2019年8月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

« シネマ歌舞伎「法界坊」 | トップページ | シネマ歌舞伎「らくだ/連獅子」 »

シネマ歌舞伎「野田版 研辰の討たれ」

Togitatuシネマ歌舞伎アンコール上映、今度は「野田版 研辰の討たれ」です(2008年1月)。変わった題名ですよね。私、恥ずかしながらずっと「けんしん」って読んでました。研ぎ屋の辰次が主人公で仇を討たれるので「とぎたつのうたれ」なんですね。

野田秀樹のもうひとつのシネマ歌舞伎「野田版鼠小僧」は、歌舞伎といっても普通に見て面白いものなんだと思ったきっかけになったものでしたが、とぎたつ、さらに期待を上回る舞台でした。

おべっかと多分お金で武士になった研ぎ屋の辰次。町人なので武士の精神が理解できず、赤穂の討ち入りに感心する朋輩を批判して、剣の稽古もばかにしていますが、可愛がってくれる奥方の前で市郎右衛門に手合わせしてもらったところ、さんざんにやられてしまいます。辰次は悔しくて、市郎右衛門をからくり人形で驚かせようとしたら、びっくりして突然死。しかし辰次が斬ったことにされてしまい、息子たちに仇として追われることになります。二幕では、仇討ちの旅だとウソをついて人気者になった辰次のところへ、市郎右衛門の息子兄弟が来て本当は逆だとばれてしまい、辰次は命乞いをしますが…。

脚本が本当によくできていて、勘三郎をはじめとするキャストをよく生かした大笑いの前段と、終盤の、仇討を目前に見たい群衆が辰次を追いこんでいく緊迫の場面の緩急がすばらしく、ああ、お芝居っていいなあと生で見た方々を本当に羨ましく思いました。

キャストが完璧で、軽快なじじい市郎右衛門の三津五郎(「うぬぼれ刑事」にも出ていたあの方とは思いませんでした)、奥方と辰次にとりいる二幕の姉娘を豪快に演じた福助、「ロッキーホラーショー」の人造人間を思わせるからくり人形の亀蔵(この方大好き)、食えない良寛の橋之助と、この世界を楽しんで生き生きとした人物を現出させています。それから、染五郎と勘九郎(当時勘太郎)、福助と扇雀(妹娘)がそれぞれそっくりで面白いんです。染五郎・勘九郎は剣さばきも見事で、辰次との対比も際立っていて、辰次に「坊ちゃん一号二号」と言われる坊っちゃんぶり。

そして、最初の稽古場の人々、最後の野次馬の群衆の扱いが、普通の歌舞伎とは異なり(たぶん)、1人1人がリアルに動きしゃべることで、現代的な劇空間をつくりだしていて、そこは歌舞伎初心者の私にとっては、違和感というより、感動でおおーと思いました。主役と、脇のふた組の一対と、群衆にそれぞれ見せ場があって、めまぐるしいなかにも見る者を疲れさせないのが、さすが、野田秀樹の円熟の味なんでしょうか。

勘三郎は、役にもぴったりはまって大熱演です。持ち味は違いますが、若いころの野田秀樹をほうふつとする縦横無尽の動き。
ただ、一幕はあまりの活躍に、この方が命を削って芝居をしていたのだなあ、昔からの歌舞伎評論家に、「いらんことまでするな」と思われていたのも彼を大事に思うあまりだったのだろうという気がしました。インタビューでも「こんなに動けるのは50代までだから、60になったらそれに合った芝居を書いてもらいたい」と言っていたそうです。

そして終盤「生きたい、生きたい」と武士にはない必死さでうろたえる辰次の台詞が、どうしても、志半ばで亡くなった勘三郎さんと重なって、涙なしには見られませんでした。あの、観客がたくさんいながら、誰もいない静かさよりもっと深い静かさでスクリーンに引き込まれる雰囲気は、なんともいえないものがありました。

*勘三郎さんの葬儀のときの、野田さんの弔辞でも、この「研辰」の思い出が語られていました。不安と成功の喜びをを共有したまさに戦友の、さすが野田秀樹の弔辞です。

http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/121228/ent12122811120005-n1.htm

« シネマ歌舞伎「法界坊」 | トップページ | シネマ歌舞伎「らくだ/連獅子」 »

歌舞伎」カテゴリの記事

映画」カテゴリの記事

野田秀樹」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: シネマ歌舞伎「野田版 研辰の討たれ」:

« シネマ歌舞伎「法界坊」 | トップページ | シネマ歌舞伎「らくだ/連獅子」 »