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2017年12月

文楽鑑賞教室「日高川入相花王 渡し場の段」「傾城恋飛脚 新口村」

2912   初めての国立劇場文楽鑑賞教室です。1日2回、同じプログラムで、演者がちがうというやり方ですが、Bプログラムを拝見しました。

まず、「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら) 渡し場の段」。始まってみたら道成寺もの、安珍を追ってきた清姫が、日高川の渡し場で渡し守に舟に乗せてほしいと頼みますが、安珍に金を渡されていた渡し守は断ります。怒り狂った清姫は大蛇の姿になって川を渡ります。

三味線方が4人、太棹で鳴らすので大迫力(久しぶりで、文楽は太棹というのを忘れてました)、芳穂太夫、靖太夫、咲寿大夫さんたち4人の義太夫でにぎやか。この作品、字幕を見なくてもすっとセリフが入ってくるし、かわいい清姫の変化が鮮やかで動きが多いので、短いですがとても楽しめました。

(後で亀治郎の「金幣猿島郡」の清姫の写真を見たら、同じ赤に黒い着物を重ねた衣装でした。この豪華な衣装もみものです)

次に「文楽の魅力」という基本講座。希太夫さん三味線の寛太郎さん、玉誉さんによる義太夫、三味線、人形の説明です。太棹の説明も興味深かったですが、何といっても人形の説明。作品では、人形の表情や体が動くのを命があるように見ているわけですが、主遣いは胴と右手なので、当然左手は別の人。手を合わせる動き一つとっても大変なんですね。

ものをつまむという動きはできないので、袖口から人形遣いの手を出してものを持つんだそうです。そりゃそうですね。泣く動きや、立ち役の顔の表情の巧みさには感心しました。

さて、休憩をはさんで、「傾城恋飛脚 新口村」です。近松門左衛門の「冥途の飛脚」を改作した作品なんだそうです。この演目、歌舞伎版は先月歌舞伎座で藤十郎、扇雀の忠兵衛、梅川、そして歌六の孫右衛門で見たんでした。歌六さんも熱演でしたね。

公金横領の罪を犯した忠兵衛は恋仲の遊女梅川と逃げる道中で、実家の父孫右衛門と出会います。下駄の鼻緒を切った孫右衛門に、名を明かさず優しく接する梅川。孫右衛門は忠兵衛を養子に出したので、養家への手前、忠兵衛に会えば捕まえなければいけない、しかし逃げてほしいと親の愛情を示す孫右衛門。

前段の呂勢太夫さんも美声を聞かせてくれてよかったですが(やっぱり節があるので字幕なしでは無理でした)、千歳太夫さんの熱演に感動。孫右衛門さんの息子溺愛ぶりは、昔から子どもに甘い親はいたのだなあと。

小さな劇場で響き渡る三味線と義太夫。歌舞伎と同じ演目も多くて、また文楽も見ていきたいなと思いました。

BD「じゃじゃ馬馴らし」

Photo    猿之助の亀治郎時代の軌跡を追ってきて、どうしても見たくなった蜷川幸雄の「じゃじゃ馬馴らし」(2010年10月)。これまで蜷川シェイクスピアシリーズのBOXしかなかったんですが、単品のブルーレイがオンデマンド(注文生産)で売られるようになったので、入手しましたですよ(「ベニスの商人」といっしょに!)オールメールシリーズです。

美人でしとやかな妹のビアンカ(月川悠貴)と比べて、じゃじゃ馬のカタリーナ(ケイト、亀治郎)には求婚者はいませんが、父親のミノーラ(磯部勉)は、カタリーナの結婚が決まらなければ、ビアンカは誰にもやらないと言います。お金目当てのペトル―チオ(筧利夫)は、ケイトに求婚し、彼女を眠らせない、食べさせないといろんな手段で手なづけ、従順な妻にします。ビアンカの家庭教師に扮したルーセンシオ(山本裕典)はビアンカの愛を得ますが、ビアンカは実はさほど従順な妻ではなく…。

蜷川さんのシェイクスピアですから、キャスト隅々に至るまで、きっちり世界観を共有しているというか、日本でやるシェイクスピアに必要なバタ臭さ(特に冒頭の、貴族になったと騙されるスライとか)を備えて演じているんですが、亀治郎だけは別次元。「歌舞伎役者の自分が呼ばれたからにはそういうものを見せねば」という信念よろしく、見得は切るわ奇声は発するわ、やりたい放題です。側転からのパンチには驚きました。

しかし、亀治郎の登場場面を見ていくと、実はきめ細かにカタリーナの心情を演じているのに気づきます。そもそも、この芝居、じゃじゃ馬のカタリーナがペトル―チオにやや乱暴に押さえつけられて、ラストに女は従順が美徳という演説をぶつのが、女性蔑視で不快という感想を持つ方も多いようです。

でも亀治郎のカタリーナ、じゃじゃ馬ぶりは、妹ばかりが周囲から愛される状況への反発のように見えるし、ペトル―チオに触れられて心が動かされるんですよ。たしかにラストの演説は文字で書けばあまりに男尊女卑にもみえますが、ぎすぎすしないで夫婦仲良く、というだけのような気もするし、このまま堂々たるカタリーナがただ従順なだけで終わるようにも見えません。そこは、亀治郎の工夫なのか(この方、女性の生き方に興味があるようには見えないので)、蜷川演出の妙なのか。

カーテンコール、ドレスに沈み込むお辞儀をしたりして、亀治郎ファンには必見の舞台だったと思います。

カタリーナに比べると、ほかの人物は深みがなくて類型的、ペトル―チオの筧利夫は達者で熱演でしたが、もうちょっと愛嬌や優しさがないと、ただの暴君でカタリーナがかわいそうな印象。山本裕典は、先日事務所をクビになってしまいましたが、こんな大舞台でいい役をもらっていたのに残念ですね。この山本ルーセンシオの従者がなかなかいいなと思ってみていたらば、この人も数年前に寝過ごして主演舞台をキャンセルし、活動自粛していた田島優成だったようです。

ところで姉妹の父ミノーラの磯部勉さんって、昔NHKの「風神の門」というドラマでいいなと思った方ですよ。舞台でずっと活躍されてたんだな、と懐かしく思いました。

「Memphis(メンフィス)」@新国立中劇場

Photo  山本耕史、濱田めぐみのコンビで2年ぶりに「メンフィス」再演、しかも山本耕史の演出、最近の彼の活躍や、事前の稽古の充実ぶりが発信されたりしていて、楽しみにしていましたが、Twitterでも評判がよくてさらに期待して行きました。

なんたって、この演目、2012年にブロードウェイでアダム・パスカルのヒューイで見ているわけですが、2015年の初演版は、耕史・濱めぐのコンビがとてもよく、さらに、今回は山本耕史が演出に加わって、彼の思い描くこの作品世界にキャスト全体が集中していて、さらにバージョンアップしていました。

頭は弱いが純粋に黒人音楽を愛するヒューイ(山本耕史)。山本耕史の持つ明るさや一生懸命さを少し軽くして、とってもかわいいヒューイ。そして、ヒューイを愛しながらもメンフィスを出ていく勇気のあるフェリシア(濱田めぐみ)。二人が初演時よりもさらに役を自分のものにしていて、歌に役の命がこもっていて最高でした。濱田めぐみは、日本で一番好きなミュージカル女優ですが、このフェリシアがいちばん彼女の声質の良さを表現していると思います。ほんとに、いい曲がたくさんあって、何度も鳥肌立ちました。

フェリシアの兄(ジェロ)、ボビー(伊礼彼方)、ゲーター(米倉利紀)、歌も演技もとてもよかった!ジェロがやや華奢でヒューイへの壁になる大きさが若干足りないのも気になりませんでした。ほかにラジオ局のシモンズ(栗原英雄)はいつもながら味があるし、ヒューイのママ根岸李衣は、初演時より歌がずっとうまくなっていて、素敵でした。

ヒューイが黒人音楽を紹介していく話なので音楽シーンも自然で、アンサンブルも見せ所がたっぷり。密度の濃い舞台を作り上げていました。コーラスが感動的な曲もいっぱいありました。セットは、初演よりブロードウェイ版に近い、二階があるパターンで、この方が立体的で効果的。

見るたびに書いていますが、ヒューイはメンフィスでしか生きられない、自分をほんの少し変えることもできないためにフェリシアと幸せになることはできないのが悲しいラスト。「Memphis Lives in Me」は渾身の名曲です。

ラストは無理やりなフィナーレなんですが、ヒューイを変えなかったことが、このミュージカルのよさでもあるんだな、と思いました。スタンディング・オベーションの早さが、満席の観客の感動を物語ってました。

ドラマといい曲とキャストの熱唱とダンスを詰め込んだ、今のミュージカルの一つの完成形です。ああ、ここまでのミュージカルを純粋に日本で作ることができる日が来るんだろうか、と、ちらと思いながら、作品の力をそのまま形にしてくれた、山本耕史始めスタッフ・キャストに拍手です。

(2回目追記)

せっかくなのでもう1回見ました。ほんとにずーっとフラフラ動いているヒューイ。濱めぐの歌。バーンと前に出てくるコーラス。一人一人がこの作品世界を力いっぱい表現するいいカンパニー。アンコールでの観客の立ち上がるのが早いこと、そして今回もかわいいジョークでシメる山本耕史。

ああ、でも2回目で思いついちゃいました。ヒューイの前に立ちはだかるデルレイは、ジェロより米倉利紀の方が合ってたなあ。

十二月大歌舞伎第三部「瞼の母」「楊貴妃」

201712_2   第三部1つめは長谷川伸作の新歌舞伎「瞼の母」

渡世人番場の忠太郎(中車)は、幼い頃別れた母に会いたいと願っています。敵に追われて実家に逃げてきた半次郎(彦三郎)を助けた忠太郎は、半次郎の母(萬次郎)に母恋しさを訴えます。

実母を探して江戸に来た忠太郎は、老いた夜鷹おとら(歌女之丞)を助けたことで、大店の料理茶屋の女主人おはま(玉三郎)が母の可能性があることを知り、と押しかけます。忠太郎を部屋に通したおはまは、娘お登勢(梅枝)との幸せな暮らしを壊されまいと、忠太郎の母であることを否定するのでした…。

中車は、八月納涼歌舞伎の「刺青奇偶」の半太郎で見せた、優しい気持ちのまっすぐな博徒。着物の着方や襟の直し方も様になっています。母を知らないからこその母への思慕で、冒頭からしんみりさせます。

おとらとの場面も、歌女之丞さんのうまさもあって、庶民の切なさを描く長谷川伸らしいいい場面でした。歌女之丞さんいいなあ。

そしておはまとの邂逅。息子であることを否定されて、長年の母恋しさを語る忠太郎。どうしたって、幼い頃生き別れた父猿之助に、25歳で会いに行って、すげなく帰された香川照之の逸話を思い出します。博徒ではあるけれど、お金はしっかりためて、母が貧しかったら助けようと思っていた、と切々と言う中車。俳優として名を成し、歌舞伎役者としても着実に成長している今とはいえ、その時を思い出さずにいられましょうか。どんな気持ちで、と思うと、体が熱くなるような気がしました。しかし、このような、そのまんまの芝居を彼にさせて、それをメインの出し物にする興業の世界。それでもそれを売りにするとかしないとかを超えた演技を堂々と見せる中車。凄い、と思いました。

さて、対する玉三郎、世話物での彼は器用な役者とはいえないと思うんですが、その不器用なセリフが、かえって技巧を凝らすよりも感動を呼ぶというか、とにかくすすり泣きの声以外は聞こえない、歌舞伎座全体が舞台に集中する素晴らしい一瞬でした。

おはまの愛娘お登勢が忠太郎とすれ違って、「ねえ、あの母さんとそっくりな人は?」と言うんですが、もちろん、玉様と中車は似てません。でも、先代猿之助と中車は誰が見ても親子とわかるくらい似ているので、それも思い出されました。

おはまは忠太郎が出て行って後悔します。お登勢にも言われて(お登勢がまた優しいいい子なんです)、忠太郎を探すおはまとお登勢。しかし忠太郎は、もうおはまに会いたいとは思うまい、瞼を閉じれば優しい母の姿が目に浮かぶから、と言って去ります。

切ないけれど、おはまが忠太郎を追うところでほっとしました。単なるハッピーエンドにはしないのが、長谷川伸なんでしょうね。

2つめは、夢枕獏作の舞踊劇「楊貴妃」。黄泉の国に楊貴妃を訪ねる方士(中車)と、楊貴妃(玉三郎)の物語です。舞台があくと、上手に囃方がいます。お琴の調べがそれはそれは美しく、夢のよう。

まず登場する方士の中車、9月に「藤娘」を舞踊の会で踊ったとのことですが(技術はともかく、娘のかわいらしさが出ていて感動的だったとか)、その勇気や努力が、ここに生きていたというか、いくらいい俳優でも、ゆったりした舞踊の舞台で、おかしくなく歩くだけでもたいへんなことだと思います。彼の努力をして、玉様が相手役として十分と判断なさったんでしょう。ほんとに、堂々とした方士で、作品世界を作り上げていました。

その玉三郎さま、能でいう引廻しから出てきますが、まあ、この世のものとは思われぬ美しさ、この拵えが一番お似合いな気がします。ほんとにほんとに素敵な玉様と、玉様の美意識が横溢した舞台でございました。

おまけ。

12月6日に、1月、2月の高麗屋三代襲名披露の配役変更が発表になり、猿之助が演じるはずだった「箱根霊験誓仇討」の主役勝五郎、「角力場」の与五郎、「一條大蔵譚」のお京をそれぞれ勘九郎、愛之助、孝太郎が代役することとなり、出演は「寺子屋」の涎くり与太郎だけどなりました。1月の歌舞伎座で復帰することはワンピース千穐楽のときに報道されていたので、復帰はするんだろうなと思っていましたが、千穐楽の様子を見てまだ回復からは程遠い感じでしたので、無理しないこととなってかえってほっとしました。そもそも開放骨折といえば、普通全治6カ月ということですので、ゆっくり養生してほしいというのが、ファンの願いだったわけで。松竹ゴールド会員の発売日を前に、はっきりさせてくれてよかったです。ワンピースの降板もあって、猿之助ファンは手ぐすね引いてましたから、後から代役が発表されたりしたら、せっかくの襲名公演のチケットがおかしなことになりそうですもんね。

染さんの襲名披露の口上には澤瀉屋を代表して連なるのは、うれしいにちがいありません。舞台で見るのを楽しみにしています。

十二月大歌舞伎第二部「らくだ」「蘭平物狂」

201712_2   十二月の歌舞伎座第二部の1つめは「らくだ」。愛之助と中車のコンビの、関西弁のらくだ。

ふぐに当たって急死した「らくだの宇之助」(片岡亀蔵)の友人熊五郎(愛之助)は、やってきた屑物屋の久六(中車)と組んで、大家に酒肴を出させようと、死体の宇之助にカンカンノウを踊らせます。せしめた酒に酔った久六は、小心者が豹変し…。
シネマ歌舞伎で見た三津五郎と勘三郎、片岡亀蔵の「らくだ」(2008年)は抱腹絶倒、昨年秀山祭で松緑、染五郎、亀寿もそれなりに面白かったんですが(こう並べると二枚目3人!)、今回の上方バージョン、すっごく面白かったです。
 
愛之助の熊五郎がすっきりとかっこいいのに対し(のびのびと関西弁でまくしたてる愛之助も初めてですが、とてもよかった!)、怒鳴られていいなりになる小心者の中車。そして、シネマ歌舞伎で驚嘆した、死体の不気味さと可愛さが殿堂入りの亀蔵さん!背負わされた中車にほほをつけるところなど、やはり冷たさが伝わってくるようでおかしくて。
そして、最初は遠慮していた酒に酔っていく中車もとても愉快で、とにかく愛之助とのバランスがよくて(「半沢直樹」コンビですね)、また見たいと思いました。大家夫婦が橘太郎、松之助もよく、冒頭の長屋の婆さんが誰かと思ったらいつもかわいい笑野でなかなか達者でした。
201712 2つめは今月のハイライト「蘭平物狂」。このために、1等席奮発ですよ。
黒い着物の奴姿で登場したときから、奴蘭平の松緑、気合が入っています。在原行平(愛之助)の屋敷、捕らえていた曲者を、行平は蘭平の息子繁蔵(左近)に追わせると、蘭平は心配して待っています。

左近ちゃん11歳、名子役と評判で、所作も美しい。手の動きや腰の入り方など、普段しっかり舞踊のお稽古をしているんだろうなと思います。松緑は何かにつけては、祖父や父の芸を息子に伝えるのが役目と言っていることもあり、そういう目で見ると父親の心情に溢れていて、ちょっと感動します。
松緑の舞踊の場面もなかなか楽しいのですが(お席がセンターだったのでで松緑さんと目が合った気がしたりして)、見どころは後半の立ち回り!

松緑さんを中心に、大勢の屋敷の者たちとのハシゴを使っての立ち回り。30分近くさまざまな形で続きます。圧巻は花道を使ってのもの!(このために後半に入る前に花道の上の台を片づけるんですが、その移動のスピードが笑えるくらい早かった!)大向さんも盛り上がって、「きおいちょ!」「四代目!」の声もかかってました。

普通、このような展開だと、たいてい悲劇で終わるような気がしますが、このお話、なんと最後はハッピーエンドで蘭平も死にません。繁蔵も立派な隈取をしてきて、可愛い!
愛之助の行平さまが立派でいいし、奥方(児太郎)、おりく(新悟)、与茂作(坂東亀蔵)と、バランスのいい座組みでほんとに楽しかったです。

自身のブログでは自虐的な言い方や深酒が心配になっちゃう松緑さんですが、恵まれた容姿と身体能力、舞踊の実力に加えて、腹の座ったときのオーラはすごいなと思いました。素顔も二代目とますます似てきているような気がします。

 

劇団民藝「『仕事クラブ』の女優たち」@三越劇場

Photo  劇団民藝といえば、宇野重吉さんらの、新劇界の老舗劇団ですが、先日三越でこの素敵なポスターを見かけて、行ってみました。主演の奈良岡朋子さん、子どもの頃からドラマでキビキビした女医さんや作家を演じている姿が大好きで、まさか88歳の今、お元気な姿を舞台で見られるとは。

「『仕事クラブ』の女優たち」は、青木笙子さんのドキュメンタリーを原作とした長田育恵さん脚本の芝居で、1930年代のプロレタリア劇団の女優たちを主役にした作品です。

築地小劇場の雑然とした楽屋で、演出補の橋本(平松敬綱)と、合同公演をすることになった左翼劇団の五十嵐(神敏将)が、警察に上演許可をもらいにいった池田(天津民生)を待っています。女優達、雪枝(桜井明美)、えつ子(吉田陽子)、たまみ(藤巻るも)、淳子(中地美佐子)が、やってきて忙しく準備をします。上演許可は下りましたが、台本は無残にも半分以下に削除されてしまいました。通りすがりの縁で、賄いなどを手伝うことになった老女のぶさん(奈良岡朋子)。当初は冷ややかに見得ましたが、さりげない優しさが彼女たちの心を癒します。演劇だけではやっていけない彼女たちは、アルバイトを受け付ける「仕事クラブ」を立ち上げ、マネキンや筆耕や印刷、裁縫等得意な仕事で演劇を続けようとしますが、特高の締め付けが厳しくなってきます…。

日本橋三越6階の高級宝飾や絵画の売り場を抜けるとそこはレトロな三越劇場(なんと90周年だそうです)。シャンデリアや劇場天井のステンドグラスがステキです。ホワイエには栄太郎の和菓子を売ってたりします(ちなみに、デパートの中の劇場らしく、16日間の上演期間のうち、ソワレは2日のみ)。

そういう劇場に忽然と現れた戦中のプロレタリア劇団。丁寧につくられたリアルなセットと、俳優さんたちが皆さん、ちょっと古風な、裕福ではないけれど昭和の折り目正しさを備えた大人たちをしっかり演じていて、まるでタイムスリップしたように、この世界に引き込まれてしまい、休憩込の3時間弱、女優達と一緒に泣き笑いしました。日本の俳優さんの層は厚いんだなあ。

とくにこのお芝居、主たる女優さんたちが魅力的です。繊細な美人女優の雰囲気の雪枝、仕事がデキてサバサバしている淳子、元気のいいたまみ、人気俳優の夫に苦労するえつ子。そこに、お年は召して小さくなりはしたものの、目の輝きや肌のハリはとてもお年に見えない奈良岡さん。抜け目なく見張りをし、劇団員の世話をこまごまと焼き、セリフもはっきりしていて、ああ、奈良岡さんだ、と感動でした。

時代の匂いがするのは男性たちも同じで、純粋な元帝大生の平松さんなど、とっても雰囲気が出ています。一生懸命ではあるけれど、理想ばかり語って、現実味や生活力のない男たち、セリフでしか出てこない、看板役者のえつ子の夫、投獄されたままの淳子の夫など、女優たちが頼れる力強い男はいません。

ときに仲たがいしながらも、友情で結ばれた女たち、つらくても、自分の選んだ道だと堂々としている彼女たちと見守る奈良岡さん、たまにはこういうお芝居もいいな、と温かな気持ちで劇場を出ました。

十二月大歌舞伎第一部「源平布引滝 実盛物語」「土蜘」

201712   十二月の歌舞伎座は三部制、第一部は愛之助の「実盛物語」です。私の持っている歌舞伎の主な演目のあらすじの本では、海老蔵と故富十郎のこの角度の写真が載っていて、骨太の義太夫ものと楽しみにしておりました。「物語」というのは、実盛さんのお話、というわけではなくて、実盛が小万の腕を切るところを物語るところがみどころだからなんですね。

   この演目、「源平布引滝」の三段目で、二段目は、「義賢最期」です。「義賢最期」の最後に、源氏つの白旗を持って去った小万と、義賢の遺児(のちの木曽義仲)を宿して落ちのびた葵御前がまた出てきます。

百姓九郎助(松之助)小よし(吉弥)夫婦のところにかくまわれている葵御前(笑三郎)。九郎助は、娘小万の息子太郎助と、源氏の白旗を握った女の腕を川で拾って帰ってきます。平家方の詮議の実盛(愛之助)と瀬尾十郎(片岡亀蔵)がやってきて、葵御前の子が息子なら殺すといいます。しかし、実は実盛は源氏に心を寄せる武将でした…。

この実盛が、立派で情愛もある武将、くっきりとした化粧が愛之助に似合います。義太夫に乗った人形振りの場面も、身体にばねがしかけてあるような気持ちのよい動き。実は愛之助が古典歌舞伎をやるのを見るのは初めてでしたが、魅力的な役者だなあと改めて思いました(あ、ニザ様に似てる、と思った瞬間がありました)。

笑三郎さんの品のある奥方、門之助さん(小万)のほどのよい情愛の表現、瀬尾の郎党の猿三郎さんもいて、この2カ月四代目の事故もあって、ワンピース歌舞伎関係のブログなどけっこう見ていたので、何となく澤瀉屋の皆さんがたった1週間でこういう演目でいいお芝居しているのに感動しました。

実盛の相方の瀬尾が悪役と見えて…のまさかの太郎助の祖父。亀蔵さんの人間味にじんときます。最後の「平馬返り」、やや平べったいながら、見事に返りました。この瀬尾の平馬返りって有名なんですね。亀蔵のお兄さん市蔵など、いろんな方がやっているようです。

吉弥・松之助夫婦も文句ないし、子役も大活躍、人情味と義太夫と話の流れもよくて、いい演目だなと思いました。史実では、実盛は後に光盛に討たれますが、その時老人とみられないように若作りの化粧をしていたそうです。その理由が、この実盛物語で語られる「年をとっても見違えないようにしてそなたに討たれよう」というのだという、よくできた話です。

最後は、馬で実盛退場。そういえば、歌舞伎座ギャラリーで見た、「歌舞伎の馬」という感じの映像で、この演目が「馬大活躍」の演目として紹介されていましたっけ。ギャラリーでは馬に乗ってみることができたのですが、意外と高くて、細い花道を走っていくのはちょっと怖いのではと思いますが、なかなか楽しい演出です。

さらにですよ、猿三郎さんのブログによると、太郎吉後の手塚光盛は実在の人物で、手塚治虫の祖先なんだそうです!びっくり!。

2つめは「新古演劇十種のうち土蜘(つちぐも)」です。昨年8月に歌舞伎座で芝翫(当時橋之助)、七之助、獅童らで見ていますが、その時は1階の前方やや端だったので、全体が見える3階のセンターからはどうかなと思ってました。

土蜘(松緑)、頼光(彦三郎)、平井保政(團蔵)、胡蝶(梅枝)、巫女(新悟)、に、太刀持ち(左近)、石神(亀三郎ちゃん)。前回はこのお子達が團子ちゃんと哲之ちゃん(現長三郎ちゃん)でした。番卒が権十郎、片岡亀蔵、坂東亀蔵。前回は猿之助、勘九郎、巳之助だったので、もうちょっとお客へのアピールが強かった(オレがオレが的な)ような気がしますが、この演目で番卒がでてくるところが一番好き。

舞踊が多い演目ですがそれぞれ面白く、上記のようにお子達も出てきて飽きないです。左近君、うまいと人気の坊ちゃんですが、長い裾できびきび歩いて立派。亀三郎ちゃんもかわいくて眼福でした。

最後は土蜘と平井、四天王ほかの立ち回り。若干地味です。せっかくここまでいろいろやってきたのにという気はしますが、ま、全体的には楽しませてもらったので、二部を期待しますよ、松緑さん、ってことで。

齋藤芳弘「亀治郎の肖像」

Photo   齋藤芳弘さんが、2008年から2012年までの、四代目猿之助の亀治郎時代の舞台を、撮った写真集です。大部なので躊躇してましたが、とうとう入手しました。これで四代目関係の本は、神仏と比叡山と器以外は揃いました(笑)

時期的には、長塚誠志さんの写真集「四代目市川猿之助」の後半部分と重なっていますが、長塚さんの写真は、本番舞台の際に黒いバックの臨時スタジオで撮っているのに対し、こちらは舞台写真。アートディレクターでもあって、パンフレットやポスターを手掛けてきた齋藤さんらしく、1つの画面に複数の写真の亀治郎を合成したりして、舞台の雰囲気をうまく伝えようとしています。何より分厚くて、1つの芝居での早替わりや違う場面での表情をたくさん見せてくれて、構図もさまざまで面白いです。

猿之助が、歌舞伎の特徴はと聞かれて答えることのひとつに、「すべての所作が美しいことだ」というのがありますが、本当にどの写真も役の人柄、心情があふれていてすばらしい。

たとえば、「男の花道」(素の歌右衛門、劇中劇のお七がきれい)、「悪太郎」、「浮世風呂」と続きます。この役柄の広さ。そして、様々な化粧の巧みさ。四代目は化粧もとりわけ早いんだそうです。

この齋藤さんって、お茶の水のブックカフェ、「エスパス・ビブリオ」のオーナーなんですね。それで四代目の写真展や猿三郎さんの個展をやったりしていたのかー。2008年の「亀治郎の会」のパンフレットに、まだ華奢な亀さんが渋谷のブックカフェにいる写真が多数使われていましたが、そこから移転したのがエスパス・ビブリオだったんですね。斎藤さん、さまざまな舞台を務めながら、それを記録にも残したい四代目を支える方であって、彼の魅力に憑かれた方なんだなあと思いました。

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