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歌舞伎

歌舞伎鑑賞教室「日本振袖始」@国立劇場

201807         歌舞伎鑑賞教室、いつもは金曜の社会人向けの日に行くのですが、今回は通常回。1階席は、高校生でいっぱいでした。

「歌舞伎のみかた」坂東新悟。普段女方ですが、長身で袴姿もりりしく、美声なので説明も聞きやすいです。今日の説明は主に用語と鳴り物。見得は若干迫力に欠けますが、女方の姿勢の説明はさすが、袴でもたおやかな姫に見えました。途中出てきた捕り手のセリフがいいな、と思ったら、猿三郎さんでしたよ。ワンピース、博多座のあと、ちょっと一息ですね。

次の拵えの都合か、演目の解説は映像でしたが、「感想をSNSで#歌舞伎みたよ とつけて発信してね」というのは、ワンピース歌舞伎のパクリだな、と思いつつ、今時です(その割にはパネルの前で写真撮ってる学生は少なかったですが)

演目は、初役で時蔵が岩長姫を務める「日本振袖始」。美しい岩長姫が八岐大蛇となって生贄の稲田姫(新悟)を呑み込んだ後、稲田姫の恋人素戔嗚尊(すさのおのみこと、錦之助)と戦い、稲田姫は宝剣で 大蛇の腹から出てくる、というもの。

生贄の悲しみを踊る稲田姫、竹本に乗っての美しい舞で酒を飲む岩長姫。八岐大蛇をどう表現するのかと思ったら、同じ隈取、衣装で7人出てきたんですよ!あの金の衣装で、かわいいったらありゃしない。そして時蔵さん、隈取の役は珍しいそうですが、初役なのが意外なくらい、姫の華やかさと、大蛇の迫力を兼ね備えた適役でした。

その大蛇と対する錦之助、さすがかっこいいです。華やかな立ち回りは、鑑賞教室としても、学生さんにアピールしたんじゃないでしょうか。

七月大歌舞伎「御浜御殿綱豊卿」「口上」「女殺油地獄」@松竹座

201806_4      松竹座での高麗屋襲名興行、昼夜通しの夜の部です。昼よりよいお席。

まずは「御浜御殿綱豊卿」。初めて見たときはセリフばかりであまり面白くない印象だったんですが、前回仁左衛門丈と染五郎丈で見て、セリフが入ってくるのに驚きました。今回はその上を行く感動でした。

まず綱豊の側室お喜世(壱太郎)が隠す手紙を見せよと迫る浦尾(吉弥)、助けに入る江島(扇雀--貫禄ありました)。

綱豊(仁左衛門)が新井勘解由(歌六)と大石たちについて話す場面。さすが歌六さん、こういう勘解由、この綱豊との会話が見たいと思っていました。理詰めのやりとりの後で、討たせてやりたい、と述懐する綱豊。仁左衛門さんの綱豊、なんていうのか、物語の中から飛び出して骨肉をまとっているというか、現実にはいないけれども、でも目の前に実在する感があって、すごいなと思いました。

お喜世の兄富森助右衛門(中車)登場。のっけから、隙あらば吉良暗殺のための情報を得ようと抜け目なく見回します。染五郎で見たとき、仇討ちに思いつめる青年助右衛門の決定版で、綱豊とも対照的でいいなと思ったんですが、中車の助右衛門は、おじさんではあるんですが、その一途さ、覚悟、綱豊に一歩も引かない意地が見えて、だからこそほとんど動きのないセリフ劇に緊張感があって、とてもよかったです。

ちょっと声がかすれているし、歌舞伎の技術がもうちょっとあればという気もするのですが、この緊迫感は、さすが役者としての実力だと思いました。

二人が語る大石内蔵助、先日テレビでもやった一力茶屋の場や、判官切腹の場が思い出されて、歌舞伎にはこういう楽しみもあるのだなと思いました。

次は「口上」です。藤十郎さんの読み上げから、皆さんの口上が続きます。猿之助丈は上手側、白鸚さんとも、もちろん幸四郎さんともさんざん共演していますし、口上には出られなかった1月のことを思えば、いろいろ思いはあると思うのですが、なんと高祖父二代目段四郎と七代目幸四郎の縁を話すという内容。目立つ人が一切自分のことは言わないのが、逆にどれだけ幸四郎さんを思っているか、と思いました。最近お顔が丸くなったといわれていますが、丸いというより、青年を脱した貫禄をにじませていましたよ。

夜の部は口上だけの白鸚さん、とても力が入っていて美声を聞かせていました。37年前の三大襲名の際の初代白鸚さんは、すでに体調が悪く、その後まもなく亡くなられていますが、当代はますますお元気で、新たな境地を開きそう。

さて、お待ちかねの「女殺油地獄」。

野崎詣りに、子どもの手を引き、赤子を抱いてお吉(猿之助)登場です。着物の下のちょっとむっちりした感じが、とても色っぽい。といって、あくまで気のいい女房、やんちゃな(この時点では子どもっぽい、無邪気な若者)与兵衛(幸四郎)を、身内のように、ちょいと気に入っている感じが絶妙。

河内屋の場。母おさわ(竹三郎)、継父徳兵衛(歌六)が絶品。4月のワンピースではややお元気なさそうに見えた竹三郎さん、来月には86歳になられるとは見えない肌のきれいさ、セリフも力がこもっていて、ワンピースとはまた違った猿之助丈との共演を楽しんでいるように見えました。

ここまで、ちょいちょい笑いが起きるのは、むしろその後の悲劇と対照的で私は結構好き。幸さんの持つ、天性のボンボンぶりとか明るさがとっても合っているなあと思いました。だいいちかっこいいしね(ポスター見てください)。

あっという間に、殺し場です。見る前は、猿之助丈の左腕を打ち付けないかなどと気にしていたのですが、あまりに自然で、ほとんど気にならずに舞台に集中できました。殺して金を奪っても、その先は見えないのに、なんと刹那的な与兵衛。二人の動きがピタリと決まり、滑るところが動きとしておかしいのはそれとして、陰惨な殺し場が様式美に昇華していました。

昼の勧進帳も大健闘でしたが、やっぱり幸四郎丈のニンは仁左衛門さんに近いような気がして、というか、ニザ様の当たり役をやってほしいと常々思っているんですが、そういえば口上でも父とニザ様に挟まれていたのをほほえましく見ていたのでした。

七月大歌舞伎「河内山」「勧進帳」@松竹座

2018062           松竹座での高麗屋襲名興行、昼夜通しの昼の部です。といっても、新幹線が遅れて開演に間に合わず(事前には、大雨は通り過ぎた後だと思っていたので、こんなに恐ろしい被害をもたらすことになるとは)、3演目目の「河内山」からになってしまいました。

白鸚さんの河内山は、2013年に見てます。その時は質屋から出ていたので、浪路の実家の愁嘆が描かれていてわかりやすかったのですが、今回はいきなり松江出雲守(歌六)の屋敷から。歌六さんの白塗りは珍しいですが、なかなかかっこいい、ワルな殿さまです。家臣に高麗蔵、錦吾、彌十郎。浪路はこの一座で若女方を一手に引き受けていた壱太郎

いよいよ河内山(白鸚)の登場です。最初から人を食ったような、大きな河内山。赤い袈裟がよく似合って、かっこいいです。北村大膳(錦吾)に正体を見現されて、開き直る痛快さ。「ぶぁぁぁかめ!」いただきました。

201806_3 ロビーには、七代目幸四郎(十一代目團十郎、八代目幸四郎、二代目松緑の三兄弟の父ですね)から現染五郎までの舞台写真が。七代目はさほど大きくないのですが、まあ、高麗屋の美貌の系譜ですよ。特に、七代目から三代連続で演じているオセローの、八代目の迫力ある彫りの深い容貌がステキ。初代吉右衛門の娘さんが(婿取りを望まれながら)、どうしても結婚したいといった所以がわかります。しかし現幸四郎は、オセローよりは、ハムレットだなあと思ったりして。

次はいよいよ「勧進帳」です。いきなり仁左衛門丈の、それはそれは美しく立派な富樫登場。弁慶一行は、義経(孝太郎)、四天王(高麗蔵、歌昇、種之助、錦吾)、弁慶(幸四郎)。

幸四郎の勧進帳は今年1月の歌舞伎座以来ですが、4月に富樫も演じている幸四郎、なんだか落ち着いてみていられるというか、今の幸四郎丈として、背伸びしたり焦ったりすることのない、立派な弁慶に見えました。1月は富樫が吉右衛門さんで、声の太さの差を感じたのですが、ニザ様とだとそこは気にならなかったというか。

やはり好きなのは、従卒から「義経に似ている」と富樫が聞いてからの緊迫したやりとり。そこで今は通してよい、といくまでの富樫の表情です。そこまでやる弁慶に心うたれ、すべて引き受けて通す富樫。

「判官御手を取り給い」、孝太郎の義経もよかったです。

お酒と延年の舞のくだりは、楽しく見られます。ここの踊りは、弁慶が踊るのだから、舞踊が得意な役者は舞踊として(あまりに上手には)踊ってはいけないのだ、と三津五郎さんは教えられたと書いていました。

そして、今だ、疾く立ち去らん、と怒涛のように立つ一行、花道で富樫の方に向かって一礼するところから、飛び六法、泣けましたですよ。

六月大歌舞伎「夏祭浪花鑑」「巷談宵宮雨」

2018062        六月大歌舞伎夜の部です。1つ目は「夏祭浪花鑑」、鳥居前、三婦内、長町裏)。わりとよくかかる演目のようですが、「夏姿女団七」は見ているんですが初めてでした。

団七九郎兵衛(吉右衛門)は、牢屋から解放され、女房お梶(菊之助)、息子市松(寺嶋和史)と会って喜びあいます。牢人の扮装が、「石切梶原」とかに出てくるあのユーモラスなあれで、吉右衛門さんがここれをやるのがまず見もの。そして、かわいい婿と孫に好々爺の顔を見せるのも、じゅふたんが、はりまやの着物を着ている(播磨屋の揚羽蝶の紋が首抜きに描かれた浴衣、裾にははの字も見えます)。音羽屋の御曹司じゅふたんがこれを着ているのはとっても貴重、というのを、歌舞伎通の友人に教えてもらってうれしい私。

団七の古い友人釣船三婦(さぶ、歌六)は、団七の主筋の礒之丞(種之助)と琴浦(米吉)を助け、一寸徳兵衛(錦之助)と団七は義兄弟の契りを交わします。

磯之丞と琴浦をかくまった三婦の家。三婦の女房おつぎ(東蔵)は、磯之丞を徳兵衛の妻お辰(雀右衛門)に預け、備中に逃がそうとしますが、三婦は「こんな美人と」と反対します。鉄火なお辰は、そんなことで一度頼まれたことをなしにするとは、と、自分の顔に焼き印を付けます(きゃあ)。

お梶の父義平次(橘三郎)は琴浦を売り飛ばそうと騙して連れ出します。団七は追いついて義平次ともみあった挙句、殺してしまうのでした。

昼の「野晒悟助」同様、夏らしい風俗がすっきりと描かれていて、団七縞(オレンジのギンガムチェック!)の着物もかわいいです。

しかし今、充実の吉右衛門さんでやる必要あったのかな、と思ってしまいました。団七は侠客にまで至らない、市井のちょっと頼りにされるくらいのお兄ちゃんということで、勘三郎の団七縞の写真を見たことがありますが合ってたし、今なら勘九郎で見たいと思いました(海老蔵も何度もやっているようです)。雀右衛門もうまいんですが、きっぷのよさとかキレのよさが足りないし。

何より、殺し場でいきなりでてくる義平次が、貧相で小汚い着物で、とてもあの立派な奥方お梶の父に見えないし、ちょっと金もうけしようとしただけなのに、堂々たる体躯の婿に惨殺されるのがなんだかかわいそう。義平次だけが泥まみれだし。殺しの場面もやや間延びしていて、迫力に欠けるように思いました。

前述の女団七では、殺し場の前に、姑おとら(竹三郎)と嫁お梶(猿之助)の絡みがたっぷりあり、おとらの悪人ぶりとユーモアが際立っていてかわいそうと見えなかったんですよね。お梶は鉄火でお辰のいいところも併せ持ってたし。(ああ、もう一度見たいですが今の竹三郎さんには無理そうで残念)。

2つめは、「巷談宵宮雨(こうだんよいみやのあめ)」。宇野信夫作で、24年ぶりの上演だそうです。

女癖が悪く寺から追放された龍達(芝翫)は、甥の太十(松緑)、おいち(雀右衛門)夫婦のところに転がり込みます。龍達は、寺に埋めてきた百両を太十に取りに行かせますが、分け前については…。

芝翫のクソ坊主ぶりが、扮装も演技も吹っ切れていて最高です。この方、勘三郎との共演作品を思わせるこういう役が一番面白い気がします。そして実質主役の松緑、刹那的な性格、垣間見せる人の良さ、この演目を見る前の幕間で舞台写真を見て、松緑いい表情してるなと思ったんですが、実際大きな目で豊かな表情を見せていて、私史上最もよい松緑でございました。

隣家の女房梅花さんがまた、世話の味の濃いうまさ。そして、太十の昔の遊び仲間で今は鼠取り薬売り勝蔵(橘太郎)。病で体が不自由になり、ようよう薬売りで暮らしをたてているんですが、そのつらい身の上、束の間の太十との邂逅、彼がストーリー上、毒薬を太十に渡すという役回りで出てるということは十分にわかっているのに、ちょっとしたセリフに泣きそうになっちゃって驚きました。型がくっとはまると短い場面で感動を盛り上げてくれるのが、歌舞伎ならではという気がします。

(ところで、太十が決意するいい場面、部屋で立ってたので、3階から顔が丸々見えなくて歯がゆかったです。この芝居は演出がいるんだから(普通はいない)、チェックしてほしかったですよ。花道見えないのは仕方ないにしても!)

まったく知らないお話で、場面転換も軽快で、登場人物の好演もあって、とても楽しく見ていたんですが、最後は怪談!いや、けっこう怖くて面白くてびっくりさせられました。夏に定番になってもおかしくない演目です。ほかの役者はともかく芝翫さんは再演すべきですよ!

上村以和於「21世紀の歌舞伎俳優たち」

20180621         1998年から99年にかけて、雑誌「演劇界」に連載された、上村以和於さんの歌舞伎役者評を、2000年に1冊の本にまとめた「21世紀の歌舞伎俳優たち」です。

当時歌舞伎公演の中心役者たちを取り上げているので、最年長の冨十郎、藤十郎(当時鴈治郎――混乱するので以下現在の名で書きます)を除けば、50代の、人気・実力を兼ね備えた役者たち。

登場する方々の生年を並べてみましょう。(  )内は、1998年時点の年齢です。今年は20才足せばいいわけです。惜しくも亡くなった方は、アンダーラインを付しました。

1929 冨十郎(69)
1931 藤十郎(67)
1939 猿翁(59)
1942 菊五郎   白鸚(56)
1944 仁左衛門  吉右衛門(54)
1946 團十郎  梅玉(52)
1948 魁春*(50)
1950 玉三郎(48)
1955 勘三郎   時蔵*(43)
1956 三津五郎(42)
1960 福助*(38)
1965 芝翫*(33)

亡くなった方、病を得た方を除き、今でも毎月の興業の中心となっている役者さんばかりで、最近見始めた私にも、たいへん面白く読めました。とくに菊五郎さんから玉三郎さんのあたり、やっぱりこの方たちを見とかなくちゃって正しかったんですね。連載時のその月の舞台評を絡めて書かれているんですが、その芸評は、今でも的確に本質を表現されていると思います。

それと同時に、上村さん自身は1940年生まれと、この方たちを同時代的に見てますから、やはり若い頃の悩みやきらめく才能、歌舞伎以外の活躍と歌舞伎役者としての生き方、等の話は興味深いですし、猿翁さんはスーパー歌舞伎以外の部分に記述が割かれていて、面白かったです。白鸚さんと年齢も近く、仲がよかったんですね。

あれ、この人も書いてるんだ、と思った方は、書籍化に当たって追加した4人(上記*の人)。この中では若い芝翫の項はやや書き振りが違っています。

それにしてもですよ、若くして亡くなったアンダーラインの方々の惜しいこと。團十郎さんのあれ、三津五郎さんのこれ、と、見られなかったことが残念です。とくに三津五郎さんの時代物を絶賛。ご本人も著書で、恋愛ものよりも男のドラマが性に合っているという意味のことを書いていたのを思い出しました。

あまりに誉めすぎる、と苦言もあったようですが、上村さん、誉めちゃいけないところは誉めていない、とキッパリ。今の幸四郎世代についても書いて下さらないかしら。

シネマ歌舞伎「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖」

201806     去年の納涼歌舞伎第2部の「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖(こびきちょうなぞときばなし)」のシネマ歌舞伎版です。

去年は歌舞伎座で見た1作目はシネマ歌舞伎のみ)ので、感想もまったく同じですが、マイクできっちりセリフを拾っているせいか、各人の見せ場がよりくっきりしています。寿猿さん、竹三郎さんから、金太郎・團子、そしてお弟子さんたちまで、みんな持ち味を生かしてもらってます。

作・演出の猿之助は、その立場と狂言回し的な役割りからか、ショットが多くて満足。本当に気を抜くことなく、盛り上げるのにがんばってます。ふと見せる所作がきれいで、染さんともども華があって楽しいです。二人で無邪気にぴょんぴょんするのはかわいかった!

そしてやっぱり「四の切」絡みの場面は楽しい。巳之助、隼人、そして新悟がそれぞれ四の切の見せ場を持たせてもらって売り出しているのもさすが猿之助、ワンピース歌舞伎の前宣伝だったかも。

高麗屋襲名で一気に美少年ぶりが評判になった金太郎(現染五郎)ですが、若様の衣装がよく似合ってます。しかし、美少年というか美少女ぶりが気になるのは千之助ですよ。どこから見ても、玉さまをかわいくしたような美しさ。

結末は盛り上がると評判だったB。結局Bしか見られませんでしたが、児太郎の快演が再び見られて満足。

ま、歌舞伎を見たことのない人にとって、面白いかどうかはわかりませんが、主な役者がわかって、御曹司が誰かも知っていて、四の切を見たことがあって、さらに猿之助ファンだったらとっても楽しめるご褒美みたいな作品ですね。

今年のの納涼も楽しみです。千穐楽で「名前が変わっても一緒に飛ぶ」と言っていた二人ですからね。

六月大歌舞伎「妹背山婦女庭訓 三笠山御殿」「文屋」「野晒悟助」

2018062    歌舞伎座昼の部です。1つ目は、「妹背山婦女庭訓 三笠山御殿」。2015年の十二月大歌舞伎の通しで見てます。

三笠山御殿の最初の場面は、入鹿(楽善)のところに、鎌足の手紙をを持った鱶七(松緑)がやってくるところ。前回あまり記憶にないのですが、楽善さんが最近見た中ではとてもお元気で、立派でよかったです。鱶七は愛嬌があっていいんですが、とくに、皆が退場した後、くつろぐところがちょっと「矢の根」のような稚気があって面白かったです。

次に入鹿の妹橘姫(新悟)が求女(松也)を追ってやってきます。愛の証を求める求女。新悟が、赤姫の衣装が似合って、きれいでした。

いよいよ時蔵お三輪の登場。時蔵さんが若い町娘って珍しいですが、さすが、「あらすじで読む歌舞伎50選」でも選抜されていた当たり役、おどおどする前半から最後の必死の形相まで、立派なお三輪でした。お三輪をいたぶる女官たちが、息が合ってて、かつ一人一人ちがう意地悪さで面白かった!豆腐屋おむら(芝翫)も、手の所作がきれいなここの大きな人は誰だろう、と思ってたら芝翫。前に見たときは中車で、とうとう女方もと思ったんですが、立ち役からでる役なんですね。

求女実は鎌足の息子淡海のため、鱶七によって命を捨てるお三輪。鱶七も実の姿を現しますが、この装束の松緑がきれいで立派でした。

次は「六歌仙容彩 文屋」公家姿の文屋康秀(菊之助)が、小野小町を求めて女官たちとやりとりします。軽妙で品のある菊之助の軽やかで楽し気な踊り、直前の三笠御殿と同じ装束の女官の面白さ、と見どころたっぷりでした。

そして最後は「酔菩提悟道野晒 野晒悟助」。住吉大社の花見のいざこざを収めた侠客野晒悟助(菊五郎)、同じく侠客の浮世戸平(菊之助)ともめそうになりますが、こちらもうまく収まります。翌日、助けられた扇屋の娘小田井(米吉)が、結婚したいとやってきます。そして直後に、もう一人助けられたお賤(児太郎)もやってきます。しかし悟助は、仁三郎(左團次)と対決することに…。

先月の弁天小僧のためにダイエットしたという菊五郎さん、顔の輪郭がすっきりして、ほんとに往年の美貌をとりもどした感。赤い襦袢に、白で野晒の髑髏を描いた着物をすっきり着こなしたいい男。菊之助も白ではないですが、すっきりした夏向きの着物で、二人並んだところはわくわくしました。

菊五郎さん、仁三郎の手下にいたぶられてじっと耐えるところも見ものです。

そして最後の立ち回り。さすが音羽屋、「音羽屋」と書いた傘を使った見事な立ち回りで。見ごたえがありました。

昼の部は開演から約5時間、野晒悟助の爽快ですっきりした味が、梅雨空を一蹴するような痛快さ、涼しさで、ほんとに楽しかったです。

歌舞伎鑑賞教室「連獅子」@国立劇場

201806       6月の歌舞伎鑑賞教室「連獅子」です。

前段の「歌舞伎のみかた」巳之助。ワンピース歌舞伎や、NARUTO歌舞伎の金髪ばかり見ていたので、黒髪の2ブロック、グリーン系の着物、袴をきりっと着てすっと立つ姿が新鮮。主役としてのオーラがあって、役者ぶりが上がったなあと感心しました。

毎回いろいろ工夫してくれてるのですが、今回は、お客さんの希望者2名に、舞台上で歌舞伎の所作、すり足や見得、扇子遣いを教えるという趣向。男性お二人が一生懸命でほほえましく、みっくんの見得も見られてよかったです。これが通常回は、引率された中高生ばかりですから、仲間が舞台で何やらやらされていると、寝る子も少なかったことでしょう。

お客さんがすり足で花道を帰った後は、みっくんの「連獅子」についての詳しい解説を聞いて、休憩となりました。

さて、又五郎、歌昇親子の「連獅子」。実はこの有名な「連獅子」そのものは舞台で見たことがなく、シネマ歌舞伎「連獅子」 で、勘三郎親子のを見ただけです。やっぱりその時は、前半の狂言師のくだりがところどころ飛んでいたようで、今回、あらすじをしっかり聞いたうえで長唄の字幕が左右に出るので、ほんとによくわかりました(義太夫はだいぶわかるけど、長唄の歌詞ってあんまりちゃんと聞けてないんです)。子獅子が崖から突き落とされて駆け上るところなど、おもしろいんですね。

間狂言は、隼人福之助。声も小さく(1部のみっくんと比較すると)、舞台がスカスカして見えるのは、こういうものなのでやむをえないですが、がんばってほしいですね。

最後は獅子の毛振り!歌昇の隈取美しい!親子の揃った毛振りに大拍手で、やっぱり盛り上がります。最後の子獅子の見得が若々しいエネルギーに溢れていて、よかった!国立劇場、3階からも花道がよく見えて、テンション上がりました!

團菊祭五月大歌舞伎「雷神不動北山櫻」「女伊達」

201805    團菊祭昼の部、一つ目は4時間にわたる通し狂言「雷神不動北山櫻(なるかみふどうきたやまざくら)」です。

歌舞伎十八番の、毛抜、鳴神、不動を含んだ演目で、通しでは2世松緑が昭和42年に復活上演したものだそうです。毛抜も鳴神もよく上演されていますが、私は見たことがなく、そこも楽しみでした。

幕が開くと、柿色の裃に鉞髷の海老蔵が、これから演じる5つの役の写真を前に一人座っています。口上の体であらすじを語るのですが、役の扮装までわかったおかげで、5役が混乱なく見られました。

5役は、毛抜の粂寺弾正、鳴神の鳴神上人のほか、敵役・陽成天皇の異母弟早雲王子、陰陽師安倍清行、そして不動明王。

プロローグ的な場の後、まずは「毛抜」粂寺が意外と色好みな人物。錦の前の梅丸がかわいい!海老蔵の粂寺の拵えが似合うのはいうまでもありません。

そして「鳴神」。雲の絶間姫(菊之助)が、堅物の鳴神上人を落とす話、というのは知っていましたが、絶間姫の目的は、鳴神上人が封じ込めている竜神を解放して、世の干ばつを救うためなんですね。命を受ける場面はやらないので、そうした工作員的な雰囲気はなく、ただ美しい姫です。しかも夫に死なれて四十九日って、乙女よりも色っぽいじゃないすか。

絶間姫は突然癪の苦しみを訴え、姫の肌に触れた鳴神上人はその魅力に落ちます。このあたり、菊之助の官能的な表情が舞台で光放つようで、満員の歌舞伎座全体がややきまり悪いくらいに見入ってシン、となったのはなかなか得難い雰囲気でした。

上人と婚礼の誓の杯を交わした絶間姫は、こっそり寝屋から出て、必死に竜神を封じ込めた綱を切ります。絶間姫お手柄!

大詰、早雲王子の立ち回り。かなり長く、見応えのある場面で、蘭平物狂いばりの花道の高いはしごもありました。

そして最後は照明とスモークの効果に凝った不動明王。

毛抜、鳴神は、単独で上演されているだけあって、よくできてて面白いので、その比重が大きい分、普通の通しよりも密度が高く濃い演目のように思いました。海老蔵は、このほかに、若く見えるが100才を越えていてちょっとぼけている安倍清行も演じていて、なかなか楽しかったです。よくぞこんなにというくらい、海老蔵大活躍でした。

最後は舞踊「女伊達」。時蔵の女伊達が、男伊達 種之助、橋之助と踊ります。明るく、楽しく、粋な舞踊で、先のラストのおどろおどろしさを一転すっきり口直しさせてくれた、という感じでした。時蔵さん、先月、今月といい役を楽しそうに演じていて、見ていても気持ちいいです。

コクーン歌舞伎「切られの与三」

201805    七之助が立ち役というので話題のコクーン歌舞伎「切られの与三」です。いや、七之助、二枚目はけっこうやってますよ。義経とか「土蜘」の頼光とか「沓手鳥孤城落月」の秀頼とか。

さて、切られの与三(与話情浮名横櫛)、お富と再会した与三郎が「いやさお富!」と名セリフをきかせる、仁左衛門さんの当たり役として有名ですが、見たことがなかったので、楽しみにしていました。

与三郎(七之助)は、大店のボンボンで、色里でも人気者ですが、放蕩が過ぎて木更津の親戚のところに行きます。そこで出会った任侠の妾で元深川芸者のお富(梅枝)、二人は一目で恋に落ちますが、密会がばれて与三郎は体中切られ、蝋を垂らされ、お富は海に身を投げます。一命をとりとめた与三郎は、蝙蝠安(笹野高史)と傷だらけの顔を使ってゆすりをします。お富は海で助けてくれた多左衛門(扇雀)に養われており、その家にゆすりのために押し入った与三郎はお富にタンカを切ります…。

七之助、最初は女方の声に聞こえるというTwitterの感想はその通りだなと思ったんですが、見るうちに、かわいい、頼りない、運命に翻弄される若者そのもの。せっかく多左衛門(実はお富の兄)に金をもらってお富と夫婦になっても、二人で浪費して行き詰るのが情けない。しかし、実家のじいや(笹野)の愛情もうなずける愛すべき男です。見得の形もきれいだし、客席を走り回るところは、ああ、なんてかっこいい、とうっとりしてしまいました。しかも声の力強いこと。一方で、笹野爺やのところに戻ってほっとしてしがみつく与三郎の形がきれいで、さすが女方としてのキャリアを感じました。

お富の梅枝、最近、どんな大役もきちっと演じている彼らしく、見染めに始まり、いろんな男を渡り歩きながらも与三郎を愛するいい女。「とどめを刺しな」の悪女ぶりもいいです。いや、ほんとに七之助とがっぷり組んで、舞台を盛り上げたのには、うまいなと改めて思いました。

扇雀さんも、おっとりとした商人がはまっています。女方はなかったんですが、いずれの役もよかったです。

音楽はジャズ系のピアノ、ウッドベースを中心とした生演奏、登場人物が裃を付けて語りを兼ねる、ストップモーション、白木の動く簡易なセット、と、演出上はいろいろな工夫はあるんですが、芯のところは、与三郎お富の、運命的な、繰り返し出会う恋人たちの物語です。歌舞伎というより、洋画にありそうな物語(ぴったりの作品が思い浮かばないですが、「フォレスト・ガンプ」のフォレストとジェニーのような)。歌舞伎では、見染めと源氏店(いやさお富)の場しか出ないそうなので、これだけ長い物語を演じる意味はあったと思いました。

歌舞伎として見に行った人には、いろいろ違和感があると思いますが、よくできたストレートプレイを、歌舞伎役者は歌舞伎の型でその魅力を殺さずに演じたって感じでしょうか。

「演劇界」6月号に、七之助と梅枝の対談が載っています。、「型としては完成された切られ与三郎(これまでお富を演じる時に、そんなに深く考えてやっていなかった)をコクーン歌舞伎でやるときに、いかにお互いの気持ちをリアルに込めるか」、といった話をしているんですが、その意図はぴったりで感心しました。こういうこと語らせたら七之助、なかなか腑に落ちる説明をしてくれます。この対談の、黒縁眼鏡がまたかっこいい!

二人とも、「マハーバーラタ戦記」「桜の森の満開の下」に出ているので、そのときの話もちょっとありました。「マハーバーラタ」は、2週間の稽古で仕上げたそうですが、さすがの七之助も「この分厚い台本で!」と、菊五郎劇団のパワーにびっくりしたそうです。

(余談ですが、演劇界には夢枕獏のエッセイ・萩尾望都挿絵という連載があるんですが、今月の話題は「宝塚ポーの一族」ですよ!)

出演はほかに、亀蔵、歌女之丞、萬太郎、鶴松。亀蔵はもちろん、萬太郎も大活躍でした。

おまけ。ロビーには所せましと、グッズや歌舞伎関連本を売ってたんですが、隅に「茂助だんご」。幕間にいただいた上新粉の柏餅、たいへん美味でした。築地の有名なお団子屋さんだったんですね。幕間でこういうの、すっごくうれしいです。

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