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三代目市川猿之助「猿之助の歌舞伎講座」「スーパー歌舞伎」

201905kabukikouza  当代猿之助が好きすぎて、彼のアイドルである三代目猿之助さん(現猿翁)の書いた本ということで読んでみました。四代目が、先月の黒塚についても、三代目がいろいろ本に書いていると言っていたのもきっかけです。

 1冊目は、「猿之助の歌舞伎講座」1984年初版、1989年5刷。新書より一回り大きい正方形の本で、 四の切、新装鏡山再岩藤、當世流小栗判官、黒塚、海外での歌舞伎ゼミナール、などを、豊富なカラー写真で解説していきます。

 三代目の舞台にかける情熱、いかに観客を楽しませるかの工夫や苦労を惜しみなく書いてくれています。これが出版されたころは、40代で一番気力体力があって活躍している頃でしょうに、ここまで読者に親切な本まで出すとは驚きです。

海外での歌舞伎ゼミナールも本格的です。4都市で1か月。人気役者がていねいに海外で歌舞伎を指導し、その過程で歌舞伎の在り方について考える三代目。

第六講に、「女方・デフォルメの美意識」と題し、女方の修行のことが書かれています。澤瀉屋は立ち役の家系ですが、二代目が、「役者には最終的に色気がなきゃだめだ、團子(三代目)だけは女方のできる役者にしたい」と言って、藤間勘十郎(二代目)さんのところに三代目を預けたとあります(当時の二代目の妻が紫さん!)。三代目曰く、若い頃はやせ型で美しかったが、成長後首は短くずんぐりになったものの、勘十郎さんに六代目菊五郎に似ているといわれ、体型が不利だからこそ女方を美しく見せるための努力をしたと。

最後のページに梅原猛さんの「猿之助賛」があります。演劇に対する猿之助の情熱を称賛しつつ、「彼のような新しい歌舞伎の創造者には、真に新しい、歌舞伎の脚本が必要なのである」――これがきっかけで、梅原さんが「ヤマトタケル」を書くんですね。

 

201905_4 2冊目は、「スーパー歌舞伎 ― ものづくりノート」(2003年)です。集英社新書、300ページとたっぷり。題名通り、第1作の「ヤマトタケル」から、「新・三国志 Ⅱ」までについて、制作の過程を克明に記載しています。

 いや、すさまじい。「ヤマトタケル」の初演は1986年2月、それから2003年の「新・三国志Ⅲ」まで、9作を制作しています。脚本家は別にいるといっても、第1稿にダメ出しして脚本を練り上げ、美術、衣装のイメージを指定し、音楽を決めていくのはまさに猿之助。新作で出演者も多いので、稽古もたいへんです。

 驚くべきなのは、当時人気役者である三代目が、復活通し狂言や、連獅子などで毎月のように舞台に立ちながら(しかも七月は今の海老蔵のような猿之助奮闘公演!)、これらの大作を作り上げていったことです。そして、関係するスタッフが国際的なこと!京劇の学院長さんや、ドイツの宙乗りの第一人者の力を借りて、どこまでも自分の理想を追求する三代目。

フランスでのオペラ「コックドール」、バイエルンのオペラ「影のない女」の演出の経緯もあります。日本と違って、休み時間をきっちりとるキャストに、身をもって演じながら教える苦労。

1995年から2000年にかけて、春秋座で苦手な役に挑戦する自主公演も行っていますし、澤瀉屋の御曹司ではない役者さんを集めて二十一世紀歌舞伎組を作って公演をしたり、とその意欲はとどまるところをしりません。

記述も極めて明確で、ご自身の考えがしっかりあるところにも感心します。演技も踊りはもちろん、演出家としても決断は早く、役者の育て方もうまい四代目、すごいと思っていましたが、三代目の仕事ぶりをみると、新作の制作頻度、国際的な活動、他の分野の一流の方々との交流、歌舞伎座での奮闘公演、二十一世紀歌舞伎組の育成等、四代目にしてまだまだ三代目には及ばないといえましょう。

(しかしながら、四代目が三代目よりすごいところもあって、まずきれい<←ひいき!>、女方も含めると役柄が広い、同世代の人気役者との共演は歌舞伎ファンを喜ばせている、大幹部と若手の間の世代として若手を育て機会を与えている、現代劇でも名演を残している、バラエティ番組をさらりとこなして、若い層にもアピールしている…)

歌舞伎というだけでなく、真摯にものづくりを行う天才の克明な記録という点で、すばらしい本なのですが、前述のようにこの本の出版は2003年2月、三代目は、この年の11月の博多座「西太后」(藤間紫主演)公演中に病に倒れ、2012年の澤瀉屋4人同時襲名公演まで歌舞伎の舞台に立つことができませんでした。結果的に、この本は、三代目が病に倒れるまでのほぼ全記録という形となりました。

このときまだ64才、体力頼みのお役はともかく、歌舞伎役者としてはこれからが楽しみというお年です。映像でちらりと見た筆屋幸兵衛や加賀鳶の迫力、古典でもファンの方はもっと見たかったことでしょう。今の大幹部との共演だって、みられたはずです。

その後に書かれた日経「私の履歴書」(2014年)の記述の確かさはこの本と同様ですし、四代目へのアドバイスなども的確で驚きますが、その考えをそのまま言葉で伝えることが難しくなったことも、どんなにもどかしい思いをされただろうと、悲しくせつないです。

できうれば、このすぐれた見識を、本という形ででももっと残していただけたらな、と思いました。

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