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2019年11月

織田紘二「芸と人―戦後歌舞伎の名優たち」

  201911_20191118234001 国立劇場の芸能部員として、数々の歌舞伎をはじめ、文楽、舞踊等伝統芸能の制作、脚本、補綴にかかわってきた織田紘二さんの「芸と人―戦後歌舞伎の名優たち」です。著者は、1967年の大学卒業後すぐに国立劇場に就職、この本のもととなった「演劇界」の連載は2008年からですから、まさに40年の戦後歌舞伎の歴史を振り返った本です。

取り上げられている役者とその生年は以下の通り。

 六代目歌右衛門(1917)、初代白鸚(八代目幸四郎)(1910)、八代目三津五郎(1906)、 十四代目守田勘彌(1907)、二代目松緑(1913)、二代目鴈治郎(1902)、十七代目勘三郎(1909)、十三代目仁左衛門(1903年)、七代目梅幸(1915)、十七代目羽左衛門(1916)、三代目権十郎(1918)、三代目左團次(1898)、二代目又五郎(1914)、九代目三津五郎(1929)、三代目多賀之丞(1887)、九代目宗十郎(1933)、三代目延若(1921)、初代辰之助(1946)、そして脇役の六代目菊蔵、二代目子團次、二代目小伝次、五代目市蔵、初代鶴蔵。

これまで読んできた歌舞伎の本で名前や立ち位置はなんとなく知っている役者さんたちですが、著者は実際に国立劇場の復活通し狂言制作などで身近に仕事をしていた方なので、本当に生き生きと、人と芸を描き出しています。

写真も大きく、例えば歌右衛門さんの八つ橋は本当に美しくて、またその表情の芳香に驚きました。十七代目羽左衛門さんは、今の彦三郎さんにそっくり。この羽左衛門さんは、「忠臣蔵の役は、歌舞伎役者ならいつでもどの役でもできなくてはなりません」と忠臣蔵通しの記者会見で言ったそうです。

歌右衛門さんは三島由紀夫に崇拝されていて、亡くなったときに嘆いたこととか、お岩の扮装のまま、著者に「もっと暗く」と叱りに来て震え上がったとか、子役にご褒美に与えられたぬいぐるみを欲しがったとか、逸話が全て面白かったです。

最近読んだ田之助さんの本とも時代的に重なる方が多く、よけい興味深く読みました。

 

シネマ歌舞伎「女殺油地獄」

Onnagoroshi_koshiro_poster_fixw_234  昨年7月松竹座の高麗屋襲名披露「女殺油地獄」のシネマ歌舞伎です。このチラシ、そしてムビチケのビジュアルが公表されたときには、幸四郎・猿之助ファンから悲鳴があがるカッコよさでしたが、とうとう映画館へ。

舞台とはちがう、シネマ歌舞伎ならではのものを作りたいという幸四郎と井上昌徳監督の意気込みで、凝ったつくりになっています。序幕「徳庵堤茶店の場」は通常の舞台中継風、2幕「河内屋内の場」は、アップも多く家庭内ドラマ、そして3幕は義太夫を使わずに撮影し、スローモーションなどの効果を加えて、義太夫をつけています。むしろ劇場でみるよりも、迫力ある義太夫でした(3幕は谷太夫さん)。

この義太夫なしで撮影とはどんなんだろうと思っていたんですが、芝居自体は松竹座の舞台稽古の後で、3幕だけを義太夫なしに撮影したんだそうです。そういう意味では、本番前のものなので、二人が観客の前で見せる芝居とはちょっとちがうのかもとは思いましたが、再演でもあり、さすがの名コンビ。

201911_20191124095201 襲名披露公演のため、配役が最高です。与兵衛の父歌六、母竹三郎、兄又五郎、妹壱太郎、白稲荷法印 嵐橘三郎の2幕は見ごたえたっぷり。与兵衛かわいさのあまりの河内屋の苦悩。

しかしやはりこの演目は幸四郎の豊かな表情!かわいかったり、シュンとしたり、開き直ったり、そして3幕でのお吉へのくどき、殺意のめばえ、目が少し赤いのも狂気じみていて。ああ、幸四郎さん、かっこいい(←最後はこれか)。

四代目は、役柄としても抑え目のしっかりした若妻で、与兵衛よりも姉さんに見えます。やはりあの大怪我からまだ9か月、顔が丸々していますが、このチラシ・ムビチケは後から撮ったものらしく、もう少しすっきりとしています(オグリ終盤の今はもっと顔が細くなったような)。文楽の人形を思わせるような、白磁の肌と表情。

恋愛関係にはない、お吉は与兵衛に同業の知り合いの青年への親しみしか感じていない、でも運命を変えられたという関係の二人。どうしてこんな表情になったのか、ギリギリのこの顔が、四代目の役者としての凄みを見せているような気がします。

松竹座の番付は買いそびれていたのですが、これらの写真が大きく載っているパンフレット、買ってよかった!

 

スーパー歌舞伎Ⅱ「新版 オグリ」猿之助オグリ

201911oguri2   やっと猿之助オグリの「新版 オグリ」です。隼人オグリの回を見てから約1か月、もうすぐ千穐楽ですが、ああ、見られてよかった!

前回、予想の範囲でのエンタテインメント作品でそれなりに満足だったものの、どうなのスーパー歌舞伎Ⅱよ、なんて言ってごめんなさい四代目!四代目のファンなのに。やっぱりスーパー歌舞伎でしか見られない四代目がいるのだということがよくわかりました。

まず登場。隼人が歌舞伎界きってのイケメン故、ビジュアルはとても敵わないなんて思ってたんですが、うわあ、こんなかっこいい、ポスターから抜け出てきたようなオグリ!(少し顔の輪郭がすっきりした?)オグリ衆たちと比べて長身ではないですし、照手の新悟ちゃんよりもちろん小さいですが、なんかピカーっと光るオーラの迫力がすごくて、舞台にいる間、目が離せません。台詞の説得力がすごい。内容が耳にすーっと入ってきます。そしてとにかく歌舞伎。

思えば、今年は、紅長、おとく、弁天小僧、岩手、風雲児たち、かさね、弥次喜多、と、アンサンブルに配慮した役が多く、白塗りの立役で見得たっぷりというのは久しぶり。ああ、オレがオレがのくどい四代目猿之助、こんなにもうれしいものかと、改めて思い知りました。往年の熱狂的な猿之助(現猿翁さん)歌舞伎ファンの気持ちがちょっぴりわかったというか。照手とのロマンスも、四代目らしい愛情が感じられて素敵でした。

1幕は、オグリ衆の若手の成長を確認。男寅もがんばっていましたが、やはり福之助がすごい安定感。踊りはしっかりやっている人なので、立ち回りもよくて見違えました。

2幕、婆たちの場面が好きじゃない人が多いみたいですが、さほど長くないし、今回もそんなに抵抗なかったです。下村青さんも石橋正次さんも好演だと思うんですが、むしろ二人のシーンがやや長い感じ。

さて、今回の注目はなんといっても3幕の四代目の餓鬼病ですよ。前回冗長と感じた照手と餓鬼病の場面が、渾身の四代目の演技で、もうずっと見ていたい!この場面、隼人はどうやっていたかもはや記憶していないくらい。劇的効果としても、オグリの心境の変化を端的に表していて、感動しました。

しかし、これを1日2回はたいへんだと思いました。今回2回公演も必ずオグリは交互、それを考えたら、隼人は十分貢献したと思います。

そして、隼人の遊行上人。清らかで純粋で、四代目のラスプーチン味は皆無。しかしどんな扮装でも隼人は美しい。照手の新悟、2か月の長丁場を一人で務め上げ、動きも台詞も磨きあげられて疲れもみせず、成長を感じました。あ、今回はくんの金坊、右近くん、猿くんにあてたいいお役です。

本編のオグリの台詞が正論的なだけに、それを茶化す浅野和之さんの台詞の数々の効果的なこと。正面から語るオグリとの対比が面白く、今の時代での照れくささを中和するようで、この芝居の中での浅野さんの自在感の意味、と思いました。

あとね、今回、初めの方のスタッフ紹介で、亀井三兄弟のお名前が!お能の囃子方の、あのカーンという力強い大鼓は、広忠さまだったんですね。くー、すごい。

演舞場はこれで最後ですが、南座か博多座は行きたいかも、と思うオグリでした。    

NODA・MAP「Q ~ A Night At The Kabuki」

201911q     NODA・MAPの新作、東京凱旋公演の「Q」です。QはなんとQueenのQ。クィーンサイドから、「ボヘミアン・ラプソディ」を含むアルバム「オペラ座の夜」の演劇性を演劇化できないか、という話があったとのこと。わあ、なにそれ。で、凱旋公演とったら前方センター。

ボヘミアン・ラプソディというと、ナイーブな少年が不条理な殺人を犯すって感じなんですが、この芝居はロミオとジュリエットがテーマ。時代を平家のローミオ(志尊淳)と源氏のジュリエ(広瀬すず)にしたうえで、死ななかった二人の30年後(上川隆也松たか子)と重ねながら描いていきます。

そのBGMとして、「オペラ座の夜」(曲名後述)の曲が、大音量で流れます。フルコーラスではありませんが、なかなか効果的。やっぱりクィーンの曲はドラマチック。しかしあくまで野田秀樹の芝居。

ほかの登場人物は、ジュリエとローミオの母(羽野晶紀)、ジュリエの保護者の源氏方の武将と、毒薬を与える法皇(橋本さとし)、ローミオの父清盛(竹中直人)、巴(伊勢佳世)、ローミオの親族(小松和重)、そしてジュリエのウバ(野田秀樹)。

松たか子以外はNODA・MAPで見るのは初めての役者さんばかり、これまでより普段の活動がバラエティに富んだキャストだなと思っていましたが、さすが野田秀樹のきっちりした演出と、これが凱旋公演なだけあって公演回数を重ねていることで、うまく個性とのバランスがとれていて見事だと思いました。

竹中直人が普通の芝居に入ったらああ竹中直人だって思うだろうなあと思っていたんですが、橋本さとしや羽野晶紀もすごいので、浮くこともなかったのが驚き。そう、橋本さとしはある意味当然として(かっこいいのに出落ち的な!)、羽野晶紀は、新感線で活躍していたとはきいていましたが、動きのキレといい、華やかさといい、いい女優なんだなと思いました。

前後しますが、広瀬すず、やっぱり光を放つようなかわいさ。スピード感、エネルギーは抜群で、彼女を見ているだけで、パワーチャージしてもらったような気がしました。伊藤蘭から続く野田作品のヒロインの系譜。その相手役としての志尊淳も、何度もある壁のぼりのスピード感、整った美形。

しかし上川隆也もすごかったです。まったく変わらないかわいさのある顔、バランスの取れた肢体!この人、街を歩いていても俳優になりませんかっていう感じ。一人商業演劇の座頭みたいな貫禄があって、そういえば「燃えよ剣」とかの主演もしていましたっけ。松たか子とのバランスもよくて、二人の関係はドキドキしちゃいました。

もちろん、NODA・MAP名物の実力あるハイレベルなアンサンブルも最高。映像効果と見まがうようなスローモーションや躍動感溢れる動き、布プレイ。

前半は、ロミオとジュリエットにけっこう忠実で、台詞もかなりとっています。役の早替わりと、法皇の拵えの鬘に境目がくっきりなところ、舞台上ですが宙乗りがあるところが歌舞伎を感じたところです。早替わりは、野田作品でもやりますが、今回は多かったです。

そして後半は、とても野田秀樹的な展開で持っていきます。ああ、こういう風に「ロミオ様、あなたの名前を捨てて」が生きてくるのか。企画ものなんですが、あくまで野田秀樹で、いつもよりわかりやすく笑いも多めで、楽しかったです。

「オペラ座の夜」クィーン

デス・オン・トゥー・レッグス
うつろな日曜日
アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー
マイ・ベスト・フレンド
39
スウィート・レディ
シーサイド・ランデヴー
預言者の唄
ラヴ・オブ・マイ・ライフ
グッド・カンパニー
ボヘミアン・ラプソディ
ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン

おまけ

野田秀樹と糸井重里の、とても充実した対談「演劇ひとすじ。」が「ほぼ日」にアップされてます。面白い!

澤村田之助「澤村田之助むかし語り~回想の昭和歌舞伎」

201911_20191114071501  人間国宝澤村田之助さんの回想禄「澤村田之助むかし語り~回想の昭和歌舞伎」です。田之助さんは1932年生まれ、ここ数年舞台にはお出になっていませんが、人間国宝であり、横綱審議委員会の委員を務めたことでも有名な方。

この本は、2001年から7年間雑誌「演劇界」に連載された聞き書きで、その連載を上村以和於、神山彰、児玉竜一の錚々たるお三方が編集して2011年に出版されたというもの。そうした形式のためか、田之助さんのお人柄や、歌舞伎界の様子がよく出た、たいへんに面白い読み物になっています。

田之助といえば、3代目田之助が有名です。杉本苑子「女形の歯」で、若くして脱疽で手足を切断しながらなお舞台に立った人気役者の壮絶な生涯を読んでいたのですが、著者の当代田之助さんは、この三代目の兄助高屋高助(助高屋って初めて知りました)の養子である名優七代目宗十郎の孫にあたります。

田之助さんは、御曹司として、幼い頃から錦之助や大川橋蔵、九代目三津五郎と子役に出たり、七代目幸四郎の碇知盛が落ちてくるのを受け止める手伝いをしたり、とんぼの練習をしたり、相撲好きが縁で六代目菊五郎にかわいがられたりして歌舞伎にどっぷりつかって育ちます。

初代猿翁さんは当時役者としては珍しく中学を出た人で、「本を読め」といって、子役のごほうびに「風の又三郎」などのハードカバーの本をくれたんだそうです。七代目幸四郎さんに立派な釣り道具をもらい、それを持って十一代目團十郎さんに子役友達と釣りにつれていってもらったなんて話もありました。

戦争中伊東に疎開し、そのまま10年近く舞台には出ず学校生活を送ります。しかし21歳の時、歌舞伎に戻り、梅幸さんのもとで、一から修業し、頭角を現します。とはいえ、ブランクを埋めるのは容易ではなく、また役付きのことを嘆く部分もあったりして、役者さんはこういう気持ちでいるのかと、やはり人間だものなあと思います。

昔のことをよく覚えている田之助さん、十五代目羽左衛門や、多賀之丞、初代猿翁、十一代目團十郎等の名優たちを生き生きと活写していきます。六代目亡き後の菊五郎劇団には、團十郎も参加していて、古典のほかに舟橋聖一や大佛次郎の新作を精力的にかけていてたいへんだったこと。山田五十鈴など、女優さんも出ていたそうです。

そして名優と謳われた祖父七代目宗十郎の役者ぶりの大きさと、美男だが役者としては大成しなかった五代目田之助についての容赦のない描写。祖父が舞台で倒れたとき、父が勘平の代役を断わらなければ、宗十郎を襲名したろうにと書いています(八代目宗十郎は叔父が継ぎ、その息子が九代目宗十郎)。

いろいろな舞台で、丁寧に役を教えてくれる六代目歌右衛門さんの姿も印象的ですし、今の菊五郎さんがとてもいたずら好きだったことなども興味深く書かれています。

田之助さんは人気が出てきて、東横ホールなどで、富十郎、三代目猿之助、九代目宗十郎と若手歌舞伎をやり「四人組」と言われたそうです。当時20代から30代に入ったばかりのこの4人、その後の活躍をみれば、その舞台の人気が出るのも当たり前ですね。

松竹はさらに盛り上げようと、当時の由次郎という名から襲名を勧め、古い文献からさがした「重井筒藤十郎」という名前としようとしますが、十一代目團十郎さんが、田之助を襲名しろ、といいます。この名は病床にあった父の名でしたが、團十郎さんはもう舞台には立てないだろうから、父には俳名の曙山を名乗ってもらえばよいというのです(團十郎という立場がよくわかる話ですね)。

ところが、会社の重役さんが、いきなり梅幸さんに襲名の話を伝えてしまい、それまで田之助さんをかわいがり、襲名のことも心づもりしていた梅幸さんを失望させてしまい、襲名披露狂言にも出てもらえなくなってしまいます。このとき、富十郎さんが坂東鶴之助から市村竹之丞を襲名するのですが、口上では十七代目羽左衛門さんに、「本来ならこの名を継ぐべき人ではない」と言われてしまいます。知らなかった!

結局、田之助さんは暫く菊五郎劇団とは距離を置かざるをえなくなりますが、経済人の仲介で、十数年後に和解し、当代菊五郎さんの相手役として活躍することになりました。田之助さんのつづる梅幸さんへの思慕には、胸を打たれます。

海外公演のことなど、まだ興味深い話もありますが、巻末には、田之助さん自身が書いた、「『神霊矢口渡』の紀伊国屋の型」と題した、演出ノートが載っています。最近の上演は、皆田之助さんが教えたものだそうで、四代目も「亀治郎の会」の上演は田之助さんの教えによるものでした。見ていない演目なのでなかなか読み切れない細かいものですが、紀伊国屋の芸の継承という点で貴重なものです。

今、紀伊国屋というと、宗之助、國矢が活躍していますが、これから紀伊国屋の芸や大きな名前はどうなるんでしょう。

「虹のかけら~もうひとりのジュディ」

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  戸田恵子さんの60周年を祝って三谷幸喜さんが書いた一人芝居「虹のかけら~もうひとりのジュディ」です。ジュディとは、1922年生まれ、「オズの魔法使い」、「イースター・パレード」、「スタア誕生」といった映画に主演し、コンサートでトニー賞特別賞、ライブアルバムのヒットでグラミー賞も得ている大スター、ジュディ・ガーランド。

お話は、ジュディと同い年で、「オズの魔法使い」のオーディションに落ちたジュディ・シルバーマンが、スターであるジュディの一方的な友情に辟易しながらも彼女の人生に寄り添って…というもの。

戸田さんは、語り手と、シルバーマンの日記の読み手として物語をすすめながら、ジュディのヒット曲を11曲歌い踊ります。戸田さんというと、とにかく芝居も歌もうまくて、モノのわかった大人の女性というイメージなんですが、語り手の素のような部分と、娘らしいシルバーマンとの演じ分けも見事で、何よりかわいらしいというか、舞台での輝きが素晴らしくて、戸田さんにやられた1時間20分でした。

こういった朗読+歌という感じのパフォーマンス(ミュージカルといえなくもないけどミュージカルではないのかも)は、アメリカではよくあるそうですが、演者の実力がないと悲惨ですし、脚本の面白さや曲のよさも必要ですが、戸田恵子、三谷幸喜、そしてピアノ(荻野さん自身)、ウッドベース、ドラムというシンプルな編成(3人とも女性)のセンスある音楽の荻野清子と、三拍子そろった作品で、素晴らしかったです。

(以下ネタバレです)

 

 

前述の設定は、なんと三谷さんのフィクションで、シルバーマンは架空の人。なあんだ。しかし、ジュディ・ガーランドが10代の頃からMGMに酷使されて、覚せい剤と睡眠薬漬けになった挙句ボロボロになって早死にしたのは実話だそうで、まあ、見ながら大竹しのぶの「ピアフ」を思い出してゾっとしていたんですが、作劇的にはとても成功していたと思います。三谷さんの声での語りが、戸田恵子という才能豊かな女優へのリスペクトにあふれていて、演劇人の温かな友情を感じたことでした。

 

ドラマ「怪談 牡丹燈籠」

201911_20191103233201    NHKBSプレミアムドラマ4回のミニシリーズ、「怪談 牡丹燈籠」をまとめてみました。牡丹燈籠(灯篭とも書きますね)といえば、2018年7月に見た、白石加代子さんの朗読 で、その悲恋から始まっての壮大な陰謀や仇討ちのストーリー、キャラクターの際立つ登場人物たちと、その面白さに感動しましたが、それを丁寧に映像化。しかも、さすがNHKという、実力派の理想的な配役と、凝った特殊メイクや映像効果も駆使して、冒頭の語りはややとってつけたようですが松之丞で、長さもちょうどいい感じ、これを脚本・演出した源孝志さん、企画を聞いただけでさぞうれしかったのではなんて思ってしまいます。

人間関係が重層的なんですよ。旗本平左衛門(高嶋政広)の跡目を狙う毒婦お国(尾野真千子)と不義の愛人源次郎(柄本佑)、平左衛門が親の仇とは知らずに仕える孝助(若葉竜也)、縁談を嫌って、浪人新三郎(七之助)と恋に落ちる平左衛門の娘お露(上白石萌音)。お露は新三郎と会えない苦しさに死んでしまい、幽霊となって、侍女お米(戸田菜穂)とともに牡丹燈籠を持って新三郎を訪れます。このままでは取り殺されると、新三郎は勇斎(笹野高史)の勧めによりお札を家に貼り、金の観音を枕元に置いてお露を入れないようにしますが、金に目のくらんだ下男伴蔵(段田安則)、お峰(犬山イヌコ)に裏切られます。一方、婿入りが決まった孝助は、平左衛門を殺して出奔した源次郎・お国を追って仇を討とうとします…。

話がゆっくり丁寧に語られていくんですが、役者が揃いも揃って存在感があるので、画面の迫力がすごいです。尾野真千子・柄本佑の官能的な感じほか、とにかくうまいに決まっている人しか出ていませんが、若手の上白石萌音も、箱入りで純粋、恋に焦がれる娘の感じがとてもよかったです。若葉竜也も初めて見ましたが、一本気な好青年、殺陣が決まってると思ったら、大衆演劇の方なんですね。

そして、犬山イヌコをテレビでこんなにガッツリ見られるなんて。ちょっとアニメ声が、舞台では異彩を放っていますが、少し低めにして、その迫力たるや。白石加代子さんの後を継いで、怪談噺やってほしいなあ。

七之助もね、品の良い知的な若い浪人、素敵でした。ラブシーンは熱っぽくて、彼の持つ色気があふれてて。こんな七之助、めったに見られない。

BSプレミアムドラマ枠で、視聴率はどうなんだろうと思いますが、ほんとにすばらしい完成度のドラマでした。

(追記ー歌舞伎での上演)

この演目、歌舞伎でも上演されています。見たことないですが、データベース調べてみました。うわ、これは見たい!特に2011年の幸四郎・七之助の伴蔵夫婦と新三郎・お露役替わりとか、2007年のニザ玉・愛七とか、ドロドロで純愛で仇討で、歌舞伎にぴったりではありませんか。納涼歌舞伎にぴったりと思ったら、2003年にやっていますね。三津五郎伴蔵と福助のお峰、そして勘七が男女逆だけど、勘九郎が幽霊って迫力ありそうです。こういう配役で見たいです。

2015年7月歌舞伎座伴蔵女房お峰 = 玉三郎、伴蔵 = 中車、娘お露 = 坂東玉朗、新三郎 = 九團次

2011年5月明治座:伴蔵・新三郎 = 染五郎(現幸四郎)、伴蔵女房お峰・娘お露 = 七之助、船頭・三遊亭円朝 = 勘太郎(現勘九郎)

2007年10月歌舞伎座:下男伴蔵 = 仁左衛門、伴蔵女房お峰 = 玉三郎、船頭・三遊亭円朝 = 三津五郎、新三郎 = 愛之助、源次郎 = 錦之助、娘お露 = 七之助、お国 = 上村吉弥

2003年8月歌舞伎座:下男伴蔵 = 三津五郎、伴蔵女房お峰 = 福助、船頭・三遊亭円朝・馬子久蔵 = 勘九郎(18代目勘三郎)、源次郎 = 橋之助(現芝翫)、愛妾お国 = 扇雀、新三郎 = 七之助、娘お露 = 勘太郎(現勘九郎)

 

 

 

 

11月吉例顔見世大歌舞伎「研辰の討たれ」「関三奴」「髪結新三」

  201911 歌舞伎座昼の部です。1つめは、「研辰の討たれ」勘三郎さん主演の野田版をシネマ歌舞伎で見て感動したんですが、普通の新歌舞伎作品としても上演されている作品なんですね。

刀研ぎの町人から武士にとりたてられた守山辰次(幸四郎)は、武士の心得がなく、同輩からいじめられています。奥方(高麗蔵)にかわいがられていじめがエスカレートししがまんできなくなった辰次は、家老市郎右衛門(友右衛門)を夜卑怯な手段で殺してしまいます。そして息子たち(彦三郎、亀蔵)から仇として狙われることに…。

野田版は、辰次に武士皆が称賛している忠臣蔵の仇討ちをくだらないと言わせたり、市郎右衛門の謀殺のところに片亀さんのからくり人形を持ってきたり、辰次の命乞いで泣かせたり、効果的な演出を入れていたと思いますが、元の脚本も、武士の価値観と辰次の比較を際立たせながら、面白い場面の連続で、最後の群衆場面も含め、よくできた新歌舞伎だと思いました。

あのかっこいい幸四郎が、弥次さん風の化粧で武士とは真逆の調子のよい辰次を熱演。宿屋での兄弟とのドタバタも身軽でひょいひょい、歌舞伎以外の芝居もいい幸四郎らしさで、楽しみました。客席を走り回るところもあって、わあい。

冒頭の武士たち、友右衛門さんのほか、竹三郎さん(オグリには出なかったけどお元気で何より)、錦吾さんがいい味。廣太郎もよかったです。高麗蔵さんの奥方も立派。宿屋の主人橘太郎も軽快でした。

仇討ちの彦亀兄弟、いつも出番が短くてもったいないと思う二人ですが、今回は辰次との絡みたっぷり、いかにも武士らしい兄弟二人で盛り上げてくれました。

2つめは、芝翫、松緑の「関三奴」。初めて見る舞踊ですが、赤面の芝翫と白塗りの松緑、二人とも上手くて愛嬌があるのでぴったりでした。

いよいよ菊五郎さんの「髪結新三」2018年3月の国立劇場の菊之助の新三で見ていますが、今見られる極付の菊五郎さん。1階後方から見れば、とてもお年にはみえない色気といい声の台詞。忠七(時蔵)の髪をやりながら、お熊(梅枝)を連れて逃げろとそそのかすところの、いかにもな床屋の手つきと表情がさすが。

髪結新三の面白いところは、小悪党の新三が強そうな源七親分(團蔵)をスカッとやっつけておきながら、ラスボス家主長兵衛(左團次)にいいようにやられるところだと思うのですが、やはり左團次さんの貫禄。最近台詞がはっきりしなかったりして、お年かなあなんて思ったりしてたんですが、失礼しました、という感じ。

新三の家での場面、下剃勝奴の権十郎さんと新三のやりとりが、菊五郎劇団ならではの長年の味わいがあって、とってもいいです。菊之助・萬太郎も今思えば健闘してましたが、やっぱり菊五郎・権十郎!

2時間20分、休憩なし、終演は4時少し前という長丁場でしたが、たっぷりお芝居を観た半日でした。

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