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2017年6月

六月大歌舞伎「一本刀土俵入り」幕見--猿之助が好き!

Photo    六月大歌舞伎千秋楽、夜の部最後の「一本刀土俵入り」、もう一回見たいと幕見です。舞踊でないので、外国人の方はかなり少なめですが、それでも発売開始時間には立ち見となる盛況。

千秋楽って初めてですが、役者さんは自分の見せ場のメリハリはきいているしアンサンブルの呼吸は合ってるし、大向こうの掛け声も多いし、拍手も大きい。とっても盛り上がるものですね。

猿之助お蔦はひときわ美しく見えたし、幸四郎さん茂兵衛も最後のセリフにこんなに力が入っていましたっけ。その直前のタメと大向さんの「待ってました!」が絶妙な呼吸。

猿之助強化月間の、今度こそほんとに最後です。

(我いかに猿之助推しとなりしか)

ところで、私、歌舞伎を見始めたのが2012年秋と、彼が4代目猿之助を襲名して数か月後、初めて見たのが「蜘蛛絲梓弦」ですから、ふーんすごいな、と、あんまりよくわからずに見てましたし、そのころ襲名公演の「ヤマトタケル」 のシネマ歌舞伎を見たりしたものですがら、一般にも有名だった先代猿之助のスーパー歌舞伎の印象が強いのもあって、そういう方向の人なんだろうな、と思っていたのです。一方、歌舞伎見るなら、吉右衛門、菊五郎、仁左衛門、藤十郎といった方々の古典を一つでも多く見たいと、歌舞伎座を中心に見ていたら、猿之助はずっと出ないし。

2014年3月時点でも、スーパー歌舞伎Ⅱ「空ヲ刻ム者」。それなりに立派なものを作って、やっぱりスーパー歌舞伎の猿之助としてがんばるんだな、と。澤瀉屋の個性的な役者さんたちの名前も覚えていきました。

そして今から思えば転機となったのが、2014年11月の「夏姿女団七」の仇っぽいお梶と竹三郎さんおとらの、本水をかぶっての熱演。その演劇的な緊張感に、こういうのが見たかった、と感動しました。さらに2015年お正月の歌舞伎座「黒塚」、一人で広い歌舞伎座中の注目を集める舞踊に驚きました。こういう役者だったのか。その後しばらくして、2007年の「NINAGAWA 十二夜」ロンドン公演の映像を見て、さらに認識を改めます。

2015年秋は「ワンピース」歌舞伎 の大成功。歌舞伎の観客層を広げたという意味で、これから、松竹における猿之助の発言力が増したのではと想像する私。明らかに歌舞伎座での出番も増えましたよね。

2016年6月、「義経千本桜」の碇知盛 で典侍。こんな古典的な女形を歌舞伎座で。そしてようやく「四の切」 を見ました。どうしてこんなにいろいろな役ができる人が、この狐を一番に思っているのか、やや不思議なんですが、まだこの狂言の面白さが十分わかってないからなんでしょう。8月の歌舞伎座は夜の部の「土蜘」 の短い出番を見たのみでした

(このあたりからしばらく「新選組!」と山本耕史にはまっていました――ところで猿之助と山本耕史はともに器用、身体能力高い、モノマネが得意、楽器もできる、手品ができる、三谷幸喜に愛されてる、どんな舞台でも期待を越えるパフォーマンスを見せてくれるところが、共通しています)。

次は2016年12月の「エノケソ一代記」。現代劇でも身体能力と情熱とオーラを見せてくれました。この時点でもうかなり私にとって、特別な役者になっていました。2017年1月は演舞場で「黒塚」、4月は「奴道成寺」「伊勢音頭恋寝刃」の万野、すでに何見てもうっとり状態。さらにDVD「決闘!高田馬場」、ファンブック「僕は亀治郎でした」で自分の認識を確認 。

長塚誠志氏の写真集「四代目市川猿之助」 では、立ち役、女形、舞踊と、あまりにもさまざまな役そのものの美しさ、豊かな表情、驚異的な身体能力に感動。繰り返し見ても飽きません。

怒涛の6月猿之助強化月間(シネマ歌舞伎「東海道中膝栗毛やじきた」、 蜷川幸雄シアター「ヴェニスの商人」、 六月大歌舞伎「名月八幡祭」、「浮世風呂」、 「一本刀土俵入り」、 映画「花戦さ」に至る、と。そうそう、お弟子さんの猿三郎さんの歌舞伎絵ギャラリーにも行ったんでした。

とにかくどうすれば観客にどんな感情を起こさせるかを知っている、自分を舞台でどう見せたいか知っている、ところが一番好き。化粧と役によってあまりにも変わりすぎて、地のちょっと変わった理屈っぽいお坊ちゃんな不思議な青年との落差が大きすぎるところが好き。役にふさわしい美しさを作り出せるところが好き。傾城から老婆、隈取モノまでの、驚異的な役の幅の広さが好き。

稽古のときの、台本すぐ覚える、演出やっていてものすごく判断が速い、役がどんどんふくらんでいく、といった伝説的なエピソードが好き。読書家で物知りで頭のいい人なのに、身体能力と技術とセンスで勝負する舞踊が一番好き、と言い切るところが好き。ドヤ~ってところが好き。

ところでですね、いろいろ過去のネット記事などを見ている間に、襲名の頃の某掲示板で、「最近亀ファンになった女は、アタシは歌舞伎見てなかったけどアートには詳しいの、そのアタシから見て4代目はなかなかやるわ、アタシにはそのよさがわかるのっていう勘違いオンナが多い」ってありまして、いや、「アートに詳しい」となんか一切思ってませんが、Theatergoerだとは思ってるんで、もう痛いところ突かれて笑ってしまいました。

そう、猿之助のファンには、亀治郎の会や浅草歌舞伎の頃からの熱狂的な方が多いんですよね。過去には戻れないし、東京以外でのすごい公演(5月の松竹座とか)もなかなか見られない、のは仕方ないですが、とりあえず一回わっと書きたくて書きました(カテゴリにも「市川猿之助」を作ってしまいました)。

松緑さんのブログでも、猿之助絶賛。昼の部では足蹴にしながら、夜の部最後はいい女房で、暗転のときにかいがいしく合羽を着せてくれていたんだそうです(器用そうですしね)。いや、今月松緑さんにも楽しませていただきましたよ。

「レ・ミゼラブル」@帝国劇場

2017      久しぶり、帝国で見るのは3回目の「レ・ミゼラブル」です。 前回は4年前、ジャン・バルジャン福井晶一、ジャベール川口竜也、マリウス山崎育三郎、アンジョルラス上原理生といったキャストでした。

今回も主要キャストはトリプル。ジャン・バルジャン吉原光夫、ジャベール岸祐二、ファンテーヌ和音美桜、エポニーヌ松原凛子、テナルディエKENTARO、テナルディエ夫人森公美子、アンジョルラス上原理生、コゼット生田絵梨花、マリウス海宝直人、ガブローシュ島田裕仁

殆どセリフはなく、歌でつづられていきますが、レミゼの歌は徹底して役としてのセリフの歌。予備知識なく初めて見る人には、あまりにも目まぐるしく歌が続くので、人間関係を把握するのに少し不親切かもしれませんが、主要人物毎のテーマが繰り返し、豊かなバリエーションで歌われるこの作品、聞きなれたメロディが実力派キャストで歌われるミュージカルならではの喜びを味わうことができます。

吉原光夫、迫力ある容姿、低音からファルセットまでの豊かな歌声は圧巻。見ているときは気づかなかったんですが、新婚の妻和音さんとの共演だったんですね。宝塚OGの中でも屈指の歌姫和音さん、松原凛子と生田絵梨花も声色はちがうんですがそれぞれ瑞々しく、素敵でした。

アンジョルラスの上原理生、マリウスの海宝直人もとっても合っていて素晴らしかったし、テナルディエのKENTAROはちょっとかっこよすぎるんですけど、夫人の森公美子はさすがの安定感。キャストの中では、ジャベールの岸祐二がちょーっと弱いかなという感じですが、これからに期待できます。そうだ、ガブローシュ島田裕仁くん、末恐ろしいうまさで聞かせてくれました。

Photo      この作品、固定ファンもたくさんいて、1か月半の公演チケットが、当日券を残して完売だそうです。キャストの名前でなく、作品でお客を呼べる、そして実力派キャストでやることが保証されている、劇団四季で独占されていない、日本では珍しい作品、これだけは、1年の半分くらい帝国でやってもいいと思います(左はロビーにあった、舞台写真で作ったコゼット。山本耕史のガブローシュとマリウスを探しましたが、すぐ断念しました)。


ミュージカル初心者の方にも、絶対にお勧めです。

六月大歌舞伎「鎌倉三代記」「曽我綉俠御所染 御所五郎蔵」「一本刀土俵入り」 市川亀治郎著「カメ流」

62017r      六月大歌舞伎、夜の部です。

1つめは「鎌倉三代記 絹川村閑居の場。 源頼家の家臣三浦之助(松也)が負傷して病気の母長門(秀太郎)の閑居を訪ねると、許嫁の時姫(雀右衛門)が看病してくれていました。しかし時姫は頼家と敵対する北条時政の娘。時姫を父の元に取り戻そうとする局(吉弥、宗之助)や軽輩の藤三郎(幸四郎)。しかし藤三郎は実はあの佐々木高綱、ほんとの姿に立ち返り、時姫に時政を討つよう説得するのでした。

三浦之助の松也が、橙の鎧姿で華々しく美しく、登場してすぐ門の前で倒れて眠るその寝顔がほんとにきれい(3階席からよく見えました)、これに対する雀右衛門が、歌舞伎の三大赤姫といわれる時姫を熱演。けなげな嫁、戦場に立つ三浦之助にせめて一夜とすがる情熱。幸四郎、秀太郎、藤三郎の妻おくる(門之助)、局の二人までぴったりとしていて、さらに義太夫の幹太夫、東大夫さんも素晴らしく、立派な義太夫狂言でした。「決闘!高田馬場」に出ていた宗之助、10年たったのに変わらぬかわいさです。

2つめは「御所五郎蔵」。

元武士の侠客五郎蔵(仁左衛門)、妻の遊女皐月(雀右衛門)、皐月を狙う土右衛門(左團次)。両花道での登場といい(3階さみしい)、廓が舞台で最初の場面が桜どーんという華やかさといい、助六とか籠鶴瓶みたいな、粋なお芝居です。

五郎蔵のため、土右衛門から200両を引き出そうと、五郎蔵に愛想尽かしをして土右衛門のものになるとウソをつきますが、怒った五郎蔵は、皐月の友である元主君の寵愛する逢州(米吉)を皐月とまちがえて殺してしまい…(お話はかわいそうですね)。

ニザさま、驚くべき若さ、すっきりした粋な立ち姿。巳之助男女蔵歌昇・種之助兄弟らを従えて左團次に相対するところ、眼福。この芝居でも、雀右衛門さん盛装で大活躍。こういう盛装で、生真面目な薄幸の女性が似合う方ですね。米吉は大抜擢ですが、かわいい。そして花魁の衣装に負けない体力ですっすっと動くのが気持ちいいです(雀右衛門さんだとどうしてもよいこらしょみたいになっちゃう)。

愛想尽かしの場面は、借金の取りたてに五郎蔵についてきた花形屋吾助(松之助)が絶妙で、五郎蔵とのお芝居の息がぴったりで楽しかったです。

3本目、いよいよ「一本刀土俵入り」。2015年お正月に見たときは魁春さんのお蔦 で、人情が身に染みてほんとに感動したんですが、猿之助のお蔦やいかに。

最初の船宿の前のけんかの場面から、酌婦お松(笑三郎)、弥八(猿弥)を中心に、お芝居が生き生きとはじまります。取的茂兵衛の幸四郎は、前回よりは体型もふっくらと取的っぽいですが、出所不明の方言が、やっぱり何だかフランケンシュタインみたいです(失礼)。

宿の2階で飲んだくれているお蔦と下にいる茂兵衛。一文無しで再度横綱を目指して江戸に帰るという身の上を聞き出しながら、酔うにつれ、茂兵衛に金をやる気持ちになるお蔦。とくに親切な、慈善の心からではなく、投げやりななかでの気まぐれという方が強い感じ。ここの、茂兵衛とのやりとりが、台本通りなのかわからないくらい、生の自然なセリフの応酬で、現代劇でも経験を積んだ二人の真剣勝負ともいえます。

ほんとに、何気ないやりとりなんですが、お蔦をみつめるうちに、ふうーっと気持ちが盛り上がってぐっときました。その感動をまた外して笑わせたり、幸四郎さんの胸を借りて、観客の呼吸をつかんで引き寄せる猿之助の真骨頂を見た思い。歌も渋いですが、三味線がいかにも手すさびという感じでよかったです。

そして10年後。茂兵衛は夢破れ、渡世人姿でお蔦を探しています。お蔦は、娘お君(市川右近ちゃん)とつましく暮らしていましたが、10年ぶりに帰ってきた夫辰三郎(松緑)はイカサマばくちをやって追われています。茂兵衛はお蔦一家に金を渡し、辰三郎を追う儀十親分(歌六)たちをやっつけて、一家を逃がしてやるのでした。

子供もいるのに10年もほっつき歩いて帰ってきた男をそんなに暖かく迎えられるか、という気もしますが、一応、理由らしいものもあり、何より昼の部「名月八幡祭」で生真面目一方の新助だった松緑の謝り方が誠実で、納得しちゃいました。

茂兵衛を忘れていたお蔦。思い出した時の膝を打つ勢いに、また持っていかれてしまいました。

このお芝居、昔船宿で遊んだ老船頭(錦吾)、船大工(由次郎)とのやりとりも味があるし、あれ以来取的が苦手の弥八、儀十親分の子分のすっきりした根吉(松也)と、出演者がそれぞれの場面で味を出していて、本当に満足な1本でした。終盤にかけて、流れる歌も美声でよかったなあ。

(これで、6月は、歌舞伎座昼夜、シネマ歌舞伎「やじきた」、蜷川シアター「ヴェニスの商人」、「花戦さ」と、猿之助コンプリート!舞台写真も買ったし、大満足でございます。)

Photo       こんな本市川亀治郎「カメ流」)まで読んじゃいました。2008年の書下ろしエッセイ&写真の本です。幼い頃の思い出、初舞台で観客の反応が心地よかった話、既に知っているエピソード(「NINAGAWA十二夜」や「決闘!高田馬場」のもあります)の亀ちゃんから見た文章とか、30歳そこそこの気概がつまっていて、ファンには楽しい本。海外での素顔の写真は、ちょっと男性アイドル風なのもうれしいです。

そういう自分と自分のやることが好きなアナタがファンは好き。

そうそう、この時点では、香川照之の歌舞伎界入りは決まっていなかったと思いますが、有名な祖母のお墓での彼との邂逅、その後「武田信玄」に出演する際に、香川照之が亀ちゃんのためにあいさつ回りをしてくれたことなどが書かれていて、お互いに尊敬しあう立派ないとこ同士だな、と思いました。猿之助は團子ちゃんをほんとにかわいがっているようですし。

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麻央さんのブログを読んでいたので、やっぱりこの日が来てしまったかと残念です。何より、あのかわいいお子さんたちを残してどんなに心残りだったか、看板役者として毎月舞台に立つ海老蔵のことが心配だったかと思うと。

こんなつらい日にも、座頭として舞台を務めた海老蔵。今月は2時間の自主公演でしたが、この6月のABIKAIが終わっても、7月は降板した獅童の分も、昼夜大奮闘の予定のようで、とくに夜の部は新作でお稽古もたいへんでしょう。がんばれ海老蔵。

映画「花戦さ」

Photo    華道の池坊の僧専好(野村萬斎)を主人公に、千利休や秀吉とのいきさつを描いた「花戦さ」、豪華キャストで舞台あいさつが話題となりましたが、猿之助強化月間なものですから(笑)、見てまいりました。

京都の頂法寺(六角堂)の専好は、岐阜の信長(中井貴一)に呼ばれて、登り竜と名する壮大な松の生け花で気に入られます。10年後、秀吉(猿之助)が天下をとった時代、利休(佐藤浩市)と再会し友情を育んだ専好は、次第に横暴さを増していく秀吉に花で戦いを挑み…

坊主頭の萬斎さんがすばらしい。飄々とした、花のことばかり考えている、心優しい僧を表情豊かに演じます。中井貴一、前田利家の佐々木蔵之介、専好の弟弟子和田正人、姑息な三成の吉田栄作と、この作品世界にしっかりはまっています。専好の師匠や、歌の得意な留吉の河原健二、子役に至るまでみなさん好演。専好の優しさと花の持つ力を表すような森川葵ちゃんも目がきれいで適役でした。

で、猿之助なんですけど、かわいかった藤吉郎時代から、自分が最高でなければ気のすまない関白まで、まあオレ様全開でよくぞこのキャスティング。利休を踏みつけるシーン、猿之助は、「ほんとうにいやでした、内心ごめんなさいと思って」と言っていましたが、佐藤浩市は、「(狂言や歌舞伎とちがって)僕みたいな路傍の石ころみたいな役者は、圧がないと芝居ができないので、もっと踏んで、と思ってました」(さすが、記事になりそうなことをおっしゃいます。多くの記事では、「路傍の石ころ」という言葉を避けてましたが、せっかく浩市さんがそう言ってたのにねえ)。いや、この猿之助のドSぶりは、ごちそうさまでした。

ラストの秀吉と専好との対決シーンもみものです。人って自在に青筋立てたり消したりできるんですね(!)。とにかく年齢不詳な、若くて老成している猿之助、豊かな表情と声が見事でした。

池坊全面バックアップらしいお花がきれいだったのはもちろんなんですが、画面の緑がいまひとつくすんで見えたのが残念だったです。もっと木々の緑ってきれいなものだと思うんですよね。

重要な役割を果たす猿の絵、等伯が中国の絵を模写したあの猿で、ほんわかしました。

そして、この後、歌舞伎座行って「浮世風呂」の幕見。またちがう猿之助を堪能しましたです。映画で専好が蓮の描いたなめくじの絵を見て、「なめくじがこんなにかわいいもんやなんて知らなんだ」というようなセリフがあるんですが、きゃー浮世風呂、とひとりにっこり。

 

六月大歌舞伎「名月八幡祭」「浮世風呂」「御所桜堀川夜討弁慶上使」

62017r    六月大歌舞伎、昼の部です。まるで猿之助強化月間(笑)。

最初は、3幕2時間近くの「名月八幡祭」。深川芸者美代吉(笑也)に惚れられているのをいいことに始終無心する船頭三吉(猿之助)。美代吉には立派で寛容な旗本藤岡さま(坂東亀蔵)もいます。越後から出てきた実直な縮商人の新助(松緑)も美代吉に憧れて、深川大祭の支度に必要な100両の金を美代吉に用立てる代わりに一緒に暮らす約束をします。しかし美代吉は思いがけず藤岡さまから手切れ金をもらうことになり、新助にやはり三吉とは切れないと告げ…。

  先日NHKでやっていた二月の「梅ごよみ」同様、深川芸者が主人公で、川船で移動するところや、芸者の意思がはっきりしているところなどが同じです。そしてお話は、あの「かごつるべ」。

松緑が、いい男度を封印して、ひたすら生真面目な、どことなく江戸に卑屈な男を好演。あきらめていた夢がかなうと思ったとたん、奈落に突き落とされた悲しみを力いっぱい表現します。

対比する猿之助の三吉が、自分勝手で適当で軽い男。申し訳ないけど、一緒に飲んでも楽しそうで、私はこっちの方が好きですね、ごめんなさい、新助さん。裸足で土間に降りた足をさっと払う動作とか、細かいリアルな所作や着物の着方がだらしないギリギリなところが素敵(入れ墨ないのかな、なんて思っちゃいました)。

しかし藤岡様も含め3人の男に愛される美代吉、うーん、笑也、きれいなんですけど、ちょっと役に負けてましたね。「梅ごよみ」の菊之助、勘九郎を見た直後だったからかもしれませんが、この役、女形としてはとてもいい役でもったいなかった気がします。むしろ猿之助がやったらおもしろかったかも。

そのほかも、亀蔵の殿様かっこいいし、新助に目をかけてやる魚惣の親分(猿弥)、女房お竹(竹三郎さん!)がとても味わい深く、そのほかの名前は出ていない脇役さんたちもなかなかよくて、いい座組でした。

2つめは舞踊で、「澤瀉十種の内 浮世風呂」。お風呂で三助の猿之助がお湯をかき混ぜたりしていると、なめくじの化身(種之助)が出てきて迫りますが、塩をかけられちゃいます。種ちゃん可憐で踊りもよかったです。衣装も軽く、風呂屋という雰囲気がちょっとほんわかするというか、ああ楽しいな、という舞踊でした。

(その後、幕見でこれだけ見ました。猿之助のふくらはぎがきれいというのでそこに注目したのと、なめくじ種ちゃん中心に。ほんとにかわいい!幕見の前に見た「花戦さ」で、主人公の萬斎さんが、れんの描いた絵を見ながら「なめくじがかわいいって初めて思った」というセリフがあったのですが、浮世風呂思い出しておかしかったです。立ち回りもやっぱり楽しかったです。開演15分前ですが、150番立ち見という盛況でした。)

3つ目は「御所桜堀川夜討 弁慶上使」。弁慶(吉右衛門)は、頼朝の命で、侍従太郎(又五郎)の屋敷にかくまわれている義経の正室卿の君(米吉)を討ちに来ますが、侍従はそっくりの腰元しのぶを身替りにしようとします。しのぶの母おわさ(雀右衛門)によれば、しのぶはたった一度契った弁慶の娘だったのでした…。

吉右衛門さん、隈取の派手な荒事仕様で登場。堂々たる弁慶で、顔を見れば未練が生まれると心を鬼にしてしのぶを斬ります。米吉かわいく、雀右衛門のクドキも立派。又五郎、高麗蔵夫婦もきっちりしていて、見ごたえありました。幼い子が死ぬ物語よりも、女形がきれいで好きかも。

蜷川幸雄シアター「ヴェニスの商人」猿之助のシャイロック

Venis_ninagawa     蜷川さんの一周忌追悼企画で、舞台の映像を4作品、映画館でやってたのを知ったのがつい最近。猿之助がシャイロックを演じた2013年のオールメールシリーズの「ヴェニスの商人」にかけこんできました。蜷川さん、「NINAGAWA 十二夜」で絶賛していましたが、そのあと「じゃじゃ馬ならし」、「ヴェニスの商人」と、すっかり猿之助気に入っちゃったんですね。その後2015年に「元禄港唄」、二人の忙しさを思えば、十二夜の後の3本は驚異的です。

   「ヴェニスの商人」といえば、学生の頃、劇団四季で、先ごろ亡くなった日下武さんがシャイロック、アントーニオを浜畑賢吉、バッサーニオ鹿賀丈史、ランスロット市村正親という、よくできたプロダクションを見ました。日下さんの明瞭なセリフと独特の容貌がヴェニスのユダヤ人という役どころに合っていて、ほかのキャストも生き生きとしていて(ランスロットの市村さんには目を奪われた!)芝居が好きになったきっかけの一つでもある作品です。

この蜷川版の猿之助シャイロックは、さらに舞台で異彩を放っています。ほかの主要キャストが真っ白な凝った衣装なのに、シャイロックは赤と黒、縁のない帽子、これでもかという老けメイク。歯も虫歯だらけで抜けてるし(手だけは若かった!しかもたぶん常に化粧して落としてるからツヤツヤ。白目もきれいに澄んでいます)。常にまっすぐ立たない、視線も斜め、口から出るのは悪態と恨み言。様々な声で緩急自在なせりふ回し、どうかすると見得は切るわにらむわですが、ちゃんとシェイクスピアの人物になっているのはさすが。クライマックスの裁判シーンでは、舌を赤くしていました。

   Venice 全編あれだとどうかと思いますが、時々出てきてぐぐーっと引き付けて、好きなだけタメたり間をとった芝居をしていく猿之助。それが形だけでなくて、紛れもなく虐げられた異邦人であるシャイロックの悲しみや恨みがあふれています。裁判後の退場も花道のように客席からでした。そして、ラストはこの演出オリジナルで、シャイロックが再登場、改宗させられた十字架のネックレスをねじ切って握りしめ、鮮血が流れます。ほのぼのとした指輪のシーンから、どーんと、シャイロックの悲劇に連れ戻される場面です。

カーテンコールは役者もちょっと素に戻ったりするものですが、彼はスタオベを経てもシャイロックのままで、そこがまたおかしかったです。。あのドヤぶりがダメなひともいるんでしょうが、現代劇においても天才としかいいようがない。

上演時のインタビュー動画がありました。お顔ツヤツヤの好青年(一癖あり)です。何なの(「ヴェニスの商人」は明治に二代目左団次が演じた日本初の西洋劇だったということをひいて、歌舞伎でこの作品をやりたいと、これまた猿之助らしいコメント)。

Photo    これで女形するとここまできれいになれるんですからね(長塚さんの写真集より)。

ほかのキャストはポーシャ(中村倫也)、アントーニオ(高橋克美)、バッサーニオ(横田栄司)等。とくにポーシャはだんだんかわいく見えてきて、裁判部分も男装の美女に見えます。ランスロットのシーンが今一つだった以外は、皆さんきっちり演じてますが(若干、アントーニオとバッサーニオがなぜそこまで親友なのかわかりにくい)、やや印象が薄いのはまあ猿之助の熱演のためでしょう。

シネマ歌舞伎「東海道中膝栗毛<やじきた>」

Photo   シネマ歌舞伎「東海道中膝栗毛<やじきた>」、昨年8月の歌舞伎座納涼歌舞伎第2部の演目が、早くもシネマ歌舞伎に。封切り前日に発表された今年8月の納涼歌舞伎では続編をやるそうで、それでこのタイミングだったんですね。

染五郎、猿之助の弥次さん、喜多さんの珍道中っていうだけで、そこそこ面白そうだとは思ったんですが、いやー、ここまで吹っ切れたドタバタだったとは。渡辺保さんの批評は読んだんですが「ストーリーが面白くない」とか、すごいマジメな批評だったので、こんなんだとは思っていませんでした。

染ちゃんはドリフターズが大好きだったそうで、「8時だヨ!全員集合」を松竹の大道具さんが全力で再現し、役者がまた楽しそうに全力で演じていて、懐かしくておかしくて、大笑いでした(東劇じゃなかったせいか、お客さんは少なかったんですけどね)。ていうか、8時だヨ!って、歌舞伎の手法をほんとよく使ってたんですね。

染五郎、猿之助の息の合った喜劇役者ぶり(化粧もおかしい)は当然ながら、染五郎息子の金太郎くんと、猿之助甥の團子ちゃんの上品な坊ちゃんたちのけなげな道中がかわいくて。金太郎くんはほんとに美少年だし、團子ちゃんは末楽しみなせりふ回し。出番やセリフも多く、夏休みの1か月、休みなく出ていたんですね。

脇は澤瀉屋を中心にコメディセンスたっぷりの皆さん。右團次はあの白鬚メイクを惜しげなく披露してくれるし、壱太郎は踊るし、獅童は獅童にしかできないような吹っ切れぶりだし、弘太郎ちゃんの読売屋文春(ふみはる)もうまいし、ほんと、面白かったです。

ラスベガスがどーんと出てきますが、ラスベガス大好きな猿之助(共同脚本と演出にクレジットされてます)の趣味なんでしょう。ドリフとラスベガス、染猿の趣味全開ですが、演舞場でもなく、歌舞伎座でこれをやったとはねえ。

市川染五郎「染五郎の超訳的歌舞伎」「人生いろいろ染模様」長塚誠志「四代目市川猿之助」写真集

Photo    染五郎の本2冊、まず2013年の「染五郎の超訳的歌舞伎」、人気演目についての解説集です。古典、名作合わせて16作品のうち、初心者の私でも14作品は見たことがあるもので、花形役者ならではの難しさや工夫が見えて、とても興味深かったです。

例えば、「梶原平蔵誉石切」。刀剣屋に行って、店の主人の目利きを目の当たりにし、目が光るのを参考にしたりします。「女殺油地獄」での心情なども興味深いです。

さらに復活狂言、新作が8つ、それらはほとんどみたことがありませんが、染五郎さんの歌舞伎に対する情熱や、新作を作る苦労が描かれていて、毎月舞台に立ちながらの超人的な活動を垣間見ることができました。

カラーも含めて写真もたくさんあって、すっきりと姿のいい染五郎がたくさん見られます。そして、巻末に猿之助との対談。「亀治郎でした」にも染亀の対談が載ってるし、この二人って、そんなに仲良かったんですね。そういえばすごい共演してるし、古典やりながら、新作の座頭をこの若さでやっているところも同じだし、同じ暁星出身だそうですし。

ところで、実はわたくし、染五郎さんって、初めはそんなに好きじゃなかったんですよ。何やっても無難にお上手ですが、やっぱり今見るべきは大御所の皆さんだし、いっぱい出てるからありがたみもやや薄いし。「阿弖流為」でメイクもあって、超かっこいい、と思い始め、「碇知盛」や「伊勢音頭恋寝刃」でかなり好きになり始め、そういえばあれもよかった、これもよかったと思い、「決闘!高田馬場」で決定的になりまして。ああ、これからも楽しみです。

Photo_2  もう1冊は、2015年のエッセイ集「人生いろいろ染模様」(←ちょっとこのタイトルは…)。こどもの頃からの歌舞伎好き、勧進帳への憧れ、ドリフターズ、息子金太郎くんと娘美瑠ちゃんのこと、家でも幸四郎そのもののダンディな父のこと。2012年の舞台での大怪我からの生還。新感線への出演の話も面白かった。

この人がいかに歌舞伎が好きで、歌舞伎のことばかり考えているか、よくわかる本です。

巻末の対談に壱太郎。彼も若いのに、すでに脚本・演出を手掛けている歌舞伎好きなんですね。今何を見ても勢いがあって楽しいのもなるほど。

Photo_3  そして今いちばん見たい役者、猿之助の写真集が「四代目 市川猿之助」です。2002年から2012年までの、自主公演「亀治郎の会」の舞台の袖の簡易スタジオで撮影したものだそうで、舞台で演じたそのままのオーラが、黒い無地の背景に浮かび上がって、たまりません。この人、立ち役、女形、舞踊と役の幅が広く、とくに女形はそれぞれに美しいうえに、その役の心根が現れていてすばらしい。あー、どれも実際に演じるのを見たい(ちょっとは見てますが)。

そういう中で、團十郎さんのオペラ座公演(2007年)に参加した際の、セピア色の写真の素顔(青年らしい気概に溢れている)、どことなくかわいらしい「紅葉狩り」の山神もいいです。このときは、出演者一同がたどたどしいフランス語で一生懸命口上を述べる中で、暁星での素養なのか、猿之助は最後に一際長い口上で、しかも、「オペラ座の怪人」が好きなのでオペラ座でやるのはうれしいけどシャンデリアが落ちてこないか心配だ、というもー私的にはツボ!なジョークで一人観客の笑いまで取っていたんですよね。

この写真集、猿之助自身の短いエッセーがいくつか載っていますが、NYに行ってミュージカルをたくさん見て感心した話があり、中でも一番RENTに心ひかれたというのが、これまた私的にはうれしい内容でした、というかさすが。

Photo_5   ところで、昨年夏に、2004年の「新選組!」にはまってから、タイムスリップしたみたいになって、当時の三谷幸喜のエッセイ「ありふれた生活」3から5までを読みました(今まで14巻くらいまで出ているのに)。この間、2006年の「決闘!高田馬場」もあったので、その制作過程の話などが出てきて楽しくて(私、演劇の反芻を文字によってするのが好きなんですね)。 

高田馬場の稽古場では、染亀勘の3人が、家族のように仲が良く(友人なら仕事場ではもっとよそよそしいはずだと言います)、よく聞いてみると歌舞伎の話しかしていない、なんて話が出てくるですよ。

ミュージカル「オケピ!」を制作してから、山本耕史に4年後1年間あけておいてくれ、と言い、すでに進行していた「新選組!」の土方歳三役に(当時まだ無名だったのに)強く推薦したなんてこともはっきり書かれているし。

はからずも、今推しの、山本耕史と猿之助、染五郎への賛辞についニヤリとするのでした。

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