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2019年9月

金子哲雄「僕の死に方 エンディングダイアリー 500日」金子稚子「金子哲雄の妻の生き方 夫を看取った500日」

201909kaneko  41歳という働き盛りで難病により亡くなった、流通ジャーナリストの金子哲雄さんが、亡くなる直前に、それまでの闘病生活と死への準備について綴った「僕の死に方 エンディングダイアリー 500日」です。流通ジャーナリストとして活躍していたそうですが、私は彼の出ているテレビ番組や記事をあまり目にしていなかったので、その若さで密かに死への準備をしていたというニュースで知って驚きました。

肺カルチノイドという、がんとは別の種類の悪性腫瘍という病気が進行しているということがわかったのが2011年6月、病気のことは伏せて治療を続け、ついに外出もままならくなり、8月下旬から、この本の執筆を始め自宅で亡くなったのが2012年10月2日、この本の出版が同年11月27日。

安くモノを買う、お金を有効に使う方法を人々に伝えるという、自分の好きなことを仕事にした経緯、雑誌記事やテレビ・ラジオで活躍するようになるまで、稚子さんとのなれそめなどと、治療や在宅医療の話を、さすがわかりやすく説明することが本業だけあって、的確に綴っています。死の直前まで、こんなに明晰に仕事ができた人が、さぞや無念だっただろうと思うのですが、周囲に隠したまま可能な限りの仕事を続けることができて、悔いのない人生だったと思えます。

この本が何より、事情を伏せていた友人や関係者への行き届いた説明になっているのですが、お葬式の段取りや、自身の挨拶、お墓、戒名まで、出来る限りのことをしていったことがよくわかります。また、きわめて珍しい症例だそうですが、医療に対しても有益な情報がつまっています。この本を読み始めたとき、もう7年も前の本だったことを知って驚いたのですが、それだけ人々の記憶に残る壮絶な人生だったといえましょう。

 

201909kaneko2    金子さんの闘病を支えた妻 稚子(わかこ)さんも、2014年2月に、上記の本と全く対になるような本「金子哲雄の妻の生き方 夫を看取った500日」を出版しました。内容は見事に哲雄さんの本の裏付けのようになっていて、なれそめから、最初の頃の夫の印象、実はカッとなりやすく、コミュニケーションが得意でなかった彼が、どう変わっていったか、どんなに仕事が好きで一生懸命やっていたかということが丁寧に描かれています。

実父を自宅で看取ったこともあり、自宅での看取りや、その費用などについても、わかりやすく書かれていました(そうはいっても、医療の受け方については、亡くなった後に、親戚間でもめる元でもあるそうです)。

哲雄氏の本の読者にとっては、彼が最後まで気にかけていた稚子さんが、ひとつひとつ言い残されたことをその通り行い、ときに悲しみにくれながらも、力強く生きていることを知って、ほっとします。もともと聡明でしっかりした方(編集者として活躍していた)なので、哲雄氏の遺志をさらに超えて、世に必要とされる仕事を続けていかれるのではないかなと思いました。

 

キングオブコント2019

201909koc  久しぶりに「キングオブコント」を見たら、初めて見る芸人さんが多かったですが、とても面白かったです。前はけっこう感想書いていますね。2014年は全部の組が2本ネタをやっていましたが、今回は、予選、決勝のM-1スタイルに落ち着いていました。

 キングオブコント2010  キングオブコント2011  キングオブコント2012 
   キングオブコント2013    キングオブコント2014

<ファーストステージ>

1.うるとらブギーズ 462点

人がしゃべっていると同時にしゃべってしまう男に催眠術をかけるというネタ。みんな言ってましたが、音声のミスかと思わせる出だしがうまい。話の展開も意外で、ネタと演技力がバランスとれててよかったです。

2.ネルソンズ  446点

野球部の何でもしゃべっちゃう部員と同級生、先輩の3人コント。本人が言うように古典的なんですが、和田まんじゅうのキャラと、テンポ、繰り返しが面白くてけっこうよかったです。

3.空気階段  438点

へんなタクシー運転手と客のコント。キャラと構成はいいんですが、前の2組がよかったのでやや残念。客が白Tシャツじゃない方がよかったかも。

4.ビスケットブラザーズ  446点

転生のような、今どきのアニメみたいな展開を、ぽっちゃり体形の二人が演じる不思議なコント。声もいいし、意外な感じがよかったです。

5.ジャルジャル  457点

キャッチボールのコント。ベテランになっても、動きのキレがよくて若々しいところがすごい。ネタもジャルジャルらしい。

6.どぶろっく  480点

これだけ、ワイドショーで先に見ちゃってました。どぶろっく自体はけっこう見てきているので、こうきたかという感じなんですが、江口は歌うまい。今にテナルディエできそう。下ネタなんだけど、どこか下品になりすぎていないところがいいんでしょうね。

7.かが屋  446点

カフェで花束を抱えたまま待ち人来たらずのコント。ミュージカルの「She Loves Me」を思い出しましたが、オチがなくて笑えなかった。

8.GAG  457点

男女のお笑いコンビを組んだ二人が、女子の彼氏の前でネタを見せるというコント。女子はブスキャラで売ろうとしているけど、彼氏は可愛いと思っている、というへーと思うような設定。お笑いコンビの相方役、実はすっごいへんなキャラで飛び道具っぽかった。

9.ゾフィー  452点

腹話術師の不倫会見。お人形のフクちゃんの表情が秀逸、ゲスな記者役もうまいし、話の流れもスカッとします。決勝に残ってほしかったな。後からばいきんぐ小峠が、「伝説のネタを見られてうれしい」って言ってましたし、東京03の飯塚は見たくて自宅に行ったそうです。

10.わらふぢなるお 438点

バンジージャンプのコント。ロープと体の状況がうまく表現できてなくていまいちでした。

<ファイナルステージ>

1.ジャルジャル  448点、合計905点

泥棒が友人になりすますコント。けっこう古典的ですが、二人のキャラが生かされていて、面白かったです。審査員が言う通り、ラストがいまいちだったかも。

2.うるとらブギーズ 463点 合計925点

サッカーの実況アナと解説者が、くだらない話をしているうちにゴールを見逃すコント。話のくだらなさと見逃した後の台詞が練られていて、いい加減な解説者のキャラなどもありそうですっごくうまいです。確かに動きはないんだけど、実力が感じられてよかった。決勝戦で最高得点でした。

3.どぶろっく 448点 合計935点

神様とお願いする方を逆にしたコント。予選の点数が高すぎて、逃げ切った形でした。

この後反省会やってましたが、バイきんぐ小峠が、苦労人らしく、皆を労ったり、ネタをほめたり、見せられなかった二本目のネタのことを話したりしているのがとっても優しい人だなと思いました。

 

ドラマ「凪のお暇」「ノーサイド・ゲーム」

201909naginooitoma_  今期のドラマは、なんといっても「凪のお暇」

 周囲の空気ばかり読んでいる凪(黒木華)が、とうとう限界に達して、会社をやめ何もかも捨てて…という、事前の宣伝には興味が持てず、放送開始後も恋人慎二(高橋一生)がモラハラ男だなんて感想を見たので、見る気はしなかったんですが、回を重ねる毎に評判が上がってきて、途中から見始めたら止まらず、パラビで初回から見てしまいました。

「お暇」というのが当たっているかどうかは別として、凪が心地よさそうな部屋を出て住んだボロアパートの住人が秀逸。とことん優しいけど女にだらしない隣のゴンさん(中村倫也)、誰かと思ったら三田佳子の映画好きの老婆、ガテン系のシングルマザー吉田羊、娘うららちゃん(白鳥玉希)もしっかりした女の子ぶりがうまい!

お話は、仕事を探しながら自分の感情を素直に出せるようになってきた凪と、ゴン、実は凪のことが大好きだった慎二との関係や、慎二と凪のひどい家族、これもまたぴったりの求職仲間坂本さん(市川実日子)、スナックのママ(武田真治)などが絡んで進んでいきます。どのキャストも一癖あって、個性的なんだけどリアルで、饒舌じゃなくても台詞に真実味がこもっていて、いいドラマの典型ですよ。会社やスナックバブルやゴンの周りの女の子たちも、普通にかわいいんだけど、人間臭くていい感じ。

その中にあって、やっぱり黒木華、中村倫也、高橋一生の3人がすごい。とくに一生くんは、こんなにかわいくて感情が表情にきめ細かく現れる男がいただろうか!私、元のさやに戻る方が好きなので、最後慎二の思いが叶ってほしいと思ってましたよ。だって慎二の想像した家庭、凪にデレデレでかわいかったじゃん。

無職の凪は、どこに行くにも自転車、ダボダボTシャツ。郊外の風景と、ナチュラルな画面の雰囲気、あのたまの石川浩司や知久くんのパスカルズによる温かみのあるアコースティックな音楽。今までになかったタイプのいいドラマでした。

 

201909_20190924203701  勧善懲悪の会社ドラマで、弱いクラブチームが強くなるいつもの日曜劇場、しかもワールドカップ直前のラグビーがテーマなんてあざとすぎて、と思っていた「ノーサイド・ゲーム」。なんたって、前に見ていた「下町ロケット」は、コメがうまいから自動運転のトラクターを作らないと日本の農業は死ぬ、とかいくら何でもそんな単純な、でしたから。

でも、これは面白かったです。主人公君島(大泉洋)が本社から府中工場に飛ばされ、弱小ラグビー部のGMとして強くする話、なんですが、学生時代スター選手だった、ポロシャツのエリ立ててた大谷亮平が監督に就任するとか、仕事のできる君島が、家に帰ると妻マキちゃん(松たか子)にやられっぱなしとか、そのあたりですでに面白いうえ、ラグビー部員役があくまでガチで、元選手がゴロゴロ。ロッカールームで見せる筋肉やタックルの迫力がすごいです。

悪役も多彩。スマートな滝川常務(上川隆)は、憎めないなあと思ったらそういう展開になるし、ライバルチームの監督(渡辺裕之)がめちゃ渋いうえ前半では守旧派に見えてしっかりラグビーをわかってる人になってるし。

注目は、歌舞伎・ミュージカル俳優たち。大好きな石川禅ちゃん、ドラマでこんなに目立つ役をやるの初めて見ました。セリフのキレはさすがで、前半は味方でしたが、後半はラスボス。あの吉田鋼太郎さんでさえ「半沢直樹」では実力を封印したような人のいい上司だったのに、おいしい役だったじゃないですかあ。これからやる「ダンス・オブ・ヴァンパイヤ」では、実際主役級の活躍ですからね!笹本玲奈も、はじめ眼鏡で彼女とはわからなくて元アイドルかなと思ったらば、明瞭な台詞で、とってもよかったですよね。ああ、二人の歌の場面って作れなかったのかしら。

歌舞伎では、芝翫が超悪役。いや、悪役の中では、騙されてた分一番ワルではなかったんですが、だからといって印象がよくなるわけではなく、とくに若い頃のいやーな金持ち息子を、橋之助が演じてたのがもう。見ながら、ハリウッド映画で一癖ある敵役はだいたい訓練された英国の役者がやっているのを、日本だと歌舞伎やミュージカル俳優がやるのかと思ったくらいなんですが、それにしても橋之助の役は救いようがないヤな奴が、地のようにはまってて残念でした。

右近くんが息子役でがんばってましたが、やっぱり歌舞伎の子は小芝居は苦手なのか、けっこうおおらかでしたよね。しかし、このつながりからか、ラグビーWCの開会式で、右團次さんと連獅子やれたのはよかったですね。隈取も似合って、しっかり毛振りしてました。

宝塚宙組「追憶のバルセロナ」「NICE GUY」

201909_20190919232701  宝塚宙組の全国ツアーです。まず「追憶のバルセロナ」

19世紀のスペイン、侵攻してきたフランス軍との戦いで負傷し記憶を失ったフランシスコ(真風涼帆)は、ロマ(=ジプシー)のロベルト(桜木みなと)やイザベル(星風まどか)に助けられ、一緒にいます。一方、無事帰ってフランス軍に協力していた親友アントニオ(芹香斗亜)は、フランシスコの恋人セシリア(華妃まいあ)と結婚していたのでした。記憶を取り戻したフランシスコは戻ってくることに…。

宙組のトップ、真風涼帆は、長身で小顔で肩幅広め切れ長の目、ショールをあしらったロングジャケット、ブーツといったスペイン風の衣装や、怪傑ゾロ風の「黒い風」の扮装がとっても似合っててカッコよかったです。長身を生かしたダンスもいいし、歌も迫力ありました。

ずっと前に宙組を見たとき(たぶん「エリザベート」とか「双頭の鷲」)は、コーラスのうまさが印象的だったんですが、今回はお芝居のうまさを感じました。初めフランシスコとセシリアがお似合いすぎて、セシリアが相手役だと思ってたら、イザベルが気が強いながらいじらしくてかわいい!ってこちらが相手役の星風まどか。ロベルトがまたワイルドでかっこいいし、アントニオもただの裏切り者じゃなくて陰影があってステキ。若干途中で終わる感のあるスッキリしないお話なんですが、キャストのバランスがよくてひきつけられながら見てしまいました。

宙組では和希そらちゃんも注目だったんですが、フランシスコの家人でさほど出番はないながら、一言発する間がよくて笑いをとっていました。笑いといえば、組長寿つかささんのお芝居もおかしくって見事。

ショーは「NICE GUY」。注目はハイスクールもの。宝塚のスタイルいい子たちが着るとまたこの制服がかわいくって。そして「チャタヌガ・チューチュー」等ジャズでまとめたパートも歌も衣装も素敵。

そのほかタイトルにかかわらず、多彩なショーがこれでもか、衣装も豪華、客席降りはツアーならではのたっぷりさで、会場全体が、東京宝塚劇場とはまた違った熱気で盛り上がって、(ご当地ネタや方言もあった!)最高でした。ラストの階段が短いだけ。

もらったチラシに、宝塚音楽学校のものが。そうかあ、公演見て心を奪われた娘さんを勧誘する絶好のチャンスなんですね。

「ペテン師と詐欺師」@新橋演舞場

201909petensi  福田雄一演出のブロードウェイ・ミュージカル「ペテン師と詐欺師」です。原題は「Dirty Rotten Scoundrels」、汚い腐った悪党って、どうしようもない奴らって感じでしょうかね。ブロードウェイでは2005年3月から1年半上演され、トニー賞10部門にノミネートされてフレディのNorbert Leo Butz(この方、RENTのロジャーを演じてます)が主演男優賞をとっています。作者はデビッド・ヤズベック、「Full Monty」や「The Band’s Visit」の作者ですからすごい人ですね。

紳士風の容貌で金持ちの女性を騙す詐欺師ローレンス(石丸幹二)と知り合ったフレディ(山田孝之)は、弟子入りを志願します。コルゲートの未亡人ミュリエル(保坂知寿)から逃れ、オクラホマの石油王の娘ジョリーン(大和田美帆)との結婚を協力して免れた二人は、リビエラで知り合った「石鹸の女王」クリスティン(宮澤エマ)を騙すのに血道をあげることに…。一方、ローレンスの相棒アンドレ(岸祐二)は、ミュリエルといい感じに…。

すっごく面白かった!元の脚本がよくできていて、お話自体も面白いうえに、ジャジーな音楽、アンサンブルのダンスも素敵。そして実力のある出演者がそれぞれぴったりな役を、しっかり振り切った演技で演じているのがとってもよかったです。

とくに主役二人!山田孝之のちょっとワイルドでかわいげがあって、豊かな表情と身体表現、彼の良さがとってもよく出ていました。対する石丸幹二が対照的な甘い雰囲気の紳士。やっぱり少し気取ったアッパーな感じが似合います。同じく長身で日本人離れした岸祐二も違う声質で彩を添えていました。彼にとってはすごくいい役。

騙される女性たちもユーモアたっぷり、保坂知寿はかわいいし、大和田美帆も器用だなあ。宮澤エマって少し素朴な感じが、線の太さになっていて、こういう役に合っていると思いました。動きも激しいのに歌もたっぷり。

アンサンブルも高橋卓士、高原紳輔といった実力派の福田ミュージカル常連が出ているし、振付は上島雪夫なので躍動感があって見ごたえがありました。

ってことで、福田雄一ミュージカルの中でもかなり好感度の高い舞台でした!

秀山祭九月大歌舞伎「極付 幡随院長兵衛」「お祭り」「伊賀越道中双六 沼津」

  201909numazu 今月の歌舞伎座は秀山祭、昼の部です。1つめは「極付 幡随院長兵衛」2年前の秀山祭では、吉右衛門さんの長兵衛があまりにかっこよくて感激しましたが、今回は幸四郎が長兵衛を演じます。

まずは、芝居の場の劇中劇。頼義の児太郎、児太郎って線が太くて声も大きいので立ち役って実は合っているんじゃないかって思います。将来、梅幸さんのように判官をやったりするのかな。公平は種之助。小柄で顔も小さいはずのにがんばっているなーと思いました(はじめ鷹之資かと思った)。声も大きく、形もきれいでしたし、客席でもめて中断してハラハラしているのがかわいかったです。芝のぶ、橘三郎もぴったり。

そして水野十郎左衛門(松緑)の郎党の狼藉を収めに客席から出てくる長兵衛(幸四郎)、すっきりかっこいいです。

長兵衛宅の場。子供をおんぶして出てくる剽軽な出尻清兵衛、ずっとわからなかったんですが、歌昇くんでした。最近役柄の幅も広げてますね。子分たちに宗之助、廣太郎、廣松。唐犬権兵衛に錦之助。女房お時(雀右衛門)も含め、上品な一家で、あんまりあちこちで水野の郎党とケンカしたりしそうにない感じ。

水野の屋敷に呼ばれ、新しい紋付で出かけていく長兵衛。舞台に幸四郎、松緑、近藤登之助(坂東亀蔵)と並んで、目には華やかできれいです。

酒をこぼされて風呂に入れとうながされ、だまし討ちされる長兵衛。この立ち回りは、さすが幸四郎、動きがキビキビとしていて、最後はやはり痛めつけられる幸四郎の悲壮感(←好きだあ)がちらっと出てぐっときます。武士のくせにだまし討ちが情けなくて、ヒドイ結末の演目ですが、これからも幸四郎の持ち役になっていくのでしょう。

2つめは「お祭り」魁春さんと梅枝くんのスラリと粋な芸者姿。久しぶりの梅ちゃんがああ、きれいとうっとりするようです。鳶の梅玉さんが加わりますが、梅枝くん見て終わりました。というか、お祭りというには出演者も少なくて男衆も地味な衣装で若干寂しかったです。見てる方にそんな感じを抱かせるのはどんなもんでしょう。

いよいよ「伊賀越道中双六 沼津」。吉右衛門・歌六・雀右衛門の鉄壁の座組の当り狂言で、楽しみにしていました。

呉服屋十兵衛(吉右衛門)、荷物持ち安兵衛(又五郎)が、おくる(米吉)の茶店にやってきます。通りかかった夫婦(歌昇、種之助)に抱かれた綜真くん、大きな声で名乗ります。それを見る、よく似た顔の又五郎さんがこのうえない笑顔なので、こちらも思わず笑顔になりました。

安兵衛は先に行かせ、荷物持ちとして老人平作(歌六)を雇った十兵衛は、上手の客席通路から一回り、花道から帰ってきます。なんか笑いが起きてるけど台詞はよくわかりません。ケガを治療してもらった平作、娘のお米(雀右衛門)を見た十兵衛は、お米を気に入り、平作の家で休むことにします…。

三世歌六の百回忌追善の劇中口上がありました。初代吉右衛門、三代目時蔵、十七代目勘三郎という名優の父ですから、七代目幸四郎さんのような今の歌舞伎界の祖みたいな方ですね。吉右衛門、歌六、又五郎、雀右衛門さんの口上は見物にはうれしいものでした。

さて、私、沼津が名作だときいてあらすじは見ていったんですが、「実の息子と邂逅した老父が、義理と息子への情愛の板挟みとなって、腹を切って息子の探す仇の居場所を教える」ってことだけ押さえておけば大丈夫だと思ってたんですよ。しかし、なぜ息子だとわかるのか、そしてお米、実は瀬川という江戸で人気の遊女だったのですが、なぜ十兵衛の印籠を盗むのか、やや地味な舞台面に意識が遠のいて、わかんなくなってしまいました。

最後、十兵衛を追ってくる平作、その歩き方が、老いと、役者としてのたしかな身体の芯が感じられて歌六さんってすごい、と思います。この最後の場面の吉右衛門さん、軽快な好男子のそれまでの場とちがって、肚の座ったいい男!何より、最近の吉右衛門さんって、何を見ても絶頂期、役者としての高みに挑戦する気概が、あと何年続けられるのかという気持ちと一体となっている感じがして、迫力を感じます。一番身近に感じているであろう幸四郎、菊之助、そして歌種兄弟にもその覚悟が伝わっている感じが、この秀山祭ですね。

ああ、この座組でもう一度見られますよう。

(追記)

その後、吉右衛門さんが高熱で休演、十兵衛は幸四郎代役となりました。いや、だって初役ですよ!秀山祭ということでただでさえ昼夜奮闘しているのに…しかし、ニンにも合っていて、好演との評判でした。いずれはと思って吉右衛門さんを見ていたでしょうが、さすが幸さん。体は心配ですが、新作をどんどんやりながらも、高麗屋と播磨屋どちらも大事に芸を継ごうとしている彼ならではの奮闘で、応援するしかありません。

「人形の家 Part2」とイプセン「人形の家」

  201909イプセンの「人形の家」で、最後に家を出て行ったノラが15年後に家に帰ってきたらどうなるか、という続編「人形の家 Part2」です。作者はアメリカのルーカス・ナス、演出は栗山民也。栗山さんらしい、緻密な台詞劇です。

ノラ(永作博美)がプセンの「人形の家」で、最後に家を出て行ったノラが15年後に家に帰ってきたらどうなるか、という続編「人形の家 Part2」です。作者はアメリカのルーカス・ナス、演出は栗山民也。休憩なし、1時間40分の濃密な芝居でした。

ノラ(永作博美)が15年ぶりに家族の家に帰ってきて、女中のアンヌ・マリー(梅沢昌代)に迎えられます。家を出た後、「女性は結婚に縛られるべきでない」という自伝的な本を書いて成功したノラですが、夫トルヴェル(山崎一)との離婚が成立していないことが判明し、そのことによって窮地に陥ったノラは、改めて離婚してもらうために帰ってきたのです。ノラはアンヌ・マリー、トルヴェル、そして殆ど母のことを覚えていない娘エミー(那須凛)と対峙していきます。そして…。

すべての場が、ノラと3人のいずれかの二人芝居。ノラが今どんな状況か、15年間家族がどう生きてきたか、登場人物同士も、観客にもわからないわけですから、それが解き明かされ、状況と感情が台詞で積み重ねられていく、栗山さんらしい、緻密な台詞劇です。

永作博美、さすがですよ。小柄で童顔、どうかすると普通の人なんですが、細身のスタイルと透明感のある美貌、明瞭な台詞、普通の女性から非凡な輝きがあふれているような人。梅沢昌代の自然な老いの表現とノラへの複雑な感情、山崎一の立派な老紳士の風貌と苦悩、舞台人としてのキャリアを感じさせる力量があますことなく示されていました。

那須凛、しっかり育った利発な娘エミー、彼女の登場で舞台の色がさっと変わったかのように感じさせます。深みのあるよい声で、エミーの気持ちを的確に伝えていて、いい女優だと思いました。

というわけで、シンプルな舞台に、力のこもった芝居は堪能したのですが、お話は…。家庭劇であるだけに、ノラに共感できるかどうかで、この舞台の評価が左右されてしまうのですが、ノラが幼い3人の子どもを置いて出て行った、ということがわかってから(つまり最初の場から)どうにも共感できなくて参りました。たしか「人形の家」では、最後の場面で突然ノラが「この結婚はまちがっている」と自覚して家を出るんですよね。「子どもは母親が育てるべき」というのは固定観念だという風潮にはなっていますけど、どうしても心情的に、子どもが母親から置いて行かれるというのは悲しいんです。

そういう気持ちで見ていると、エミーの言うことの方がうなずけるし、トルヴェルはノラが望む方向で変わったのに、もうノラには伝わらなくて、なんだかトルヴェルがかわいそうに見えてしまいました。やっぱり元の「人形の家」のいきさつが知りたくなりました。

戯曲イプセン「人形の家」(坂口玲子訳)

201909_20190913074101  その後、「人形の家」を読んでみました。ノラは、夫トルヴェルから人形のように愛されていますが、実はトルヴェルの転地療養費用を夫に内緒でクログスタから借りていて、家計を浮かせたり、密かに清書の内職をしたりして返済しています。不祥事でトルヴェルに解雇されそうになったクログスタは、ノラに借金の際の父の署名の偽造のことを暴露すると脅し、トルヴェルに解雇をやめさせるようとりなすことを求めます。

いろいろあって、結局クログスタは借用書を返送してくるのですが、真実を知って怒り、その後借金(というか書名偽造)問題が片付いてもとに戻ろうとするトルヴェルに対し、ノラは、「これまで真面目に話したことはなかった」―自分は一人前の人間として扱われていなかった―「もう愛していない」と言って家を出るのです。

ああ、やっぱり共感できないなあ。愛と信頼がなくなった夫婦でも、子どものために別れるべきではない、とは思わないけれど、自分のプライドをすべてに優先させるのは大人じゃないと思えて。もちろん、これは戯曲なので、途中の議論は省略したうえで結論としてノラが出ていくことを描いたところに新しさがあるってことかもしれませんが。

 

 

山内マリコ「メガネと放蕩娘」「パリ行ったことないの」ほか

  201909megane 人気の山内マリコ「メガネと放蕩娘」です。タイトルからはちょっと想像つきませんが、以前は賑わっていたのに、すっかりシャッター街となってしまったアーケード商店街を、商店街の本屋の娘である姉妹が再生しようと奮闘する話。2017年11月の出版です。

この姉妹が、市役所職員の姉タカコと、高校中退して家出し、10年ぶりに帰ってきて子どもを産んだ妹ショーコ。ショーコは東京でカリスマ店員だった行動力で、彼女のバイト先の人気セレクトショップの店長、大学で商店街活性化をテーマにゼミをするまゆみ先生とその学生、市役所の星野らと、イベントやその他の試みを重ねていきます。

その中で、商店街が賑わっていたころの描写や、シャッターを下ろした店がなぜテナントを入れないか、成功に見えたイベントは…、といったことが綴られていきます。とくになぜシャッターをそのままにしておくか、は、住居が店の階上にある商店街ならではの理由があります。家賃の値下げは地価の下落にもつながるので1軒だけ下げるにはいかないんだそうです。地方のさびれたアーケード、そこでいろんなお店に行ったり映画を見たりしていた記憶があるだけに、何とかならないかという気持ちになります。

201909paris 車社会と少子化と郊外の大規模SCを相手としての昔ながらの商店街の戦いは厳しいもので、ウルトラCの正解はないのですが、姉妹を始めとした登場人物のキャラクターがなかなかリアルで愛すべき人たちなので、読後感はさわやかでした。タイトルが内容と離れすぎてるのだけが残念かも。

 同じ著者の「パリ行ったことないの」は、年齢も境遇もさまざまな女性が、行ったことのないパリに行こう、となるまでの短編の連作、と思いきや、最後にうまくつながります。それぞれの短編がよくできていて、パリ行きがなるほどと思えるようになってます。やっぱりこういう小説はパリという場所でないと、成り立たないですね。小説を読む楽しさが感じられてよかったです。

201909azumiharuko

  「アズミハルコは行方不明」も舞台は閉塞感のある地方都市。大学をやめてブラブラしているユキオと、元不登校だった学は、映画「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」に感動して、行方不明者アズミハルコのチラシから、「MISSING」のステンシル作品を町で落書します。そのアズミハルコは、実家に住み、小さな会社に勤めていたのですが…。

前半は、若いのに毎日楽しくない登場人物たちが、物理的にも快適でなさそうな場所での描写が続いて、やや息苦しいですが、後半になると、いろいろつながってきて、なるほどという展開に。

松井大悟監督で映画化されていますが、アズミハルコが蒼井優で、落書仲間の元キャバクラ嬢の愛菜に高畑充希、かっこいいユキオに太賀と、小説のイメージとちょっと違う印象(見ていませんが)。とくにユキオと学の葉山奨之は完全に逆かな。蒼井優がやはりいいという評判です。

2019  最後は「選んだ孤独はよい孤独」。これもオムニバス形式で、タイトル通り、しがらみから訣別して自分らしく生きる様々な人物を、長さやスタイルなも種々の短編に仕上げてます。いちばん新しい2018年の出版ですが、著者がすごく腕を上げている感がしました。

 

 

 

 

映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

  20190901onceuponatime レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットの二人がバディを組む映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」です。レオが落ち目の俳優、ブラピがスタントマンということで、バックステージものという認識で見たんですが、その認識自体が、映画をよく知らないこと丸出しで、クエンティン・タランティーノの脚本・監督作品らしい(彼の作品は初めて見るんですが)1本でした。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(1984年)は見ていませんが、そのオマージュなんだろうなとも思いました。

時は1969年。テレビの西部劇で人気者だったリック(ディカプリオ)は、人気が落ち、悪役やパイロット版に出る日々。長年スタントマンと運転手やってきたクリフ(ブラピ)は凄腕ですが、彼の仕事も乏しくなっていきます。リックはスターらしい豪邸に住んでいますが、隣はロマン・ポランスキー監督と金髪の若手女優シャロン・テート(マーゴット・ロビー)の夫婦。ポランスキー監督映画は3、4本見たことあります。

映画は、リックがマーヴィン(アル・パチーノ)にマカロニ・ウェスタンに出ないかと説得されたり、プロ意識の高い子役(すっごい美人)に刺激されて悪役の演技をがんばったり、リックの出演作が流れたり、クリフがブルース・リーとケンカしたり、シャロンが自分の出た映画を映画館で見て、ウケているのに気をよくしたり(かわいい)しながら進みます。スタントマンだけどブラピ、ワイルドで超かっこいいと思いながら見ていたんですが…。

(以下、ネタバレです、公開されたばかりですがすいません)

 

 

 

クリフは何度か見かけたヒッピーのプッシーキャット(マーガレット・クアリー、ヒッチハイクのときの表情や動きがとってもかわいい!)を送っていきますが、リックの車をパンクさせた男をボコボコに殴ってしまいます。マカロニ・ウェスタンに出演して金とイタリア女優の妻を得たリックは、アメリカに帰ったらクリフと別れると告げ、二人は最後に痛飲します。

そこへ、ヒッピーがクリフに復讐しにやってきます。しかしただやられるクリフではありません。私史上、最高にバイオレンスな場面が繰り広げられ、顔を手で覆って隙間から見るなんてベタな見方しちゃいましたよ。えええーこういう結末?!

よく知られている事実は、妊娠中のシャロン・テートが、夫ポランスキーが欧州で映画を撮影している間に、訪れていた友人らとともに、カルト教団のマンソンたちのグループに襲われ、惨殺されたというものです。この殺人はポランスキー宅の前の住人と間違われたもので、マンソンらしき人物は、前の方で出てきます。

動機や犯人がヒッピーであることは違いますが、、スターの豪邸で襲われるシチュエーションは同じ。シャロン・テート事件の描写にしなかったのは、あくまで主役はリックとクリフで、でも観客の記憶にある事件の恐怖を重ね合わせさせるということかなと思いました。ここまでシャロンは明るくてかわいらしく、残虐な事件の再現なんて見たくなかったのでよかったかも。

映像美や、昔の映画へのオマージュ、タランティーノ監督の美意識のつまった作品でした。

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