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2019年7月

「笑う門には福来たる―女興行師吉本せい」

Photo_20190728002801  藤山直美が吉本興業の創業者吉本せいを演じる「笑う門には服来たる」です。

吉本せい(藤山直美)は、船場の老舗に嫁ぎますが、夫の泰三(田村亮)は寄席や芸人が大好きで、商売は傾きます。どうせなら夫の好きなことを、と二人で寄席を始めることにしますが、初めはなかなか人気の芸人には出てもらえず、せいは冷やし飴をよそより冷たくする工夫をして売るなど苦労しながらがんばりますが、泰三は娘義太夫の波津江(鶴田さやか)と一緒にいるときに急死してしまいます…。

前に見た藤山直美の舞台は、漫才師ミス・ワカナを演じた「おもろい女」。シアター・クリエのこぢんまりとした洒落た空間より、彼女には演舞場や松竹座が似合うと思いました。広い舞台で、大正から戦後にかけて、興業師として、通天閣を見ながらがんばっていく吉本せいと、生き生きとした庶民を演じる一座の人々。休憩込み4時間の舞台で、丁寧に、ストーリーには関係のないちょっとしたやりとりを重ねながら、こちらものんびりと吉本せいの一生に付き合うという感じ。

藤山直美、肚に信念を持ちながら、かわいらしい女の部分もあって、台詞に説得力があるのは見事。深刻な場面の後でちょっと見せる軽快な動きやコミカルな表情、品のある所作、ほんとに素晴らしい方です。

田村亮さんがお年を感じさせない洒脱な泰三、春団治の林与一さんも貫禄です。せいと心が通じ合う真一の松村雄基が、坊ちゃんらしい二枚目でよかったですし、女優陣も実のある演技で舞台を盛り上げていました。そして、せいの末息子穎右(西川忠志)は、ややマザコンの優しい青年を力演していて、ちょっとご本人の坊ちゃんぶりと重なってよかったです。せいの弟正之助の喜多村緑郎は重要な役なんですが、若干長身を持て余してヒョロヒョロしているように見えました。

冒頭の、お馴染みの吉本の芸人さんたちの写真、ラスト近くの、ミヤコ蝶々(吉本所属)の弟子、ミヤ蝶子・蝶美(松竹芸能所属!)の漫才で、吉本のお笑いをしっかりアピールします。

さて、まさに今吉本興業の物語を見るとは、という話になるわけですが、当初は、せいが芸人を我が子のように扱い、「笑いは生きる力や!」という吉本。春団治に出演してほしさに、「師匠の死に水をとる」とまで言うせい。戦後、徴兵された芸人たちにせいが再開する場面は、泣けました。

 

関容子「女優であること」

201907_20190722222501  大好きな関容子さんの役者の本「女優であること」、2004年10月出版です。男優編ともいうべき「舞台の神に愛される男たち」より10年近く前の出版。

取り上げられているのは、長岡輝子、加藤治子、丹阿弥谷津子、岸田今日子、奈良岡朋子、吉行和子、佐藤オリエ、三田和代、富士眞奈美、渡辺えり子、波乃久里子、富司純子の皆さん。出版時点で90歳を超えていた長岡さんや、加藤さん、岸田さんは残念ながら故人になってしまいましたが、ほかの方はお元気でご活躍中。

舞台は見たことがなくとも、TVドラマ等では見知っていて、個性的で気になっていたり好きだった女優さんばかりで、全編楽しく読みました。みなさん2枚くらいずつの代表作の写真が添えられています。

舞台を愛する関さんらしく、舞台が主な活躍の場となった女優さんが多く、芸術家のお嬢さんが、文学座や俳優座、民藝に入っていい役をつかんでいった(代役できっかけをつかんだお話多数)というパターンがとても多いです。最初からお芝居が好きだったり、ひょんなことから入ったり、恋人や夫との関係もさまざまですが、個性的で凛としていて素敵。さすが関さん、聞く内容の切り口があくまで女優としての生き方で、品位があるところもよかったです。

波乃久里子さんは、関さんが中村屋と親しいだけあって、父である17世勘三郎さんとの関係を、溺愛された娘ならではの言葉でひと際生き生きと語っていて面白かったですし、富司純子さんは、ひとめぼれだった菊五郎さんとのなれそめの話。そんなに粋でいい男だったのねおやじさま。渡辺えりさんの制作者としてのものすごいエネルギーも興味深かったです。

巡業高麗屋襲名披露「口上」「双蝶々曲輪日記 引窓」「色彩間苅豆 かさね」

201907   高麗屋襲名興業の巡業東コースです。先月の歌舞伎座で25日まで「みたに歌舞伎」に出ていた出演者たち、5日後の30日から巡業が始まったわけですよ。始まってすぐから評判がよくて、楽しみにしていました。客席はぎっしりと満員。

まずは「口上」。白鸚さんの力強い滑らかな口上。猿之助(少し砥の粉な拵え。白鸚さんとの共演の話が主)、高麗蔵さん、錦吾さん(親の代から100年高麗屋に仕えていると!)、廣太郎、幸四郎、そして最後に白鸚さんが演目について、「親の口からいうのも何ですが、猿之助さんと幸四郎は若手歌舞伎役者ではとっても踊りがうまいからお楽しみに」という趣旨の話をされてました。

いよいよ「引窓」です。2017年3月に現白鸚さんの与兵衛、彌十郎の長五郎で見ていますが、もっと細かく筋を押さえておくべきだったなどという記憶がありました。今回は2度目のためか、白鸚さんの長五郎、幸四郎の与兵衛のきめ細かい心理描写がすんなりとこちらに入ってきて、とても見ごたえがありました。

人を殺めて逃亡中、実母お幸(幸雀)に会いに来た長五郎(大きくて立派)。温かく迎えるお幸と与兵衛の妻お早(高麗蔵)。さすが高麗蔵さん、元花街の女らしい華やかさと、姑とも仲良くやっている気立ての良さが表れていて、とってもよかったです。

そして与兵衛の幸四郎。町人から郷代官となってうれしさを母に伝える様子、長五郎のことがわかって苦悩し、結局助ける心の動きが克明で、根底に与兵衛の人の好さが、幸四郎さんっていい人なんだあとと思わせるほど真に迫っていてよかったです。

お待ちかねの「かさね」。噂には聞いていましたが初見です。ロンドンでも上演して、亀治郎のかさねは大好評だったんですよね。

逃げていた恋人与右衛門(幸四郎)を追ってきたかさね(猿之助)。チラシよりちょっと年増になっちゃったかな、とちらと思ったのですが、娘らしいかわいい仕草を見るうちに、すぐに一途なかわいい娘に見えてきました。藤間紫さんの型という赤い袱紗を使いながら恋しさを訴えるかさね。

一方、水も滴る色悪な幸さん。幸さん、先ほどの「いい人」な感じが一ミリも残っていない完ぺきな色悪がまた似合うこと。最近、圓朝さんの「中村仲蔵」を聞いたところだったので、豊かな言語表現で聞いた「色悪」が、お手本のような形で目の前に現れている、という感激がありました。

そして、鎌の刺さった髑髏を拾い上げてからの形相の変わったかさねの迫力!いろいろな型での絡みに、一時も目が離せず、これでもかと見物に見せつける四代目の面目躍如。猿之助・幸四郎の名コンビの一つの究極の形を見せてもらいました。

そうそう、かさねの清元には、栄寿太夫として右近くんが出てたんですよ(父延寿太夫さん、三味線の兄斎寿さんも)。普通に一員として出ていましたので、巡業の筋書にも名前のみで写真は出ていないんですが、伸びやかな高音は、舞台に目を集中していてもわかるくらいで、栄寿太夫の襲名披露よりずっとよかったです。

お芝居と物語性の濃い所作事というとてもいいバランスの、いい巡業だと思いました。

 

 

 

七月大歌舞伎「通し狂言 星合世十三團 成田千本桜」

20190709 7月の歌舞伎座海老蔵奮闘公演、幕見の通しです。夜の部は、「通し狂言 星合世十三團 成田千本桜」、「義経千本桜」の通しを、海老蔵早替わり13役を務めます、というもの。初日直前に「終演10時…」と海老さんがブログに書いてザワザワしましたが、結局休憩を削って(!)9:43終演、5時間超という、往年の3代目猿之助奮闘公演か、というものになりました。

開始前にお人形が、主な配役を教えてくれます(かわいい)。以下どうしてもネタバレ。

発端・序幕は、平知盛、維盛、教経は生きていた、という簡単な解説の後、「義経千本桜」(この解説がわかりやすいです)でもめったに出ないという1段目にあたる場で、公家悪の藤原朝方(海老蔵)が義経(梅玉)に頼朝を討て、と初音の鼓を与えます。義経の館にやってきた頼朝の使者川越太郎(海老蔵)は、義経の正室卿の方(海老蔵)は平時忠の娘であり義経に謀反の意思がないことを示すため殺せと迫ります。自害した卿の方は実は川越の娘。鎌倉方の追手がやってきますが、弁慶(海老蔵)は、義経の意に反して彼らを討ってしまいます…。

この一段目はみたことがないので、こんな話だったんだ、と珍しく見ました。義経の梅玉さんと静御前の雀右衛門さんは、そこだけ本物の歌舞伎の空気で、とくに梅玉さんがずっと義経でいるのが、義経千本桜って義経が主役なんだなと思わせます。しかし海老蔵の女方は相変わらず残念…。

2幕は伏見稲荷鳥居前、引き続いて碇知盛。渡海屋の場はあっさりで、お柳(魁春)ののろけ気味に銀平ほめるところとか、安徳天皇の前でのこってりとした嘆きはカットだし(魁春さんもったいない)、銀平(海老蔵)の粋で男らしい魅力とかが発揮されてなくて面白くないです。知盛も化粧があまりきれいでなくて、残念でした。今まで見た知盛って、菊之助、現幸四郎、仁左衛門という美丈夫ばかりなんですよ。地は勝るとも劣らない海老蔵なんだけどなあ。

しかし(ネタバレですが)、知盛が海に消えた後が弁慶への早替わりで一工夫。そして長袴での歩き宙乗りって、「伊達の十役」で猿翁さんが仁木でやっている写真を見たことがありますが、ものすごくかっこいいので、見てみたかったんです。知盛の亡霊の美しい衣装でゆっくりと宙に消える姿は見ものでした。

3幕は「すし屋」。若葉内侍の旅立ち(北嵯峨庵室の場)、「木の実」、「小金吾討死」、「すし屋」まで、親切に出してくれました。このいがみの権太の海老蔵が、13役で一番合っているように思いました。ちょい悪で軽くて、せつない男が似合います。小金吾も合ってる弥左衛門も悪くない。残念なのは維盛。こんなにひどい維盛初めて見たってもんです。お米の齊入さんはもっと見たいくらいだし、梅丸のお里もだいぶダイジェスト版ですが(女房ども、の場面はカット)、歌舞伎座で大役!。児太郎の若葉内侍とおせんの二役も頑張ってましたが、ちょっと台詞が強すぎるところが目立つんですよね。

せっかく権太が真人間に戻って死んで感動なのに、弥左衛門まで海老蔵なので、そのあとの早替わりが慌ただしくて、落ち着かない感じがしました。

人気演目2つ見て、もう十分な感じになったところで大詰は「四の切」。実は猿之助で1度しか見たことがないので、段取りの順番はきちんと覚えていないのですが、階段からの狐忠信登場とか欄干渡りとか回転とかぶらさがりとか、パーツではしっかり認識しているので、力の抜けたようなセリフと相まって、どうしても雑なコピーに見えてしまってつらかったです。ケガから復帰して黒塚はやりましたが、四の切はまだできていないのに(幸さんとの対談では、腕に力の入らない部分もあると語っています)、なんで海老蔵がこんな雑にやっちゃうのという気がするのは、四代目ファン故でしょうか。

四の切、最後は法師が軽快な音楽に乗って楽しい動きの立ち回り、狐忠信の宙乗りと、楽しい雰囲気で終わります(すし屋で終わるよりいい)。この後、さらに「吉野の花矢倉」で、横川覚範(教経)、弁慶ら(全部海老蔵)のすごい早替わりの立ち回り。アンコール替わりの映像もあって、5時間超のお芝居が終わりを迎えます。

大きな3つの芝居が、どれもよく上演されるもので感動してきただけに、こんなバタバタで見せなくても、とくに海老蔵としては知盛も権太も本役なんだからもっときっちり演じてほしいとは思うのですが、それにしてもよくやりました。義経千本桜をほんとの通しでやってみたかったのもわかりました。お疲れ様でした。

(追記)

たいへんな公演だとは思っていましたが、海老蔵が疲労と感染による急性咽頭炎となり、15日から夜の部は休演となってしまいました。元の古典で義経千本桜をやるならともかく、あの早変わりはなかなかできないし、海老蔵だから成り立っている演目ですからどうしようもなかったとは思いますが、全席完売で楽しみにしていた人たちも多かったでしょうに、残念です。

2017年のワンピース歌舞伎はあの大事故にも拘わらず、1公演も休演することがなかったのですが、その経験から、四代目は「新作はアンダースタディが必要」と言い、オグリも主演ダブルキャストとして隼人を抜擢しています。いやしかし、海老蔵のこれは、代役がいたとしてもお客は納得しなさそうだからな(碇知盛はニザ様といわずとも幸四郎で、四の切はもちろん四代目の方がいいに決まってますが)。とにかく早い回復を祈ります。

(追記その2)

NHK「にっぽんの芸能」で、ちょっとだけ猿翁さんの碇知盛を見ました。猿翁さんは、昼夜で義経千本桜の通しを、すべて主役でやるという離れ業をやっています。知盛が一番ニンにないが健闘していたという文章を読んだことがありますが、いやいやどうして、猿翁さんの持つエネルギーが知盛に横溢していて、立派な濃い知盛。1日さまざまな役で興行を支えた澤瀉屋の皆さんが、実力を蓄えていったのもなるほどと頷けます(四代目はすし屋で芝翫さんの維盛を相手にお里を演じています)。しかし猿翁さん、昼の部で「黒塚」の後「一本刀土俵入り」やって、よるは「加賀鳶」と「浮世風呂」やったりしているんですよ。いやすごい。

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