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2017年3月

三月大歌舞伎「引窓」「けいせい浜真砂」「助六由縁江戸桜」

2     今月の歌舞伎座、夜の部は海老蔵の助六です。12世團十郎の助六のDVDを見て以来、いつかこの花やかな歌舞伎を見たいと思っておりました。2等の一番前の列、賑やかな河東節、花道に並ぶ傾城の行列、舞台に並ぶ傾城のL字型に囲まれて、目も耳も幸せでした。

最初は成田屋ならではの口上。絵にかいたような役者右團次さんの美声ですよ。河東節300年の由来も入った口上をよどみなく美声で語る右團次さん、かっこいい。  

そして舞台に傾城(新悟、右近、廣松、児太郎、梅丸)がそろいます。みんな若くてキレイ。廣松は意外でしたし、梅丸かわいかったー。この子たちはずーっと舞台で座っているんですが、梅丸と右近はかわいらしい表情なのに、児太郎ちょっと怖かったです。睨まないで。

そして国立劇場の雪の中から駆け付けた雀右衛門の揚巻。あの金のフサフサがついた重そうな盛装。雀右衛門さん、ふっくらとしたお顔が立派。妹分の白玉は梅枝で、これも堂々としていました。

意休は左團次ですよ。あーもう、彼の意休を永久欠番にしたい。オペラグラスでじっくり見ても、あの鬘、髭、化粧、派手な衣装がお似合いで、意休としかいえません。男伊達の男寅ちゃんもかわいかった。

ここまでひっぱって、いよいよ助六の登場。海老蔵、助六のシンプルな化粧が似合って、スラリとした水も滴るいい男。ひとつひとつの所作、表情が決まっています。私史上、最高に美しい舞台上の人物ベスト5に入りました。

そしてもう一人見たかった菊五郎さんの白酒売り、絶品です。兄弟にしては年が離れていますが、仲の良い伯父と甥のような。温かな雰囲気がほほえましく、例の股くぐりも、足の長さのちがいが笑えます。くっと背伸びをして股くぐりをさせても、品を失わないのが菊五郎さんです。

くぁんぺらの門兵衛は歌六、この方も国立劇場の伊賀越道中双六との掛け持ちで、門兵衛としては、ちょっと重々しい感じがしました。通人は亀三郎。通人というより、すっきりといい男なんですが、今何をやっても勢いがあるような気がします。「もう帰る、名を変える」とひっかけて、大拍手をもらっていました。最後には毅然とした母満江の秀太郎さん。人気者なので場内盛り上がります。

ここに挙げた以外にも、ちょっとした役にたくさんの役者さんが出ていて、筋書(舞台写真がほしくてこの日に買った)みてびっくりしました。さすが助六、豪華でめったに出ない演目のわけですね。

ラスト、探していた刀を持っていることがわかった意休を追って駆け出す助六、見守る揚巻、さあこれから、という気もしながらも休憩なしの2時間、たっぷり助六ワールドを楽しみました。

さて最初の演目は「双蝶々曲輪日記」で一番上演されるという「引窓」。人を殺めて逃げてきた相撲取り濡髪長五郎(彌十、立派に相撲取りに見えます)は、実母(右之助)に会いに来ます。その実家には異母兄与兵衛(幸四郎)とその妻お早(魁春)がいます。(この二人「双蝶々曲輪日記―新清水浮無瀬の場」で恋仲だった二人なんですね)。お早と母は仲がいいです。与兵衛は郷役人に取り立てられますが、その最初の役割は、長五郎をとらえることでした

  なんとか長五郎を逃がそうとする右之助、とらえてくれと言う長五郎、義理と役目と情愛の板挟みになる与兵衛。「一本刀土俵入り」を思い出す、幸四郎、魁春と右之助の温かくてせつない、でも後味のよいお話でした。右之助さん大熱演。ただ、ちゃんと「歌舞伎見物のお供」でもう少し詳しくお話を予習していけばよかったと後悔。

  真ん中は短い「けいせい浜真砂」。。「浜の真砂は尽きるとも…」という名台詞以外、内容はさっぱりわからないんですが、歌舞伎の本ではよく写真を見る「楼門五山桐」の五右衛門がその娘の傾城に置き換えられたというものですねちょっと髪の乱れた藤十郎さんと、眼福な仁左衛門さん。豪華な舞台装置と、上方の大御所お二人で、とにかくめでたい感じがしました。

  というわけで、三月大歌舞伎、昼夜ともに豪華な顔ぶれと充実した演目で大満足でした。これに国立の「伊賀越道中双六」、ごちそうさまでした。

ミュージカル「コメディ・トゥナイト」@新橋演舞場

Photo  新橋演舞場で愛之助の初ミュージカルって、舞台は江戸だしミュージカルとしてはイロモノ(しかもこのビジュアル)、なんですが、ソンドハイム作曲のブロードウェイ作品を宮本亜門が演出するというので、見てまいりました。ソンドハイムー亜門といえば、あの「スウィーニー・トッド」ですもんね。

  タイトルは「コメディ・トゥナイト―ローマで起こったおかしな出来事<江戸版>」、もとのブロードウェイの原題は「A Funny Thing Happened on the Way to the Forum」、コメディアンが開口一番「A Funny Thing Happened on the Way to the Theater」、と言うのからとっているそうです。「今日この劇場来るまでにこんな面白いことがあったんですよ」って、日本でもよく言いますよね。「コメディ・トゥナイト」は印象的なメロディの、カンパニーみんなで歌うナンバーで、ここからタイトルをとったのはうまいです。

ブロードウェイの初演は1962年、ソンドハイムはまだ30歳そこそこの若さで、トニー賞を作品賞はじめ6部門受賞(あのハロルド・プリンスもプロデューサーとして受賞)したヒット作です。舞台はタイトルのForumからもわかるようにローマ。これを江戸に翻案してるんですね。1966年には映画にもなってます。

薬屋の丁稚 丁吉(愛之助)は、主人夫婦(松田美由紀、高橋ジョージ)の留守の間、先輩丁稚 金吉(ルー大柴)のいうことをきいて息子比呂(内博貴)のめんどうをみるように言われますが、ヒロは隣の女郎屋(主人はダイアモンド・ユカイ)にいるお美津(平野綾)に焦がれていて、彼女と自分をとりもってくれたら、丁助を自由にしてやると約束します。しかしおみつはすでに荒尾(鈴木壮麻)に身請けされることになっていて…。薬屋の女郎屋の反対側の家の主人(徳井優)は、赤ん坊のころにさらわれた二人の子どもを探して旅に出ていましたが、久しぶりに帰ってきます。その家を便利に使っていた薬屋の面々は…。

と、3軒並んだ家のセットだけで、愛之助以外も濃いメンバーでドタバタが進んでいきます。とにかくソンドハイムの音楽が、軽快で心地よく、初めて聞いても楽しい歌ばかりで、それだけでも十分ミュージカルとして成功といえましょう。

愛之助、狂言回しと主人公を兼ねている役柄なので出番も多いんですが、さすが体のキレ、声のハリ、出てきた時の華やかさと座長らしく、歌も思った以上にうまくて、とってもよかったです。

ヒロインの平野綾は、歌はもちろんコメディエンヌとして最高ですし、鈴木壮麻がまた濃いキャラで歌の見せ場もばっちり、ユカイや高橋ジョージ、ルー大柴は、各自の持ち味がキャラに合っていて楽しかったです。「男はみんな若くてかわいい女中が大好き」の歌、ヒドイ内容なんだけど、最高でした。内博貴は、いったんジャニーズをやめた人ですね。すらっと背が高くて歌もよかった。こうした中でも、異彩を放って大ウケだった徳井優も面白かった。

こうした個性的なキャストやアンサンブルをうまくまとめて、しっかり笑いをとって、さらに松田美由紀にも吹っ切れた演技させて、でもちゃんとミュージカルの楽しさを味わえる仕掛けをつくって、宮本亜門さん、やっぱりすごい。

後、特筆すべきは衣装、メイクだと思うんですよ。いちおう江戸で着物ではあるんですが、着物の柄やももひき(タイツ)が色鮮やかで、丁稚の2人もちゃんと目立っているし、このミュージカルの設定に合っていて、ドタバタがすんなり受け入れられるような衣装になってて面白いと思いました。チラシの小さい字で探したら、なんと、小篠ゆまさんですよ。コシノヒロコの娘で、デザイナーとして活躍している方。カーテンコールでユカイが自分のヘアスタイルを「草間弥生か、コシノジュンコか」って言ってたのを思い出すとおかしいですね。

 

関容子「勘三郎伝説」

Photo  エッセイストで歌舞伎関係の仕事も多い関容子さんの、勘三郎さんをしのぶ本です。関さんは、勘三郎さんより(たぶん)20歳くらい年上で、幼い勘三郎の天才ぶりから、最も脂の乗り切った時期の勘三郎をしっかり見つめていた方です。

  先代の勘三郎さんについての本もある著者ならでは、中村家の温かい家族の様子がうかがわれて、ほのぼのとします。先代は、18代目の天才ぶりを見ながら、厳しく指導することが、ご自身の務めと思っていたのでしょう。

  18代目の人間的な魅力はもちろんのこと、丸谷才一、ピエール・カルダン、ロバート・デニーロたちとの交流も興味深いですし、仁左衛門、團十郎、海老蔵、獅童との意外と濃い関係も面白く読みました。勘三郎さん、舞踊と世話物が絶品なのはもちろんですが、盛綱陣屋や実盛物語などの義太夫狂言でも、評価されていたんですね。また、傾城反魂香のおとくなどは、行き届いた女房ぶりに吃又役の役者から絶賛されるなど、いかに演ずる役の幅が広かったかということがうかがわれます。

  こうした、役者関係の本は、読んでいて自分の鑑賞体験と照らし合わせて面白いのもあるのですが、自分が感じとることのできなかった芝居の見方を教えられるというのも大きいです。舞踊に関しては、まだまだだな、と思いました。

勅使河原三郎演出オペラ「魔笛」@神奈川県民ホール

Photo  日本でもっとも上演機会の多いオペラという「魔笛」、内容も楽しそうだし(「のだめカンタービレ」の番外編でやってました)、横浜だしそんなにチケット高くないし、というので行ってきました。

  演出の勅使河原三郎さんは、自らのダンスカンパニーKARASを主宰するダンサー・振付家なんですね(詳しく知らなかった)。この魔笛では、演出のほか、装置、衣装、照明を担当していますし、クレジットはないですがバレエも彼のカンパニーですから、ビジュアル部分はすべて勅使河原ワールド。アンコールで出てきた勅使河原さんはですね、小柄ながら一流の芸術家の持つオーラをまとっていて、強烈な印象でした。

舞台装置は大小の輪が移動するだけの抽象的なもの、この輪が立派なので、貧相な感じではないです。衣装がまた、主人公はシンプル、ザラストロと夜の女王、侍女は豪華、その他は被り物(!!)。モノスタストスや童子の方、とてもお顔は素敵なんですが、とんでもない恰好です。この計算された全体のビジュアルがなければお笑いか、なんですけど、ギリギリのところで踏みとどまっているというか。強いて言うと、タミーノの衣装はね、なんか嵐の私服みたいで、あまり好きではありませんでしたが。

KARASの佐藤利穂子さんが、歌以外の地の部分をナレーションでつないでいくという手法で、お話は効率よく進んでいきます。この方、ちょっと宮沢りえに似た声が心地よく、女優さんかなと思うくらい素敵なナレーションでした。歌はドイツ語字幕なんですが、ナレーションが日本語なので、入ってきやすくて、初心者にもとてもわかりやすかったです。

一方、流れが歌部分とナレーションに分断されてしまうので、演技の部分が奪われて、見ている方としてはキャストへの思い入れが減殺されてしまうというマイナス部分でもあるんですよね。そういう点からすると、パパゲーノ(宮本益光)は有利というか、それでも明るさ、かわいらしさが発揮できていて、宮本さんの個性もあるのでしょうが、とっても楽しいパパゲーノで(しかも、出てきたとき、この方ほんとにオペラ歌手?と思うようなイケメンですよ)、アンコールの拍手も一際大きかったです。

そのほかのキャストは、タミーノ鈴木准、パミーナ嘉目真木子、夜の女王 安井陽子、ザラストロ大塚博章、モノスタストス青柳素晴のみなさん。タミーノ、パミーナは若い美男美女で、現代風のこのオペラに合ったビジュアル(スカラ座などみるととても王子には見えませんからね)。最初に書いた4人は2日間の公演で日替わりなんです。ミュージカル公演と比べると驚き。練習して、たった一日なんて。

バレエダンスも、群舞とソロがちょうどいいバランスで入ってきます。衣装もちょっとコロスのような雰囲気で、目で見る楽しみを加えてくれていました。ここでも利穂子さんがキレのいい動きを見せていて、大活躍でした。

モーツァルトの親しみやすいながら、意外に精神的な深さを感じるパートもあって素晴らしい音楽、普段ミュージカルしか聞いていないのでレベルの違うオーケストラ(ごめんなさい)、楽しいオペラでした。

長谷部浩「天才と名人 中村勘三郎と坂東三津五郎」

Photo  勘三郎、三津五郎という、これから円熟期に、というときに亡くなった名優二人と同世代の演劇評論家、長谷部浩さんの著書です。

  血筋と才能、努力と人柄、愛嬌、プロデュース力とすべてに優れた天才勘三郎と、知的で器用で踊りの名手、年とともに役柄を広げてきた名人で勘三郎のよき相方だった三津五郎。二人を比較したら、歌舞伎ファンには面白い本になるというものですが、読んでみると、比較というよりも、幼い頃からの二人の舞台の実績を年代記風に追いながら、役者としての軌跡を明らかにしていく、二人の評伝になっています。

  私、最近歌舞伎を見始めたにわかなもので、かろうじてシネマ歌舞伎でお二人の名演を見たり、歌舞伎の本の写真で、彼らの演じた役を見て、想像するしかなかったわけですが、このように克明に時系列で見せていただくと、あれやこれやがつながって、たいへん面白かったです(三津五郎さんはちょっとだけ見ています。「寺子屋」の武部源蔵とか、勘九郎との「棒しばり」とか最後の歌舞伎座出演となった「たぬき」とか)。

  勘三郎さんがどのように活躍の場を広げ、新しい歌舞伎の場をつくっていったか、コクーン歌舞伎がどういう意味を持っていたか、野田歌舞伎「研辰の討たれ」の成功、三津五郎さんの著書「歌舞伎の愉しみ」(著者が聞き書きしています)の印象的な記述の裏側など、興味深かったです。

  演目の記載などみていると、本当にハード。昼夜25日間、休みなしで、その合間に新しい演目のけいこ、プロデュース、三津五郎さんは舞踊の家元の仕事、そして若手の指導。役に着けなかった時期があるからこそ、貪欲に何もかもをこなしていたんだなあと思います。

  勘三郎さんが亡くなった時の三津五郎さんの本当に悲しい弔辞、そして「彼の業績はマスコミが持ち上げるコクーン歌舞伎や平成中村座のような初心者向けのものではなくて、歌舞伎の芸の神髄を伝えるべき本当の意味での歌舞伎役者の凄みを持っていた人」という述懐が、ちょっと歌舞伎を知ればその通りだと思うことをおっしゃっていたのを読んで、改めて残念な気持ちになりました。

  著者の長谷川さん、記述からうかがわれるのは、人気役者との個人的な関係に甘えない、上品なシャイなお人柄で、それもこの本の魅力になっています。

「通し狂言 伊賀越道中双六」@国立劇場

Photo  26年12月に44年振りに復活させた「岡崎」が評価され、歌舞伎として初めて読売演劇大賞をとった「通し狂言 伊賀越道中双六」の再演というので行ってきました。

  有名な荒木又右衛門の仇討ち(といっても詳しくは知らない)を基にした全十段の大作(西への仇討ちの旅を双六に見立てている)ですが、この通しは、発端から仇討ちまでを、5幕4時間25分で見せます。現代での通しの再構成とあって、話もわかりやすく、間延びしたところがなくて見やすいながら、義太夫狂言の魅力もしっかり伝えてくれる作品になっていました。

この感覚、どこかでと思ったら、忠臣蔵に近いです。もっとコンパクトな、1日で楽しめる感じ。

以下、詳しめのあらすじ。

序幕の舞台は相州鎌倉。武術師範の和田行家(橘三郎)の名刀正宗を狙う沢井股五郎(錦之助)は、行家を殺して逃げます。行家の妻京妙さんが立派でした。二幕、円覚寺にかくまわれている股五郎を追って、丹右衛門(又五郎――「マタゴロー」というセリフが多いので紛らわしい)がやってきますが、正宗と交換のはずが、沢井城五郎(吉之丞)や野守之助(歌昇)にだまし討ちに会い、正宗は奪われ、股五郎には逃げられます。瀕死の丹右衛門は、行家の息子志津馬(菊之助)、娘お谷(雀右衛門)に仇討ちを託し、お谷の夫政右衛門(吉右衛門)に助けてもらうように言い残して自らとどめをさします。

三幕、政右衛門と待ち合わせるため三州藤川の関の茶屋にやってきた志津馬を一目見て、関所の下役人山田幸兵衛の娘お袖(米吉)は一目ぼれ、幸兵衛宛ての手紙を運ぶ奴助平(又五郎)をごまかして、お袖は志津馬の関所越えの手助けをします。又五郎さん、先ほどの義に厚い見事な武士から、軽妙な奴、だんまりも楽しく、前半の舞台を引き締めました。

四幕がいよいよ岡崎、幸兵衛(歌六)の家。お袖に連れられて志津馬がやってきます。幸兵衛宛ての手紙は、股五郎への助力を頼むものでしたが、志津馬は股五郎は自分だと名乗ります。そこへやってきた政右衛門、追手を柔術で撃退する姿を見て幸兵衛は感心し、幼い頃武術を教えたが出奔してしまった庄太郎と知って邂逅を喜び合います。股五郎の味方となると言う政右衛門。幸兵衛が出かけた後、幸兵衛の妻おつや(東蔵)と旧交を温める政右衛門、干してある煙草葉を刻みます(「莨切り」という場面)。

そこに、お谷(雀右衛門)が、政右衛門に生まれたばかりの巳之助を見せようとやってきます。雪の中難儀するお谷、正体を知られまいとする政右衛門はお谷を追い出し、赤子だけはおつやに温められます。しかし帰ってきた幸兵衛が身に着けているもので巳之助の素性を知ると、「政右衛門との戦いに有利となるために人質にする」というと、政右衛門は、仇討ちの邪魔、と赤子を刺し殺すのでした。

そこまでの覚悟を知り、幸兵衛は股五郎の行方を政右衛門、志津馬に告げます。このあたり、何故嘘がばれるのか、わかりにくいと思われるでしょうが、芝居のうえでは納得してしまいます。覚悟したお袖は出家し、戻ってきたお谷は悲嘆にくれます。

この1時間40分にわたる一幕、役者を得て、よくできています。いい男に惚れるかわいいお袖(米ちゃんがほんとにかわいくて)、幸兵衛を前に虚実のかけひき、「競伊勢物語」を思い出す、政右衛門とおつやの情愛、そして、美女を苛める場面がうまいという(!)作者近松半二らしい(妹背山女庭訓の三笠山御殿を書いた人ですからね)、お谷の苦難。本当に寒そうで、私、寒さの中の空腹っていう、マッチ売りの少女のシチュエーションに弱いのでせつなかったです。

そして、仇討ちのためにわが子さえ手にかける政右衛門、それに感じて義理を曲げる幸兵衛。吉右衛門さんと歌六さんの名場面です。「歌舞伎見物のお供」に、岡崎が出ないのは、赤子を殺す陰惨な物語と、それを見せる役者が今はいないから、と書かれていましたが、どうして、この見事な復活を見ると、このお二人はそれをやり遂げたってことですね。

終幕は、15分弱で仇討ちが遂げられてスカッとして終わります。ああ、面白かった。

(ところでお谷の雀右衛門さん、この後歌舞伎座行って助六の揚巻ですよ。拵えだけでもたいへんでしょうし、吉右衛門さんの妻の後、海老蔵助六の情人なんて、歌舞伎役者ってすごすぎますね。)

三月大歌舞伎「明君行状記」「義経千本桜 渡海屋 大物浦」「神楽諷雲井曲毬 どんつく」

2017 久しぶりの歌舞伎座、昼の部です。先月はなんといっても桃太郎、中村屋のテレビ特番ですっかり見た気になっていましたが、あまりの大人気で、ちょっと後悔しました(といっても、幕見はとんでもない時間に売り切れていましたね)。

  1本目は、「明君行状記」。備前岡山藩主の池田光政(梅玉)の家臣青池善左衛門(亀三郎)は、禁猟地で鳥を撃ち落としてしまい、謹慎しています。明君の誉れ高い藩主は何とか自分の命を救おうとするのではないかと思う善左衛門は、そのような情ではなくあくまで法で裁いてほしいと藩主に迫ります。

1場は蟄居している善左衛門、2場は悩む池田公、3場はいよいよ対決と、演劇的な骨格のある、真山青果のセリフ劇なんですが、(見ながら真山青果っぽいと思ったらやっぱりそうだった)、理屈っぽくて先が見えてしまい、まあ上演機会が少ないのもむべなるかな。

ただ、大きな舞台いっぱいのセットの中はキビキビした武士の世界。ほぼ主役の善左は青臭いことばっかり言ってそりゃ殿様に失礼じゃないかなんですけど、襲名を控えて最近活躍の亀三郎さんが、そういう性格ながらもさわやかさを失わずにしっかり演じてました。明君の梅玉さん、いかにもそういう感じの殿様ですし、老臣の團蔵が場面を引き締めてました。

2本目は仁左衛門さまの「渡海屋」「大物浦」です。昨年6月に歌舞伎座で染五郎、猿之助 で、その前年に菊之助、梅枝で見ておりますが、いよいよニザ様を見る日がやってきたと感激。典侍の局は時蔵です。

嵩高い銀平の衣装で堂々と立つニザ様。相模五郎(巳之助)、丹造(猿弥)を一蹴し、輝くばかりの知盛の装束で再登場するニザ様。やはり当たり役だけのことはあります。

そして大物浦。傷ついた知盛の化粧、衣装の血の表現は、役者によって違うんですね。今回のニザ様は衣装の血は大目で、顔もリアルより。登場から海に消えるところまで、練り上げられた動き。碇は誰よりも重くみえました。義太夫も、翔太夫、東太夫、愛太夫、谷太夫のみなさんが盛り上げてうっとり。

安徳帝は右近ちゃん。昨年より一段と大きくなって、ちょっと安徳帝じゃないんですが、落ち着き払ったたたずまい。ただ、大きいんで、最後義経の梅玉さん、抱っこたいへんそうでした。

Photo最後は「どんつく」。三津五郎さん三回忌追善公演と銘打った、三津五郎家の出し物です。

巳之助、松緑を中心に、菊五郎、時蔵、魁春、亀寿、彦三郎などが並び、楽しく踊ります。曲芸の方はあんまりうまく行ってませんでしたが、明るい雰囲気で、重苦しい碇知盛の余韻を吹き飛ばした感じでした。

そうそう、おなじみの顔を確認していたら、一人、こんないい男いたっけというシュッとした色男がいたんですよ。錦之助じゃないし、と思ったら、目に力を入れていない海老蔵でした。いや、普段目を見開く顔しか認識してないというのと、やっぱりどんな顔していてもいい男なんですよ。あーやっぱり「助六」楽しみ。

さて、みっくんの踊り、ぐぐっと腰を落とした動きにキレがあります。相模五郎といい、ほんとに一生懸命にお役を務める熱意が伝わってきて、見ていて気持ちがいいです。

それにしても、三津五郎さんの3回忌の追善公演とは、ふっと悲しくなり、そしてもう一度みっくんを見てガンバレ、と思うのでした。

 
 

映画「ラ・ラ・ランド」IMAX

Photo   先日のアカデミー賞授賞式の余韻も冷めやらない(6部門受賞!作品賞も惜しかった!)「LA LA LAND」をIMAXで見てきました。このしゃれた言い回しのタイトルは、ロスと「現実離れした夢の国」というのをかけてるんですね。ロスを舞台にした、そういう映画です。

   評判の冒頭シーン、高速道路で渋滞した車から出てきた人々のダンスは圧巻です。切れ目のわからない長回し、最後主人公二人の登場で終わるこのシーンだけのためにもう1回見に行きたいくらい。

      予告編でもその魅力があふれていた、ロスの明るい日差しと鮮やかなドレスの色。ロスには行ったことがありませんが、話に聞く乾いた空気と明るさが、画面からこぼれていて、素敵でした。やたら車で移動するのがまたらしいというか(主人公ミアがいいプリウスに乗っているのは、カフェでバイトしてるのにけっこうお金持ちなのかなと思ったりして)。

   そのミア役のエマ・ストーンがとにかく魅力的で、1分で魅了されました。大きな緑の目と口が、きめ細かい感情を表現してすばらしい。この人、あと何十年か、何本も傑作を生みだしていくことでしょう。ブローウェイで「キャバレー」のサリーを演じていたそうですが、そうか、サリーって、ライザ・ミネリのような人じゃなくて、健康なお嬢さんが演じるというパターンもあるんですね(長澤まさみもありだったのか)。

相手役のライアン・ゴズリングも、CM等で見た時よりずっと魅力的。ジャズをこよなく愛する繊細なセブを魅力的に演じています。ピアノを猛練習したということですが、未経験者が数か月の練習で、あれだけ弾けるようになるもんでしょうか。すごい人です。

二人の演技のすばらしさ、バンドで忙しくなったセブとミア(エマ)が言い争うシーンは、愛し合っているが故の行き違いが切なくて、泣いちゃいましたよ。

セブが加わるバンドのボーカルのキース、歌うまいなーと思ってたら、ジョン・レジェンドという本物のミュージシャン。昔、クロスオーバーとかフュージョンとかが好きだった頃を思い出しました。売れることだけを考えたバンドじゃなかったのに!

ミュージカルということが強調されてますが、見た印象は、ジャズのシーンも多く、音楽の映画、ということです(IMAXで音もよかった!)。歌って踊っているシーンも多いんですが、感情とか場面の表現として歌と踊りが使われているというだけで、歌で感動させるということが優先されてはいないというか。パンフレットを見たら、完璧な歌とダンスというより、役としての感情の発露が優先されていたことにも触れられていました。井上芳雄さんの感想が、さすがミュージカル界の第一人者としてとても的を得ていると感じました。

そう、新しいミュージカル映画の誕生と評判ですが、パンフレットで往年のミュージカル映画と紹介されているのは、「雨に唄えば」、「トップハット」、「キャバレー」、「シェルブールの雨傘」など。パンフレットでは、「ミュージカル映画もジャズのように死につつあるジャンル」なんて書いているライターがいましたが、ブロードウェイ原作の映画を、このジャンルから排除しなくても、十分映画として成功している作品はたくさんあるのになあ(「プロデューサーズ」、「シカゴ」、「NINE」、「バーレスク」…「RENT」は除くにしてもですよ)とか、何言っちゃってんのと思いました。

<この映画の感想、ミュージカルだけどよかったとか、ミュージカルって感じはそんなになくてって、もーミュージカルというだけでハンディがあるような言い回しが多くて、ミュージカルラバーとしては悲しいです。いいミュージカルはいいお芝居に歌で感動をさらに増幅してくれるものなんですってば>

(さて、ここからネタバレです)

この映画、あまりに評判で、映画の楽しさを堪能できるってことで、なんとなくハッピーエンドだと思ってたんですよ。それが、あの結末!ミアがフランス行くのはいいけど、帰ってくるの待ってればよかったんでしょ。ミアってば、なんでどうして!

だいたい、セブは、とりあえずキースのバンドでお金ためてジャズのお店を出そうとがんばってたのに責めるなんて。ミアは彼氏には不自由しないタイプのようでしたが、セブの、前のグレッグみたいなルックスや育ちがいい、でもつまんない男と結婚して、というところにがっかりでした。

アナザーエンディング、かえって悲しすぎます。それでもってその1シーンをCMに使うなんて!ああ、やっぱり二人がハッピーエンドにしてほしかったです。

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