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「火のようにさみしい姉がいて」@シアターコクーン

Hinoyou

大竹しのぶと宮沢りえが蜷川幸雄演出作品で初共演ということで話題の、「火のようにさみしい姉がいて」を見ました。

脚本は清水邦夫で、1978年初演のものです。清水邦夫といえば、別役実と並び、私が高校の演劇部だった頃の憧れの脚本家でした。普通の人の普通のやりとりが不条理に展開し、均衡は破られ欺瞞は暴かれ、引き込まれます。もちろん、青春や家族の葛藤などを描いた普通のお芝居をやる学校もたくさんありましたが、私の学校は、なぜか先輩の代からそういういわば背伸びした脚本が好みでした。

地方の高校生がプロの演劇を見る機会はそう多くはなく、まして不条理劇なんてほとんど見たことはありません。清水邦夫作品ではないけれど、中途半端な形で頭でっかちな芝居をやっていた私は、卒業後上京してからいろんな演劇を見るようになって、ああ、こういう風にやればよかったのかーと思うことが何度もありました。

さて、そんなことを私が思い出すのも恐れ多い大御所演出家の蜷川さん、実は舞台を見るのは初めてだったんですが(彼の拠点が家から遠いさいたま芸術劇場というのもあって―― ニノの映画「青の炎」しか見てませんでした)、この脚本をこのキャストでやるなら、これがベストだろうと思うような、いかにも的確な舞台だと思いました。とくに1幕の床屋での地元の老人たちとのやりとり、緩急や空間のつくりかた、リアルな台詞にちょっとまぶした異常性、ぜいたくな鏡や照明の使い方、かといって演出だけが目立つようなこともなく、うなるような職人芸でした。

お話は、オセロを演じる俳優である夫(段田安則)が楽屋でナーバスになっていると、元女優の妻(宮沢りえ)がやってきます。妻は妊娠22か月だと言っていて、夫は妻の精神状態に不安になっていますが、妻は逆に夫には転地療養が必要だと思っており、芝居が終わった後、彼の故郷である日本海側の街に、20年ぶりに帰ることにします。バス停を尋ねに入った床屋は無人だと思ったら女(大竹しのぶ)と地元の老人たちが現れ…。

段田安則、先日の三谷幸喜の「抜目のない未亡人」では怪我をしてしまって、あまり目立っていなかったんですが、この舞台では主役、台詞の声の耳に心地よいこと。オセロの台詞もふんだんにあって、ご本人にとって俳優冥利に尽きるような役の熱演でした。

大竹しのぶはこの舞台では「抜目のない未亡人」とは逆に静的な演技。しかしどのシーンでも目の動き、表情に一瞬の隙もなく、彼女の周りに不思議な空気が漂っているように見えました。

老女たちもいずれもすばらしかったですが、「みをたらしの」山崎一、「ゆ」の中山祐一朗がこの舞台にピタリとはまりつつ軽さと面白さを加えていて、とってもよかったです。

やや残念だったのが平岳大。久しぶりに見てやはりスケールの大きい俳優だなあとは思いましたが、この舞台では一人空気が違ってて浮いてました。一つだけ違うパズルのピースがあるような。うまい下手ではなくて、彼にはもっとちがう芝居が合ってるということでしょう。

しかしなんといっても目を奪われたのは宮沢りえ。痛々しいくらいに痩せていたのが、むしろこの妻役だからと思わせるような、年齢よりも若い容姿にもかかわらず、この芝居での妻を的確に演じていて、こんな演技もできるんだと思いました。

お母さんが亡くなった23日はマチネソワレの2回公演、休演日の24日には通夜葬儀を終えて、夕方に公表、25日からはまた通常公演と、プロとしての覚悟に感動でした。そして、アンコールで出てきた彼女は、さきほどまでの妻役とはまったくちがう、「最愛の母を亡くしたばかりの、立っているだけがやっとの娘さん」の表情に帰っていて、一目見てそのけなげさに泣けてくるほどでした。

代役がいないのは自分がいちばんよく知っている、だからこそ、自分の状況ですらも役に溶け込ませて、完璧に演じることができる女優宮沢りえ。すごいとしか言いようがありません。

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