に猿之助との対談。「亀治郎でした」にも染亀の対談が載ってるし、この二人って、そんなに仲良かったんですね。そういえばすごい共演してるし、古典やりながら、新作の座頭をこの若さでやっているところも同じだし、同じ暁星出身だそうですし。

ところで、実はわたくし、染五郎さんって、初めはそんなに好きじゃなかったんですよ。何やっても無難にお上手ですが、やっぱり今見るべきは大御所の皆さんだし、いっぱい出てるからありがたみもやや薄いし。「阿弖流為」でメイクもあって、超かっこいい、と思い始め、「碇知盛」や「伊勢音頭恋寝刃」でかなり好きになり始め、そういえばあれもよかった、これもよかったと思い、「決闘!高田馬場」で決定的になりまして。ああ、これからも楽しみです。

Photo_2  もう1冊は、2015年のエッセイ集「人生いろいろ染模様」(←ちょっとこのタイトルは…)。こどもの頃からの歌舞伎好き、勧進帳への憧れ、ドリフターズ、息子金太郎くんと娘美瑠ちゃんのこと、家でも幸四郎そのもののダンディな父のこと。2012年の舞台での大怪我からの生還。新感線への出演の話も面白かった。

この人がいかに歌舞伎が好きで、歌舞伎のことばかり考えているか、よくわかる本です。

巻末の対談に壱太郎。彼も若いのに、すでに脚本・演出を手掛けている歌舞伎好きなんですね。今何を見ても勢いがあって楽しいのもなるほど。

Photo_3  そして今いちばん見たい役者、猿之助の写真集が「四代目 市川猿之助」です。2002年から2012年までの、自主公演「亀治郎の会」の舞台の袖の簡易スタジオで撮影したものだそうで、舞台で演じたそのままのオーラが、黒い無地の背景に浮かび上がって、たまりません。この人、立ち役、女形、舞踊と役の幅が広く、とくに女形はそれぞれに美しいうえに、その役の心根が現れていてすばらしい。あー、どれも実際に演じるのを見たい(ちょっとは見てますが)。

そういう中で、團十郎さんのオペラ座公演(2007年)に参加した際の、セピア色の写真の素顔(青年らしい気概に溢れている)、どことなくかわいらしい「紅葉狩り」の山神もいいです。このときは、出演者一同がたどたどしいフランス語で一生懸命口上を述べる中で、暁星での素養なのか、猿之助は最後に一際長い口上で、しかも、「オペラ座の怪人」が好きなのでオペラ座でやるのはうれしいけどシャンデリアが落ちてこないか心配だ、というもー私的にはツボ!なジョークで一人観客の笑いまで取っていたんですよね。

この写真集、猿之助自身の短いエッセーがいくつか載っていますが、NYに行ってミュージカルをたくさん見て感心した話があり、中でも一番RENTに心ひかれたというのが、これまた私的にはうれしい内容でした、というかさすが。

Photo_5   ところで、昨年夏に、2004年の「新選組!」にはまってから、タイムスリップしたみたいになって、当時の三谷幸喜のエッセイ「ありふれた生活」3から5までを読みました(今まで14巻くらいまで出ているのに)。この間、2006年の「決闘!高田馬場」もあったので、その制作過程の話などが出てきて楽しくて(私、演劇の反芻を文字によってするのが好きなんですね)。 

高田馬場の稽古場では、染亀勘の3人が、家族のように仲が良く(友人なら仕事場ではもっとよそよそしいはずだと言います)、よく聞いてみると歌舞伎の話しかしていない、なんて話が出てくるですよ。

ミュージカル「オケピ!」を制作してから、山本耕史に4年後1年間あけておいてくれ、と言い、すでに進行していた「新選組!」の土方歳三役に(当時まだ無名だったのに)強く推薦したなんてこともはっきり書かれているし。

はからずも、今推しの、山本耕史と猿之助、染五郎への賛辞についニヤリとするのでした。

DVD「PARCO歌舞伎 決闘!高田馬場」 4代目猿之助「僕は、亀治郎でした。」

Photo   三谷幸喜作・演出の2006年上演PARCO歌舞伎「決闘!高田馬場」を見ました。三谷さんは「新選組!」の2年後、ノリのいい長唄と義太夫を使った世話物というべきか、歌舞伎なんですけど歌舞伎だと知らなくても泣いたり笑ったり、本当に面白い1幕2時間のお芝居。

   後の堀部安兵衛である中山安兵衛(染五郎)は飲んだくれの浪人ですが、長屋の面々(大工の勘太郎、高麗蔵・宗之助夫婦、医者の橘太郎、老婆萬次郎)は皆安兵衛に助けられたことがあり、彼を慕っています。そこへ安兵衛のかつての道場仲間右近(亀治郎)がやってきて、無為な安兵衛をなじります。安兵衛の留守に、仲の良い伯父(錦吾)がやってきて、「これから高田馬場で果し合いする」という別れの手紙を置いていきます。さて安兵衛は…。

私、恥ずかしながら、安兵衛や決闘高田馬場の話の中身をきちんと知らなくて、何で決闘の助太刀した話がそんなに有名で、忠臣蔵と関係があるんだろうと思っていたのですが、やっとわかりました(安兵衛がこの助太刀で名を上げて赤穂藩士の堀部家に婿養子に行き、7年後に忠臣蔵の仇討ちに加わったんだそうです)。

三谷さんが脚本を半分くらいしか完成させていない状態で稽古に入り、役者を見ながら仕上げていったそうで、さらに役者さん自身がアドリブや振りを自由にやっているために、役のはまり具合が尋常ではありません。

気が優しくて、自分に納得していなくてうじうじ迷っている安兵衛。伯父との場面で刀を抜くところとか、右京に仇討ちを迫られるシーンはゾクゾクするようないい男(染ちゃんってどうして舞台だと飛び切りいい男なんでしょう。幸四郎さんや海老菊と比べると素顔はそんなに色っぽくないのに<失礼>)。生真面目さや絶妙なタイミングが可笑しくて、義太夫に乗った所作がまあ、うなるほど決まっている亀治郎。釘踏みも見ものです。そしてほんとにまっすぐな、元気な庶民の男をやらせたら天下一品の勘太郎。堀部のじいさんも秀逸でした。

主役の3人は染五郎33歳、亀治郎31歳、勘太郎25歳。さすが3人とも動きにキレがあって気持ちがいいです。染ちゃんなんて、すっとトンボ切ったりします。

超おもしろい萬次郎さんをはじめほかのキャストも息が合ってて隙がありません。染亀、高麗蔵の3人はそろって先月歌舞伎座の「熊谷陣屋」で立派なお役やってたのに、と思うと感慨深かったりして。毎回こういうDVD見ると思いますが、PARCO劇場のように小さな劇場で生で見たお客さん、果報者ですよ。

鳴り物や早変わり、ツケといった歌舞伎要素と現代劇のバランスの良さ、劇的展開、役者の技量と魅力のバランスがよく取れた、三谷作品の中でも屈指の名作と言えましょう。

DVDには特典映像版もついていて、千秋楽舞台裏の早変わりやら、WOWOW放送時の三谷さんと亀治郎の解説やら、テーマ曲の録音シーンがあります。これも面白かった!染五郎さん、朝5時から6時間かけて、渋谷でポスター撮りをしたそうです。

Photo_2    ところで、ちょうどここ数日、猿之助襲名記念として出版された「祝!四代目襲名記念 僕は、亀治郎でした。」を読んでいたんです。少し大きめの単行本サイズですが、インタビューやたくさんの舞台写真(神童と言われたという子ども時代がかわいい)、三代目の天竺徳兵衛の再構築ドキュメントとか、私の知らない時代の猿之助さんのいろいろがつまってて面白かったです。

   そこに、三谷さんの「決闘!高田馬場」についての寄稿があって、天才ぶりが描写されています。どうやって堀部ホリができたのかとか、釘のシーンの始まりとか。さすが。

それから、蜷川幸雄さんの「NINAGAWA十二夜」、「じゃじゃ馬ならし」のエッセイもありました。「NINAGAWA十二夜」、ジョン・ケアード版よりも亀治郎のマライア役の印象が強烈だったんですが、蜷川さんの役者亀治郎への賛辞がすごい。ロンドンで上演したときも、終演後イギリスの演出家が3人寄ってきて、亀治郎を紹介しろ、自分の芝居に出てほしいと絶賛だったそうです。さもありなん。

ちなみに、蜷川さんは、役者が自分たちで芝居を作ってしまう歌舞伎は自分には壁があってもうやらない、と書いているんですが(別のところで、菊五郎さんとの共作のようだったというのも読みました)、もったいなかったなあ。せめて十二夜、DVDにならないかなあと思うのでした。

(おまけ)

2017年3月の俳優祭の模様をEテレでやっていました。かぐや姫歌舞伎版、豪華キャストで面白かった!猿之助のドSキャラかぐや姫は最高ですし、菊之助のおじいさん、海老蔵のおばあさんも面白かったし(菊之助は年取ったら世話物なんでもできそう)、獅童、松也、染五郎、勘九郎、七之助、弥十郎に猿之助がそろったところは華やかで、歌舞伎は安泰だという気分になりました。弥十郎さんを除けば、みな30代、40代前半ですもんね。

(おまけその2)

ちょっと前ですが、鶴瓶の番組に猿之助が出てて、「『澤瀉屋は丈夫で何やっても平気』と思われているのがつらい、伯父の作品に出るとほんとにしんどくて、よくこんなの作ったと思う。昼夜23役やって1時間しか休みがないとかある。点滴しながらご飯食べてたこともある。本水かぶってぐったりしたところに、10役の踊りがあったりして、まるで罰ゲーム」と話していました。

ちょっと心配になってしまいますが、実際企画するところでは、自らこれやるあれやると決めていそうな気がしますね。

(おまけその3)

「高田馬場」のDVD、コメンタリーがついているんですが、そこで三谷さんが「最初にコクーン歌舞伎をやったほどの話題にはならなかった、なんでも最初がいい。水中歌舞伎なんてどうだろう。」染五郎「水中はちょっと…氷上ならいいかもしれない。やってみたい」と言ってるんですよ。結局行きませんでしたが、フィギュアとのコラボ「氷艶」、やりましたね。当初チケットが高くて余りまくってるという話でしたが、始まってみるとすごい評判。ちょっと悔しいです。

関容子「勘三郎伝説」

Photo  エッセイストで歌舞伎関係の仕事も多い関容子さんの、勘三郎さんをしのぶ本です。関さんは、勘三郎さんより(たぶん)20歳くらい年上で、幼い勘三郎の天才ぶりから、最も脂の乗り切った時期の勘三郎をしっかり見つめていた方です。

  先代の勘三郎さんについての本もある著者ならでは、中村家の温かい家族の様子がうかがわれて、ほのぼのとします。先代は、18代目の天才ぶりを見ながら、厳しく指導することが、ご自身の務めと思っていたのでしょう。

  18代目の人間的な魅力はもちろんのこと、丸谷才一、ピエール・カルダン、ロバート・デニーロたちとの交流も興味深いですし、仁左衛門、團十郎、海老蔵、獅童との意外と濃い関係も面白く読みました。勘三郎さん、舞踊と世話物が絶品なのはもちろんですが、盛綱陣屋や実盛物語などの義太夫狂言でも、評価されていたんですね。また、傾城反魂香のおとくなどは、行き届いた女房ぶりに吃又役の役者から絶賛されるなど、いかに演ずる役の幅が広かったかということがうかがわれます。

  こうした、役者関係の本は、読んでいて自分の鑑賞体験と照らし合わせて面白いのもあるのですが、自分が感じとることのできなかった芝居の見方を教えられるというのも大きいです。舞踊に関しては、まだまだだな、と思いました。

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