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歌舞伎

七月大歌舞伎「通し狂言 星合世十三團 成田千本桜」

20190709 7月の歌舞伎座海老蔵奮闘公演、幕見の通しです。夜の部は、「通し狂言 星合世十三團 成田千本桜」、「義経千本桜」の通しを、海老蔵早替わり13役を務めます、というもの。初日直前に「終演10時…」と海老さんがブログに書いてザワザワしましたが、結局休憩を削って(!)9:43終演、5時間超という、往年の3代目猿之助奮闘公演か、というものになりました。

開始前にお人形が、主な配役を教えてくれます(かわいい)。以下どうしてもネタバレ。

発端・序幕は、平知盛、維盛、教経は生きていた、という簡単な解説の後、「義経千本桜」(この解説がわかりやすいです)でもめったに出ないという1段目にあたる場で、公家悪の藤原朝方(海老蔵)が義経(梅玉)に頼朝を討て、と初音の鼓を与えます。義経の館にやってきた頼朝の使者川越太郎(海老蔵)は、義経の正室卿の方(海老蔵)は平時忠の娘であり義経に謀反の意思がないことを示すため殺せと迫ります。自害した卿の方は実は川越の娘。鎌倉方の追手がやってきますが、弁慶(海老蔵)は、義経の意に反して彼らを討ってしまいます…。

この一段目はみたことがないので、こんな話だったんだ、と珍しく見ました。義経の梅玉さんと静御前の雀右衛門さんは、そこだけ本物の歌舞伎の空気で、とくに梅玉さんがずっと義経でいるのが、義経千本桜って義経が主役なんだなと思わせます。しかし海老蔵の女方は相変わらず…。

2幕は伏見稲荷鳥居前、引き続いて碇知盛。渡海屋の場はあっさりで、お柳(魁春)ののろけ気味に銀平ほめるところとか、安徳天皇の前でのこってりとした嘆きはカットだし(魁春さんもったいない)、銀平(海老蔵)の粋で男らしい魅力とかが発揮されてなくて面白くないです。知盛も化粧があまりきれいでなくて、残念でした。今まで見た知盛って、菊之助、現幸四郎、仁左衛門という美丈夫ばかりなんですよ。地は勝るとも劣らない海老蔵なんだけどなあ。

しかし(ネタバレですが)、知盛が海に消えた後が弁慶への早替わりで一工夫。そして長袴での歩き宙乗りって、「伊達の十役」で猿翁さんが仁木でやっている写真を見たことがありますが、ものすごくかっこいいので、見てみたかったんです。知盛の亡霊の美しい衣装でゆっくりと宙に消える姿は見ものでした。

3幕は「すし屋」。若葉内侍の旅立ち(北嵯峨庵室の場)、「木の実」、「小金吾討死」、「すし屋」まで、親切に出してくれました。このいがみの権太の海老蔵が、13役で一番合っているように思いました。ちょい悪で軽くて、せつない男が似合います。小金吾も合ってる弥左衛門も悪くない。残念なのは維盛。こんなにひどい維盛初めて見たってもんです。お米の齊入さんはもっと見たいくらいだし、梅丸のお里もだいぶダイジェスト版ですが(女房ども、の場面はカット)、歌舞伎座で大役!。児太郎の若葉内侍とおせんの二役も頑張ってましたが、ちょっと台詞が強すぎるところが目立つんですよね。

せっかく権太が真人間に戻って死んで感動なのに、弥左衛門まで海老蔵なので、そのあとの早替わりが慌ただしくて、落ち着かない感じがしました。

人気演目2つ見て、もう十分な感じになったところで大詰は「四の切」。実は猿之助で1度しか見たことがないので、段取りの順番はきちんと覚えていないのですが、階段からの狐忠信登場とか欄干渡りとか回転とかぶらさがりとか、パーツではしっかり認識しているので、力の抜けたようなセリフと相まって、どうしても雑なコピーに見えてしまってつらかったです。ケガから復帰して黒塚はやりましたが、四の切はまだできていないのに(力の入らない部分もあるって)、なんでこんな雑にやっちゃうのという気がするのは、四代目ファン故でしょうか。

四の切、最後は法師が軽快な音楽に乗って楽しい動きの立ち回り、狐忠信の宙乗りと、楽しい雰囲気で終わります(すし屋で終わるよりいい)。この後、さらに「吉野の花矢倉」で、横川覚範(教経)、弁慶ら(全部海老蔵)のすごい早替わりの立ち回り。アンコール替わりの映像もあって、5時間超のお芝居が終わりを迎えます。

大きな3つの芝居が、どれもよく上演されるもので感動してきただけに、こんなバタバタで見せなくても、とくに海老蔵としては知盛も権太も本役なんだからもっときっちり演じてほしいとは思うのですが、それにしてもよくやりました。義経千本桜をほんとの通しでやってみたかったのもわかりました。お疲れ様でした。

(追記)

たいへんな公演だとは思っていましたが、海老蔵が疲労と感染による急性咽頭炎となり、15日から夜の部は休演となってしまいました。元の古典で義経千本桜をやるならともかく、あの早変わりはなかなかできないし、海老蔵だから成り立っている演目ですからどうしようもなかったとは思いますが、全席完売で楽しみにしていた人たちも多かったでしょうに、残念です。

2017年のワンピース歌舞伎はあの大事故にも拘わらず、1公演も休演することがなかったのですが、その経験から、四代目は「新作はアンダースタディが必要」と言い、オグリも主演ダブルキャストとして隼人を抜擢しています。いやしかし、海老蔵のこれは、代役がいたとしてもお客は納得しなさそうだからな(碇知盛はニザ様といわずとも幸四郎で、四の切はもちろん四代目の方がいいに決まってますが)。とにかく早い回復を祈ります。

鈴木英一「十代目松本幸四郎への軌跡」

201906kousirou  十代目幸四郎襲名直後の4月出版の「十代目松本幸四郎への軌跡」という本です。著者鈴木英一氏は、歌舞伎研究者で、数々の染五郎の新作舞台や舞踊の制作に補綴や作詞で関わり、さらに常磐津和英太夫として山台にも座るという、いわば業界の方。

「七代目染五郎物語」という副題のとおり、染五郎としての八面六臂の活躍の記録です。タイトルとこの表紙からは、主な役を写真とともに綴るのかなと思っていたんですが(役柄の幅の広い人なのでいろいろ見られて楽しみ)、もっと幸四郎その人の舞台芸術にかかる姿勢とか、新作制作の経緯などを、300ページに書いた力作。

子役時代から踊りも芝居もよく、歌舞伎でも現代劇でも役にも恵まれてきたうえに、ほぼブランクなしで四十代半ばまで活躍している方なので、普通の歌舞伎の大役での好演の話を省いたうえでも、中味が濃いです。関西松竹の書庫で上方歌舞伎の資料を調べたり、「阿弖流為」や江戸川乱歩を歌舞伎でもやったり、復活狂言「敷島譚」や「三国一夜物語」、「鯉つかみ」に取り組んだり。

日本舞踊松本流の家元松本錦升としての活動も多彩です。松鸚會、傾奇おどり、渋谷金王丸伝説。歌舞伎座で単独で舞踊の演目出す人なのに、どこまで舞踊にも貪欲なのか。

しかし歌舞伎に出ているときは、とにかく朝から晩までいろいろな重い役。古典も新作も二枚目も弁慶も。女方もかわいらしくてゴツゴツしていない。みたに歌舞伎のような芝居でのはまり方。とにかくやりたいこと全部やりすぎて、体壊さないでほしいです。

小野幸恵さんによる、12本のコラムでは、普通に歌舞伎役者としての幸四郎の魅力を書いてくれていて、ちょっとほっとします。

六月大歌舞伎「月光露針路日本 風雲児たち」

201906_1   三谷幸喜さんがPARCO歌舞伎「決闘!高田馬場」以来、13年ぶりに歌舞伎の脚本を書いたことで話題の、六月歌舞伎座夜の部「月光露針路日本 風雲児たち」です。 高田馬場は何度もDVDで見ていましたので、歌舞伎座での観劇をとっても楽しみにしておりました。5月はお稽古で休演の幸四郎・猿之助は、余裕があったのか、バラエティに出まくってくれるし。

以下、ネタバレは控えめで。

 まず松也(眼鏡にスーツで教授風)の口上というか、前説。ある意味もったいないくらいの使い方で、声の良さに感激。しっかりお客を温めます。今日はzeroに出るのか。  

さてお話は、江戸後期、1782年に伊勢を出港し、遭難した神昌丸、17人の乗組員。初めて認識したのが(すみません)、二枚目の松十郎さん、幸蔵さん。さすがにこんなにいると、最初舞台がごちゃっとしているんですが、猿之助、愛之助は最初からそこだけピンスポットが当たっているようなオーラで際立っています。そして徐々に乗組員それぞれのキャラクターが立ってくるのは、群像劇が得意な三谷さんならでは。

一行は、オホーツク、ヤクーツク、イルクーツクとロシアを西進していき、とうとう光太夫は、ロシアの西端に近いサンペテルブルクまで達してエカテリーナ女王に帰国を嘆願し、認められます。17人の乗組員のうち、帰国できたのはたった2人でした…。

幸四郎の光太夫、最初のうちは自分のリーダーシップに迷いながら成長し、日本に帰るために皆を引っ張る役柄はぴったり。彼のキャラクターが一貫して造形されていることもあり、見る方もクルーと一緒に旅をしている気持ちになります。

四代目は、紅長的な、チャラチャラした役がおいしくて、公開稽古の取材では、「早く帰りたがる」なんて言われていたとは思えない、終始何かやっている力の入りよう。ラブリンはまたちょっと黒い役ですが、すっきりとかっこよくて。とにかく幸四郎とこの二人が舞台で何かやっているだけでもう私的にはうれしくて、ずっと幸せでした。

脚本は(常になく)早く上がっていたそうですが、やはりお稽古で当て書きの部分があるのか、どの役者さんについても、三谷さんの役者の使い方は最高にうまいです。高麗蔵さん、宗之助さんの高田馬場組はもちろん、彌十郎さん、男女蔵さんの使い方わかってる。彌十郎さん、野田版といい、こういう新作でほんとにいい味出すなあ。千次郎さん、鶴松くん、弘太郎さんも、稽古で膨らんでいったんだろうな。新悟ちゃんもかわいくて、新悟ちゃんでなければ成り立たない役。

染五郎くんが、三幕通して大活躍ですが、すごいお芝居上手になってて、美貌とか、ヒョロヒョロした雰囲気なども生かされていて、とてもよかった。白鸚さんとの絡みも、ドキュメンタリーで見た白鸚さんの厳しい指導を思い出します。

三谷さんのアイドル白鸚さんの、一幕の「黄金の日々」みと、三幕のポチョムキンの洋装のはまり具合と安定感と美しい台詞回し。CMなんてめじゃないくらい、若々しくて素敵。白鸚さんと幸四郎の場面では、二人が演じた「アマデウス」、なんで私見てないのかな、と思ってしまいました。

四代目のエカテリーナ、ポスター以上でしたよ!毛皮もあしらったゴージャスなドレス(さすが前田文子さんの衣装)、王冠、美しいデコルテ、前にすっと出てきたときの輝き、ポチョムキンの台詞への細かい反応。変身の時間があれと思うくらい短くて(顔色違うからたいへんだと思うんですが)、さすが早替わりの超上級者。

前後しますが、この宮廷のドレスの女性たちの美しいこと。猿紫ちゃん、りき彌くんが目を惹きました。竹三郎さんもかわいかった。

おっと、単身歌舞伎座に乗り込んだ八嶋智人、きっちり役割を果たしていました。見得の形もきれいなのは、ほんとに器用な人ですね。3月からこっち、ミュージカル「愛のレキシアター」、劇団かもめんたる「宇宙人はクラゲが嫌い」ときてこの歌舞伎座。観客数はそれぞれ1324、176、1808ですよ。それぞれ印象に残る好演で、事前から終わるまで面白いツイートでしっかり宣伝してくれて、なんて人。この役は松也でもよかったかもしれませんが、クルーとは異質な人間という意味で、はまっていました。

そして、3人の別れの場面。「なぜあそこで笑うのか」とおっしゃる向きもありますが、笑ってもいいんですよ。それだけたっぷりあるし、笑ったり感動したりしていく間に、盛り上がっていきます。ずっとシリアスだとそれに照れちゃうのが三谷さんだし、そこがわかっている、三谷さんの芝居をよく知っている3人。あのほどの良さが品がよくて素敵でした。ある種の俊寛。

実話だけど壮大なストーリーなだけに、歌舞伎とかミュージカルじゃないとショボくなってしまいそうで、歌舞伎座でこの座組で見られてよかったです。カーテンコール2回、何度もやらない歌舞伎座だけに、1回目から立ち始め、2回目はオールスタンディングでした。

【3幕目のみ幕見追記】

3幕目のみ、幕見に行ってきました。イルクーツクの場、エカテリーナの宮殿、そしてイルクーツクの別れ。エカテリーナ宮殿での愛之助にほろり(ここでのマリアンナのいい味)、そして豪華な謁見の場。

ドレスの貴婦人たちはもちろん、衛兵さんたちもみんな彫の深い顔にメイクしてて、立ち姿がすうっとしてかっこいい!一人一人もっとゆっくり顔を確認したくて時間が足りない!その間もポチョムキンと光太夫のやりとりに細かく反応するエカテリーナも見なくちゃいけないんですもん。

今回、やっとエカテリーナの背後に立つ小姓のくん確認。つか、あんなにすぐそばに立っていて、小姓役と知っていたのに目に入らなかったのは、猿さんエカテリーナ様があまりに神々しく光り輝いていたからなんですね。

イルクーツクの別れの場は、やはり2度目なのでじっくり見ることができて、3人の熱演と緩急にぐっときました。帰りたかったよなあ二人。間も数日前とは微妙に変わって、より効果的になっていたように思います。千穐楽まで、どんなふうに進化するんでしょう。

ところで、先日の一階前方席では気づかなかったんですが、愛之助と猿之助がマイクをつけているのがはっきりわかりました。全員がわかったわけではなかったんですが、いつも4階までちゃんと声が届くので、ちょっと驚き。三谷さんの細かい台詞を聞き取りやすくするためだったんでしょうか。そのうちに明らかになりますかね。

(おまけ・池田理代子「女帝エカテリーナ」)

201906_20190626234901 ところで、このお芝居、池田理代子先生の名作「女帝エカテリーナ」を知っているとより面白いです。タイトル通り、ドイツの貴族の少女だったエカテリーナが、ロシアの女王として君臨する一代記なのですが、国王始めダメ男しか知らなかった彼女が初めて恋した強い男がポチョムキン。二人が愛を確かめ合うとき、エカテリーナは、「もうこの広大なロシアを一人で治めなくていいんだ」と言うんですが、そのシーンが最高です。二人はそういう仲なのですよ。

 アンリ・トロワイヤの小説が原作なんですが、原作も面白いですがさすが池田先生という優れたコミック化でして、婦人公論だったかの連載なので表現も大人向けです。ポチョムキンは、エカテリーナとの恋が終わると、美形の若い男を女帝に与え、統治は続けるのですよね。その頃の話かな、などと思ってみておりました。

 

六月大歌舞伎「寿式三番叟」「女車引」「梶原平三誉石切」「恋飛脚大和往来 封印切」

  201906kabukiza六月大歌舞伎 昼の部です。夜は話題の三谷さんの新作通しですが、昼は歌舞伎らしい古典が並びました。夜主要キャストで活躍の幸四郎、愛之助は昼も活躍(いったいいつお稽古?)。

 1つめは「寿式三番叟」です。おめでたい舞踊として有名ですが、操りとか舌出しのつかない三番叟は初めてのような気がします。はじめは、翁(東蔵)、千載(松江)の厳かな登場、ゆったりした舞(あんなに袖をはらう動作するものですか)。松江さん、白い衣装が似合ってて大きな顔が立派。

 しかしみどころは、三番叟(幸四郎、松也)の激しい舞踊。足を踏み鳴らす「揉みの段」、鈴を鳴らしての「鈴の段」。力強く、スピード感があって、息をつめるように見るしかありません。幸四郎の回転のキレなど、「やっばーい」という語彙力のない感想が浮かんできます。松也も幸さんにくらいついていくようで、大柄な二人のちがった魅力があふれていました。囃子方もよくて、あまり歌舞伎を見慣れていなさそうなお客さんも含めて大盛り上がり。

2つめは、「女車引」。車引の三兄弟の妻たちによる舞踊ですが、車引とはだいぶイメージがちがうたおやかな雰囲気。松王丸の妻千代(魁春)、梅王丸の妻春(雀右衛門)、桜丸の妻(児太郎)。コタちゃんが、大先輩の胸を借りて堂々と舞っていてよかったです。

3つめは、「石切梶原」2015年4月に現白鸚さん2017年5月に彦三郎襲名披露、で見ています。今回は平三(吉右衛門)、六郎太夫(歌六)、梢(米吉)、大庭三郎(又五郎)、俣野五郎(歌昇)、奴萬平(錦之助)、呑助(吉之丞)。米ちゃんが、吉右衛門、歌六でのこの演目で梢をやるのが夢と言っていたのがかなった形ですが、見る方にとっても、今見られるベストな座組みですよ。

吉右衛門さんの梶原が立派で情け深いこと(先月の絵本牛若丸の好々爺とは大違い)、歌六さんの芯のしっかりした老父、米ちゃんの梢も、娘らしさと若妻としての落ち着きがちょうどよくて、とってもよかったです。米ちゃん梢に注目していたせいか、六郎太夫と梢の物語が今までよりぐっと入ってきたような気がしました。

それから歌昇くんの赤っ面俣野!先月朝比奈がぐんぐんよくなっていると評判でしたが、俣野も熱演でしたよう。又五郎さんとはちょっと味わいの違う二枚目だと思うんですが、この役となったら一直線な感じがいいですね。ま、見る方はかしょくんだと思うので憎めないのが難点ですが(片岡亀蔵さんだと心置きなく…なんて)。

最後は一番楽しみにしていた、初めて見る「封印切」。傾城梅川(孝太郎)を身請けするつもりで前金を支払ったものの残金の金策ができない忠兵衛(仁左衛門)。おえん(秀太郎)と治右衛門(彌十郎)は忠兵衛を応援していますが、梅川を身請けしたい八右衛門(愛之助)の挑発に乗った忠兵衛は、実家からもらったと嘘をついた金の封印を切って見せてしまいますが、実は蔵屋敷に届ける公金であり、封印切は重罪。梅川を身請けした忠兵衛は、梅川にそれを打ち明け、おえんたちの祝福を受けながら、死出の旅立ちをするのでした。

松嶋屋の上方狂言、愛之助まで加わっての座組で見るのは初めてのような気がします。柔らかな和事の色男ニザ様、これぞ花車の秀太郎さんの息の合ったやりとり、愛之助の上方言葉の役も大好き。秀太郎さんは後方からだとちょっと聞き取れない部分もあるんですが、ほんとに楽し気でうれしくなるくらいでした。愛之助の八右衛門に、忠兵衛の人気と八右衛門の嫌われ具合をまくしたてるところも、ニザ様と愛之助を比較するみたいで、面白かったです。しかしニザ様が八右衛門をやったこともあるはずですが(テレビでちらっと見ました)、ニザ様が嫌われ者のはずないじゃないですかねえ。

ニザ様の忠兵衛が封印を切るまでの心の動き、覚悟の演技はさすが。まだ始まったばかりなので、これから愛之助との応酬も深まっていくのではと思いました。欲をいうと、どうもニザ様と孝太郎さんって色っぽさが足りない感じ。たかたろさん、うまい人だと思うんですが、恋する傾城を見ているわくわく感がないのは、単に好みです。すみません。

 

オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」@新宿FACE

   20190526 オフシアター歌舞伎「女殺油地獄」です。今月まず1週間天王洲の寺田倉庫、そして1週間新宿のライブハウス・格闘技会場の新宿FACEで上演という、まさにオフシアターの特別公演。当初、3Aよりチケット高いし、油地獄は何度か見ているし、と思ったんですが、寺田倉庫での評判もよく、歌舞伎座に行ったら右のかっこいい巨大ポスターがかっこよく、考えたら貴重な機会と思って慌ててチケットを取りました。

  会場は格闘技仕様。正方形の舞台がすり鉢の底のようになっていて、東西南北の座席が取り囲みます。東が正面席のようですが、南北に向かっての芝居も多いです。あちら側に向かって今どんな表情しているんだろうと思うときもありましたが、段差のある5列目からは、役者さんの声も演技も近くて、お芝居を堪能することができました。

芝居自体は、台詞がちょっと現代的、笑える場面を追加しただけで、歌舞伎からそんなに離れていません。照明もシンプルながらすばらしく、義太夫(司太夫)は平易な言葉でわかりやすく、三味線も変化に富んだ緊張感のある音楽で、とてもよかったです。

 最初の場面で、河内屋の息子与兵衛が新地の芸者小菊に入れあげていて借金で首が回らないことが説明されます。この場面(酒場)は初めて見ますが、その後の展開がわかりやすいと思いました。脚本・演出の赤堀雅秋さんの借金取りの浪人小兵衛も合ってます。与兵衛の噂をする町人たちが、殺風景な正方形な舞台の上でも江戸の町人に見えるのはさすが。

 この後は、いつもの野崎参りの場。与兵衛の獅童、いつも舞台に立つだけで華があると思うのですが、自分勝手で見栄っ張りな演技はお手の物。そして27才というお吉の実年齢に近い壱太郎の若々しさ、しっかり者のいい女房ぶりがその後の悲劇を思うと悲しいです。娘のおみつちゃん(浅沼みう)が利発そうで、壱太郎そっくりなのがほほえましい。

 河内屋の場面、与兵衛の両親おさわは吉弥、徳兵衛は橘三郎、何度も演じているお二人のこれ以上はないという芝居。おかち(吉太朗)の仮病の場面は、白稲荷法印(荒川良々)の面白さもあるんですが、おかちが憑依されたときの吉太朗の台詞の迫力!吉太朗くんって、まだ18才の吉弥さんのお弟子さんで、ニザ玉の「土手のお六」でこの子面白い、と思ってから注目していますが、すごいです。この若さで抜擢続きなのもうなづけます。

そしていよいよの豊島屋の場。几帳面な七左衛門(荒川良々)が、お吉と娘を見て、しみじみ「幸せやな」と言い、それを受けてうれしそうに微笑むお吉の表情。この後の展開を思って泣けてしまいました。

七左衛門が仕事に出かけた後、おしゃれな息子のために節句の衣装代を工面してやろうと、勘当したのに金をお吉に託す徳兵衛おさわ夫婦。チラシによると、徳兵衛夫婦が持ってきたのは二人合わせても数万円相当で、与兵衛の方は32万円の借金が、今夜中に返さなければ10倍になるという状況。

徳兵衛たちが帰った後、豊島屋に上がり込む与兵衛は、お吉に借金を頼みますが、どうしても七左衛門の留守に自分の一存では貸せないというお吉を、与兵衛は惨殺します。いつもの油ドロドロはないですが、暗闇にリアルな殺し場。

最後はめったに出ない逮夜。字面から、勝手に「逮捕される夜なんだろうな」と思っていましたが、本来の意味は忌日の前夜のことで、この場によって、与兵衛が首尾よく逃げおおせて金の工面もつき、再び遊び歩いているということがわかり、しかし証拠が出てきて、鮮やかに召し取られます。逮夜なしの上演から、与兵衛は豊島屋から逃げた後すぐ捕まるのかと思っていたので、この場面は意外でした。この場では、 叔父上 山本森右衛門(猿三郎)が印象的。

この形での歌舞伎、もっと見たいと思いました。あと、普通のチラシを3つに折りたたんだパンフレット(すべての配役付き)もありがたかったです。

 

三代目市川猿之助「猿之助の歌舞伎講座」「スーパー歌舞伎」

201905kabukikouza  当代猿之助が好きすぎて、彼のアイドルである三代目猿之助さん(現猿翁)の書いた本ということで読んでみました。四代目が、先月の黒塚についても、三代目がいろいろ本に書いていると言っていたのもきっかけです。

 1冊目は、「猿之助の歌舞伎講座」1984年初版、1989年5刷。新書より一回り大きい正方形の本で、 四の切、新装鏡山再岩藤、當世流小栗判官、黒塚、海外での歌舞伎ゼミナール、などを、豊富なカラー写真で解説していきます。

 三代目の舞台にかける情熱、いかに観客を楽しませるかの工夫や苦労を惜しみなく書いてくれています。これが出版されたころは、40代で一番気力体力があって活躍している頃でしょうに、ここまで読者に親切な本まで出すとは驚きです。

海外での歌舞伎ゼミナールも本格的です。4都市で1か月。人気役者がていねいに海外で歌舞伎を指導し、その過程で歌舞伎の在り方について考える三代目。

第六講に、「女方・デフォルメの美意識」と題し、女方の修行のことが書かれています。澤瀉屋は立ち役の家系ですが、二代目が、「役者には最終的に色気がなきゃだめだ、團子(三代目)だけは女方のできる役者にしたい」と言って、藤間勘十郎(二代目)さんのところに三代目を預けたとあります(当時の二代目の妻が紫さん!)。三代目曰く、若い頃はやせ型で美しかったが、成長後首は短くずんぐりになったものの、勘十郎さんに六代目菊五郎に似ているといわれ、体型が不利だからこそ女方を美しく見せるための努力をしたと。

最後のページに梅原猛さんの「猿之助賛」があります。演劇に対する猿之助の情熱を称賛しつつ、「彼のような新しい歌舞伎の創造者には、真に新しい、歌舞伎の脚本が必要なのである」――これがきっかけで、梅原さんが「ヤマトタケル」を書くんですね。

 

201905_4 2冊目は、「スーパー歌舞伎 ― ものづくりノート」(2003年)です。集英社新書、300ページとたっぷり。題名通り、第1作の「ヤマトタケル」から、「新・三国志 Ⅱ」までについて、制作の過程を克明に記載しています。

 いや、すさまじい。「ヤマトタケル」の初演は1986年2月、それから2003年の「新・三国志Ⅲ」まで、9作を制作しています。脚本家は別にいるといっても、第1稿にダメ出しして脚本を練り上げ、美術、衣装のイメージを指定し、音楽を決めていくのはまさに猿之助。新作で出演者も多いので、稽古もたいへんです。

 驚くべきなのは、当時人気役者である三代目が、復活通し狂言や、連獅子などで毎月のように舞台に立ちながら(しかも七月は今の海老蔵のような猿之助奮闘公演!)、これらの大作を作り上げていったことです。そして、関係するスタッフが国際的なこと!京劇の学院長さんや、ドイツの宙乗りの第一人者の力を借りて、どこまでも自分の理想を追求する三代目。

フランスでのオペラ「コックドール」、バイエルンのオペラ「影のない女」の演出の経緯もあります。日本と違って、休み時間をきっちりとるキャストに、身をもって演じながら教える苦労。

1995年から2000年にかけて、春秋座で苦手な役に挑戦する自主公演も行っていますし、澤瀉屋の御曹司ではない役者さんを集めて二十一世紀歌舞伎組を作って公演をしたり、とその意欲はとどまるところをしりません。

記述も極めて明確で、ご自身の考えがしっかりあるところにも感心します。演技も踊りはもちろん、演出家としても決断は早く、役者の育て方もうまい四代目、すごいと思っていましたが、三代目の仕事ぶりをみると、新作の制作頻度、国際的な活動、他の分野の一流の方々との交流、歌舞伎座での奮闘公演、二十一世紀歌舞伎組の育成等、四代目にしてまだまだ三代目には及ばないといえましょう。

(しかしながら、四代目が三代目よりすごいところもあって、まずきれい<←ひいき!>、女方も含めると役柄が広い、同世代の人気役者との共演は歌舞伎ファンを喜ばせている、大幹部と若手の間の世代として若手を育て機会を与えている、現代劇でも名演を残している、バラエティ番組をさらりとこなして、若い層にもアピールしている…)

歌舞伎というだけでなく、真摯にものづくりを行う天才の克明な記録という点で、すばらしい本なのですが、前述のようにこの本の出版は2003年2月、三代目は、この年の11月の博多座「西太后」(藤間紫主演)公演中に病に倒れ、2012年の澤瀉屋4人同時襲名公演まで歌舞伎の舞台に立つことができませんでした。結果的に、この本は、三代目が病に倒れるまでのほぼ全記録という形となりました。

このときまだ64才、体力頼みのお役はともかく、歌舞伎役者としてはこれからが楽しみというお年です。映像でちらりと見た筆屋幸兵衛や加賀鳶の迫力、古典でもファンの方はもっと見たかったことでしょう。今の大幹部との共演だって、みられたはずです。

その後に書かれた日経「私の履歴書」(2014年)の記述の確かさはこの本と同様ですし、四代目へのアドバイスなども的確で驚きますが、その考えをそのまま言葉で伝えることが難しくなったことも、どんなにもどかしい思いをされただろうと、悲しくせつないです。

できうれば、このすぐれた見識を、本という形ででももっと残していただけたらな、と思いました。

團菊祭五月大歌舞伎「寿曽我対面」「勧進帳」「め組の喧嘩」

201905_2  團菊祭昼の部です。

 一つ目は「寿曽我対面」。令和の御代の始まりの最初の演目ということで、おめでたい曽我物をもってきたわけですね。昔は新春に必ず上演されたそうですが、私は最初に見たのが今年新春の歌舞伎座(「雪の対面」といういわばバリエーション)、新春浅草歌舞伎 、しかし今年はすでに3回目。

 若い座組で、曽我十郎(梅枝)、五郎(萬太郎)、小林朝比奈(歌昇)、大磯の虎(右近)、化粧坂少将(米吉)、八幡三郎・秦野四郎は鷹之資・玉太郎のSUGATAコンビ。そして工藤祐経が松緑。たしかにこの中だとちょっと年上で座頭格ですね。

二人の女方が美しくかわいくて、舞台が華やかです。朝比奈の歌昇は、最初誰だかわからなかったんですが、又五郎さんに台詞廻しが似ていて、立派な朝比奈でした。こういうお役もしっかりできるんだな。萬太郎の五郎は熱演ですが、やっぱり先輩たちはただ普通にやっているように見えて、たいへんな役なんですね。がんばれ。最後に新左衛門の坂東亀蔵出番ちょっとでもったいない。

二つ目は「勧進帳」海老蔵弁慶を見るのは初めて。聞いてはいたけれど、なんと表情豊かで、動きも美しい弁慶。独特の台詞回しも今回はさほど気にならず、ん?と思うところは少なくて、やはり若い頃から上演を重ねているだけあるなあ、と思いました。一行への合図などもはっきり見せたりして、観客にわかりやすい形に工夫しているようにも見えました。ただ、富樫の問答に答えたり、舞を舞ったりいろいろするのが得意気で、海老蔵ショーを見ているような気持ち。義経に対する敬意や思慕の念が足りないようにも思いました。

菊之助の義経は絶賛されてますが、美しく品のある義経。この一行にあっては、大事にお守りしたい存在です。松緑の富樫も立ち姿が美しく、海老蔵弁慶を見守るようで、私が思っていたよりもずっとよかった。四天王は右團次、九團次、廣松、市蔵と海老蔵公演を支える役者たちですが、右團次さんはもちろん、廣松の声がいいのに驚き。

正面の長唄、囃子方が並び、音楽がまっすぐ届き、その前の役者の美しい衣装、何度か見てきて、勧進帳の演目のすばらしさを感じられるようになってきた気がします。勘九郎がやってくれないかなあ。

三つめは、「め組の喧嘩」2015年の團菊祭でも見ていますが、菊五郎劇団でもベスト3に入る好きな演目。前回から4年たっていますが、菊五郎おやじさまがダイエットで少しほっそりされたので、むしろ若々しいくらいで、貫禄と男気のある誠に立派な辰五郎。しかも、この間、彦三郎・亀蔵兄弟や、松也、右近、萬太郎たちの役者ぶりが大きくなって、ますます充実して見ごたえのある、逆にぜいたくな一幕となりました。ほかにもいっぱい出ているんですが、(チラシの名前の数がすごい!)、萬次郎さんの次男光くんも久々の出演でした(それにしても去年の松竹座のめ組とずいぶん印象がちがう)

お仲(時蔵)になぜ喧嘩をしない、となじられながらふて寝した振りをして水杯を交わす、辰五郎の家の場が大好きなんですが、今月は倅又八に、亀三郎ちゃんが出ていて、生意気でお父さんが大好きな又八を熱演。これまで達者な子役ちゃんたちが、一人前の座り方をして笑いをとるのを見てきましたが、かめさぶちゃんは、浮かず7に芝居の中に溶け込んでいて、とっても上手でした。夜の部で丑之助が菊ちゃんに肩車されますが、かめさぶちゃんも彦兄に肩車されてました。

喧嘩の場面は工夫されていて見て楽しいのですが、3階から、回り舞台の向こう側まで見えるのは、なかなか新鮮でした。揃いの粋な法被の、宝塚かというような大勢のめ組、相撲取りたち。盛り上がったところに、甚三郎(歌六)が留め男として出てきます。ひーかっこいい。歌六さん、これから左團次さんのやってきたようなお役もやっていくんだろうな。

ということで、歌舞伎を代表する演目が並んだ昼の部で大満足でした。それにしても、菊之助ってば、勧進帳は台詞は少しですが、ずーっと舞台で形を作っている役、め組はいなせな若い衆、夜の部は、出演者皆に気を遣う息子の襲名披露、そして1時間を超える大曲娘道成寺、と、大大活躍。へんなドラマに出ている暇はないですね(すいません)。

團菊祭五月大歌舞伎「鶴寿千載」「絵本牛若丸」「京鹿子娘道成寺」「曽我綉俠御所染 御所五郎蔵」

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  じゅふたんの丑之助襲名で話題の團菊祭五月大歌舞伎夜の部です。前方中央付近の席で、堪能しました。盛りだくさんだったので長いですよ。

ひとつ目は、「鶴寿千載」。昭和天皇即位の大礼を記念して作られた、筝曲の舞踊を令和への寿ぎとして、時蔵、松緑の大臣と女御を中心に、梅枝、歌昇、萬太郎、左近で華やかにおめでたく。珍しかったのは、筝も唄も、女性の方がほとんどだったこと(ただ声が少々小さかったような)。

2つめは、「絵本牛若丸」。牛若丸(丑之助)の陸奥への旅立ちのお話ですが、菊五郎劇団に、吉右衛門、時蔵、雀右衛門、松緑、海老蔵と出演者が濃すぎます。囃子方も、巳太郎さんの三味線、葵太夫さん、傳左衛門に、巳津也さんも!すでに評判になっていますが、吉右衛門さんが終始微笑み顔。丑之助が片足を上げる形が決まった後、さらににこやかになったりして、キッチ―見ているだけで楽しいです。

(先週の「ぴったんこカンカン」で、じゅふたんと菊之助を中心に、菊五郎ひーま、キッチーがゲスト、キッチ―は、自分が養父に連れてきてもらっていたという<かわいがられていましたね>東京會舘のドーバーの舌平目をじゅふたんに食べさせ、爺バカ<本人談>をからかわれていました。唯一の男の子の孫で、お顔も音羽屋より播磨屋似ですもんね)。

鬼一法眼三略巻(一条大蔵譚)」を知っていると、鬼次郎、お京、鬼一法眼、鳴瀬が出てきて、おおーと思います。お京と鳴瀬は、大蔵卿の命で、牛若丸の旅立ちを常盤御前に報告するために来たのだそうです。弁慶の菊之助、隈取が意外に似合っていてステキ。

丑之助、なかなか堂々としていて、立ち回りも見得もがんばって、かわいらしいです。最後に花道でくたびれた、と菊ちゃんパパに肩車してもらうのもご愛敬。満員のお客さんも大喜びでした。

3つめは、いよいよお目当ての菊之助「京鹿子娘道成寺」。シネマ歌舞伎で「五人娘道成寺」を見たことはありますが、舞台で見るのは初めて。今もっともこの演目を歌舞伎座でやるのにふさわしい、菊ちゃんの道成寺を楽しみにしていました。所化に、権十郎、歌昇、右近、米吉、廣松、男寅、鷹之資、玉太郎、左近

白拍子花子の花道の出の七三、上手の鐘を見る一瞬、執着の表情に凄みがあります。本舞台に出てからは、終始目の前で華やかな踊り。とにかく今の菊之助の美しさ、華やかさ、丁寧な舞踊、次々と変わる衣装、が目の前で繰り広げられて、目と心が鷲掴みされるようでした。今を盛りの歌舞伎役者の舞踊、すごい。

最後の白い衣装で、あ、今、と思った人に非ざる表情、そして鐘に上ります。ああ、あの顔をこの席から見られてよかった!

最初の方の、花子の拵えの時間稼ぎに、右近、米吉、歌昇たちが日替わりでことば遊びをしているようで、私が見た日は米吉の「まい」尽くしでした。時間は拵えの状況によって変わるようで、考えながらいうセリフもかわいらしかったです。

「ぴったんこカンカン」で、菊ちゃん、じゅふたん、安住さんが書いた茶色の自分の名前を使った松もはっきり見えました。

最後は、「曽我綉俠御所染 御所五郎蔵」2017年6月に仁左衛門の五郎蔵、左團次の土右衛門、雀右衛門の皐月、逢州 米吉で見ています。今回は、五郎蔵 松也、土右衛門 彦三郎、皐月 梅枝、逢州 右近、花形屋悟助 橘太郎。

この若い座組、よかった!松也と彦兄は声がよく、並ぶとそれぞれの個性が際立っていましたし(といっても最初の出の割台詞や対立はやや長い、両花道じゃなくて、土右衛門側は上手側の舞台に並ぶスタイル)、梅枝の述懐の長台詞もすーっと入ってくるのがさすが。右近もきれい。そして借金取り立てにくる橘太郎が達者で動きが面白く、また2幕では、土右衛門の手下たち、新十郎、左升、荒五郎、吉兵衛の4人が、台詞のキレがよく、4人そろっての雰囲気が面白くて、すごくよかったです。荒五郎さんは團蔵さんのお弟子。

この演目、後半はけっこうむちゃくちゃなストーリーながら、皐月と五郎蔵の、一種のすれ違いが切なく、五郎蔵の怒りもわかるような描き方がいいんですよね。團菊祭なんだから、海老蔵が五郎蔵で出るというのもありだったような気もしますが、松也がかっこよかったからいいや!

四代目市川猿之助出演記録

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  四代目猿之助丈の、初舞台からの出演記録表(猿之助年表pdf) を作ってしまいました(恐縮ですが、個人でご覧になる以外のご利用はご遠慮くださいませ)。

   歌舞伎を見始めたのが2012年で猿之助襲名の年、それからさらに数年たって、好きな歌舞伎役者さんがたくさんできた中でも、四代目がとくに好きだなあと思い始めたのがつい最近(2017年春頃)なので、web情報や本でこれまでの軌跡をたどってきたのですが、生来の記録ヘキから、まとめたくなって。

歌舞伎公演データベースから公演をチェックし、ドラマ等は「僕は、亀治郎でした。」やwikipedia等を参考にしています。

単発の舞踊会等は、ネットで調べようとすると、告知は多いのですが、過去の公演の一覧等は意外とないので、けっこうたいへんでした。TVのバラエティで入れておきたいものもまだありそうです。間違いなど、お気づきの点があればお知らせくださいませ。

ここまでまとめると、いろいろな発見がありました。

子どもの頃は、三代目の興行で、子役で出ています。初御目見は4才で碇知盛の安徳帝、その後、「実盛物語」の太郎吉「牡丹景清」の娘人丸(阿古屋の娘ですね)、「加賀見山再岩藤」又助弟志賀市など子役の大役を務めていますし、10才で奴道成寺も踊っています(段之さんの歌舞伎座ギャラリートークで映像を見ましたがすごかった!)。亀治郎襲名は7才、「御目見太閤記」の禿たより

舞踊が得意な人ですので、数々の舞踊発表会に出ています。NHKで「供奴」が放送されたりしていますね。ご本人も、ほめられるのでうれしくて舞踊が好きになった、と語っています。10代後半は、「子守」や、先代との「連獅子」での仔獅子、右近さん忠信の鳥居前での静御前などがありますが、大学時代は学業優先で殆ど本興行での出演はなく、舞踊会等ばかりです。歌舞伎役者は大学からは本格的に本興行に出演する人が多く、ここまで学業優先は、澤瀉屋ならではかも。

そして大学4年以降、それまでを取り戻すかのように、スーパー歌舞伎、本興行とがんばっていきます。22才で名題昇進。年4,5か月のスーパー歌舞伎(お稽古も長い)と普通の興行。そういう中で、三代目の勧めから、自分自身でプロデュースする力と自分のために協力してくれるスタッフを得るために、2002年(26才)の夏に第1回亀治郎の会を開催します。

そして翌年の2003年7月の歌舞伎座を最後に、父段四郎とともに、三代目の元を離れます。知ってはいたけれど、当時大人気だった猿之助劇団を離れるというのは、ものすごい決断だったと思います。段四郎さんが一緒に、というのは、やはりお弟子さんは皆段四郎さんのお弟子さんたちであり、亀治郎一人で独立させることができなかった親の情なのでしょうか。ここまで兄を支えてきた段四郎さんは、息子の才能を早くから認めて、期待してきたのでしょう。

幸いにも1999年からはじまった新春浅草歌舞伎での大役への挑戦は続いていましたし、菊五郎劇団や海老蔵襲名公演への出演、そして亀治郎の会での努力もあって、独立の2年後には、「NINAGAWA十二夜」で麻亜役を演じ、高い評価を得ます。2006年3月には、三谷幸喜のPARCO歌舞伎「決闘!高田馬場」で染五郎・勘九郎とともに主要人物を演じ、コミカルな役柄に開眼しました。

2007年には、初めての映像作品にして大河ドラマ「風林火山」の武田信玄という準主役。3月の團十郎さんのパリ公演にも帯同し、「勧進帳」の義経、「紅葉狩」の山神を好演するとともに、暁星仕込みのフランス語の口上で沸かせました。2008年になると、地方公演では、かなりいい役もつくようになってきます。

2009年は、まず、テレビ東京のお正月ワイド時代劇「おんな太閤記」の秀吉役を務めました。「NINAGAWA十二夜」がロンドンで再演、またその凱旋公演が演舞場、松竹座と2か月ありました。3代目との交流が復活し、2010年新春浅草歌舞伎に向けた「悪太郎」のお稽古もみてもらいます。

2010年は浅草に続き、博多座、南座、こんぴら歌舞伎と、澤瀉屋の猿之助四十八選に奮闘します。秋には蜷川幸雄演出の「じゃじゃ馬馴らし」で主演。この辺りで、猿之助襲名が確実になってきたといえましょう。

2011年新春浅草歌舞伎公演中に、三代目から襲名を告げられ、5月に「四の切」初演、9月に猿翁、猿之助、中車、團子のスーパー襲名が発表されます。36才でした。

ここ辺りでやっと私の四代目認識とつながるんですね。

どんな世界も、一人を追いかけることで、その世界がより深く理解できるような気がします(アダム・パスカルを追いかけることで、ブロードウェイの作品の作り方やテコ入れ、当たらなかったときの非情なクローズをみることができました)。四代目の軌跡は、人気役者の一門の御曹司の成長の過程をみるという意味でも興味深かったです。

さて、これからはリアルタイムで見ていくことができるのは幸せといえましょう。

喜熨斗勝「歌舞伎 芸と血筋の熱い裏側」

201904_2  歌舞伎評論家としてときどきコメントを目にする、喜熨斗勝氏の「歌舞伎 芸と血筋の熱い裏側」。著者は初代猿之助の四男小太夫の息子とのことで、四代目からみると曽祖父初代猿翁の甥、仲良しの貞子さんの従兄に当たります。

タイトルは、中川右介「歌舞伎 家と血と藝」によく似ていますが、出版社も講談社で同じなのか。

内容は、とりとめのない歌舞伎関連エッセイという感じなのですが、面白かったのは、歌舞伎の小道具をやっていたことがある舞台制作の手塚優子さん、関洋子さんとの対談。と、最後の父小太夫さんとのことを書いたあたり。

手塚さんとの対談では、梅丸の小さいころや、福助さんのいい話が出ていましたし、先代の歌舞伎座で洗い場が外にあってたいへんだったことや、浅草歌舞伎で男女蔵さんにお弟子さんがついていなかった(左團次さんの方に行っちゃってた)ので手塚さんがサポートしたが、亀治郎にはたくさんお弟子さんがついていたこと(この頃は先代の下を離れているころですから段四郎さんが後ろ盾でよかったですね)など。関さんとの対談では、歌右衛門さんと福助さんのこと、海老蔵のこと、勘三郎さんの思い出や、平成中村座でのお弟子さんたちの公演の思い出などが興味深かったです。

最後の著者と父であり初代猿翁の弟である小太夫さんとのことは、その時代に苦労した一歌舞伎役者の記録として貴重でした。

残念な点もけっこうあります。例えば、直侍のそばを食べるくだりが違うとか、海老蔵と獅童への思い入れ強すぎるとか、勘九郎・七之助への評が辛めなんですが、その内容が、たとえば、七之助はか弱い女性しかできない(菊之助の方が男を手玉に取る女性もできる)とか、昨年12月に出たばかりの本なのに、ここ数年の七之助の舞台を見ていないのか?って感じです。

ということで、歌舞伎に興味のない方が読んでも、興味がわくわけではないし、歌舞伎をよく見ている人は違和感のあるところが多いし、だれがターゲットなんだという感じの本でした。

 

 

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