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2020年2月

新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」後編 ディレイビューイング

 2002_20200229171501ナウシカ歌舞伎、ディレイビューイングの後編です(前編の感想)。まず、複雑な物語の設定と前編のあらすじを語ってくれるのが道化(種之助)。原作コミックではヴ王とともにシェイクスピアな感じで出てきますが、後編冒頭に登場するのはナイスアイディア。そして日本には幇間という伝統もありますしね。小柄な種ちゃんの腰のキマった動作、道化の語り口、キラキラの衣装で、種ちゃんいい役者になったなあと感動します。

そして前編の主な登場人物が、物語の振り返りを兼ねて自己紹介で見得。歌舞伎の便利なところですね。

巳之助はミラルパからナムリスへ。クシャナ(七之助)が出てくると物語が盛り上がります。もう、すべての瞬間がかっこいい!武装を解いた白い衣装も、殿下によくお似合いで素敵でした。眉の角度、目の大きさ、完璧(感涙)。クロトワ(亀蔵)との関係もより強固に。

ユパの松也が後編でもかっこよい剣士。義賢最期をちょっと思わせる階段落ちもありました。ドルクの女の徳松さんがユパを狙う場面もあったりして、この徳松さん、「ああうちの坊っちゃんかっこいいな」って思ってただろうななんて、思っちゃいました。ユパの最期は、階段落ちでちょっと仏壇倒れ。

後編独自の見どころというと、まず大海簫の菊之助の舞踊。娘道成寺のようなこれぞ女方の最高峰の舞踊を、菊ちゃんが思い入れたっぷりに丁寧に踊るんですから、それだけで素晴らしい。しかも膝から下がスパッツで見えているのがたいへん珍しく、きめ細かないわばステップに見入ってしまいました。三味線に巳太郎さんとか、長唄に巳津也さんとかいるし!

噂には聞いていましたが、庭の主で母の芝のぶ!作品世界を一段深いものにするその豊かな声と中性的な美貌。いつも好きだけど、新作だといいお役がついて(桜の森のエナコとか)、深い解釈がさらに生きる気がします。

そして、セルムも素敵だったけど墓の主の精 歌昇とオーマの精 右近の獅子姿。右近の化粧はオーマなんですよ!若くはつらつとした二人ががっぷりと、振り付けも面白くて、小さい獅子の毛をつけた手下の精たちもいて、最後は毛振り。ここだけ見取でやってもいいくらい。

これも評判だった、ヴ王の歌六さん、そして声だけで場の空気を換えた吉右衛門さん、その憑依を見事に見せた種之助。歌舞伎役者の、セリフを伝える力がものすごい。本当に世界をどうするのか、こちらに訴えかけてきます。

改めて、あの長い原作を見事に昼夜通しの歌舞伎にやりぬいたと思いました。そして、チケットが高いにもかかわらず、初めて歌舞伎を見るというナウシカファンが、この歌舞伎の魅力を私たちと同じように感じてくれているようであるのもうれしいです。

浅草で力をつけた役者とベテラン、そしてお弟子さんたちも含め、これだけの役者そろえての(だからオグリと比べてずるい)公演、2か月やってもよかったのでは。

 

二月大歌舞伎「八陣守護城」「羽衣」「人情噺文七元結」「道行故郷の初雪」

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   歌舞伎座夜の部も十三世仁左衛門追善興行です。1つめは「八陣守護城」。船に佐藤正清(我當)、斑鳩平次(進之介)、雛衣(魁春)らが乗っています。そこに轟軍次(亀蔵)が来て…。久しぶりに舞台に堂々と立つ我當さん、そして容姿がすっきりと、当代仁左衛門さんに驚くほど似ている進之介さん、お二人を見るのに忙しくてというわけではないんですが、お話はよくわからなくてすみません。

2つめは、舞踊「羽衣」。天女の置き忘れた羽衣を抱える伯竜(勘九郎)、返してほしいと舞う天女(玉三郎)。美しい二人の世界に、うっとりの素敵な一幕でした。やっぱり玉三郎さまには、覚寿よりこちらがお似合いです。

次は「人情噺文七元結」2015年10月(このときの演目とても豪華!)に見ていますが、長兵衛(菊五郎)、文七(梅枝)は同じ、お兼・角海老女将お駒が、時蔵・玉三郎から、雀右衛門・時蔵に。

雀右衛門さんだと、冒頭の長兵衛への文句がよりクドいている感じですが、菊五郎さんとの並びは悪くないです(ジャッキーが白塗りじゃないのは珍しくて、ああ、こういうお顔だったんだ、と思います)。ただ、初めてのときは、着物と屏風のくだりが面白かったんですが、このコメディエンヌな感じは時蔵さんの方がよかったかも。

お駒は、玉さまよりトッキ―の方が、この演目での経験もあってか、ずっと情愛があって、優しい女将でよかったように思いました。

長兵衛が文七に大事な50両をやってしまう場面、梅枝くんが5年前と同じはずはなく、迫力はおやじさまに迫っていて、見ごたえがありました。こういう役者ががっぷり組んでの場面好き。

そして、お七の莟玉がかわいい!角海老では頬がふっくらした昔のアイドルのようなかわいさで、セリフもしっかりしていてとてもよかったです。最後の文七とはほんとにお似合いで、すし屋のお里弥助を見たいなと思いました。

もちろん菊五郎さんの長兵衛は文句なしにすばらしく、菊五郎さんの世話物を見られる幸せを感じる演目でした。

最後はやはり十三世追善の「道行故郷の初雪」。「封印切」と「新口村」の間の、梅川忠兵衛の道行です。梅川(秀太郎)、忠兵衛(梅玉)のお似合いの美男美女。つるんとした顔の可憐な秀太郎さん、雪景色の中、お揃いの黒い着物に、赤い髪飾りと着物の裏の赤が映えて、その色っぽさ。うなじが寒さでうっすらとピンクになっているように見えました。

心優しい万才が、ちょっと踊るんですが、名手の松緑さんなのもうれしく、ありがたい、美しい道行でした。

二月大歌舞伎「菅原伝授手習鑑 加茂堤 筆法伝授 道明寺」

2002_20200222232901    今月の歌舞伎座は十三世片岡仁左衛門二十七回忌追善、昼の部は仁左衛門さんが菅丞相を演じる「菅原伝授手習鑑」です。この演目、よくかかる寺子屋と車引しか見たことがなくて、楽しみにしておりました。予習してたら、菅丞相の読み方は「かんじょうしょう」(←普通こうです)でなく、慣例で「かんしょうじょう」なのだと知りました!

最初は「加茂堤」。菅丞相に仕える桜丸(勘九郎)と八重(孝太郎)の夫婦が、斎世親王(米吉)と苅谷姫(千之助)の間を取り持ちます。桜丸というと、車引の三兄弟の中でも二枚目、梅玉さんや七之助の役どころですが、この桜丸は妻と仲がよくて、若い二人の恋の応援もちょっと粋な感じです。勘九郎・孝太郎が意外と似合っていて楽しく見ました。米吉・千之助は初々しいかわいいカップル(思っていたより斎世・苅谷は若い設定だったんですね)。

2つめが、いよいよ仁左衛門さんの管丞相登場の「筆法伝授」。管丞相の弟子稀世(橘太郎)は、菅丞相の息子管秀才が幼いので、筆法伝授の書をくれと言ってきています。腰元勝野(莟玉)にちょっかいをかけますが、水無瀬(秀調)に窘められます。そこへ、戸浪(時蔵)との不義のために管丞相の元を出た武部源蔵(梅玉)が呼び出されてやってきます。お手本の字を書くように言われる源蔵。稀世に邪魔されながらも、書き上げた源蔵は、見事筆法伝授をもらいます。

ああ、梅玉さんの武部源蔵、高麗屋襲名公演の寺子屋でも、最初の一声から感動したものですが、やっぱり誠実な武士の雰囲気がすばらしいです。そして、稀世の邪魔が、というかちょっかいが、思っていた以上に激しくて、これをいなしながら、きちんと書を書くのはさぞ難しかろうという場面で面白く見ました。

管丞相の仁左衛門さん、その端正な容姿とたたずまいが、さすが管丞相です。心の澄んだこういう人物を演じては、今最高の仁左衛門さんでこれを見る幸せ。そして管丞相の妻園生の前の秀太郎さん。ああ、寺子屋の最後に出てくる園生の前はこんな方だったのかと。

源蔵夫婦は管秀才を預かって戻っていきます。こんな方を預かっていたら、寺子屋でのあの非情な決断も納得できる気がしました。梅王丸の橋之助も力演。

最後は「道明寺」。菅丞相の伯母、苅谷姫の母である覚寿は、歌舞伎の三婆と呼ばれる老女の大役ですが、これを玉三郎さんが演じます。白髪で色味のないお化粧なんですが、かわいい。スタイルもすっとして、老女に見えないのは恐ろしい若さ。このお役、杖折檻やら宿禰太郎の仇討ちやら動きも多くてしどころが多いんですね。いつか秀太郎さんがブログでたいへんなお役と書かれていたのを思い出しますので今はちょっと難しいのかもしれませんが、ああ、秀太郎さんで見たかったかも。

さて、お話は、宿禰太郎(彌十郎)と土師兵衛(歌六)の悪だくみ、立田の前(孝太郎)の殺害、奴宅内(勘九郎)の活躍での遺体発見と、面白く進んでいきます。お迎え役の輝国(芝翫)も立派でした。

勘九郎、いだてんで絞った身体では、舞台映えしないからと体重を増やしたそうですが、たしかにちょっとふっくら。加茂堤といい、楽しく盛り上げてくれましたが、本当は、システィナ歌舞伎がなければ愛之助だったんでしょうね。せっかくの歌舞伎座の一門の追善興行なのにいかにも残念!

そして仁左衛門さんの菅丞相。佇まい、美しい、もったいないお姿。この管丞相の衣装が一番お似合いになるのではないでしょうか(特別ポスターの仁左衛門さん!)。愛らしい苅谷姫との別れでは、すすり泣きの声も響いていました。加茂堤からここまで、葵太夫さんはじめ義太夫も熱演で(今日はよく聞けました)、面白かった!

 

新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」前編 ディレイビューイング

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見そびれていたナウシカ歌舞伎前編ディレイビューイングに行ってまいりました。なんと当日券4300円也ですよ!宝塚やミュージカルでよくある千穐楽とかのライブビューイングも4000円前後ですが、あくまでライブで1回だけですもんね。ディレイって、1週間もやっているなら、せいぜい2500円くらいでよくないですかね。歌舞伎初心者もすごく楽しめるし!でも、舞台を見られなかった私としては、3Bより高いと思いながら行ったのでした。

ちなみに、原作コミックは最近ようやく4巻まで読んだのみ、映画は冒頭しか見てない、ナウシカ初心者です。

冒頭、右近が口上の形でナウシカの物語を簡単に話してくれるんですが、この右近が、あら、立ち役久しぶりだけど立派になったなという説得力。早々にユパで松也が出てきます。目力強くてかっこいいよ。原作コミックではもっと年配のようでしたが、剣豪のイメージの方を強調していて帽子もすてきなので松也に合ってる!

右近はアスベルとして出てきますが、松也との本水の立ち回り、たっぷりな花道のくだりは華やかで、形も美しく、これだけでも見る価値がありました。

菊之助のナウシカ、あくまでまっすぐで強く優しいキャラですが、あまりにまっすぐ過ぎて、芝居として見るとやや物足りなく(ワンピースのルフィ初見のときも思った)、原作のナウシカは素肌の美しさなんだけど菊之助女盛りの美女だしと思ってしまうんですが、それを補う見せ場がケガのために減ってしまっているのは仕方ないですね。しかし腕の亀裂骨折を固定しているようには見えない所作で、いきなりの変更はたいへんだったでしょうに、心中を思うと気の毒でした。

噂には聞いていましたが、さすがこういう新作では無敵の七之助の、誇り高いクシャナ王女!たたずまい、部下やクロトワ、ナウシカに対する態度、キリリとした目、完璧なクシャナです。11月は平成中村座だったのに、ほんとすごい。ミラルパの巳之助も役者が大きくなっていましたし、ケチャ米吉かわいいし、村娘の鶴松もみんなよかった。

ベテランがまたいい芝居をしてくれて、この世界に奥行きを与えています。ミトじいの橘太郎、ジルの権十郎、マニ僧正の又五郎萬次郎さんの城ババ。とくに又五郎さんの苦悩の表現がすごかったです。それからチャルカの錦之助さん。かっこよすぎて、最初チャルカとわからなかったですが、これはこれでいいお役、前述の松也的なアレンジですね。

おっと、上演ずっと前からまちがいなしと言われていたクロトワの亀蔵さん。こんなに亀蔵さんにはまる役はないだろうというくらいのハマり方。後半もますます楽しみです。クロトワが密命をクシャナにばらすところは、弁天小僧でしたね。

それにしても菊五郎劇団+若手人気役者を集め、菊之助の思い入れたっぷりで作品世界を見事に歌舞伎で再構築した、演舞場で1か月ではもったいない出来ではと思いました。というか、お正月の国立+浅草の役者がそろっていて、あの薄い座組でがんばっていたオグリが不憫な気持ちがぬぐえませんでした(歌舞伎客演のみなさんいいお仕事してましたけど)。

後編も見ました。

CHESS THE MUSICAL @国際フォーラム

   2002hessラミン・カリムルーとサマンサ・バークスが、あのCHESSを、フルミュージカルでやるということで行ってきました。私、CHESS の曲大好きなんです。今まで触れたバージョンは3つ。

2008年ロンドンアルバートホールのコンサートバージョン(DVD・CD)  
Chess in Concert(その1)―Chessというミュージカルについて
Chess in Concert(その2)― あらすじとキャスト
Chess in Concert(その4)――曲の紹介

2012年の青山劇場コンサートバージョンと、 2015年のプレイハウスミュージカルバージョン も観ています。

今回のミュージカル版は、2008年ロンドン版から、1幕の記者会見の前の曲や、バレエ、グローバルTVのウォルター、2幕でフレディがアタトリーを助ける場面をカットしたくらいで曲順はほぼ同じ、アレンジも近かったので、ロンドン版が好きな私は一番すんなり見られました。

そして、もう一つロンドン版との大きなちがいは、Pity the Child が、1幕で歌われることです。日本版では、せっかくのフレディの見せ場が1幕で終わっちゃうのはと残念に思ったんですが、今回、冒頭がバッサリカットされて、フレディのいいところが全くないので、早めにこの曲を出しておくのもやむをえないかなと思いました。そして、その方が、アナトリーが際立つので、このカンパニーでは正解なんだろうと思いました。

セットは映像を使ったりしてシンプルなんですが、アンサンブルが大活躍。歌はもちろん、キビキビしたダンス、フォーメーション、チェスの試合の表現等、この舞台の演出が振付家でもあるニック・ウィンストンの力量でしょう。出演者たちもすばらしかったです。

アービターの佐藤隆紀も健闘していましたが、日本キャストでよかったのが、モロコフの増原英也。うまいと思ったら二期会のオペラ歌手の方ですよ。バリトンといいつつ、低音が響いて癖のあるモロコフの歌を歌いきってました。エリアンナ、アンサンブルでいつもうまいと思ってた方ですが、今回スべトラナという大役。なかなか演技の方が難しかったように見えました。

さて、アナトリーのラミン・カリムル―。ロンドン版のジョシュ・グローバンと比べると、感情の起伏が激しく、歌も情熱的。空気を自分に持っていくオーラが、ああ、ラミン! とくに1幕最後のAnthemは、今、充実した俳優人生を送っている彼が、祖国イランに対してどんな思いを抱いているんだろうと重ね合わせるともう、胸がいっぱいでした。

フローレンスのサマンサ・バークス。キャストの中でも難曲が数多いですが、すばらしかったです。声質も歌い方もロンドン版のイディナ・メンゼルに似ていて、好みでした。2幕の最初の方のYou and Iは、アナトリーとの美しいデュエットですが、すごく二人が仲よさそうで、ほんとに笑っちゃったりしていました。

フレディのルーク・ウォルシュ。高いきれいな声で歌はよかったですが、ラミンと比較すると若くてまっすぐすぎてバランス的にはもうちょっとがんばってほしかったかも。そして、Pity the Childは歌い上げてほしかったのに、アクション多すぎで声が揺れて残念でした。

しかしこの曲は素晴らしい作品ですが、お話はやはり共感しがたいし、ストーリー自体の説得性とか、さらにチェスと冷戦を通してちゃんと今の観客に訴えるものがあるかと言われると、難しい素材を選んだものだと思うのですが、やっぱり個々の歌の中でのドラマ性や盛り上がりがよくって、うまい人で全編を見られて、ほんとによかったです。これ以上のCHESSを見る日はもうない気がします。

映画「キャッツ」

2002cats  映画版「キャッツ」です。事前にあまりにも評判が悪くてですね、気持ち悪いとかやっちまったとかホラーとか。ミュージカルファンとして見るつもりでしたが、ミュージカルのキャッツも劇団四季で1度しか見ていないけどよく話がわからなかったし、海賊船の回想シーンダサかったしなあ、なんて思っていたんですよ。ロイド・ウェバ―の音楽がよいのは別として。

いやいや、私的には、ミュージカル映画としてなかなかの傑作で、とても楽しめました。舞台版ではつかめなかったお話もよくわかったし、名前だけは何となく覚えていたキャラクターの個性(公式のキャラクターページのビジュアルを見よ)も際立っていて、魅力的。ロンドンの街や室内のセットと、猫のコスチュームと猫っぽさダンスが合ってました。こういう世界観がきっちり貫かれている作品好き。前述の海賊船もへんな再現シーンではなかったし。

さまざまな姿の猫たちにも、かわいいネズミにも違和感がないのは、歌舞伎でどんなにスゴイ化粧や衣装でもその奥の美や芝居を見るのに慣れてるからでしょうか。狐忠信とか、獅子の精とかもかわいいと思ってみてますから!舞台を1回しか見ていないので、映画で変更されたところに抵抗がなかったせいもあるかもしれません。

役者がいいんですよ!主役的な新入りのヴィクトリアのフランチェスカ・ヘイワードは、ロイヤル・バレエ団のプリンシパル!さすがのバレエなんですが、大きな目が愛らしくて、広瀬すず的なアイドルっぽいかわいさ。ずっとなんてかわいいの、と見惚れてました。ルックスでいうと、兄貴分として世話を焼いてくれるマンカストラップ(ロビー・フェアチャイルド―ニューヨーク・シティ・バレエ団の元プリンシパルで「パリのアメリカ人」でジェリーを演じたそうです)、ミストフェリーズ(ローリー・デヴィッドソン)は、クレジットは小さいですが、新鮮でとってもよかったです。

ベテランでは、デュトロミーのジュディ・デンチが、エリザベス女王のような威厳のある演技。そして往年のスター、ガスがなんとサー・イアン・マッケランで何とも味わい深い演技と歌を披露しています。二人は体がCGでなく、実際の衣装というのもよかった。

後半バーンと出てきて、マキャヴィティを迫力満点で歌うボンバルリーナのティラー・スウィフトももちろん最高でした。

やや不満だったのが、グリザベラが終始泣いていて、前半も、最後の方でも「メモリー」の声が震えていたこと。お芝居としてはいいのかもしれませんが、せっかくミュージカルなんだから、皆がわくわく待っているショーストッピングナンバーは、最後びしっと歌い上げてほしかったな。「ドリーム・ガールズ」でエフィを演じていたジェニファー・ハドソンだったのでほんと残念でした。

この映画、「レ・ミゼラブル」と同じトム・フーパー監督なので、ミュージカル映画としての完成度は高いにしても、たぶんサウンドトラック買ったら、やっぱり舞台版のCDの方がよかった、ってなるのではと思います。

伊藤比呂美「新訳 説教節 小栗判官・しんとく丸・山椒大夫」

202002  スーパー歌舞伎Ⅱ「新版オグリ」が、元は説教節だとは聞いていたのですが、その説教節というジャンルが何かを知らないままにいたところ、あの伊藤比呂美さんが現代語訳の本「新訳 説教節 小栗判官・しんとく丸・山椒大夫」を2015年に出していた!ということで読んでみました。

あの、というのは、詩人である伊藤さんの独特のリズム感のある子育てエッセー「良いおっぱい悪いおっぱい」「おなかほっぺおしり」「おなかほっぺおしりふとももそしてふともも」「コドモより親が大事」「伊藤フキゲン製作所」は当時ほんとによく読んだものでして、しばらく空いて、あの熊本生活を一緒にしていたポーランド文学者の夫と離婚していたと知った時はびっくりしたのでした。伊藤さんの真似をして、子どもに「ぐりとぐら」を読むときには、「ぼくらの名前はぐりとぐら~」にメロディをつけて歌っていたのが懐かしい。

さて、説教節とは、1600年頃を最盛期とする、神仏のご利益を物語で語る口承文芸だそうで、題材は能や浄瑠璃に転化したものもあります。この本の3作以外では、「苅萱」「信太妻(葛の葉)」が有名だそうです。ささら芸人によって街角で語られ、物語性が豊かで、庶民的な芸能といえましょう。

この本では、詩人としての言葉への感性を生かして、手紙や道行の地名等にとても詩的な表現をしながら、昔話のように物語が紡がれていきます。

「小栗判官」は、優れているものの不遜な小栗、人喰い馬鬼鹿毛の乗りこなし、流されて売られ、遊女となるのを拒否して懸命に働く照手、休みをもらって餓鬼病の車を引く照手、病気が治って国司として照手を迎えに行く小栗、と、お話はオグリと同じ。よく働く強い女性が描かれていることに惹かれたと伊藤さんがいうように、ほんとに照手が毅然としていてさわやかです。こちらの十人衆は毒殺されたまま復活できないんですね。地獄の十王になるけれど。

「しんとく丸」は、「俊徳丸」すなわち「摂州合邦辻」の元といわれていますが、こちらは父の後妻との禁断の愛という要素はなく、むしろ継母の呪いで病んだしんとく丸と乙姫との純愛物語になっています。病む前のしんとく丸の手紙とそれへの乙姫の返事が、小栗と照手とのやり取りと同じところが面白いです。寺山修司の「身毒丸」にもつながっているんですね。

「山椒大夫」は、森鴎外の小説、子ども向けの昔話「安寿と厨子王」のお話。改めて読むと、山椒大夫のところから弟厨子王を逃がして一人残った安寿が責め殺される場面が残忍です。昔から、若い美しい女性が責めさいなまれる場面はある意味人気があったのでしょうか。

最後に「わたしの説教節」として、伊藤さんと説教節について、わかりやすい説明がありますし、裏表紙には、説教節を語る伊藤さんのイラストがあったりして、面白い本でした。

木谷真紀子「三島由紀夫と歌舞伎」

  202001_202001302138011月の歌舞伎座の「鰯売恋曳網」が三島由紀夫の作品と知って、見る前に、鰯売のところだけ読んでいった本です。三島由紀夫の研究者 木谷真紀子氏の「三島由紀夫と歌舞伎」。三島由紀夫の書いた6つの歌舞伎演目について、三島の言葉による意図、初演の配役、あらすじ、題材とした底本の捜索、評判等、すべてがわかる労作です。面白かった!

 私にとって三島は、学生時代、文学作品をいろいろ読んでいったのに、三島由紀夫は「何となくヤバそう」(←当時はそんな言葉の使い方はしていなかったですが、ほんとにそんな感じ)で後回しにしていたら、ほんの一部しか読まずにきてしまったという作家です。しかし、その俊敏な頭脳から繰り出される美しい言葉と美意識に貫かれた世界、そのうちじっくり読みたいものです。「黒蜥蜴」も、明瞭で美しい台詞の劇でしたっけ。

さてこの本は、三島と歌舞伎の出会いから始まります。子どもの頃から祖母や母が通う歌舞伎に憧れていた三島は、中学1年の時、初めて仮名手本忠臣蔵に連れて行ってもらい、しわくちゃの顔世御前が美人として女の声で話すのに驚き、「何かこのくさやの干物みたいな非常に臭いんだけれども、美味しい妙な味があるということを子供心に感じられた」というのです。歌舞伎のとりことなった三島は丸本で予習したうえでメモをとりながら歌舞伎を見、芝居日記を残します。

三島は「現代語や中途半端な新歌舞伎調台詞の新作がきらひ」であったため、歌舞伎の古典的な技術を生かして、文学的精神を注入したい、と考えていました。下座、囃子方も生かし、見得も工夫したいと言っていたそうです。そして、六代目歌右衛門に心酔していた彼は、歌右衛門主役の歌舞伎を書きます。

三島歌舞伎 第1作は芥川龍之介原作の「地獄変」(昭和28年-三島は28歳)。芥川は人命を犠牲にしてまで芸術至上主義を貫く絵師良秀を描いているのに対し、三島版では美しい娘を火に投じるサディスティックな大臣を描いています。大詰の牛車の燃える場面の効果がすばらしく、役者も合っていて(大臣八代目幸四郎、絵師良秀 十七代目勘三郎、そして良秀娘歌右衛門)好評だったそうです。

2作目は「鰯売戀曳網」(昭和29年)。初演は猿源氏 十七代目勘三郎、父なむあみだぶつ 先代中車、蛍火 歌右衛門。三島歌舞伎で最も評価されており、十八代勘三郎・玉三郎、今の勘九郎・七之助で再演されています。歌右衛門さんにも「歌舞伎の中に新しい空気が入ったという感じ」と絶賛されました。三島は笑劇(ファルス)を書きたいと思い、昔から好きだったお伽草子から題材をとっています。

ただし、三島は勘三郎の猿源氏には不満だったようです。三島はみていませんが、十八代目の猿源氏の方が、すっきりと二枚目仕立てで、野卑たところがなく、戯曲の味を生かしていいと評価されてもいます。この1月の勘九郎の猿源氏は、私にはこれ以上のものはなく、生真面目な中身もユーモアと温かみがあり、身体能力を生かした愛すべき猿源氏だったように思いました。

3作目は、歌右衛門さんから要望のあった舞踊「熊野(ゆや)」(昭和30年)。宗盛(八代目幸四郎)と、病気の母を気遣って暇を願って舞う愛妾熊野(歌右衛門)の物語。その後6回と、三島歌舞伎では最も再演されています。熊野は、歌右衛門のほか玉三郎が、宗盛は初代猿翁、二代目松緑、延若、当代仁左衛門、と、名優がやっているんですね。これからも再演あるかも。三島は、「近代能楽集」でもこの題材を取り上げています。

4作目は、「芙蓉露大内實記」(昭和30年)。なんと、ラシーヌの「フェードル」の歌舞伎化ですよ。私は大竹しのぶの「フェードル」に感動しましたが、三島は、この悲劇は日本人俳優では上演は無理で、フェードルを演じられるのは歌右衛門しかいない、と思ったようです。私が現幸四郎にイッポリトをやってもらいたかったと思ったのもあながち外れてないってことですかね。

いいアイディアのように思えますが、評判はよろしくなく、再演されていません。ひとつには、芙蓉前(フェードル)の夫役である初代猿翁が、役の描かれ方に不満で、脚本を直したことが影響していると三島は感じたようです。そのためもあって、人物造形が変わってしまい、芙蓉前の人格が共感を得られなくなってしまったと。

5作目は、「むすめごのみ帯取池」(昭和33年)。山東京伝の読本を素材にして、後ろ向きの「がんどう返し」など、観客を驚かせるような仕掛けも盛り込んだ作品。帯を池に浮かせてそれを取ろうとする旅人を襲う盗賊蝦蟇丸(初代猿翁)、関わる菊姫(歌右衛門)、菊姫の母だが、蝦蟇丸の妻となったおわさ(時蔵)などの物語。

6作目は、馬琴の長編読本から「椿説弓張月」(昭和44年)。保元の乱で敗れた為朝が琉球に渡ったという伝説の話です。歌舞伎の手法を盛り込んだ作劇ながら、為朝を挫折の武将として描いたために、芝居としてのカタルシスに欠けると言われていますが、その後けっこう再演されているようですね。為朝は、2012年現幸四郎、2002年二代目猿翁など。わあ、また澤瀉屋でやるかも!

さてこの作品は、前作から11年空いており、その間に歌舞伎は衰退し、歌右衛門でなく玉三郎が為朝の妻白縫という重要な役をやり、国立劇場の意欲的な新作として作られたという特徴があります。三島は、歌舞伎は役者が思うようにやってくれず、自分の演出家としての才能の限界を嘆いていたそうです。

それにしても、三島が市谷で割腹自殺をしたのが昭和45年です。どこかの時点から、ある種の狂気に取りつかれていったのでしょうが、その前年に、古典の技法を尽くした、娯楽の王様のような歌舞伎を書いていたとは。

長くなりましたが、三島のような天才がここまで歌舞伎とかかわっていたことがよくわかりましたし、歌舞伎という一点からも、その早すぎる死が惜しまれると思ったことでした。

 

 

 

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