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歌舞伎

演劇界「歌舞伎俳優から皆様へ― このひと役」と私の「このひと役」

 2006enngekikai  3月以来の歌舞伎公演全中止で、役者さんやスタッフさんだけでなく、雑誌「演劇界」さんもさぞ困ったことでしょう。ほんとなら3月は歌舞伎座のほか、明治座の中村屋、国立の菊之助丈義経千本桜通し、南座の新版オグリがあったはずですし、何より5月の團十郎襲名に向けて、いろいろな記事を用意されていたと思います。そんな未曽有の苦境を逆手にとった6・7月合併号の特集企画が、これ。

(なお、児玉竜一先生の「三~五月 劇界の動向」は、歌舞伎のみならず、この間の演劇界全体の苦境を克明に記録した、後世への保存版だと思います)。

117名の役者さんが、「このひと役」を選んで大きなカラー写真に短い一言を添えています。巻頭の海老蔵インタビュー以外のほとんどの誌面を費やした労作で、かえって保存版になってしまって、発売後3日で在庫払底、重版が決まるという人気。本人コメントのついた「かぶき手帖」大判という感じです。

役や写真の選び方がバラエティに富んでいて楽しい!えーっこのお役、と思うと、息子さんと一緒にもう一枚出ていたり、故人の父、祖父、師、大先輩との写真の方もいて。見ているうちに、つい、自分の「このひと役」を選びたくなってしまいました。といっても、2012年から歌舞伎を見始めたニワカなので、ほんとに私の個人的なものです。映像のみで見たものも含めてしまいました。迷う方はブログ内検索で思い出したりして。117名のうち、最近出られていない方など見ていない方、20代前半以下の方は除いています。

新作歌舞伎が多いのは、当て書きだったり、本公演より役が大きくなったりして、印象が強いからかもしれません。これに対して大幹部は、古典の大役のどれにしようか迷いました。

(演劇界での選出と並べていますので、まだご覧になっていなくてネタバレしたくない方はご注意ください)

   演劇界  私の「このひと役」
海老蔵 (インタビュー掲載のためなし) 助六 助六
嵐橘三郎 新口村 孫右衛門 弁天小僧 浜松屋番頭
右團次 華果西遊記 孫悟空 名高大岡越前裁 天一坊
中車 綱豊卿 富森助右衛門 綱豊卿 富森助右衛門
猿弥 當世流小栗判官 矢橋の橋蔵 ワンピース ジンベエ
笑也 新・三国志 劉備玄徳 空ヲ刻ム者 双葉
笑三郎 四の切 静御前 ナルト 大蛇丸
弘太郎 ヤマトタケル ヘタルベ ヤマトタケル ヘタルベ
寿猿 黒塚 強力太郎吾 黒塚 強力太郎吾
猿之助 ワンピース ルフィ 黒塚 岩手・鬼女
左團次 助六 髭の意休 助六 髭の意休
男女蔵 博奕十王 閻魔大王 月光露針路日本 水主小市
團蔵 髪結新三 弥太五郎源七 髪結新三 弥太五郎源七
門之助 新版オグリ 薬師如来 新版歌祭文 座摩社山家屋佐四郎
友右衛門 綱豊卿 お喜世 不知火検校 岩瀬藤十郎
雀右衛門 二人道成寺 白拍子桜子 伊賀越道中双六岡崎 お谷
菊五郎 魚屋宗五郎 宗五郎 文七元結 長兵衛
菊之助 土蜘 土蜘の精 NINAGAWA十二夜 琵琶姫・獅子丸
尾上右近 弁天娘 弁天小僧菊之助 ワンピース ルフィ
松緑 慶安太平記 丸橋忠弥 名月八幡祭 縮屋新助
松也 御所五郎蔵 義賢最期 義賢
市蔵 切られ与三 蝙蝠の安 らくだ 家主幸兵衛
片岡亀蔵 大江戸りびんぐでっど くさや弟 阿弖流為 蛮甲
吉弥 天守物語 薄 帯屋 おとせ
秀太郎 近頃河原の逢引 遊女お俊 木の実 おせん
愛之助 新八犬伝 網干左母次郎 義賢最期 義賢
仁左衛門 吉田屋 伊左衛門 盛綱陣屋 盛綱
孝太郎 女鳴神 鳴神尼 女鳴神 鳴神尼
松之助 夏姿浪花暦 千草屋番頭幸助 実盛物語 九郎助
藤十郎 曾根崎心中 お初 伽羅先代萩 政岡
鴈治郎 曾根崎心中 徳兵衛 河庄 治兵衛
壱太郎 神霊矢口渡 お舟 GOEMON 出雲阿国
扇雀 艶容女舞衣 酒屋 お園 法界坊 お組
亀鶴 幸助餅 関取雷五 すし屋 梶原景時
宗之助 阿弖流為 無碍隋鏡 決闘!高田馬場 おもん
勘九郎 門出二人桃太郎 桃太郎 桜の森の満開の下 耳男
七之助 門出二人桃太郎 桃太郎 阿弖流為 立烏帽子・鈴鹿
吉右衛門 熊谷陣屋 熊谷直実 幡随院長兵衛 長兵衛
吉之丞 一条大蔵譚 勘解由 滝の白糸 裁判長
歌六 沼津 平作 伊賀越道中双六岡崎 幸兵衛
米吉 祇園一力茶屋 お軽 すし屋 お里
又五郎 鳥羽絵 下男升六 ひらかな盛衰記源太勘當 梶原景高
歌昇 絵本太功記 光秀 雨乞其角 船頭
種之助 祇園一力茶屋 平右衛門 ナウシカ 道化
時蔵 切られお富 お富 絵本合法衢 うんざりお松
梅枝 阿古屋 阿古屋 関の扉 小野小町・墨染
萬太郎 連獅子 仔獅子 義経千本桜 小金吾
錦之助 勧進帳 富樫 霊験亀山鉾 源之丞
隼人  寺子屋 源蔵 ナルト サスケ
獅童 今昔響宴千本桜 忠信 四谷怪談 伊右衛門
梅玉 菊畑 鬼三太 寺子屋 武部源蔵
莟玉 菊畑 虎蔵 文七元結 お七
魁春 新薄雪物語 梅の方 新薄雪物語 梅の方
東蔵 籠釣瓶 おきつ 競伊勢物語 小由
松江 九十九折 養子新造 仮名手本忠臣蔵大序 足利直義
児太郎 金閣寺 雪姫 大石最後の一日 おみの
芝翫 熊谷陣屋 熊谷直実 巷談宵宮雨 龍達
梅花 雷神不動北山櫻 腰元うてな すし屋 母おくら
竹三郎 四谷怪談 お岩 夏姿女団七 おとら
玉三郎 二人道成寺 白拍子花子 籠釣瓶 八ッ橋
巳之助 ナルト ナルト ワンピース ボン・クレー
彌十郎 関の扉 大友黒主 阿弖流為 藤原稀継
新悟 景清 保童丸 新版オグリ 照手姫
彦三郎 明君行状記 青地善左衛門 明君行状記 青地善左衛門
坂東亀蔵 弥生の花浅草祭 獅子の精 弥生の花浅草祭 獅子の精
萬次郎 女暫 巴御前 阿弖流為 御霊御前
橘太郎 曽我対面 清重 暗闇の丑松 湯屋番頭甚太郎
権十郎 角力場 放駒長吉 髪結新三 勝奴
白鸚 勧進帳弁慶 不知火検校 検校
幸四郎 勧進帳弁慶 決闘!高田馬場 堀部安兵衛
高麗蔵 熊谷陣屋 藤の方 石切梶原 梢
錦吾 河内山 北村大膳 決闘!高田馬場 菅野六郎左衛門

 

八坂堅二郎「音で観る歌舞伎―舞台裏からのぞいた伝統芸能」

2005otodemiru  国立劇場で長年伝統芸能全般の音響を担当してきた八坂堅二郎さんの「音で観る歌舞伎―舞台裏からのぞいた伝統芸能」(2009年)です。

 全260pのうち、80pくらいが能楽と文楽の基礎知識として舞台の構造や楽器など(歌舞伎じゃない!)、その後の80pくらいが演技以外の歌舞伎の舞台、大道具・小道具、衣装、かつら等の基礎知識です。知らなかったことが多かったんですが、舞台の高さに4パターンほどあり、1尺4寸高の「常足」は商家や民家の家、2尺8寸の高足は立派な寺院や御殿の高さ、その中間の中足は武士の屋敷などなのだそうです。なるほどそういえば。

そして最後の100pほどが、浄瑠璃(義太夫、常磐津、清元)と長唄などの音楽、効果音などの歌舞伎の音響について。音楽の種類毎に見台や肩衣がちがっているとか、赤子の鳴き声や動物の鳴き声、雨等の効果音をどうやって作っているか等。後者の音作りは、筆者の経験した具体的な苦労も交えて詳しく書かれています。

音楽については、メモしておきますね。

義太夫(竹本)…状況説明や心情の語り。三味線は太棹 見台は黒塗り。出語りあり。
清元…高い調子。三味線は中棹だが常磐津より柔らかい音。黒塗りの一本足の見台。萌葱色の肩衣。
常磐津…清元より語りの要素が強い。三味線は中棹。舞台下手で演奏することが多い。三本足の朱塗りの見台。柿色の肩衣。
長唄…歯切れよく速いテンポの演奏。三味線は細棹。見台は桐で足が交差しているもの。肩衣は演目によって違う。

国立劇場のスタッフの方の著作というと、織田紘二さんの「芸と人―戦後歌舞伎の名優たち」を読みましたが、八坂さんも同年代くらいなので、国立のスタッフなのに、公務員的なイメージと異なり、先輩の厳しい指導、ハードな仕事と必死の工夫の様子が、伝わってきます。そして、やはり歌右衛門さんの言葉の重みが、スタッフ一同に響いていたのだなと感じられます。

歌舞伎の上演が、伝統と多くのスタッフに支えられていることを改めて感じた本でした。

 

三月大歌舞伎「梶原平三誉石切」「高坏」「伊賀越道中双六 沼津」期間限定配信

2004_20200425001201  引き続き松竹チャンネルの期間限定配信、三月大歌舞伎夜の部です。まず「梶原平三誉石切」。わりとよくかかる演目で、2015年白鸚さん2017年彦三郎さん2019年吉右衛門さんで見てます。

梶原は白鸚さんですが、初めて見たときよりずっと面白く感じました。大庭兄弟(芝翫、錦之助)と見た目のバランスもいいし、白鸚さん中心にいいチームワークで、白鸚さんも気持ちよく演じている感じ。梶原方大名が松江、亀鶴、廣太郎、虎之介、大庭方大名が高麗五郎、幸右衛門、千次郎、かなめ。大庭方の皆さんが迫力ありました。

 六太夫は錦吾さん、梢は高麗蔵さん。剣菱呑助は橘三郎さん。これまで見た梢は、壱太郎、右近、米吉ときれいな若い娘だったんですが、この高麗蔵さんさすが。若々しいんだけど若妻の落ち着きもあり、父の覚悟によよと嘆くところなどこってりとよかったです。大庭兄弟や大名たちが去って梶原と父娘だけになる場面、長年舞台を共にした高麗屋お三方の息の合い方でした。

2つめは「高坏」。勘九郎が得意としている下駄タップ舞踊という認識でしたが見たことはなかったもの。大名(友右衛門)に酒を飲むため高坏を買って来いと言われた次郎冠者(幸四郎)。高足(下駄)売り(亀鶴)に騙されて高坏の代わりに高足を買ったうえ、酒は二人で飲んでしまい、怒られて高足をはいて踊ります。

抜けた愛嬌者をやらせたら天下一品の幸四郎、表情も豊かに最高に楽しい下駄タップ。その前の亀鶴さんの踊りと掛け合いも達者で、亀鶴さん、いい役だったのに中止は惜しかったなあ。二人の格子の入った衣装もかわいらしくて好きでした。

3つめは「伊賀越道中双六 沼津」です。昨年の秀山祭で、吉右衛門さんの十兵衛を見ましたが、そのときはあらすじの予習が粗々であんまりよくわからなかった芝居(恥)です。あのとき、吉右衛門さんの急病で、開演のたった1時間半前に決まって初役の代役をした幸四郎さんが、今度は本役で務めます。平作は白鸚さん。

今度は段取りも頭に入っているのもありましたが、改めて面白い芝居だと思いました。柔らかい優しい雰囲気の仕事のできる商人で、後半平作とお米の立場と、自分の義理との板挟みって、それは幸四郎のニンにぴったりはまっています。で、白鸚さんの老け役がすごくいい。お年そのままですが、その中に芯というか気骨がにじみ出ていて、年恰好からいっても幸四郎さんとの親子感が自然です。

最後の十兵衛・平作の場面は、息もぴったりですし、親子の愛情が感じられます。何より二人のスケール感が、ギリシャ悲劇とかシェイクスピア作品のような香りがあってですね、でも歌舞伎。白鸚さん、夜の部だけとはいえ、1つめの石切梶原だって相当エネルギーを要する演目なのに、沼津でのこの力演。凄いなあ。インタビューでは、秀山祭りで見事に代役を務めた幸四郎に対し、「『一世一代』で親として何かやれないか。幸四郎の心意気に対するささやかなご褒美というかね」 と語っています。

ところで、新薄雪物語で、白鸚・吉右衛門の兵衛・伊賀守ってありえないんですかね。大柄で類まれな存在感のあるお二人のがっつりした共演って、見ることはできないんですかねえ。

三月大歌舞伎「通し狂言 新薄雪物語」「雛祭り」期間限定配信

2004_20200422074101  松竹チャンネルの期間限定配信、いよいよ三月大歌舞伎「通し狂言 新薄雪物語」です。演目名は知っていたけど見たことはなく、しかも仁左衛門さんと吉右衛門さんの共演というので、配信を楽しみにしていました。

  あらすじも全く知らずに見始めたんですが、面白かった!ひとつの要因は、国立劇場の「義経千本桜」の映像に比べて、画面が明るくて要所要所のアップがうまいので、自然に芝居に引き込まれる感じがしたことです。さすがシネマ歌舞伎をたくさん撮っているだけあります。もちろん、配役が豪華で(翌4月は歌舞伎座改修でお休みでしたからね)お話もよくできていて、この演目は保存版だと思いました。

まず「花見」。桜が満開の清水寺に、薄雪姫(孝太郎)が腰元籬(扇雀)たちを引き連れて参詣にやってきます。清水寺に影の太刀を奉納に来た園部左衛門(幸四郎)にひとめぼれした薄雪姫は、籬と左衛門の奴妻平(芝翫)のとりもちで、次の逢瀬の約束にこぎつけ、手紙を渡します。ところが、団九郎(又五郎)が 大悪人秋月大膳(歌六)の命により、左衛門が奉納した刀に国家調伏のやすり目を入れます。一方妻平は、水奴たちと大立ち回り…。

幸四郎はいつもの二枚目で最高なんですが、ほかの役者さんみんなに見せ場がたっぷりあって、とても生き生きとしているんですよ。籬の扇雀さんの、きれいでテキパキしていてちょっと色っぽい感じとか、芝翫の大柄な存在感のあるお気楽な色奴とか、又五郎さんの小細工の細かな演技と大悪人歌六さんとのやりとり、花道の引っ込みとか、タカタロさんのどこまでもかわいい姫とか。大幹部と、幸四郎以下の文字通り花形役者に挟まれて歌舞伎座ではあまり大きな役に恵まれない感のある(失礼!)この世代の方々の実力がいかんなく発揮されているなあと思いました。

最後の、妻平と赤い衣装の水奴たち(この衣装・鬘初めて見た)との立ち回りは10分ほどの長い場面で、とても面白かった!芝翫さんも水奴も、どんなにお稽古なさったことか、ああそれなのに…。ほんとに口惜しいです。

続いて「詮議」。左衛門と薄雪姫が、姫の屋敷である坂崎邸(襖に花、屏風に御所車が描かれていたりしてきれいなお屋敷です)で密会をしようとすると、母松ヶ枝(雀右衛門)にみつかります。親の許しを得ていないのにとうろたえる二人に、松ヶ枝は反対などしないといいます。このお話の両親はほんとに子ども思いの優しい親。そこに、左衛門が影の太刀で国家調伏を企んだ疑いを、葛城民部(梅玉)が詮議にやってきます。大膳、薄雪姫父坂崎伊賀守(吉右衛門)、左衛門の父園部兵衛(仁左衛門)がそろいます。薄雪姫の手紙も文言を捻じ曲げられて証拠とされ疑いは晴れず、民部は大膳の企みに気づきながらも、伊賀守と兵衛が、互いに子を預かりあい、詮議をするという案を受け入れます。

裁き役、梅玉さんの第一声から素敵なこと!吉右衛門、仁左衛門と揃った舞台が重厚で見ごたえあること!二人が花道で密かに善後策を相談するところの、お互いにがっつりぶつかり合う横綱相撲。疑いの晴れない幸四郎の苦悩(大好き)。あああーなぜこれ一等の前の方で見られなかったの私(中止だから!)。ところでニザさまと幸たまが親子というのは珍しいですが(初めて見たような)、二枚目の系譜としてはとてもよい親子。

そして「広間・合腹」。あらすじ見ていなかったのですが、後から知れば、合腹って何というタイトル!山水画や書が描かれた渋い園部のお屋敷。初めて左衛門の母梅の方(魁春)が出てきます。左衛門は母にいい歌の色紙を見せたいとか、ちょいちょいマザコン気味な面が出てきます。さて、薄雪姫をかわいがる梅の方と兵衛は、妻平をつけて姫を落ちのびさせることにします。それでは兵衛たちに迷惑になるという薄雪を一喝する兵衛(←この方、何かと妻や嫁を一喝するのがいつものニザさまよりコワモテ)。

そこに、伊賀守から、左衛門の首を切ったので、そちらも薄雪の首をとれという使い(錦之助)が、首を落とした刀を持ってやってきます。刀を見ていた兵衛は伊賀守の真意を理解し、用意をしてくると下がります。そこへヨロヨロとやってきた伊賀守。首を切る代わりに、左衛門を逃がし、自分の首を差し出そうと腹を切ってきたのでした。同じく腹を切った兵衛は、梅の方にこれでほっとした、笑えといいます――この幕の別名「三人笑い」ですよ…このタイトルもすごすぎる。

まず兵衛が刀を見て気づく緻密な芝居。盛綱陣屋を思いだします。そして、ここでも吉右衛門さんと仁左衛門さんの演技合戦の迫力!筋の通った、情愛の深い、しかも持ち味の違う二人。うわあああ。そして、魁春さんがとってもよかったんですよ。もちろん、カッチリとした武家の妻というのはいつもいいんですけど、この毅然とした、情愛のある梅の方。左衛門を斬った恨みの気持ちを抑えるよう言われて不服そうに伊賀守を迎える表情、そして三人笑い。最近魁春さんも出番が短くてもったいないと思っていたんですが、今まで見た中で最高の魁春さんのような気がしました。ちょっとだけ母に暇ごいに来る幸四郎さんも、七段目の力弥のような感じで、美しかった。

ということで、豪華配役の新薄雪物語、大満足でございました。

順序は逆ですが、昼の部最初は「雛祭り」。お雛様がお酒を飲んで踊るという趣向ですが、その設定自体が楽しくて、踊りも動きが激しくてとても面白かったです。内裏雛に芝翫・福助、左大臣東蔵、右大臣彌十郎、三人官女が梅花、京妙、芝のぶ(この二人早く幹部にしてー)、五人囃子が歌昇、種之助、吉之丞、廣太郎、虎之介。長身のやじゅさんと小柄な東蔵さんの軽妙な掛け合い、とりわけ激しい五人囃子(どうしてもうたたね兄弟に目が行く)。衣装も鮮やかでよかったです。これはまた来年3月に、(できれば鷹之資も入れて)再演してほしいです。

「通し狂言 義経千本桜」@国立劇場 期間限定配信

  2004_202004101906013月の国立劇場小劇場で上演するはずだった、菊之助「義経千本桜」の通しを、期間限定(4月末まで)で国立劇場さんが配信してくれました。

  義経千本桜の通しといえば、猿翁さんが1日でやったことがあったそうです。そして、2019年7月、海老蔵が夜の部で「星合世十三團 成田千本桜」として13役を早替わりで務めたのが記憶に新しいところです。

この菊之助の通しは、3つに分けて、1日2つずつ上演するというもので、それぞれはフルバージョン。菊之助らしく、どの役も丁寧に演じています。どの役も大変な役で、きっちりとやる分、1日でとにかく通すよりも、実際に上演したらたいへんな1か月だったに違いありません。座組の皆さんもがんばっていて、これを小劇場でというのは面白かったと思うのですが、Covid-19はいかんともしがたく。

さて、配信ということで(本当にありがたいのですが)、なかなか画面だけに集中しがたいというか、こういう感じか、という雑な感想になってしまうんですけど、前述の通り意欲的な試みなので記録しておきます。「新版オグリ」の配信を見たばかりだったので、国立劇場という場の雰囲気もあって、ああ、古典歌舞伎~という感じがしました。南座、歌舞伎座の配信と比べて一番長いのですが、ほかの2つが1週間なので、リピートして見る時間がなかなかないです。

<Aプロ> 

鳥居前 

義経(鴈治郎)一行は、追ってきた静御前(米吉)に初音の鼓を渡し、佐藤忠信(菊之助)に着長を授けて供をさせることにします。この場は成田千本桜でしか見たことがなかった場ですが、米吉きれいだし、弁慶の亀蔵は、貴重な大役で、なかなか面白かったです。この鳥居前から渡海屋につながるというのが初めてわかりました。

渡海屋 碇知盛

菊之助の銀平・知盛は、2016年の歌舞伎鑑賞教室で見ましたが、あのときはこの演目が初めてで、美しい菊之助の知盛の凄みに感動しました。今回は少し落ち着いた感じですが、やはり最高に熱演。吉右衛門さんの教えを感じます。

やはりその鑑賞教室でも演じていたお柳・典侍の梅枝が、映像ながらとてもよくて、ここ数年の梅枝くんの進化をみるようで最高。ただ、たしか義経一行に、銀平の海の天候を読む技量をのろけ気味に語る場面がなかったような。ここ、あれ、典侍なのに立場忘れてるのかなって感じがして好きな場面なんですが、カットされてるのかもしれません。

安徳帝(丑之助)は子役でも熱量が必要な役で、丑之助は大変そうでした。亀蔵さんの弁慶は、鳥居前よりさらに線が細い感。やはり義経の鴈治郎さんがいいな。

<Bプロ>

下市村椎の木・小金吾討死

木の実の場ですね。すし屋でもここから出すと、事情がよくわかってよいのですが、権太(菊之助)が中の人の持ち味なのか、どうにも悪いやつに見えないのが残念。おせんの方、うまいのですが、菊之助が若いので恋女房ぽく見えない(比較がニザさま秀太郎さんなのですいません)。

小金吾(萬太郎)は真っ直ぐな若者がとても合ってました。

すし屋

維盛(梅枝)、お里(米吉)のコンビはとってもよかったです。米吉のお里は2017年11月の巡業で見ていますが、もっとこってりとした味が出てきた感。橘太郎さんのおくらはいつもちょっと笑ってしまう。團蔵さんの弥左衛門はぴったりです。権太は、戻りが芝居がかっているようで、権太への同情とかいとしさが沸いてこなかったうらみがありました。ほんとはいちばんちゃんとやらないといけない役なのでは。

<Cプロ>

道行初音旅

吉野山ですね。この場にだけ出てくる静御前の時蔵さんが若々しくてたっぷりしていてさすが。狐忠信(菊之助)もきれいです。

川面法源館

四の切です。海老蔵の成田千本桜は、澤瀉屋のケレンのタイプだったので、音羽屋というか普通の四の切は初めて。ちがうんですが、芝居としていいたいことは一緒なんだなというか、なるほどと思いました。

スーパー歌舞伎Ⅱ「新版オグリ」@南座 期間限定配信 (追記 歓喜の舞!)

2004oguri   3月の南座での「新版オグリ」、行きたかったんですよ。「ワンピース」も地方公演でブラッシュアップしてたから期待できたし、四代目オグリは2階でしか見ていなかったし、鷹之資も出るし!

延期が繰り返されたうえで全公演中止が決まり(それ自体はやむをえませんが)、最後に猿之助・隼人の2バージョンを気合を入れて無観客で上演したらしいのはインスタなどでわかってましたが、まさかの1週間限定無料配信(4月13日から19日まで)!もうありがたい限りです(詳細な配役)。

猿之助オグリ2019年11月の感想)は、フルバージョンです。休憩を飛ばして、アンコール込みで3幕3時間10分!新橋演舞場の初演は3時間25分なので、15分ちょっとの短縮ですが、だいぶ刈り込んだ気がしました。

演舞場の初演をあまり細かく覚えているわけではないんですが、気が付いたのは、照手姫の横山家のドロドロや高倉さま(嘉島典俊)の悪さが少しアッサリになってる。鬼鹿毛乗りこなす場面のフラッグがみんなカッコイイ、鷹之資の踊りがどれもキレッキレでみてて楽しい(セリフもいい)。一部不評だった二幕のSNSはなし。猿三郎さんひとみばあさん、女郎屋の最初の方の場面はなく、照手が操を立てるところもなし、遊行上人短く、金坊登場せず、福之助の山賊は鉄拳。遊行上人とのダブル宙乗りなし。なぜ高橋くんと宙乗り?寿猿さんとあかねちゃん(玉太郎)登場で二人ともよかった。

刈り込んではいますが、1幕は前述の鬼鹿毛、2幕は地獄の立ち回り、3幕は餓鬼病みオグリと歓喜の踊り、と見せ場がそれぞれより際立つようになっていて、面白さは増幅されたと思います。2幕は、オグリ衆大活躍で、鷹之資の鮮やかな飛び六法や、玉太郎の蘭平ばりのハシゴ、そしてオグリと全員の本水!

福之助がどうしちゃったのというくらい台詞が進歩していて、新悟ちゃんの照手ももはや安定感。新悟は10、11月がオグリ、12月チャップリン歌舞伎、1月浅草、2月博多座オグリ。これだけ芯になる役を続けていたら、千本ノックばりにうまくなりますよねー。声が強いのも凄いと思いました。

さて四代目ですよ。3月、京都でずっと開演を待っていたためなのか、あれ、顔がまんまるに、全体にむっくりしてません?もともとストレートな二枚目って、(唯一の)ウィークポイントではという感じもあって、1幕はうーむと思ってたんですが、やっぱり3幕の餓鬼病み!この多彩な声、苦しみ、後悔、純粋な照手への思い、役者としての力量を感じさせてくれます。熊野の滝に上るところ、ああ、左手だけでぶら下がっちゃって~。「思い知ることができましたぁー」で、思わず画面の前で両手を握っていっしょにガッツポーズしてしまいます(映像でよかった!)

こういう感情盛り盛りの、セリフで劇場空間を(空席ですけどね)支配するお役って、なかなか歌舞伎座でみることはできません。19年6月の「風雲児たち」の別れの場面くらいですかね。熊野の滝に飛び込む前の場面は「俊寛」を思わせますが、ほんとに俊寛やってほしい。

そして隼人オグリ2019年10月の感想)。隼人の出番だけをつなげたハイライトバージョンですが、それでも1時間44分あります。うーん、隼人オグリも完全版でアップすればよかったのに。隼人の良さは若さと美貌(!)なので、オグリ党のあれこれがあって、若いオグリにつながる方が説得力が増すと思うんですよね。隼人の出番だけが隼人のよさじゃない。

隼人オグリ、大きくて美しい~。照手がひとめぼれするのもうなずけます。このキラキラ衣装がほんと似合ってます。表情も台詞も確実に進化してて、座長感も増してます。立ち回りもキレてて、四代目より手数も多くて派手。ただ、歌舞伎の台詞と、見得のキマリ方は、比較してはかわいそうですよね。キャリアが違うし。やはり熊野についての餓鬼病みの述懐は、長いだけに差がはっきり出てました。

四代目の遊行上人は、怪しさ感が若干薄れていました。物語の転換点として、これぐらい強烈なキャラクターじゃないと説得力がないのかもしれません。

そしてどちらのオグリでも、この上なく華やかな、歓喜に満ちた踊りのフィナーレ。ここまで、この緻密な殺陣、踊り、細かく作られた場面を積み上げてきて(セットもあまり変わらないから役者さんがふっと気が抜けたりして一つ間違えばたいへんでしょう)、1か月初日を待っていた彼らが南座のお客に見せられなかったのはどんなに無念だったか。関西のみならず遠方のファンも悲しかった。

でも、今の状況では、こんな作品、無理ですよね。舞台の上でのリスク、役者もスタッフも、感染者が出れば即中止となることを思えば、当面演劇が上演されるとは思えません(号泣)。

まだ配信期間中ですが、オリンピックに合わせてインバウンド客も期待されていたステージアラウンドの「ヤマトタケル」再演の中止が早々に発表されました。稽古にも入れないということで、来年のオリンピックに合わせて準備するそうです。それまで、歌舞伎を演じ、つくるすべての皆さんが健やかでありますように。

【追記・歓喜の舞】

5月12日、四代目の指揮の下、キャストが集結して、エンディングの「歓喜の舞」を踊った映像をつくってくれました!(猿之助さんのインスタの動画)

これが、 よくあるリモートのやつね、と思って気軽に見始めたら、冒頭の四代目のイントロダクションに始まり、下川真矢さん(アクション俳優なんですね)の編集による、5分近くのすばらしい完成度の映像!

隼人、新悟、鷹之資、玉太郎、福之助らフィーチャーされた若手といい、猿弥、笑也、猿三郎、段之等澤瀉屋の皆さんといい、皆お家の普段着なのに動きだけプロでキレキレ。若手坊ちゃんたち、楽しそうに軽やかに踊っててかわいいったら。

四代目は一際ラフなスタイルにねじり鉢巻きでちょこっとだけ。もーうまいくせに。でもそういうところがさっくり皆をまとめてしまう所以かなと思いました。ダイエットする気はなさそうなので、早く本舞台に出て、すっきりときれいな四代目となったところが見たいです。

DVD「博奕十王」

  アシェット2003_20200312221001社の歌舞伎DVDシリーズ、ときどき買っていますが、15巻は、2014年、猿之助の最後の新春浅草歌舞伎、「博奕十王」です。サイコロを持って悪そうな顔をしている猿之助の写真は見ていたので、楽しみにしていました。

舞台の背景は茶色い松、閻魔大王(男女蔵)と獄卒(弘太郎、猿史郎)がいる冥途、六道の辻。地方の皆さんも(そして後見も!)三角布(天冠)をつけています。

そこへやってきた、白装束の博奕打(猿之助)、愛嬌たっぷり。大王からせしめた酒の肴にと、身の上話をはじめます。博奕での喧嘩で死んでしまった博奕打ですが、浄玻璃の鏡で映すと悪行ばかり。地獄に落ちそうになりますが、博奕を知らない大王をサイコロ博奕に誘い、次々と装束を巻き上げ、さらに虎拳(和藤内、母、虎のじゃんけん)で勝った博奕打は極楽への送り状を手に入れ、悠々と引き上げます。

と、他愛ない話なのですが、こずるくて賢しげで軽妙な博奕打って、ものすごく猿之助に合ってるんですよ。衣装も花札柄の着物にサイコロ柄の裁着袴と遊び心のある美しいもので、出ずっぱりでたっぷり舞踊を見せてくれます。話もテンポよく面白いので、目を凝らしてみつめるというより、ああ、楽しいなと思わせてくれます。

嵩高い立派な拵えながらおっとりと間抜けな閻魔大王も、男女蔵さんにぴったり。動きキレキレの弘太朗・猿四郎、後見には段之さん、蔦之助(つーたんは、この後自主公演でこの博奕十王をやっていますね)。地方も長唄今藤尚之さん、巳津也さん、三味線稀音屋祐介さんって、お正月の連獅子と同じ方々が舞台を盛り上げていました。

この若さでの舞踊のDVD化、ありがたいです。ほかの舞踊もぜひぜひDVD化を!

(追 記)

この浅草のすぐ後に、NHK「SWITCHインタビュー」で、野村萬斎さんと四代目が対談しています。「空ヲ刻ム者」と、萬斎さんの「神なき国の騎士」(ドン・キホーテの物語)の稽古場がSWITCH!萬斎さんも狂言で博奕十王を演じているので、ストーリーや小道具の種類は同じなのに、歌舞伎と狂言の表現がいかに違うかということを比較してくれて面白い!狂言の中でも、衣装も道具も派手な演目だと思いますが(萬斎さんのは最後博奕打が宙乗りするバージョンもある)、歌舞伎しかも澤瀉屋ですから、歌舞伎の客向けのサービス精神がよくわかります。

そして、この二人が大好きなNHKさんの、幼い頃からの豊富な映像で、御曹司として生まれた二人の芸への向き合い方の違いが語られていきます。伝統芸能の中でも聡明で言葉で表現するのがうまい二人なので、優れた演出家の対談のようで無駄な言葉がない。年上の萬斎さんが、ややヒネくれててでも自信たっぷりな(この時期って猿之助がある意味得意の絶頂期では)猿之助を面白がっている感じが出てて、私にはたまりません。

歌舞伎と狂言が染み付いた二人なので、現代劇では立ち方や歩き方まで一から学んだとか。そして、演劇としての表現を追求する二人が、舞踊での表現力が素晴らしいのも大好きです。

新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」後編 ディレイビューイング

 2002_20200229171501ナウシカ歌舞伎、ディレイビューイングの後編です(前編の感想)。まず、複雑な物語の設定と前編のあらすじを語ってくれるのが道化(種之助)。原作コミックではヴ王とともにシェイクスピアな感じで出てきますが、後編冒頭に登場するのはナイスアイディア。そして日本には幇間という伝統もありますしね。小柄な種ちゃんの腰のキマった動作、道化の語り口、キラキラの衣装で、種ちゃんいい役者になったなあと感動します。

そして前編の主な登場人物が、物語の振り返りを兼ねて自己紹介で見得。歌舞伎の便利なところですね。

巳之助はミラルパからナムリスへ。クシャナ(七之助)が出てくると物語が盛り上がります。もう、すべての瞬間がかっこいい!武装を解いた白い衣装も、殿下によくお似合いで素敵でした。眉の角度、目の大きさ、完璧(感涙)。クロトワ(亀蔵)との関係もより強固に。

ユパの松也が後編でもかっこよい剣士。義賢最期をちょっと思わせる階段落ちもありました。ドルクの女の徳松さんがユパを狙う場面もあったりして、この徳松さん、「ああうちの坊っちゃんかっこいいな」って思ってただろうななんて、思っちゃいました。ユパの最期は、階段落ちでちょっと仏壇倒れ。

後編独自の見どころというと、まず大海簫の菊之助の舞踊。娘道成寺のようなこれぞ女方の最高峰の舞踊を、菊ちゃんが思い入れたっぷりに丁寧に踊るんですから、それだけで素晴らしい。しかも膝から下がスパッツで見えているのがたいへん珍しく、きめ細かないわばステップに見入ってしまいました。三味線に巳太郎さんとか、長唄に巳津也さんとかいるし!

噂には聞いていましたが、庭の主で母の芝のぶ!作品世界を一段深いものにするその豊かな声と中性的な美貌。いつも好きだけど、新作だといいお役がついて(桜の森のエナコとか)、深い解釈がさらに生きる気がします。

そして、セルムも素敵だったけど墓の主の精 歌昇とオーマの精 右近の獅子姿。右近の化粧はオーマなんですよ!若くはつらつとした二人ががっぷりと、振り付けも面白くて、小さい獅子の毛をつけた手下の精たちもいて、最後は毛振り。ここだけ見取でやってもいいくらい。

これも評判だった、ヴ王の歌六さん、そして声だけで場の空気を換えた吉右衛門さん、その憑依を見事に見せた種之助。歌舞伎役者の、セリフを伝える力がものすごい。本当に世界をどうするのか、こちらに訴えかけてきます。

改めて、あの長い原作を見事に昼夜通しの歌舞伎にやりぬいたと思いました。そして、チケットが高いにもかかわらず、初めて歌舞伎を見るというナウシカファンが、この歌舞伎の魅力を私たちと同じように感じてくれているようであるのもうれしいです。

浅草で力をつけた役者とベテラン、そしてお弟子さんたちも含め、これだけの役者そろえての(だからオグリと比べてずるい)公演、2か月やってもよかったのでは。

 

二月大歌舞伎「八陣守護城」「羽衣」「人情噺文七元結」「道行故郷の初雪」

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   歌舞伎座夜の部も十三世仁左衛門追善興行です。1つめは「八陣守護城」。船に佐藤正清(我當)、斑鳩平次(進之介)、雛衣(魁春)らが乗っています。そこに轟軍次(亀蔵)が来て…。久しぶりに舞台に堂々と立つ我當さん、そして容姿がすっきりと、当代仁左衛門さんに驚くほど似ている進之介さん、お二人を見るのに忙しくてというわけではないんですが、お話はよくわからなくてすみません。

2つめは、舞踊「羽衣」。天女の置き忘れた羽衣を抱える伯竜(勘九郎)、返してほしいと舞う天女(玉三郎)。美しい二人の世界に、うっとりの素敵な一幕でした。やっぱり玉三郎さまには、覚寿よりこちらがお似合いです。

次は「人情噺文七元結」2015年10月(このときの演目とても豪華!)に見ていますが、長兵衛(菊五郎)、文七(梅枝)は同じ、お兼・角海老女将お駒が、時蔵・玉三郎から、雀右衛門・時蔵に。

雀右衛門さんだと、冒頭の長兵衛への文句がよりクドいている感じですが、菊五郎さんとの並びは悪くないです(ジャッキーが白塗りじゃないのは珍しくて、ああ、こういうお顔だったんだ、と思います)。ただ、初めてのときは、着物と屏風のくだりが面白かったんですが、このコメディエンヌな感じは時蔵さんの方がよかったかも。

お駒は、玉さまよりトッキ―の方が、この演目での経験もあってか、ずっと情愛があって、優しい女将でよかったように思いました。

長兵衛が文七に大事な50両をやってしまう場面、梅枝くんが5年前と同じはずはなく、迫力はおやじさまに迫っていて、見ごたえがありました。こういう役者ががっぷり組んでの場面好き。

そして、お七の莟玉がかわいい!角海老では頬がふっくらした昔のアイドルのようなかわいさで、セリフもしっかりしていてとてもよかったです。最後の文七とはほんとにお似合いで、すし屋のお里弥助を見たいなと思いました。

もちろん菊五郎さんの長兵衛は文句なしにすばらしく、菊五郎さんの世話物を見られる幸せを感じる演目でした。

最後はやはり十三世追善の「道行故郷の初雪」。「封印切」と「新口村」の間の、梅川忠兵衛の道行です。梅川(秀太郎)、忠兵衛(梅玉)のお似合いの美男美女。つるんとした顔の可憐な秀太郎さん、雪景色の中、お揃いの黒い着物に、赤い髪飾りと着物の裏の赤が映えて、その色っぽさ。うなじが寒さでうっすらとピンクになっているように見えました。

心優しい万才が、ちょっと踊るんですが、名手の松緑さんなのもうれしく、ありがたい、美しい道行でした。

二月大歌舞伎「菅原伝授手習鑑 加茂堤 筆法伝授 道明寺」

2002_20200222232901    今月の歌舞伎座は十三世片岡仁左衛門二十七回忌追善、昼の部は仁左衛門さんが菅丞相を演じる「菅原伝授手習鑑」です。この演目、よくかかる寺子屋と車引しか見たことがなくて、楽しみにしておりました。予習してたら、菅丞相の読み方は「かんじょうしょう」(←普通こうです)でなく、慣例で「かんしょうじょう」なのだと知りました!

最初は「加茂堤」。菅丞相に仕える桜丸(勘九郎)と八重(孝太郎)の夫婦が、斎世親王(米吉)と苅谷姫(千之助)の間を取り持ちます。桜丸というと、車引の三兄弟の中でも二枚目、梅玉さんや七之助の役どころですが、この桜丸は妻と仲がよくて、若い二人の恋の応援もちょっと粋な感じです。勘九郎・孝太郎が意外と似合っていて楽しく見ました。米吉・千之助は初々しいかわいいカップル(思っていたより斎世・苅谷は若い設定だったんですね)。

2つめが、いよいよ仁左衛門さんの管丞相登場の「筆法伝授」。管丞相の弟子稀世(橘太郎)は、菅丞相の息子管秀才が幼いので、筆法伝授の書をくれと言ってきています。腰元勝野(莟玉)にちょっかいをかけますが、水無瀬(秀調)に窘められます。そこへ、戸浪(時蔵)との不義のために管丞相の元を出た武部源蔵(梅玉)が呼び出されてやってきます。お手本の字を書くように言われる源蔵。稀世に邪魔されながらも、書き上げた源蔵は、見事筆法伝授をもらいます。

ああ、梅玉さんの武部源蔵、高麗屋襲名公演の寺子屋でも、最初の一声から感動したものですが、やっぱり誠実な武士の雰囲気がすばらしいです。そして、稀世の邪魔が、というかちょっかいが、思っていた以上に激しくて、これをいなしながら、きちんと書を書くのはさぞ難しかろうという場面で面白く見ました。

管丞相の仁左衛門さん、その端正な容姿とたたずまいが、さすが管丞相です。心の澄んだこういう人物を演じては、今最高の仁左衛門さんでこれを見る幸せ。そして管丞相の妻園生の前の秀太郎さん。ああ、寺子屋の最後に出てくる園生の前はこんな方だったのかと。

源蔵夫婦は管秀才を預かって戻っていきます。こんな方を預かっていたら、寺子屋でのあの非情な決断も納得できる気がしました。梅王丸の橋之助も力演。

最後は「道明寺」。菅丞相の伯母、苅谷姫の母である覚寿は、歌舞伎の三婆と呼ばれる老女の大役ですが、これを玉三郎さんが演じます。白髪で色味のないお化粧なんですが、かわいい。スタイルもすっとして、老女に見えないのは恐ろしい若さ。このお役、杖折檻やら宿禰太郎の仇討ちやら動きも多くてしどころが多いんですね。いつか秀太郎さんがブログでたいへんなお役と書かれていたのを思い出しますので今はちょっと難しいのかもしれませんが、ああ、秀太郎さんで見たかったかも。

さて、お話は、宿禰太郎(彌十郎)と土師兵衛(歌六)の悪だくみ、立田の前(孝太郎)の殺害、奴宅内(勘九郎)の活躍での遺体発見と、面白く進んでいきます。お迎え役の輝国(芝翫)も立派でした。

勘九郎、いだてんで絞った身体では、舞台映えしないからと体重を増やしたそうですが、たしかにちょっとふっくら。加茂堤といい、楽しく盛り上げてくれましたが、本当は、システィナ歌舞伎がなければ愛之助だったんでしょうね。せっかくの歌舞伎座の一門の追善興行なのにいかにも残念!

そして仁左衛門さんの菅丞相。佇まい、美しい、もったいないお姿。この管丞相の衣装が一番お似合いになるのではないでしょうか(特別ポスターの仁左衛門さん!)。愛らしい苅谷姫との別れでは、すすり泣きの声も響いていました。加茂堤からここまで、葵太夫さんはじめ義太夫も熱演で(今日はよく聞けました)、面白かった!

 

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