2017年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

最近のトラックバック

« 2017年7月 | トップページ | 2017年9月 »

2017年8月

葛西聖司「僕らの歌舞伎」坂東三津五郎「踊りの愉しみ」

Photo_2     NHKの古典芸能番組でお馴染みの葛西聖司アナウンサーが20代の若い歌舞伎役者15人にインタビューした「僕らの歌舞伎」です。2016年11月発行と、まさに伸び盛りの彼らの、今が切り取られた本で、楽しく読みました。新書サイズですが、最初に舞台のカラー写真があるところもうれしいです。

15人の中から、私の注目は、松也、尾上右近、巳之助、壱太郎、梅枝、児太郎、米吉。萬太郎、歌昇・種之助兄弟も好感度大。彼らのここ数年の成長ぶりは、頼もしい限りです。

このうち松也は、浅草歌舞伎に出ているとはいえ、この中ではお兄さん格で、歌舞伎座でも主役や重要な役を務めていますし、ミュージカルでも活躍。大柄ですっきりした男前は、これからも期待大です。

同世代が競っている彼ら、若いのにほんとにまじめに歌舞伎に取り組んでいる様子がよく伝わってきます。同時に、役を十分務め切れなくて葛藤するのもまた若さならでは。

歌舞伎らしく、彼らを教える先輩たちの姿も興味深いです。知的で段階を追ってきちんと教える三津五郎、印象的な言葉をかける福助、温かく若手を応援する勘三郎。猿之助や染五郎、愛之助の話も出てきて、彼らも教える立場なんだなあと思います。聞き手葛西さんの各人へのコメントが、ホントは彼ら(の実力)をどう思っているのかな、とつい、細かく読んでしまいますが、そこはさすが、微妙な言い回しで、葛西さんの推しはわかりません。

Photo  踊りの名手、故10代目三津五郎さんの「踊りの愉しみ」。長谷川浩さんの聞き書きスタイルは、「歌舞伎の愉しみ」 の続編です。

猿之助のおかげで、舞踊が前より好きになって、今だからこそ、三津五郎さんの踊りについての見識を、興味深く読みました。ほんとにご自身の個性とか、家の持ち味とか、長年その世界にいなければわからないことをまさに的確に言葉にできる方。「僕らの歌舞伎」で、巳之助が、具体的で、相手ができることを教える名手だったと述懐する通りです。

「踊りの神様」と言われた7代目。その三津五郎家を引き受け、さまざまな上の世代の芸を学んできた三津五郎さん。最後の個別の舞踊の演目の解説は、見ていないものについてはぴんとこないのですが、これからすべて見たい、と思わせるものでした。

  
   

「ビリー・エリオット」@赤坂ACTシアター

Photo  イギリスの映画「リトル・ダンサー」(原題は「ビリー・エリオット」)をミュージカル化した、「ビリー・エリオット」の日本初演です。脚本は映画と同じリー-ホール、音楽はエルトン・ジョン!映画が2000年、ミュージカルのウエスト・エンド初演が2005年、ブロードウェイでは2008年から2012年まで1312回上演され、トニー賞を作品賞、主演男優賞(ビリーを演じた3人の少年!)など10部門で受賞しています。

映画は見たことがあると思うんですが、さびれた炭鉱の町の母のいない少年が主人公の、暗いイメージ。子役が主人公のミュージカルって、日本ではどうかなあと、東京で2カ月もできるかな、とTBSがしょっちゅうやるPR番組を見て思ってました。

しかしほんとごめんなさい。ビリーやバレエ教室の先生、家族や友人との関係を細やかに描きながら、ダンスに自分の生きる道を見出していく主人公ビリーの成長を描く、感動的かつ様々なダンスシーンが楽しめる、素晴らしい作品でした。イギリスの映画が原作のミュージカルって、人生のほろ苦さと希望を描いた名作が多いですね(「フル・モンティ」、「キンキー・ブーツ」)。

とにかく、ビリーが、本当にこのフル・ミュージカルの主役なんですよ。こんなに何曲も踊り歌う主役、普通のミュージカルでもめったにないと思います。ダンスもバレエ、タップ、アクロバッティックなものなどさまざま。

制作のドキュメンタリー番組を見ましたが、7人のビリー候補に対して8カ月におよぶレッスンの結果、最終審査で4人(+1人)に絞りこんだんですね。バレエはKバレエ団、タップはhidebohさん、アクロバットはコナミの指導だそうです。

で、私が見た回では、4人の中には入らなかったが、レッスンを続けてビリー合格をかちえた、5人目の山城力くん。純粋な少年らしいルックスで、感情を込めたダンス、歌も素敵でした。

そして、ビリーのダンスや演技を効果的に見せるのがうまいと思ったのが、ストをしている父の仲間や警官、バレエ教室の少女たちのダンスシーンや場面の展開。組み合わせやフォーメーションが豊かで、飽きさせず、何度も盛り上がります。

ビリーの友人で、女装に興味があるマイケル(持田唯颯)は、ビリーに自分らしくいることの重要性をわからせる役どころなんですが、彼のキャラクターも効果的でした。

ほかのWキャストは、父が益岡徹、バレエ教師が柚希礼音、おばあちゃんは久野亜希子。柚希礼音のバレエ教師は、映画や海外版のいかにも田舎のおばちゃん先生ではないのですが、スタイルは超絶いいものの、サバサバしたキャラクターはこれもありで、見ていて気持ちよく、彼女の新境地かなと思いました。もともとダンスはいいですもんね。

1曲だけ、大人ビリーとの二人のダンスがあって、とても素敵。K・バレエの栗山康さんでした。

八月納涼歌舞伎第一部「刺青奇偶」「玉兎」「団子売」

201708_4  納涼歌舞伎第1部は、長谷川伸作、玉三郎演出の「刺青奇偶(いれずみちょうはん)」です。

博打うちの半太郎(中車)は、熊介(猿弥)に絡まれた夜、身投げをした酌婦お仲(七之助)を助けます。当然見返りを求めると思っていたお仲は、金をくれて去っていく半太郎に惹かれます。半太郎とお仲は夫婦になるものの、半太郎は博打をやめられず、お仲は重病に。死を覚悟したお仲は、博打をやめさせようと、半太郎の腕にサイコロの刺青を彫り、これを見たら博打を控えてくれと頼みます。お仲のためにお金をつくろうと、政五郎(染五郎)の賭場を荒らした半太郎は、子分たちにボコボコにされますが、事情をきいた政五郎は、子分になるかどうか、サイコロでカタをつけようとします…。

最初の、いかにも損得抜きの男気のある半太郎がいい男(川に飛び込むために着物を脱ぎますが、引き締まったいい体!)で、荒んだお仲の気持ちがほぐれるところが丁寧に描かれていて、じーんとします。七之助のお仲は、声の出し方がいつものちょっとあだっぽい七之助とちがっていて、新鮮な感じ。玉さまのセリフをきっちり映しているのではとも言われていますが、そういうところが彼らしいといえましょう。半太郎の母梅花や、お仲のめんどうをみるおたけ(芝のぶ)もいい味です。染五郎の親分が、意外なくらい貫禄があって、感心しました。

最後のかけの場面は、半太郎の迫力ある述懐と、最後の賭けをする男の切なさがあふれていて、さすが名優香川照之たる中車でございました。

演出面でいうと、前半がいくら夜とはいえ、ずっと暗い(客席も)のが、せっかく役者は一生懸命演じているのにな、と思いました。

次は勘太郎ちゃんの「玉兎」。月を背景に、餅つき、かちかち山の振りなどを上手に踊ります。10分ほど、あの大きな歌舞伎座の舞台で後見のいてうさんと二人きり、迷いもなく堂々と踊る6歳。満場の拍手を聞きながら、どう思ったでしょうか。

そして、最後はお待ちかね、猿之助・勘九郎の夫婦の「団子売」。花道の出から息の合ったうちわ使い。団子作りからおかめ・ひょっとこの面をつけた踊りまで、こちらも15分ほどのほんとに短い時間ながら、踊りの名手の二人を堪能します。キビキビした夫勘九郎と、たおやかな妻猿之助。ぴったり同じ動きではなく、夫婦としての合わせ方が、さすが上級者という感じです。

愛し合いながら、幸せになれなかった半太郎・お仲の夫婦の物語を見た後で、健康で家業に励む仲のいい幸せな夫婦を見て、ほっとするような、半太郎たちがさらに気の毒な気持ちになるような。

さて、面をつけると、これまで控えめだった分、おかしみたっぷりのキレキレの動きになる猿之助。客席へのあいさつのとき、猿之助は2階3階へも目をやるんですよ。

とにかく絶賛のこの舞踊、こういうわくわくする舞踊は、これからももっと見たいと思いました。勘三郎・三津五郎なき後、この二人のコンビが定番になるといいな。

八月納涼歌舞伎第三部「贋作 桜の森の満開の下」

2017082     納涼歌舞伎第3部は、野田秀樹の「贋作 桜の森の満開の下」です。野田秀樹の歌舞伎は、「研辰の討たれ」や「鼠小僧」と、元の歌舞伎を彼の演出でというものしか見たことがなく、初演が夢の遊眠社であった野田オリジナル脚本を歌舞伎で上演するのは初ということで、楽しみにしておりました。

行く前に、この脚本のモチーフとなった坂口安吾の「桜の森の満開の下」と、「夜長姫と耳男」を読みました。坂口安吾なんて、文学史でしか知らず、初めてです。うわあ、もう日本版青髭というか山姥とか鬼とかのおどろおどろしさ満開。

しかしさすが野田秀樹、2つの小説をうまく融合して、「鬼の女」を中心に据えつつも、国造りと戦いの視点を織り交ぜてスケールを大きくして、言葉遊びもたっぷり。原作の強烈さは若干薄まっていますが、芝居としてのエンタテインメント性はずっと上がったという感じです。

筋書きでは、律義にこの作品の過去の配役を掲載してくれています。主役の耳男(勘九郎)は野田秀樹、堤真一、マナコ(猿弥)は上杉祥三、羽場裕一、古田新太、赤名人(片岡亀蔵)は浅野和之、荒川良々、ヒダの王(扇雀)は松澤一之、野田秀樹と、主要キャストの濃いこと。

しかし、今回の歌舞伎版、改めて歌舞伎役者はすごいと思いました。野田作品って、たいてい野田秀樹が一番面白くて、いい役者が熱演していても、いい役者だとは思うものの、どうしても野田秀樹の芝居を表現するためのパーツという感じがするんですよ。しかし歌舞伎版は、役者が芝居のパーツでありながらやっぱり歌舞伎役者としての光が強烈で魅力的。そこは役者を見る歌舞伎、という気がしました。野田秀樹の分身のような動きをする勘九郎、猿弥、扇雀、染五郎

一方で、野田作品をみたことがない歌舞伎の観客にとっては、なぜこんな早口でさほど意味のない(ように見える)言葉遊びをじっと聞いていなければいけないのか、と拒否反応があったと思います。この作品を歌舞伎でやるのは勘三郎さんとの約束だったそうですが、コクーンならまだしも、歌舞伎座でとは、すごい二人。

ということで、野田ファン、歌舞伎ファンの私には、至福のときでした。

野田歌舞伎常連の扇雀さんはもちろん、勘九郎(なんて舞台で魅力的な身体なのかと改めて思いました)、七之助(終始軽やかな夜長姫、ラストの声は必聴)、染五郎(私の好きなかっこいいメイクの染ちゃん、弥次さんと同じ人間とは思えない)、彌十郎、新悟、亀蔵の阿弖流為チームは、こういう作品にフィットしているし、巳之助、吉之丞、梅枝、も大活躍。とくに猿弥の活躍も特筆もので、舞台でゴムマリのように弾む姿は、野田さんが連れていきたいと思うのでは、と思いましたですよ。そうそう、芝のぶも2役を強烈に演じていました。

衣装も鬼の面も歌舞伎ならではの豪華さで、素晴らしかったですし、アンサンブルの人数が多かったのも贅沢。ああ、楽しかった。

ややケチをつけるとすれば、古い作品らしく、ラストが少しだけ冗長感があるのと、やはり録音の歌曲に違和感。せっかくなら、過去の上演とちがっても、今回はここまでやるなら、生の笛か清元がよかったかな、と思いました。

「ティム・バートンのコープスブライド」

Photo   2005年のティム・バートン監督のアニメ映画「コープス・ブライド」です。あの名作「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」と似た雰囲気で、そのうち見ようと思っていたら、アマゾン・プライムでやってました。corpse って、死体という意味だったんですね。

家柄とお金の政略結婚のため結婚式前日に初めて会ったヴィクター(声・ジョニー・デップ)とヴィクトリア(エミリー・ワトソン)は、互いに似たものを感じて惹かれます。しかし結婚式のリハーサルは失敗、夜一人で練習をしていたヴィクターは完璧に言えた途端、死者であるエミリー(ヘレン・ボナム・カーター)と結婚したことになってしまい、死者の世界に連れていかれます。

ヴィクターとヴィクトリア、エミリーのいわば三角関係なんですけど、3人ともいい子たち。3人の純粋な気持ちが過不足なく描かれています。さらに様々な個性的な死者の世界、悪役との闘いなどもきちんと描きながら、たった76分。おそるべし天才ティム・バートン。

ジョニデとヘレンはクレジットもされているのでもちろんわかりましたが、風変わりな牧師役がそうかな、と思ったらクリストファー・リーでした。本当に晩年まで、いい仕事されています。

「嵐が丘」@WOWOWライブ

Photo_2     堀北真希のキャサリン、山本耕史のヒースクリフで2015年に日生劇場で上演された「嵐が丘」の再放送です。チラシ見て興味は持ったんですが、ミュージカルじゃないしね、と行かなくてちょっと後悔した舞台でした。

原作の小説を読んだ中学生のときには、なぜお嬢さんのキャサリンがそんなにヒースクリフに惹かれるのかわからず、題名のとおり荒涼とした雰囲気の話だなと思った記憶があります。「ガラスの仮面」の劇中劇は、子役を演じたマヤが激しく魅力的で、大人を食ってしまうという話でした。

堀北真希、このときほんとに美しい(本当はこの放送の前後のインタビューのときの方が透明感があってきれい)、「映像では絶対に私には来ない役柄」と言う通り、柄ではないんでしょうが、技巧でなく体当たりでキャサリンを演じています。

山本耕史はさすが、舞台での美しさ。この舞台、エドガー伊礼彼方やヒンドリー高橋和史も素敵なんですが(ともに的確に好演)、影のある豊かな表情、オーラはひいき目でなくとも凄みがあります。とくにキャサリンが赤いドレスで帰って来た時の表情!キャサリンと同じくらいの歳というのにも無理がない(さらにひいき目)。

堀北真希は、インタビューで、山本耕史と戸田恵子は、最初から役として完成していて、演出の指示に従ってアレンジする程度だったのに驚いたと言っていますが、そういう人なんだと思います。「メンフィス」で耕史と共演している濱田めぐみも、「現場での判断が早くて的確」と語っています(まるで猿之助と言われていることが同じ)。

その戸田恵子、彼女にあて書きしたようなぴったりの役で、出ずっぱりで複雑な物語を語ります。彼女の明るさや強さがなかったら、この物語はずっと荒んだ雰囲気で息がつまったでしょう。ほかに、ソニンのイザベラも熱演でしたし、召使の小林勝也もよかったです。

子役がかわいらしく(ちょっと上品すぎるくらい)、回想シーンは大人がアテレコしたりして、時の流れの描き方がうまくて感心。演出は誰、と思ったら、G2さんという方です。かなりの力量と思われますが、なに、ジーツーって。どんな方なんでしょう。

芝居の後半のキャサリンの死後は、ヒースクリフが荒れているばかりなのでちょっとやりきれないんですが(墓のシーンはリアル)、ラスト近くの瀕死のキャサリンとの回想で盛り上がります。

この大変な舞台で1カ月、なれそめには十分ですね。

「にんじん」@新橋演舞場

Photo    大竹しのぶが38年ぶりに14歳の少年役を演じるという、ミュージカル「にんじん」です。19世紀末に描かれたルナールの原作は有名で、子どもの頃漫画版を読んだ覚えがあります。このミュージカルは日本オリジナルで山川啓介(作詞家として有名な方ですね、つい先ごろ亡くなられたとか)脚本、山本直純作曲(直純さん、懐かしい!)、今回の演出は栗山民也。彼と大竹しのぶ、キムラ緑子は、「フェードル」と同じ組み合わせですね。

     3兄弟の末っ子フランソワ(大竹しのぶ)は、赤毛からにんじんと呼ばれ、一人だけ母(キムラ緑子)から疎まれています。父(宇梶剛士)と母の間も冷たく、兄(中山優馬)はこっそり夜遊びをし、姉(秋山才加)は金持ちの婚約者(中村義紘)を連れてきます。

古典ですが、難産の後、夫とうまくいかなくてわが子を虐待する母というのは今にも通じる話で、キムラさんがまたうまくて、リアル(クレジットは中山優馬が先ですが、実際にはキムラさんが二番手という感じ)。にんじんは純粋で、母から何か言われるたびに心に傷を受ける――虐待に慣れて無表情になるまでには至っていないんです。

大竹しのぶ、オペラグラスで見てもお肌つやつやで、少年役が違和感ありません。上記のように、かわいそうな境遇なんですが、悲惨にはならないのは、彼女の演じるにんじんにたくましさや生きる力を感じるからでしょう。

にんじんに同情的な新しい女中アネット(真琴つばさ)や、にんじんの理解者で、幼い頃にんじんが預けられていた近所のおじさん(今井清隆)と、キャストはみんな合っていて歌えて好演、曲も親しみやすく、アコーディオンやクラリネットを含む伴奏と相まってノスタルジックな味がありました。

まあでも、前述のとおり、実母がわが子を苛める話で、兄、姉、母は最後までにんじんに対する態度が変わるわけではありません。父とは少し理解しあうことができて、父もこれまでの自分を反省するのですが、にんじんはそれをよすがに、少し成長して寄宿舎に帰っていきます。このラストは、ハッピーエンドというには一歩足りない感じがしますが、原作を尊重したってことですね。

八月納涼歌舞伎第二部「修禅寺物語」「東海道中膝栗毛歌舞伎座捕物帳」(2回目追記あり)

201708    三部とも出演者も演目も楽しみな納涼歌舞伎、観劇日が楽前に集中するので、前半に見られないかなあと思っていたら、ふっと出ていた5列目、思わず買ってしまった第二部です。

1つめは「修禅寺物語」。初代坂東好太郎、二世坂東吉弥の追善狂言ということで、お二人の子、弟である彌十郎さんが夜叉王を務めます。好太郎さんとういうのは、13代目守田勘弥(玉三郎さんの養父は14代目守田勘弥)の息子なんですね。玉さまと弥十郎さんはいとこにあたるのか。

面作師夜叉王は、娘桂(猿之助)と楓(新悟)と暮らしています。実直な職人春彦(巳之助)と結婚した楓と比べ、気位の高い桂は高貴な夫を持ちたいと願っています。頼家(勘九郎)が夜叉王に頼んだ面を取りにやってきますが、夜叉王はいくら作っても、面に生気がなくて納得しないといいますが、頼家はすでにできている面と、桂を召して帰ります。その晩、北条に差し向けられた軍勢に命を落とす頼家、頼家の面をつけて身代わりとなろうとした桂。夜叉丸は自身の作った面がまさに頼家の運命を暗示していたことを知り、さらに面作りに精進するため、死にゆく桂の顔を絵に描き始めるのでした…。

短いながら、物語の骨格がしっかりしていて、人物の性格が際立ち、いろいろ見どころのあるよい作品です。各人が追い求めるものに共感できるんですよね。

猿之助は、冒頭で作業が嫌い、と言い放つところからゾクゾクします。身の程の幸せに満足する楓とは違いますが、彼女なりに幸せを求めるかわいい女。頼家の勘九郎が品があり、運命をわかっている哀しい殿なので、桂とは短いやりとりながら、二人の間に通い合うものがあり、桂が身を犠牲にしても悔いがないと言い切るのも頷けます。ラストの顔は本当に美しかった!

彌十郎さんの夜叉王は、それまでが常識人で(桂には困ったものだという)、芸術に生きる迫力とか狂気の部分があまり描かれていないせいか、ラストはやや唐突感があるんですが、まあ、他がよかったのもあって、お芝居としては成り立っていました。

新悟と巳之助の夫婦は対照的に初々しくほのぼのとしているし、頼家側近の萬太郎、秀調もよかったです。

2つめはいよいよ「東海道中膝栗毛歌舞伎座捕物帳」。

今回は旅道中ではなく、「四の切」を舞台にした「四の切殺人事件」とでもいうようなもの。猿之助脚本・演出でなければ、あの四の切をここまで(こういうふうには)見せはしないでしょうという作りです(つか、いいのか大事なお家の芸を)。

やじきたさんより若手大活躍、と評判のとおり、巳之助、隼人、児太郎が大活躍。児太郎なんか、数年前とはもう別人の大人の女ですよ。同様に中車も大活躍です。

お子達世代も、團子、金太郎コンビは言うまでもなく、久しぶりに虎之介くん、千之助ちゃんを見ました。千くん、かわいいですよ。

そしてもう一つ、竹三郎さん、寿猿さんも活躍。とくに竹三郎さんには大笑いです。

染猿の出番は少ないとは聞いていたので覚悟はしていましたが、どうして、猿之助、ガヤのときは人一倍大きい声で芝居をぐっと押していくし、ある危なっかしい場面(←終わったので書きますが、隼人の組体操みたいなのを支えるところ!)では真剣な顔で支えているし、楽屋落ちセリフで笑わせてくれるし、制作者の顔をチラチラ見せながらがんばってました。大好きな染さんと一緒で楽しそうで、お客さんも喜んでいてよかったです。

そうそう、今回は結末Bでした。AかBかは、意味なくどちらかを選ぶのではなくて、とっかかりがあるんですよ。たぶん、最初はAを見たい方が多くて、すでに多数いると思われるリピーターがBを推したのではと思ってます。次はAを見たい!

(追記)

楽前日、今度は3階から2部を見ました。

「修禅寺物語」 は、彌十郎さんの気合が増加して迫力が増した感じがしました。ラスト、上を向いて苦痛を堪える桂の顔を上から見られて幸せ。

そして「東海道中膝栗毛歌舞伎座捕物帳」 2回めでも笑えるところが多く、リピーターが多いせいか、場面毎の拍手も多くて盛り上がりました。

今回も弘太郎を取り調べるB。でも明らかに観客の拍手はBが多く、たぶんBの方が面白いってことなんだろうなと思います。児太郎が大迫力ですもんね。

弥次喜多の見得での二人の息の合った動き、だんまり、釘の謎解き、荒法師姿で四の切を乗っ取る猿之助、あくまでアホ顔の染五郎と、ほんとに楽しくて2時間近くがあっという間。歌舞伎をちょっと見てきて、幕見だけど四の切も見ておいてよかったと、楽しさ倍増でした。

これだけのものをまとめ上げた猿之助、すごいです。3代目猿之助のスーパー歌舞伎は「ヤマトタケル」しか知らないくせに敢えていうと、3代目はどうだ素晴らしいだろうと観客に、と見せつけるもの、4代目は観客を巻き込んで一緒に盛り上げるのが好き、という持ち味の違いがあるのかな、と思いました。秋にはワンピースですね。

夏祭クラシックス2017・フォーレレクイエム他@ミューザ川崎

Photo

            高校時代の夏休みというと、吹奏楽部とコーラス部のコンサートを見に行ったり、照明を手伝ったり(演劇部だったので)という思い出があります。 この夏祭クラシックス、公募の管弦楽団、合唱団によるコンサート、お友達が歌うというので、懐かしい気持ちで行ってきました。

ミューザ川崎、初めてでしたが、すばらしいホールですよ。オルガン、円形の舞台に近い客席、よく響く音、温かみのある照明。

プログラムは3部構成で、1部は男声合唱団An die Musik によるSea Shantyほか海の男の歌。みなさんボーダーのTシャツ姿、指揮の岡田直樹さんは赤いキャプテン姿でほとんど無伴奏で気持ちよく。これだけ歌えたら、さぞ楽しいだろうな。子どもがある程度大きくなったら、オットがこういう趣味を持って休みの日でかけて機嫌よくしてるというのはいいんじゃないかと思いましたですよ(←母たちの本音)。

2部は小森康弘さん式によるサン・サーンスの「交響曲第3番」、近藤岳さんのオルガン付き。このオルガン、もはや楽器というより設備ですね。あの高さで一人で演奏するのは、怖いのか孤独なのか気分がいいのか。すごい存在感でした。この交響曲、(もちろん知らないんですが)親しみやすいメロディと、映画のクライマックスで主人公が登場して活躍するみたいな盛り上がりがあって(←語彙貧困)、楽しめました。

Photo_2   3部はいよいよフォーレの「レクイエム ニ短調作品48」。重厚なレクイエムというより、ハープやオルガンも効果的、ソリスト中山美紀さん、小仁所良一さんもよく、美しい旋律に心が洗われるようでした。舞台いっぱいの合唱団、いいな、夏の合唱。

最後は学生時代に歌ったことのある「大地讃頌」の客席も立っての大合唱でした。恒例だそうですが、これもいいですね。

「キス・ミー・ケイト」@プレイハウス

Kissmekate      一路真輝が何度も主演している「キス・ミー・ケイト」、相手役は松平健、一度は見ておくべき古典だな、と思って行ってまいりました。作詞・作曲はコール・ポーター、ブロードウェイ初演は1948年、トニー賞もとっている名作です。

チケット代がお安い、と思ったら、演劇文化の振興のために、低料金で提供するべく、映画演劇文化協会が制作した「ハロー・ミュージカル・プロジェクト」。ちょっとチラシは素朴ですが、作品自体はとってもよかったです。

      フレッド(松平健)が主演・プロデュースの舞台「じゃじゃ馬ならし」の舞台稽古で幕を開けます。フレッドが抜擢した若い女優ロイス(水夏希)とはただならぬ関係ながら、主演の元妻リリー(一路真輝)にもまだ気がある様子。ロイスの恋人ビル(平方元基)は、博打の借金にフレッドのサインをして逃げてきたので、ギャング(太川陽介、スギちゃん)がフレッドのところに取り立てに来ます。フレッドから花をもらって喜ぶリリーは、実はロイス宛の花だったことを知って怒り、じゃじゃ馬ならしの芝居はめちゃくちゃに…。

一路真輝さん、ゴージャスで、でもフレディに怒りだしたところからははじけた演技で最高。ここまでやるの、というくらい振り切れてました。歌も一番多いんですが、ほんとに声域が広くて素晴らしい。今でもエリザベートやれるのでは、と思いましたよ。マツケンさんも、時代劇の印象が強いですが(直虎の信玄もいいですね)、それを思い起こせないほど、大人の洒脱なフレディ。押し出しも立派で美声で、こういう人をミュージカルの舞台で見られるのはとてもうれしいです。

水夏希は、歌を一路真輝と比較するのはかわいそうですが、色っぽい役どころをうまく演じていて、平方ビルともお似合い。スギちゃんは、カンパニーの中で一人舞台に不慣れでおどおどしているんですが、まあ、一人なので、コロコロした体形も相まってそれもご愛敬。コンビの太川陽介の達者さが際立っていました。ちあきしんの歌もとってもよかった(歌唱指導にクレジットされてました)。

ところで開始直後から、アンサンブルのダンスのキレがいいなあと思ってたんですよ。古典なのに、群舞のところがモダンでフォーメーションも凝っていて。演出・振付が、振付の世界ではかなり実績のある上島雪夫氏。こうもちがうものかと思いました。とくによかったのは、2幕開始直後の、キャストが休憩時に自発的に踊るという場面。一人、もう目を奪われるダンサーがいたんですが、加賀谷一肇という方らしかったですよ。この方あまり情報はたくさん出てこないんですが、かなり訓練されたダンサー。

劇中劇はじゃじゃ馬ならしですが、これは、猿之助がカタリーナ(ケイト)を演じた蜷川演出作品じゃないですか。劇評を読んでたら、じゃじゃ馬の女性を貞淑な妻に調教するという、シェイクスピア時代の女性観を批判する意見もありましたが、この作品はそこをうまく現代風に(といっても70年前ですが)、女性をリスペクトした結末になっていて、そこもうれしかったです。

衣装も素敵でしたし、初めて見る人だったら、やっぱり楽しくていいものを見た方がいいですよね(最近の歌舞伎鑑賞教室みたい)。

« 2017年7月 | トップページ | 2017年9月 »